第十六話 動揺
この世の全てが素晴らしく思えてきた。
今、自分が持っている気持ちならば無敵のような気がする。
あくまで気がする、だけなのだが、
人志はそれほどにまで浮かれていた。
「それじゃ、また明日!」
「うん、また明日!」
彼女と毎日登校するように決めたのである。
そんなこんなで超絶に上がった人志のテンションは、この学校に入学して以来の素晴らしい笑顔がよく表していた。
「おはよう!」
「うっわなにその笑顔気持ち悪」
花乃子が酷い事を言ってくるが、今日はそれも苦にならない。
「なにか良い事でもあったの?」
「うーんどうしようかな~、教えてもいいんだけどなぁ~、あ~でもやっぱりなぁ~、教えてもいいんだけどなぁ?」
花乃子にとっては殴りたくなるぐらいウザかった。
「いいから教えて。」
「うーん…それは」
「彼女が出来たとか?」
海川が急に話に入ってくる。
「彼女!?ないない、こいつに限ってそれは…」
人志は目を逸らした。
「なんで逸らすの!まさか本当に出来たの!?」
「ああ。」
「いつ!?」
「今日。」
「今日ですって!?」
つい大きい声を上げてしまうが、その原因が衝撃的すぎて全く気が回らなかった。
「やっぱりね…登校しているとき、女の子と仲良さそうに喋ってるからそうかなぁと思って」
「そっかー、バレちゃってたか。」
「それでどっちから告ったの?ねえどっちどっち?」
海川は割としつこく質問するタイプだ。
「俺の方からだよ。結構前から好きだったんだ。」
「それは嬉しいでしょうねぇ…」
花乃子はまるで恨みがあるかのような表情で話す。
「なんでそんな感じなんだよ!?」
「私は今まで男に負けたことがないの!なんで!なんであんたなんかに負けなきゃいけないの!」
「知るかよ!?魅力が無いだけじゃないか!?」
「私に魅力が無い…?そんなこと言われたの、初めてなんだけど」
マジでショックを受けているようだった。
ショックというよりは、衝撃的という感じだ。そこに悔しさや憎しみは無い。『驚き』ただそれだけ。
「これじゃ計画も失敗じゃない…」
「計画?なんのだよ」
「この際だから言うけど…あなたを女に惚れさせる為に、様々な女の子から恋心を持たれる『ハーレム育成計画』っていう計画を行っていたのよ。」
「だからお前ら俺の事好きとかホテル行こうとか言ってきたのか!」
「あなたなんかに本気でそんなこと言うわけ無いでしょ?」
「ひ、酷い…が、今の俺にはそんな攻撃は効かない!何故なら俺の今の心は…リア充になった喜びで溢れているからだ!」
「え、人志君リア充になったんだ。」
そこに丁度到着した明子が入ってくる。
「ああそうなんだ、実は今日から!」
「そうなんだ、おめでとう!」
明子は軽く笑顔で受け流し、自分の席についた。
そして誰にもバレないように下を向いて呟く。
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…人志君彼女出来ちゃったのかぁ、私も人志君の事…好きなんだっけ?いやわかんないやこういう感情どう表現したらいいんだろうああああああああ…そうかぁ、私がそうやって自分の気持ちに正直になってなかったからこうなったんだろうねうわぁ…うわぁだよ本当にどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…さっき結構クールにおめでとう!とか言ってたけど内心めちゃくちゃ動揺してたよ…マグニチュードもビックリだよ!あああどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…私も今から告白しようかなでも遅いよね…遅すぎるよね…ああなんで朝からこんな気分にならなきゃいけないのもう本当に…」
「ブツブツなんか言ってる凄い怖い。」
海川が全然怖くなさそうな真顔で言う。
「さっきの話に戻るけど…もう女に惚れちゃったなら、ハーレム育成計画は終了ね…」
「まあ、必然的にそうなるわね。結構楽しかったけど。」
「私がこんなアホみたいな男に負けるなんて…本当、彼女はどれだけ素晴らしい人なんでしょうねえ?」
「無茶苦茶可愛いよ。性格もいいし。」
「確かに可愛かったわ。人志くんにはちょっと勿体無いくらい?でも花乃子と比べられるほど見てないからわかんないわ…」
「そうなんだ…わかった、ありがとう海川。」
「俺は?」
「あんたのはただのバカみたいなカップルにありがちなアレよ。」
「ふふ…それはどうか、自分の目で確かめてみろ」
「ええ、わかったわ。本当に私より可愛いなら、私が素直に負けを認める。でももし私より可愛くなかったら…」
花乃子がまるで人志のような素晴らしい笑顔を浮かべながら、
「覚悟しておくことね。」
人志に向かって話す。
だが今、とても嬉しい気分の人志にとってはそんなことはどうでも良かった。
考えていることは彼女のことばかりだ。
「それじゃ明日の朝…俺が投稿してきたときに、見るといいよ。」




