『烏』のアジト1 #『烏』
『烏』のアジト1 #『烏』
沖ノ浜には様々な発電所があるが、種類ごとの場所や発電量の占める割合は、不均等である。
たとえば潮力、波力などの発電所は、いまだ電気への変換効率が低い為、沖ノ浜の海の殆どを使っている割には、発電量が低い。だが太陽光、太陽熱など、太陽を利用する発電は、沖ノ浜でも南区に集まっており、沖ノ浜で開発された新素材が使われ始めた影響で、沖ノ浜全体の発電量の30パーセント近くを占めていたりする。
「そういやさ、沖ノ浜ってどのくらい電気、作ってんのかな」
竹内が今後の方針を思案する為に、沖ノ浜についての情報を思い出していると、隣に座っていた男が声をかけてきた。
電車で一緒だった広谷朱博ではない。彼の名前は北池啓助。紛い者の『性能テスト』を行う二十六のメンバーの内、約半数は紛い者。その中のトップ5と言われる五番内席の第3席に着いている実力者だ。
茶色に染めた柔らかそうな髪は女のようだが、目付きが悪く、骨格は紛れもなく男のものだから、女と見間違えることはない。黙っていれば二枚目の男なのだが……口が達者なわりに、行動力に欠けるのが、この男の欠点である。
「沖ノ浜は研究兼実験施設だけど、年間発電量は8千万キロワットくらいあって、まぁ、2万世帯くらいは余裕で賄えるって話よ。実際、沖ノ浜の居住区の電力は全部自家発電だし……おうっ!」
ポケットの中の情報端末が振動して、竹内は思わず変な声を上げた。動き出したマッサージチェアに驚くオッサンみたいな声だな、と自分で思った。
「どうした?」
北池が竹内の背中に寄りかかってくる。竹内として甚だ迷惑なのだが、相手がこっちを好いているのだから仕方ない。
男の顎が女の肩に載る。彼の目は、彼女の手にある情報端末の画面を見ていた。
「いや、イイ感じに転がってきたなっ、ってね。朱博からよ。トワイライトホテルの近辺でヤツらを見つけたって。動いたわね。『鍵』」
北池が驚いた表情を浮かべている。おそらく、こんなに早く自分達の動きを察した折笠崖梨と、折笠が察すると予想し、広谷をトワイライトホテル近辺に事前に配置した竹内のカンに、だろう。彼女は微笑んだ。言動はいちいち格好つけ、さらに五番内席の一人なのに、こういう内面的な部分は弱い。
「動きがイヤに早いな。折笠の指示か?」
「でしょうね。あの女とそれに従ってる物好きな男ども……」
竹内が笑みを浮かべる。二年前、私に屈辱を与えたあの女。アレにようやく復讐ができるのだから。
「さてと……そろそろ連絡入れてあげようかな?」