『烏』のアジト3 #『鍵』
『烏』のアジト3 #『鍵』
折笠崖梨は、とある場所に向かっていた。
それは『烏』に貸し与えられているアジトだった。
おそらく何もないだろうが、『なにもない』ということを知っておくことも重要だ。白黒つけておいて、損は無い。
鍵を開けて、土足のまま部屋に侵入する。洋式のマンションではないが、足元に罠があるとも限らないので、靴は履いたままだ。
部屋はもぬけの殻だった。人もいなければ情報機器もない。テレビやテーブルはあるが、こんなものは、手がかりにならない。
テーブルの上に紙片を見つけた。どうやら地図のようだった。赤い丸がついているのは、どうやら沖ノ浜の港にある、輸入した食品などを置いておくのに利用される、冷凍保存庫集合区画の一つのようだった。
罠だ。こんなあからさまなのは、直感以前の問題で察せる。
――『いや、この女は本当にここに来る。ちょうどいい。ここで殺してしまえるな』
まるでもう一人の人間が、自分の中にいるようだった。声は鼓膜を震わせず、直接、折笠の頭に語りかける。
――馬鹿な。できたとして、『上』にどう説明する?
――『連れて来られて、突然襲われたとでも言えばいい。あとは正当防衛と緊急避難だ』
思考には、自身の意識とは別の返答があった。
無意識の囁きと意識の否定。二つを天秤に掛け――折笠の思考が、無へと変貌する。
視界だけが、ゆっくりと映像を映し出す。自分自身が紙を手に取り、『烏』のアジトを後にしていく光景を、ただぼんやりと眺めていた。




