ヘリコプター2 #『塵芥』
ヘリコプター2 #『塵芥』
法華津が、トワイライトホテル近くのビルの屋上に到達する少し前。
内田大樹はヘリコプターの中で、慎重に自分達の位置を確認していた。座標は、ここでいいはずだ。明智の話どおりなら――という一文が注釈として付いてしまうのが、些か不安な点であるが。
「目標地点まで到達しました……内田さん?」
パイロットの報告を聞いて、内田は我に返る。そうだ、自分が気負っても仕方がない。どうせ自分は何も出来ないのだから。今できることは、せいぜい信じていない神様に祈るくらい。あとは海野の仕事だ。
「本当に大丈夫ですね?」
念のため、内田は確認を取る。
「大丈夫ですよ」
なぜか自信気なパイロットのセリフを聞いて、内田は今しかないと悟り、短く告げる。
「やれ」
座ったままの海野は、気だるさに満ちた表情をしていた。
「はいはい」
細長い指が、冷たい鉄扉に添えられる。
海野火早野が操作できるエネルギーは、位置エネルギーだ。
点と点を線で結ぶだけ……つまり場所から場所への移動の目的なら、海野の能力は上下にしか移動できないので、それだけ見れば、運動エネルギーを操作できる法華津穂高の能力の劣化でしかない。
しかし、紛い者の力はそれだけで強弱が決まるものではない。彼らはエネルギーを吸収し、それを放出する。運動エネルギー操作と違い、位置エネルギーの操作は、結果として位置は移動しても、速度という概念はないのは、大きな強みである。
そして何より、海野火早野は五番内席。彼女がそこに着いている理由は、その度胸と扱える仕事量の最大値が大きいからだ。
瞬間、高度5790メートルにいたヘリは、5760メートル下のビルの屋上へと移動した。
「いつ見ても現実感ってもんが皆無だな……」
内田は思わずぼやいた。彼の目の前に広がっている世界は、あの一瞬で、俯瞰から街中の風景そのものに切り替わっていた。まるでパラパラ漫画の途中をすっ飛ばされたかのような気分だ。幾分高い視点にいるが、こんなもの、さっきと比べれば些細な高さだ。
海野は構わずヘリから出る。機械の羽音がうるさい中、内田は声を張り上げて確認する。
「いいな! 手筈どおり、東側に倒せ!」
海野は内田に背を向けたまま気だるげに、ひらひらと手を振る。任せておけ、ということだろう。
「俺達は脱出を」
「分りました」
パイロットにそう告げると、機械の猛禽は再び大空へと羽ばたいた。




