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混沌とした世界の中でSS~静寂のアンダーワールド~

崩壊プログラム

作者: 山本正純

 2012年11月10日。午後2時。日本時間午前10時。イタリア。ミラノ。

 サマエルこと板利明は空港を降り立った。

 彼は観光のためにイタリアにやってきた訳ではない。イタリアマフィアの武力抗争の助人として呼ばれた。


 彼と共に武力抗争の助人として呼ばれたラグエルこと愛澤春樹はイタリアに入国するなりどこかに消えた。その直前彼は電話を受けていたため、今回のイタリアマフィア武力抗争は別行動なのだろうとサマエルは思った。


 午前11時。サマエルはあるカフェを訪れる。その店のカウンター席に座った彼は店主に注文する。

「Juno get to know the forbidden world.」

「Ok.」


 店主は突然立ち上がり、サマエルを厨房に招いた。厨房にある調味料の棚を店主は動かす。そこに地下室への階段が出現する。

 サマエルはその階段を下りる。その先にサマエルを招いたマフィアのアジトがある。


 サマエルは目の前にある鋼鉄の扉を開く。

 ここはイタリアマフィアユピテールのアジト。アジトの広さは10畳ほどだろう。その部屋で6人の男女はデスクワークをしている。

「ユーノーは禁断の世界を知る。創始者の言葉をパスワードにするとは厳重ではないと思うが。創始者の言葉くらいこの世界の住人なら誰でも知っているだろう。招かれざる客が来たらどうするつもりだ。サリバン」


 サリバンと呼ばれる初老の男性は一番奥の席に座っている。彼とサマエルはイタリア料理の修行中に知り合った。

 今回サマエルを雇ったサリバンは拍手をしながらサマエルに近づく。

「パスワードがないとこのアジトに侵入することはできない。彼女の能力があるからアジトの所在を警察や他マフィアは知らないはずだ」

 サリバンは自信満々に話す。だがサマエルは首を傾げる。

「彼女とは誰だ」

「君と互角。いや。それ以上のハッキング能力を有する内のエース。今はトイレに行っているから、帰ってきたら紹介しよう」

 その言葉から10秒後。サリバンとサマエルの前を一人の金髪の女性が通り過ぎた。


 その女性の髪型は三つ編み。身長150㎝。貧乳。小麦色の素肌にピンクの眼鏡。彼女はタブレット端末を操作しながらサマエルたちの前を通り過ぎる。

「紹介しよう。内のエース。メアリー・ウィルス」

 サリバンに紹介されたメアリーだが彼女はサマエルに対して挨拶をしない。業を煮やしたサリバンはメアリーを怒鳴る。

「メアリー。挨拶くらいしないか」

「今計算中です。邪魔しないでください」

 メアリーは挨拶をせず自分の席に座る。

「それで仕事というのは」

「ああ。君には仕事として食事を作ってもらう」

「ハッキングの仕事ではないのか」

「ハッキングはメアリーに任せておけばいい。君は日本のイタリアンレストランのシェフらしいな。その日本式のイタリア料理が食べたいから君を呼んだ」


 サリバンの一言を聞きサマエルは肩を落とした。イタリアに呼ばれた訳が料理を作ることだとは思わなかったからだ。

「厨房はどこだ。まさか秘密の出入り口があるカフェの厨房を使えとは言わんだろう」

「厨房はこの部屋の隣に用意してある。もちろん必要な食材は用意してある。ということで早速だが朝食を作ってくれ。6人分だ。君も朝食を食べていないなら君の分も余分に作っても構わない」

