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沖ノ浜の紛い者  作者: 指猿キササゲ
$1$ 本章
12/42

ライトバン1 #『鍵』


    ライトバン1 #『鍵』


「ホンット、化物だなアイツら」

 助手席で望遠鏡を覗き込んでいた西川が、溜め息混じりにぼやいた。

 春川と西川の二人は、ファミレスで折笠と分かれた後、『上』から支給されていた車でトワイライトホテルへと向かい、こうして30メートルほど離れた場所から観察していた。ちなみに車は白いライトバン。運転席に座っていた春川は、狭い車内に沈黙が降りてくる前に、西川の発言に意見する。

「化物っていうけどさ、『塵芥』の20番、法華津って言ったっけ? アイツとお前が操作できるエネルギーって同じだろ?」

 紛い者には違いがある。それは操作できるエネルギーの形態だ。熱、電気、運動、位置、光……全てエネルギーという点では同じでも、紛い者は基本的に、一種類のエネルギーしか扱う事ができない。

 そして法華津穂高と西川一政は、どちらも運動エネルギーを操作できる紛い者ではないかと、春川は指摘した。だが、本人の返答は弱気なものだった。

「おいおい、あんな化物と一緒にすんなよ。あれ見たろ? 俺は、あんな簡単に空中で多方向へのエネルギー放出とかできないって。無理無理、絶対無理だね。最大吸収量も、放出の器用さも違いすぎる」

 紛い者なんてどれも一緒に見えるが、やはり個人差というのがあるらしい。春川は笑った。競争社会なのは、化物も同じなようだ。

「ったく、えーと……やっぱりバンの速度は五十キロってところだな。あのバンの出所、一応調べてみるか」

 西川が膝においていたパソコンを見る。開かれているのは表計算ドキュメントのファイル。ネットワークを通じて、サーバーに保存してあるものを、読み取り専用で開いているようだ。

「それ、あれか?」

「ああ。紛い者のエネルギー使用履歴だ。記録者は『塵芥』の19番、明智美智子。ったく小まめだな。ウチの誰かさんと違って」

 西川の無自覚なイヤミに、春川は機敏に反応する。

「ほっとけ。得意じゃないんだよ、計算とか」

 エネルギー使用履歴、つまりは紛い者が使ったエネルギーの帳簿で、全てのグループに義務付けられている仕事の一つだ。普通、紛い者が使用するエネルギーの吸収と放出の決定などの管理は、パウエルと呼ばれる、グループのリーダー格の人間が行い、その記録をつける。だがパウエルの仕事が忙しい時には、他のメンバーに仕事が回されることがあり、春川もそれを一度やったのだが、その計算の結果が合わず、最終的に全ての作業を、多忙な折笠が残業して手伝ったという逸話が残されており、『鍵』の三人の中では、たびたび話のネタになる。ちなみにそれを気にして、春川は少しだけ物理の勉強を頑張るようになったのだが、西川も折笠も、その事実は知らない。なぜなら成果が出ていないからだ。

「法華津穂高。吸収したエネルギーは未記入……出力したエネルギーは、一度目が1万4406ジュール、二度目2万4010ジュール、三度目が6万7914ジュール……次、海野火早野。吸収したエネルギーが3億3875万9千ジュール……おい春川、こういうのを化物ってんだよ。お分かり?」

「はいはい」

 春川からしてみれば差はないのだが、彼にとっては重要な事らしい。とりあえず生返事をして、折笠に報告しようと情報端末を取り出す。

「折笠に連絡するのか?」

「そうだな」

 そういって操作しようとした直前、端末にコールがあった。予想だにしない情報機器の動作に面食らいながら相手を確認する。ちょうどいい事に、折笠だった。

『春川か』

 通話に出ると、聞き慣れた女の声がした。

「折笠さん、ちょうど良かった……こっちは終わりましたよ」

 半笑いで春川が告げると、折笠は『そうか』と一言だけ言って、本題を切り出した。

『急用が出来た。今日の午後六時半に、居住区にある繁華街の回転寿司屋に現地集合だ』

 あまりにも突然なことに、春川はさっぱりついていけず、

「は? 寿司?」

 という、素っ頓狂な声を上げる事しかできなかった。


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