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沖ノ浜の紛い者  作者: 指猿キササゲ
$1$ 本章
21/42

ビル #『烏』

    ビル #『烏』


 竹内宇智巴は、折笠崖梨が『烏』のアジトから出たのを把握していた。夜だから暗くて見えないということは無い。廊下は明かりが点いていて、むしろ昼間よりもよく見える。

 距離は数百メートル。近くのビルの屋上から、双眼鏡越しに、憎き敵を確認する。

「よし……啓助、ホームへの侵入は?」

 携帯端末のマイクに呼びかけると、本部隊の最大戦力の声が、スピーカーから聞こえてきた。

『問題なし。『上』のお膳立てのおかげで無人だ』

 念のため、携帯端末で沖ノ浜の私鉄会社のホームページを見てみる。『諸事情のため、ただいま運行休止中』の文字。

 折笠崖梨が一人で行動中。西川一政と春川春臣については不明だが、あの二人に関しては、ぶっちゃけどうでもいい。こちらが誘えば、食いついてくるだろう。

 予想通り『鍵』は分散行動を取った。行動には隙が生まれる。そんな事も分からないのだろうか? それとも油断しているのか……どちらにしろ、先手を取れるのは我々だ。

 竹内は、そろそろここから消える事にした。指定した場所に先回りしなくてはいけない。指定した港の冷凍保存庫区画までは、現在の折笠の場所からよりも、こちらの方が距離が近いので焦る必要は無い。

「啓助、我々の目的は?」

 携帯端末の向こう側に、宇智巴は問いを投げかける。

『目的はただ一つ。『鍵』のパウエル、折笠崖梨を竹内宇智巴の手で潰す事』

「朱博、あなたたちの仕事は?」

 もうひとつの携帯端末の向こう側に、宇智巴は確認を取る。

『他の『鍵』のメンバーを引きとめること、および『塵芥』の介入の阻止』

 やることは簡単だ。だが、それまでの状況に持っていくことが難しい。

 しかし、もう竹内の邪魔をする者はいない。あとはもう、折笠崖梨を炙り出し、散り散りに消し飛ばすだけだ。

「復唱確認……じゃあ、派手にやりましょう」

 二人の返事を確認して、竹内は通話を切った。

 全くといっていいほど、事が自分の思い通りに運んで恐ろしい。ヤツらは踊らさせるだけだ。事というのは最初に動いた人間が勝つのだ。ボードゲームだって、先手の方が有利なのは自明の理。

「……さてと」

 冷凍保存庫区画に隠しておいた『アレ』が気になる。盗まれるような事は無いだろうが、自分の所有物が手元から離れるというのは、不安だった。既に広谷と北池と、二つも道具が手元から離れているので、これ以上神経を磨り減らすのは、精神衛生上、とてもよろしくない。自分の心を支えてくれるもの――それは、自分の手で丹精こめて準備した『道具』に他ならない。

 竹内は階段を下りて行く眼鏡の少女を射殺すように一瞥してから、階段の手すりに手をかけて降り始めた。


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