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沖ノ浜の紛い者  作者: 指猿キササゲ
$2$ 終章
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倒壊した駅舎付近2 #『烏』

    倒壊した駅舎付近2 #『烏』


 たった一つの駅舎が壊れた。それだけで交通の一部が麻痺し、沖ノ浜のどこかの研究施設の計画が頓挫していたりするのだろうが、法華津穂高にとっては、知った事ではなかった。

 片付け作業は進んでいなかった。そんな事にすら『上』の悪意を感じながら、法華津穂高は、傍らの女性を見る。

 海野火早野。『塵芥』に五番内席の第4席の実力者。普段のサイドポニーテールと違い、今日は髪を結わず、下ろしていた。それだけで清楚な雰囲気があった。

「まさか、アンタが第3席になるとはね。おめでとう、法華津」

 ありがとうございます。今までならば、彼はそう答えていただろう。けれど、今の法華津穂高は『塵芥』の20番ではなく、新生『烏』の第3席。立派な五番内席のメンバーだ。

「……どうかしたの?」

 海野が法華津の顔色を伺う。顔を覗きこまれることに、法華津は、言いようの無い恥ずかしさを覚えた。

「海野さん……僕なんかが五番内席になって、良かったんですかね……?」

 彼は問うている。新しく自分が居座った、新しい居場所に、本当に自分が居ていいのかを。

「共通する事は『上』にとって使える人間であること。すなわち力が巨大であること。……折笠さんは力が大きいじゃなくて、『上』が使いやすいって意味だから、例外だけどね」

「僕にも、海野さんみたいなこと、出来るでしょうか……?」

 海野は、肩をすくめて見せた。肯定しなかった。けれど、否定もしなかった。

「少なくとも、大きな力を操るだけじゃないと思うし……そのヒントはあるんだから」

 倒壊したまま、いまだに片付け作業すら進行していない駅舎を見つめながら、海野は言った。

「ヒント……ですか?」

「ええ。今回の一件。『鍵』の11番、春川春臣と25番、西川一政との戦闘。元『烏』の第3席、北池啓助との戦闘の中で、アンタは何かを掴んでる」

 それに関して、自覚はあった。北池に決めた最後の一撃。彼は気づいていた。あれが、どういう現象なのか。自分が何をしたのかを。今まででも出来た事、やっていた事を、ただ意図的にやろうと、応用しただけなのだと。

「あれが……」

「そう。私の大規模なエネルギー使用よりも、アレの方が『上』は使えると睨んでる。だからこそ法華津、アンタが第3席になったのよ」

「でも……あれに、どんな意味があったのかなんて、僕には分かりません」

 自信の無い声だった。海野は笑った。

「意味なんて。私にも分からないわ。けど、そんなのは後からでいいのよ。立場が先に来る。けど、その意味を分かるのは、後からでいいのよ」

 そう言って、先輩は後輩の背中を叩いた。――何かの意の篭った、温もりを込めて。


これで今年の春シリーズは終わりです。最後までご愛読いただいた方、真にありがとうございました。ジュールの便利さを、どうか忘れないでください。

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