第八話 趣味
「それで、何をするんだ?」
「そうね、とりあえず店へ入りましょう」
ぞろぞろと入っていく。
人志も入りたくはなかったのだが、仕方がなく足を進めた。
「広いな...ここ」
人志はこんなところ来たことはなかったので、少し戸惑った。
「大丈夫、迷子にはならないよ」
「この年になって迷子とか...」
迷子になるわけがない、とは言い切れなかったのだが。
それほどこの店は広かった。
見たところ3、4階らしいが1つのフロアが大きすぎる。
とりあえず女子達は1階の服を見るらしい。
人志はそれを避け、2階のCDショップに行くことにした。
「それにしても...」
エスカレーターに乗りながら、人志は考える。
「俺をついてこさせて、何をしたいんだ?」
普通の疑問だった。
人志はこれまで、女子に遊びに誘われたことなど一度もない。
いや、最近のモテっぷりを見れば遊びに誘われるのは当然かもしれないが、だったら何故ここなんだろう...
人志の疑問は、CDショップに入っても続いた。
「やばいな...」
気づいたら、人志はCDをたくさん買ってしまっていた。
「ありがとうございましたー」
店員の声が少しイラッときたが、まあ仕方ないだろう...と思い、人志は自分の持っているレジ袋の中を見つめる。
「うわー... こんなにか」
人志はCDショップに来ると、無意識にCDをたくさん買ってしまう事がある。
いや、もちろん本当に無意識なわけではない。
この人が、このバンドが...とカゴに入れていくうちにいつもたくさんになっているのである。
しかし、貰っている小遣いが余ってるためこれぐらいにしか使うことがないのだ。
それに人志は音楽を聴くのが好きだし、苦痛でもないので案外色々な音楽に詳しかったりする。
「どれだけCD買ってるんだ...」
「ん?君は?」
知らない女子がこっちを見て何か言っていたので、人志は何故か話しかけてしまった。
「いや、花乃子についてきたものですけど」
「あーそうか...名前は?」
「加藤AKIKOです」
「......AKIKO?」
「明子です。」
「はい、わかりました」
明子という人らしい。
「そんなにたくさんCD買ってどうするの?」
「聴くしかないよ」
人志も呆れながら言う。
「ふーん...アイドル系はそんなに買わないんだね」
「ああ、好きじゃないからな...」
人志はあまりアイドルは好きではない。
どっちかというとソロアーティストや、バンドの方が好みだ。
「私はアイドル好きなんだけどな」
「そうなのか、まあ女子だしな...って」
人志はあることに気づく。
「他のやつらは?」
「みんなまだ1階。私はCDショップに来ようと思って、そしたら君が」
「なるほど...」
そして疑問が解決した後すぐに、またとんでもない疑問が...
「なんで俺普通に女子と喋れてるんだ...?」
人志は今まで気づかず普通に明子と喋っていたが、この前までの人志では考えられないことだった。
それが、なんの戸惑いもなく、しかも振り返ってみれば自分から話しかけている...
「どうしちゃったんだよ、俺...」
しかし振り返ってみれば、花乃子のせいで女子のことばかり考えていた。
だから、体制がついたのだろうか...?と人志は考える。
「まあ、悪いことじゃないな」
「一人で何言ってるの?」
明子に聞かれてしまっていた。
だが、それは...
「いや、なんでもないよ」
人志だけが気づいた、成長だった。