とある場所 #『烏』
とある場所 #『烏』
「『烏』は、3番以外の三人が業務中に死亡、そして彼女は、その一部始終を目撃していた為に拘束しました」
身長は、百五十センチも無い。
真っ黒なショートボブに黒縁の眼鏡、黒いブレザーに黒いネクタイに黒いパンツと、まるで男性の喪服のような学生服に身を包んでいる。警官か軍人のような固い口調と、幼そうな容姿に不釣り合いな無表情が相まって、生真面目という言葉を見ている者に連想させた。
あくまで、見ている者、見る事ができている者は、だ。
生真面目な少女によって床には取り押さえられ、うつ伏せの状態で馬乗りにされている一人の女は、上に乗っている少女によって頭を床に押さえつけられているので、見ることができなかった。
なのに女は、確かに視線を向けていた。
視線に織り込まれているのは、敵意と殺意、そして憎悪。
「分っている。しかしその女、なかなかに興味深い。普通の人間でありながら、よく紛い者の騒ぎの中で生き残ったものだ。そうは思わんか? 折笠」
「ただ運が良かっただけかと」
折笠と呼ばれた生真面目な少女は、上司と思われる者の質問に対して、私見を短く答えた。
「相変わらず面白味に欠ける返答だな。まあいい。その女には『烏』の15番の席に着いてもらう。ちょうど良かった。まだ18と23の席については空席という事になるが、一人でも多いほうがいい。3番は実力はあるが行動力に欠ける。15番は指揮官席だ。紛い者の騒ぎの中で生き残った女なら判断力や機転が利く。少なくとも3番を一人で行動させるよりはマシだ」
事務的な口調で、上司らしき人物は言う。
その言葉を、押さえつけられている女は聞いていなかった、聞えていなかった。なぜなら、それどころではなかったからだ。
彼女は気に入らなかった。
彼女は、本質的な部分で、この少女と自分は同質だと直感していた。
その同類が、自分より上に位置する人間に『一生懸命』という媚を売っている。
そして――そんなチビに自分が馬乗りにされているという、事実そのものが。
狂ってしまいそうな屈辱だった。自分がそんな奴より下に位置しているという現状が。
「……という事だ。話は聞いていたか? 竹内宇智巴」
上に乗っている少女――折笠が問うても、女は答えない。
――このカマトト糞眼鏡……絶対ケダモノ共にマワさせてからブチ殺してやる。
チアノーゼを起こして紫色になった唇が、微かに動く。
怨念染みた声は音にならない。だが彼女はそのとき確かに、復讐を誓った。