第十七話 朝の登校にて
「そんなわけないじゃない…」
花乃子は自分の部屋で、人志の彼女の事について考える。
「私より可愛いわけがないわ、絶対よ」
花乃子は自分より可愛い人を見たことがない。
少し思い込みなところもあるかもしれないが、彼女にとってはそんなことを考えているつもりはない。
鏡で見る自分は本当に、この世で一番美しいからだ。
「でもあの自信…何処から来るのかしら」
人志の圧倒的なその自信に、少し戸惑ってしまっているが仕方がないだろう。
今人志の目には、彼女…加藤希しか映っていない。
花乃子にとってはとても悔しいことだった。
「私が、それにそれ以外のみんなも狙ってたっていうのに…まあ演技だったけど。それより本当に、私より可愛かったら…」
一体、花乃子はどうなってしまうのだろうか。
「おはよう…」
「おはよう、花乃子。寝不足か?」
「お父さん…まあちょっと悩み事がね」
「そうか、まあその年だから考えることなんてたくさんあるさ」
花乃子の父は凄く優しい。とても出来た父だった。
「うん…ねえお父さん、私ってこの世で一番可愛いと思う?」
「そりゃもちろん…いや、二番目だ。一番は母さんだからな」
「朝から何言ってるの、もう。早く仕事行きなさいよ」
花乃子の母が少し照れながら言う。
本当に仲の良い夫婦だ…と花乃子は思う。
自分がもし、誰かと結婚することになったら…
こんな家庭を築くことが出来るのだろうか?
「でも、花乃子も凄く可愛いよ。親バカとかじゃなくてさ」
「うん、ありがとうお父さん」
「そんなに可愛いんだから彼氏でも作ればいいのに」
花乃子の母が言うが、父が猛烈に否定する。
「そんなのダメだ!彼氏なんて早過ぎる!」
「あら、まったくこいつは…今時の高校生なんてみんな、恋人持っててもおかしくないわよ!現実を知りなさい」
「花乃子が男を知ってしまうなんて嫌だあああ!」
「あんた…娘が可愛い気持ちもわかるけど、成長を応援してあげるのも親ってものでしょ?」
「わかってるけど…花乃子、そういうことは慎重にしろよ」
「うん、了解。それじゃ私、もう学校行ってくるね」
花乃子は家を出た。
「おはよう、希」
「おはよう、人志君」
2人は昨日と同じ所で待ち合わせし、一緒に投稿する。
朝が気持ちいい。
人志は朝が苦手だったのに、彼女のお陰でむしろ好きに思えてくる。
「あ、そうだ…今日さ、希の事を見たいっていう友達が居るんだけど」
「私のことを?別にいいけど…それって女の友達?」
「うん、まあ」
「…浮気とかしないでよ?」
「大丈夫だよ、するわけがない」
「本当に?」
「ああ、安心してくれ」
「随分とバカップルっぽい会話してるね、お二人さん」
そう言って人志に話しかけてきたのは…
「海川か!」
「はろー。いや、この場合はぐっどもーにんぐ?」
「何故そんな棒読みなんだ…」
「だって私、英語苦手だから」
「関係あるのかそれ?」
「発音自体も苦手なのよ…あなたが人志君の彼女の希さん?」
「はい、よろしくお願いします」
「やっぱり綺麗だねぇ…人志君には勿体無いよ」
「そんなことないです!人志君のほうが私に勿体無いです!」
「照れるな…」
「へえ、良いカップルじゃない…もうヤっちゃった?」
「いきなり何を!?」
「そうですよ海川さん、私達そんなことしませんよ!?」
「え、しないのか?…」
「人志君…まあちょっと私達には早すぎます」
「そっか…それよりあともうちょっとで、あいつが待ちぶせてると思うわ」
「花乃子か…いいさ、真正面から言ってやる!」
「何かあるの?」
希が疑問を投げかける。
「いや、希を見たいって人は…実は海川じゃない。もっと別の人だ。もうそろそろ着くから…待ってろよ!花乃子!」




