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沖ノ浜の紛い者  作者: 指猿キササゲ
$1$ 本章
29/42

賃貸マンション5 #『塵芥』


    賃貸マンション5 #『塵芥』


「海野。私鉄のホームだ。準備しろ」

 内田によって、明智の自室に呼び出された海野は、そんな上司の発言を聞いて、げんなりした。

「そんなギャグ漫画みたいな顔をするな。北池が『充電』し始めてる可能性がある」

 させときゃいーじゃん。と言いたい。面倒なことこの上ない仕事だ。風神と雷神の特集の楽しみでもなければ、やっていけないくらいだ。

「実害、あるの?」

「大いにな。竹内が失敗しても、アイツが保険になるんだよ」

「どういうことですか?」

 内田の台詞に疑問を抱いたのは、明智だった。

「天気予報は見たか?」

「あっ……」

 天気予報? そういえば、仏像特集を見る前に、美智子がなんか言ってたかも……と、海野は記憶を掘り返す。

「深夜から雨が降る。どこも彼処(かしこ)も導電できる状態になるんだ。無差別テロと変わらん」

 ピリリリ、と喧しい電子音が響き渡る。法華津かと思って、海野は部屋を出てすぐにある、壁に備え付けられた固定電話の子機を取る

『よお。「塵芥」の固定電話って、ここでいいんだっけ?』

 どこかで聞いた事のある、生意気な中坊の声だった。

「アンタ……えっと……あれだ。『鍵』の」

『覚えてもらって光栄っすね、西川です。内田さんに代わってもらえます?』

 なんだか、今日は忙しいな……海野は電話を保留にする。

「内田~、西川から電話~」

 なにか神妙な顔をして、内田は海野から受話器をひったくる。

「はいもしもし……そうか。で? ……ああ」

 内田は受話器から耳と口を離すと、明智に尋ねる。

「おい、春川の場所は?」

 尋ねられた明智は、うーん、としばし考え込む。

「……あ、今どこにいるかはわかりませんけど、目的地でいいですかね?」

 明智がキーボードやマウスを操作している。おそらく、法華津の居場所をディスプレイに表示しているのだろう。

「西川、春川は法華津を探しに向かってる。……そうだ。おそらくこの様子だと、廃棄された施設の立体駐車場だ……は? ああ。バイオマス発電施設? お前、そこにいるのか。確かに近いな。余剰熱発電研究施設だ……ああ。いや、ダメだ。私鉄は止まってる。その辺なら、東側に出れば四本射線の大通りがある。手伝い業者の奴らを向かわせるから、それに乗れ。……なに、こっちも春川にやられてもらっちゃ困るしな、ま、一つ貸しってことでいいさ」

 再び、受話器を離すと、明智に命令する。

「明智、手伝い業者のヤツに連絡。ワゴンを一台」

「分かりました」

 明智は自分の二代目のスマートフォンを取り出して、電話を掛ける。

 なんだか、だんだん慌しくなっている。一応、状況を把握しておきたいので、内田に訊く。

「どうかしたの?」

 通話を切った内田が、海野に視線を向ける。

「西川の野郎が、『烏』の広谷と交戦したそうだ。戦闘の末、西川が数箇所打撲。広谷は肋骨叩き折られたって。手伝い業者の奴らに任せて、病院に送る手筈になってるってさ」

「ふーん。大した事無いわね」

「いや、そこは心配しようよ火早野。大丈夫なんですか?」

 海野と変わって、心配を口にしたのは明智だった。

「ああ。どっちとも命に別状は無いらしい。で、西川は春川の援護に向かいたいそうだ」

「殊勝な事で」

 まったく元気なことだ。私にもその元気をくれ、と海野はぼやきたくなる。

「ああ、一つ貸しってことだ。法華津のせいで一つ使い潰したかと思ったが、取り戻せて上々だ」

 癇癪だけは勘弁してやろう、と内田は上機嫌だ。こいつが上機嫌なのは久しぶりに見るが、むかついてならない。

 まぁいい……このエネルギーは、北池殺しに使ってやろう。海野は玄関から靴をもって来ると、ベランダ出る。

「で? 私鉄の止まってる駅は何処?」

「すぐそこ、こっから一番近いの駅だ。行くのか?」

 内田が、まじめな口調で言う。

「他に誰が行くってのよ」

 とりあえずは、人間一人分でいいか――海野は下に人がいないのを確認して、窓からその身を投げた。

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