『烏』のアジト2 #『烏』
『烏』のアジト2 #『烏』
「寿司、ですか?」
広谷朱博は、先輩である竹内宇智巴の意見であれば、火中の栗でも拾う覚悟である。しかしそんな彼でも、流石にこの状況は予想していなかったので、戸惑った。
「そうだよー、今から食べにいくのー」
『烏』に与えられている賃貸マンションの一室。そのソファに置いてあったハンドバッグを手にとって、竹内は出かけようとする。
「北池さんは?」
広谷が口にしたのは、先ほどまでここに居た『烏』の最大戦力たる人物の名前だった。
「ああ。アイツなら、ちょっと前から『行方不明』だから。それを『鍵』に『知らせる』ための寿司なの。OK?」
意味深な単語のアクセントに、広谷は竹内の意図を悟る。
「つまり宣戦布こ……」
言いかけた広谷の口を、竹内の人差し指が塞いだ。
「しー。ダメよ、朱博。直接的な表現は控えましょう。間違っても口に出しちゃダメ。今は二人っきりだけど、だからこそ、こういう気の抜けてる時から気をつけるようにしないと、いざ本番って時に、うっかりっ出ちゃう事もあるからね。それにそれだけじゃないわ。『塵芥』には操れそうなのが一匹いるから、その下ごしらえもね。さ、準備して朱博」
長々とした忠告だったが、正直なところ広谷はそれどころではなかった。自分が好意を寄せている人物が唐突に触れてきて、軽く混乱していた。
「どうしたの?」
呆然としていた広谷は、その一言で我に帰る。
「あ……なんでもないです」
すぐに準備をするべく、広谷は持ち物を取りに自室へ向かう。
信頼されて、恵まれて幸せだ――そう思う彼の後ろで、その人物が邪な笑みを浮かべていることに、彼は気付かない。




