賃貸マンション2 #『塵芥』
賃貸マンション2 #『塵芥』
内田大樹が風呂から上がると、女子高生二人が並んで仏像ドキュメンタリーを見ているという、奇天烈な状況に遭遇した。
仏像ということは、おそらく海野の趣味だろう――一応、『塵芥』全員のプロフィールと趣味嗜好は把握しているので、内田はすぐに想像がついた。
海野火早野は仏像が好きだ。本人曰く、袈裟の流れる感じだとか、仁王像や雷神像など怒り顔の眉毛だとか、阿吽の呼吸の吽の方の唇だとかが、背筋がゾクゾクする感じで好きらしい。内田にはその感性がさっぱり分からない。しかし、煩悩まみれの上に、人間ですらなさそうなヤツが仏像に惹かれるとは、まったく皮肉な話である。
タオルを頭に被っている内田を見ると、海野が一言。
「あ、アンタ風呂入ってたの? 知らなかった」
いま気がついた。そう言わんばかりの口調であった。俺は空気か。内田はなんとなく悔しくなった。なので一言いってやる。
「なんだ? 知ってたら覗くのか」
冗談のつもりで内田は茶化した。だが相手はこれまでにない真面目な口調で、海野は返答する。
「うん。なんで分かったの?」
「そういう嫌がらせはやめろ……」
こいつが言うと冗談にならない。ネットの掲示板で晒し者にでもされた時には、目も当てられない。コイツなら、そういう事を平気でやってのけそうで、恐ろしい。最近の若者はやる事為すこと遠慮が無い。
それより、気がついたことがある。内田は口に出してみた。
「……法華津はドコだ?」
画面に釘付けになっていた二人が、はたと目を合わせる。
「ありゃ……廊下にいなかった? なんか電話に出てたけど」
「ああ、そうだったねー。いませんでした? 廊下に」
風呂場からリビングに来るまでには、絶対に廊下を通らないといけない構造だ。そして廊下で法華津とはすれ違ってない。となると残る場所は、他の部屋か玄関しかない。そして法華津らしき気配はないから、もうここにはいないということになる。
「……コンビニにでも行ったのか?」
外に出たのだとしたら、この考えは当然の帰結だ。だが何故か嫌な予感がした。そんなことではない気がしたのだ。
「明智、法華津に連絡とってみてくれ」
「はい、分かりました」
明智が携帯端末を取り出して法華津に電話をかける……何十回かコール音が響くが、どうやら繋がらないらしい。
「ったく……どこいったのよ法華津君……」
どうやら嫌な予感が当たってしまったらしい。内田はとりあえず、濡れた髪を急いで乾かそうと、洗面所に戻ってドライヤーを手に取った。