「了解」

 イタリアマフィアとの情報戦を期待していたサマエルは隣の厨房に向かう。


 午後1時。サマエルはミートソーススパゲッティをアジトに運んだ。

「遅くなったが昼食だ」

 サマエルの言葉に反応しサリバンたちは昼食が置かれたテーブルに移動する。だがメアリーは一人机から離れようとしない。

「メアリー。早くしないと料理が冷める」

「今計算中です。後5分で終わらせます。このウイルスプログラムを敵のコンピュータにインストールしたら、1時間自由時間が生まれます。その時間を使って食事をします」


 サマエルはメアリーに近づき、彼女が手にしているタブレット端末を覗き込んだ。タブレット端末には複雑なプログラム言語が表示されている。

「計算違いだ。1分で敵のコンピュータにウイルスを感染させることができる。そうなれば自由時間が延びる」

 その一言を聞きメアリーはむっとした顔をする。

「どうやったら5分を1分に短縮できるのですか」

「口で説明するより操作した方が早い。ショートカットだ」

 サマエルは猛スピードでタブレット上に表示されたキーボードをタッチする。30秒ほどで複雑なプログラム言語がタブレット上に表示された。

「これでいい」

 サマエルはエンターキーをタッチする。それから間もなくして敵マフィアのコンピュータにアクセスが完了した。

「後は適当なウイルスに感染させればいい」

 そう言いながらサマエルは食事が並んでいるテーブルに戻った。そのハッキング能力にメアリーは舌を巻いた。

 彼女はマフィアのメールアドレスを盗み出すウイルスを敵のコンピュータに仕込むと食事をするためにテーブルに向かった。


 午後3時。メアリーはサマエルがいる厨房に向かった。サマエルは夕食の下ごしらえをしている。

「サマエル。先ほどは助けてくれてありがとうございます。それであなたのハッキング能力を見込んで相談があるのですが」

「その前に聞かせてくれ。ウイルスに感染させて個人情報を盗み出す。その後どうやって敵マフィアを倒す」

「その相談なのですが、ちょっとこのプログラム言語を見てもらっていいですか」

 メアリーはタブレット端末をサマエルに手渡す。それを見てサマエルはニヤリと笑った。

「なるほど。おもしろい」

「よかった。それとこのプログラム使ったらどのくらいで敵マフィアが崩壊すると思いますか」

「20分だろう。ユピテルの構成員の人数がいるのか分からないから正確な計算はできないが」

「私の計算も同じです」


 2人は厨房の出入り口からアジトに戻る。そしてリーダーであるサリバンにメアリーはあることを伝えた。

「サリバン。敵地に潜伏中の構成員に連絡してください。作戦開始です。先ほど敵マフィアのホストコンピュータにプログラムをインストールしました。インストールしたのは実在しないアジトのマップデータ。そのデータを敵マフィア構成員の携帯電話に一斉送信したら、彼らはそのアジトに急行します。彼らの到達予測時間は20分。それまでに先回りしてそのポイントに爆弾を仕掛ける。そうすれば構成員を抹殺することが可能です」

「でも上手くいくのか。敵がどこに潜伏しているのかも分からないのに」

「その心配は不要だ」

 サマエルはメアリーから渡されたタブレット端末をサリバンに見せる。マップ上でいくつもの赤い点が点滅している画像データがタブレット端末に表示されている。

「メアリーは敵マフィアの携帯電話からGPSデータも盗んだ。ホストコンピュータに感染させた奴がメールを通して携帯電話に感染した。これで敵の位置が分かる。ここから導き出した罠への到達時間が20分ということだ」

「ということは敵のアジトも分かるということか」

 メアリーは頷く。

「はい。最もホストコンピュータがあるのが敵のアジトであると仮定した場合ですが」

 メアリーたちの話を聞いたサリバンは急いで敵地に潜伏している構成員たちに連絡する。


 その連絡をきっかけにして構成員たちは二つのグループに分かれ動き出す。一つのグループは罠を仕掛けるポイントに先回りして爆弾を仕掛けるため。もう一つのグループは敵のホストコンピュータがある場所に潜入するため。


 それから20分後。敵マフィアの構成員たちは偽情報に惑わされアジトがあるとされるビルに潜入。その直後ビルは爆発を起こす。

 こうして構成員たちはビルの倒壊に巻き込まれ死亡した。

 その頃拳銃を構えたユピテルのメンバーたちは敵のホストコンピュータがある場所に突入した。案の定そこは敵マフィアのアジトだった。


 10分間に及ぶ銃撃戦の結果敵マフィアの構成員たちはボスを含み全員死亡。ユピテルのメンバーたちも数人は死傷したが、敵マフィアとの武力抗争は終わりを迎えた。

 

 24時間という短時間で終焉を迎えた武力抗争。これでサマエルの仕事も終わるかと思われたが、メアリーたちは彼を離そうとしなかった。

 メアリーのハッキング能力向上にため家庭教師をやってほしいとサリバンに頼まれたからだ。

 こうしてサマエルはシェフからハッキングの家庭教師に格上げされた。


 12月25日。サマエルが帰国する日まで家庭教師としての仕事は続けられた。その間メアリーのハッキング能力はサマエルと互角以上まで成長した。

敵にしたくないライバルの誕生を喜びながらサマエルは日本に帰国する。

 


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