第四話 存在の耐えられないKYさ――
本日二度目の投下です。
どんどんいきますよー。
「だいたい分かったわ。中尉の事を、上司はおろか部下にも説明ができないって事がね」
「うーんと、部外者は接触禁止。ウチでも、幹部以外は原則禁止でどうすか?」
早坂サンが提案したけど、それ軟禁ってコトですか?
「うん。同じような事を考えてたんだけど、それをどういう名目で行うかって事よねぇ」
「じゃあですね……衛星の、特殊なオペレータって事にすればいいんじゃないっすかね?」
「いい線だと思うけど、何らかの欺瞞工作が必用になるんじゃないかしら?」
「ですね。中尉に端末を割り当ててもらえれば、自分がフォローしますんで」
「特殊な軍事衛星だって事にするのね? さえてるじゃない」
「どうもです……。詳細を詰めておいた方がいいっすかね?」
「通信衛星として打ち上げたけど、光学センサーも積んでた事にすればいいんじゃないかしら?」
「電波障害で操作できないはずなんすけど、できるとしたら?」
「それを可能にするのは、中尉だけって事にするのよね」
お二人はまたしても、早口で技術的な言葉を言い交わしてるです。
「それで大筋は決まったわね。それなら中尉に、個室を割り当てた方がいいわよね?」
「端末に細工をするんでそれが必須なんすけど、たぶん空き部屋はないっすよ?」
「うーん。そこは私が情報部長か統合情報部長にでも、ネゴするしかないわね」
「そうですねぇ……回線の問題とか、機密の保持を考えたら、それが最善だと思うっすよ?」
お二人は次から次へと、まとめちゃいました。
「あの、第二情報分析室には、何人のスタッフがいるんですカ?」
「少尉以上の幹部がここにいる三人だけど、ささえてくれる下士官も多いわよ」
「曹長が三人いて、それぞれ四人の部下がいるんスよ」
「三交代で詰めてくれてるから、顔ぶれはよく変わると思うわ」
お二人は理解しやすい言葉で説明してくれました。
「そうですカ……その、男女の比率はどうなってますカ?」
「曹長は男だけど、軍曹は各班にひとりは女性がいるわよねぇ? それが、どうかしたの?」
「ワタシ……元の世界に帰るのを諦めたわけじゃないです」
門がもし現れたとしても、帰る事のできる保証はないですけど。
「ええと、それってどういう事なのかしら……」
御笠大尉はわたしの言葉の真意をはかりかねているようでした。
「はっはぁーん……門を制御するために、守りたいんスね?」
なんでそんなにイイ顔をして言うですカ? 早坂サン。
「え? 門に飛び込めば戻る事ができるのかしら? 何を守るの?」
御笠大尉は気づいていないようですけど……はずかしいです。
「乙女の秘密っスよね? 自分がガッチリガードするであります」
「遅かれ早かれ、中尉への介入は避けられないわよね」
御笠さんは深刻そうな表情でつぶやいたです。
「ほかの部署と連携して計画を進める事もあるっすからね」
「ほかの部署も……なんですカ?」
「ウチ以外の情報分析室や画像・地理部に、航空支援部もっすね」
「航空支援部というのは、無人偵察機を管理する部署なのよ」
「そんなに……なんですカ」
基本的には、この三人だけで何とかなると思ってたです。
「通達でもないと、秘密主義は上長には通用しませんしねぇ……。どこもトップは少佐っすから」
早坂サンは御笠大尉の方を見て口にしました。
「まだ言ってるのね……あれは無理筋だったってば」
「どうかしたんですか?」
「この人、少佐への昇進の内示があったけど断ってるんす」
「エェ? それって、もったいないです!」
「市ヶ谷で書類をまとめるだけなんて、勘弁して欲しいわ」
もしかして、御笠大尉はかなりの現場主義なんでしょうか。
「御笠大尉は、少佐昇進後の一定の期間は国防省勤務になるのを嫌がってるんす」
「それを免除される役職になれるなら別よ? 統合情報部長とか」
「統合情報部長職は中佐ですけど、上が詰まってますからねぇ」
「かつての分析部長職でも復活させてくれないかしらね?」
統合情報部は敵が攻めてきた時に情報を集めるのが仕事でしたネ。
「自衛隊から、国防軍に昇格して強化された分、文民統制の比重もそれに比例して重くなったんすよ……」
「内閣情報分析官の初瀬さんも似たような事をぼやいていたです」
「初瀬はウチに出向してきた事があって、それ以来月イチベースの飲み仲間なのよ……」
「心配はしなくていいと言ってたですケド、そういう事だったんですカ」
急きょ出向する事になってパニくってたわたしにそう言ってくれたです。どうやら、仲もよさそうですね。
「もう会議室を引き渡す時間になっちゃいましたよ……」
「それじゃ、統合情報部長のところに中尉を連れて、ネゴしに行くわね……」
その後、交渉の末に通達をもぎとって、狭いですけど、個室ももらったんです。
「端末持って来ましたから。回線工事はすぐに済みますから、外に出ててくださいね」
「あ、ハイです……ヨイショ」
早坂サンが作業を始めたので、廊下で待つ事になったです。
「あれ? ここ倉庫じゃなかったっけ?」
作業服を着た男性がすぐ横を通るのを見てビクっとしました。
男性と話した事はほとんどないんですから仕方ないです。
「おやぁ? 見た事がない顔だと思うけど……君、誰?」
壁に向かって立っていると、誰かが横から話しかけて来たです。
「あ、あの……困りまス」
接触禁止という事もあり、戸惑いつつも拒絶しました。
「困るって何が困るのかな? 僕は名前を聞いているだけだよ?」
横目でちらりと見たんですが、情報部門のグレーの軍服を着ているようで、もしかしたら階級が上かもですね。
それなりに格好いいかもですけど、身ぶりや口調がなんとなく、気にいらないです。これがKYってヤツですカ?
