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沖ノ浜の紛い者  作者: 指猿キササゲ
$1$ 本章
20/42

賃貸マンション2 #『塵芥』


    賃貸マンション2 #『塵芥』


 内田大樹が風呂から上がると、女子高生二人が並んで仏像ドキュメンタリーを見ているという、奇天烈な状況に遭遇した。

 仏像ということは、おそらく海野の趣味だろう――一応、『塵芥』全員のプロフィールと趣味嗜好は把握しているので、内田はすぐに想像がついた。

 海野火早野は仏像が好きだ。本人曰く、袈裟の流れる感じだとか、仁王像や雷神像など怒り顔の眉毛だとか、阿吽の呼吸の吽の方の唇だとかが、背筋がゾクゾクする感じで好きらしい。内田にはその感性がさっぱり分からない。しかし、煩悩まみれの上に、人間ですらなさそうなヤツが仏像に惹かれるとは、まったく皮肉な話である。

 タオルを頭に被っている内田を見ると、海野が一言。

「あ、アンタ風呂入ってたの? 知らなかった」

 いま気がついた。そう言わんばかりの口調であった。俺は空気か。内田はなんとなく悔しくなった。なので一言いってやる。

「なんだ? 知ってたら覗くのか」

 冗談のつもりで内田は茶化した。だが相手はこれまでにない真面目な口調で、海野は返答する。

「うん。なんで分かったの?」

「そういう嫌がらせはやめろ……」

 こいつが言うと冗談にならない。ネットの掲示板で晒し者にでもされた時には、目も当てられない。コイツなら、そういう事を平気でやってのけそうで、恐ろしい。最近の若者はやる事為すこと遠慮が無い。

 それより、気がついたことがある。内田は口に出してみた。

「……法華津はドコだ?」

 画面に釘付けになっていた二人が、はたと目を合わせる。

「ありゃ……廊下にいなかった? なんか電話に出てたけど」

「ああ、そうだったねー。いませんでした? 廊下に」

 風呂場からリビングに来るまでには、絶対に廊下を通らないといけない構造だ。そして廊下で法華津とはすれ違ってない。となると残る場所は、他の部屋か玄関しかない。そして法華津らしき気配はないから、もうここにはいないということになる。

「……コンビニにでも行ったのか?」

 外に出たのだとしたら、この考えは当然の帰結だ。だが何故か嫌な予感がした。そんなことではない気がしたのだ。

「明智、法華津に連絡とってみてくれ」

「はい、分かりました」

 明智が携帯端末を取り出して法華津に電話をかける……何十回かコール音が響くが、どうやら繋がらないらしい。

「ったく……どこいったのよ法華津君……」

 どうやら嫌な予感が当たってしまったらしい。内田はとりあえず、濡れた髪を急いで乾かそうと、洗面所に戻ってドライヤーを手に取った。


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