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沖ノ浜の紛い者  作者: 指猿キササゲ
$1$ 本章
25/42

賃貸マンション4 #『塵芥』


    賃貸マンション4 #『塵芥』


「端末の位置情報を特定する?」

 春川の反復に、内田は簡潔に答える。

「ああ。明智に頼んで、法華津の端末の位置情報を検索してもらってる」

「はぁー……?」

 『塵芥』に貸し与えられた賃貸マンションの一室――リビングの隣、明智の自室には、ノートパソコンと大きなディスプレイが二台、鎮座していた。オマケにキーボードなんかも、無線のものが別にある。こんな重装備なら、デスクトップPCにすればいい。

 しかしこれは明智の趣味の産物であり――彼女の財力(正確には『塵芥』の財力)と技術力に掛かったノートPCの頭脳――主記憶装置(メインメモリ)は、シリコンフォトニクスを利用したフォトニック集積回路に置き換えられた上、さらに個数も七から十四へ倍に増築され、一般ユーザーレベルなら化け物レベルだ。なのに補助記憶装置(ストレージ)の方は全くいじくってないので、非常にピーキーである。明智自身、こんな無駄なこと、しなければ良かったと思っており――彼女の黒歴史の一つなのだが、そんなことは内田の知る由もない。

 大小さまざまなウィンドウが現れて、文字の羅列をスクロールさせていく――というような、クールな画面ではなかった。ノートPCの……真ん中のディスプレイは、インターネットのブラウザを表示。右にはファイラーがいくつか。左にはドキュメントファイルが幾つか、表示されている。

「ええっと……これがNTSの外部用のだから……あ、違う違う、こっちのブックじゃなくって……ああ、ハードバンクはこっちで……こっちの外部用のシートだから、えぇっと……」

 明智がなにやら、よく分からない単語をブツブツと呟いている。左画面のドキュメントファイルがの内容が切り替わっているが、何が違うのかは、よく分からない。

「もー、色々多すぎるんですよ、使わないのも多いし。管理するのも一苦労で……」

 挙句の果てには画面に文句をつけてきた。この女は。

 ブラウザに入力欄が二つ表示される。ユーザー名はEigyou_SONEDA_00488。営業部、曾根田、0488。番号は社員IDだろう。社員の名前そのまんまじゃないか。パスワードについては、入力してもアスタリスクになってマスキングが掛かるので不明だが。

 ログインすると、ホーム画面のようなものが現れた。明智は迷わず、ページの下部にあったリンクを、ブラウザの新しいタブで開く。

 ブラウザに、中央に大きく地図のようなものが表示された。他にも入力欄やボタン、なにかの文字と数字の一覧のようなものもある。

 明智が別のドキュメントファイルを呼び出す。どうやら、法華津の携帯端末の情報らしい。それを入力欄へコピペして検索ボタンを押す、地図の内容が変わり、赤い点が表示された。

「これが法華津の現在地か?」

「はい。そうです。あ……この番号」

 明智が、文字と数字の一覧から、ある数字の列を選択する。選択した箇所の、文字と背景の色が反転する。

 次に明智はファイラーから幾つかの階層を進んで、ドキュメント・ファイルを開示すると、ショートカットキーで検索ダイアログを立ち上げる。通話記録からコピーした電話番号を入力欄にペーストして、オプションでブック全体を指定して、検索をかける。ヒット箇所は一つ。

「やっぱりだ……見たことある番号だなって思ったら……」

「なにをやったか説明しろ」

 自己完結している明智を見て、内田が苛立たしく呟く。

「ああ、すみません……ええっと、法華津君が最後に交わした通話相手の電話番号を、『上』から降りてる個人情報で検索したら『烏』の竹内宇智巴の個人携帯端末の番号にヒットしました」

 内田は、ため息をついた。どうやらアイツは、竹内によって誑かされたらしい。

「え……電話番号、全部覚えてるの?」

 春川が、とんでもなく現実味の無いことを言う。

「まさか。一字一句覚える必要なんてないよ。電話番号の一覧を何処に保存したかさえ覚えてれば、あとはそのファイルから調べていけばいいんだから、それで済む話」

 確かに電話番号を全て記憶するなんて、面倒だし、労力に見合った結果は得られないだろう。

「明智が法華津の場所まで、お前を誘導する。いいな」

 内田が視線をやると、春川は携帯端末を取り出していた。

「俺の番号教えるから、そっちでこっちの位置、確認出来る?」

「わかった。ちょっと手間だけど……」

 二人が勝手に作業を進めてくれるので、内田はやる事が無くなった。

「とにかく、準備が出来たら法華津を追え、いいな?」

「分かりました」

 返事を聞いて、今度は明智に声を掛ける。

「明智、北池の行きそうな場所を調べろ……そうだな。明智、なにかアイツが手を出しそうな場所に、心当たりは無いか? 廃棄されて、まだ使える発電施設とか、なんでもいい」

 明智は、少し考えているポーズをする。

「そうですね……あぁ、電車はどうです?」

 沖ノ浜の交通の一つを、明智は口にする。発電施設研究・試験施設という土地柄から、電気が有り余っているので、電車は最大の公共交通施設として使われている。電動バスやタクシーもあるが、少数派だ。

「電力的にはどうなんだ?」

「結構、すごいんですよ電車って」

 言いながら明智は、『上』からのメールをチェックする。

「あ、メール着てますね。ビンゴかも」

「……なに?」

 メールの内容に目を通す。北池の『充電』のために、沖ノ浜の私鉄電車を一時的に止めるという内容だった。

 なんだ? これは。

 『上』から正式な仕事の許可が下りているのか? これは『烏』の反逆だ。それを『上』は見逃している……いや、それどころか協力している……?

とすると、『上』は傍観を決め込むつもりらしい。いよいよ、自分たちで解決するしか方法は無くなったようだ。問題ばかりが溜まって一つも解決できない現状に、内田は、また溜息をついた。


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