「とにかく……接触するのは通達で禁止されているんです」
「制服着てるんだから幹部でしょ? 官姓名を名乗りなさいよ!」
この押しの強い男の人は拒絶してもわたしに迫り続けています。
「あの、早坂サン! ちょっといいですか?」
わたしは作業している早坂少尉に声をかけました。
「すぐに終わるので、もうちょっと待っててくださいねー」
早坂サンは床の配線をいじってるようで、身動き取れないです。
「エト……理由がありますから……これデ……」
わたしは詰問してくる男性にIDを提示しました。
「イアルローネ・アインス・ミストーク中尉? いったい、どこの国から来たの?」
わたしみたいなコムスメが中尉というのは変ですヨネ?
「に、日本国籍を取得してるです……」
IDに所属も書いているのに、この男の人はなぜか納得してくれなかったです。御笠大尉が通りかかるか、早坂サンの作業が終わるのを待つしかないです。
「あの、あなたは……いったいダレなんですカ?」
少しでも時間をかせぐために、逆に質問をしてみました。
「あれ? ちょっと天城大尉……何してるんですか?」
作業を終えた早坂サンが、様子に気づいてくれたようです。
「やぁ、早坂少尉……彼女に所属と官姓名を聞いていただけだが」
「中尉は関係者以外接触禁止ですよ? さっき通達書を渡したじゃないですか!」
早坂サンが割って入ると、男の人は一歩後ろに下がったです。
「それって彼女の事だったの? 顔写真もなかったからさぁ……」
「何を言ってるんスか! 該当するような人が二人も三人もいるわけがないでしょうが!」
(もしかして、このヒト……)
通達が出てるのを知りつつも、ちょっかいかけてたですカ?
「とにかく関係者以外は接触禁止ですから、ほら、中尉は中に入っていてください」
早坂サンは、わたしに個室の奥の方に入るように、腕を引いてくれました。
「そんな……ウチも関係者みたいなものじゃないの?」
「申し立てる事があるなら、情報本部長にでも言ってください!」
早坂サンが追い払おうとしているのに、帰ろうとしないです。
「あら、天城君……ウチの子たちに何か用でもあるの?」
姿は見えないですが御笠大尉が通りかかってくれたようです。
「御笠先輩……あの。何度も言うようですけども、君付けは勘弁してくださいよ……」
さっきまでの威勢はどこへやら、どうやら、御笠大尉には通用しないようです。いい気味です。
「あの人はいったい誰なんですか?」
「第一の室長の天城大尉って言うんすけど、あいつには気をつけた方がいいっすよ?」
対応を御笠大尉に任せて、早坂サンが個室に来てくれました。
「御笠大尉には頭が上がらないんですかね? 腰が引けてるです」
「ああ……御笠大尉とは、国防大学時代の二年後輩だからだと思いますよ」
「優秀な御笠大尉と、二年後輩なのに階級が同じなんですか?」
「御笠大尉も昇進は早いほうなんですけど、彼はそれ以上に早いんですよ」
「性格はわるくても、実はすごい人だったりするですか?」
そう言うと、早坂サンは吹き出しそうになって口を押さえたです。
「御笠大尉は、昇進の内示を断ったの二回目っすからねぇ」
「そうだったんですカ……」
御笠大尉がいなくなると、日本がアブナイというわけですネ?。
「天城氏も無能とは言わないですけど、親の七光りがすごいんすよ」
(早坂サン、相当、あの人の事を嫌ってるんですね……)
「御笠大尉がいたら出世できないから、飛ばそうとしてるって説も」
「ちょっと、そこのお嬢さん方……聞こえてますよ?」
「ちょっと、英輔クン? ヒトの話を聞いてる?」
天城大尉が、わたしたちにちょっかいを出すのを、御笠大尉が、ネクタイを引いて阻止してくれたです――。
「わ、わかりました。今日のところは退散しますよ……」
天城大尉はなぜか弱腰になって、その場を去っていきました。
「はぁ……まったく抜け目がないんだから――」
「お疲れさまです……」
御笠大尉は机の隅にお尻をかけて、ため息をつきました。
「第二が強化されたかもしれないって、けん制に来てるのよ……」
「やっぱりそうっすか……なにかにつけて首を突っ込んで!」
「はぁー……それにしても狭いわよね、ここ」
たしかに出入り口に誰かいたら、外に出る事もできないです。
「回線は接続済みっすから、IDを使えば、起動できますんで……」
「ねぇ、中尉……端末の使い方は、わかるのかしら?」
「エト……マニュアルがあればきっと大丈夫です」
「じゃ、起動確認が終わったらお昼にするから呼びに来てね」
御笠大尉は、斜め前の第二情報分析室に戻っていきました。
お二人のそばにいたら安心できマスけど、これからは油断できないんですね……。
御笠・早坂の、ワンポイント・ミリタリー講座
御笠:「衛星の役割と中尉の魔法がよく理解できない人がいそうね」
早坂:「そもそも、有視界戦闘に頼ってるって、どういう状況すか」
御笠:「理由はまだ説明されていないけど、衛星はほぼ全滅状態よ」
早坂:「マジっすか? カーナビないと家まで帰り着けないっすよ」
行末でびっちり整えていると、
目線でずっと追わないといけなくて、
目が疲れるので、休み所が必要という助言を受けて、
若干読みやすいように心がけていますけど、どうでしょうか?