第三話 うっわ、この能力超便利っす!
約10万字分の初稿があるので、
加筆・修正済み次第投稿していきます。
http://ncode.syosetu.com/n1233bk/
【帳簿はいつも真っ赤っ火】
こちらも不定期連載中なのでよろしく!
「哨戒機と無人偵察機と同等の事ができるって言うの?」
御笠大尉は、わたしの手を両手で包み込んだです。
「衛星が使えない以上、哨戒機と無人偵察機は命綱っすからね……だとしたら、仕事の半分以上なくなるっすよ」
早坂サンも、息を飲んで考え込んでいるようでした。
「具体的にはどれぐらいの範囲をカバーできるの?」
わたしの手をもむようにしながら説明を求めたです。
「ハイ。ワタシを中心にして……エト半径二百五十キロの範囲の、船や飛行機を発見できるです」
わたしが独り立ちできるようになるために、作り出した魔法ですから……きっと御笠大尉のお役に立てますよネ?
「えぇっ? 二百五十キロっすか。じゃあ、上海軍の動きを監視できるところまで移動しないとっすね」
「早坂、午後一の飛行機って手配できるかしら? どこまで行けばいいかしらね」
「そうっスね、軍用機で行くなら鳥取の美保基地まで行けますね。民間機なら高松空港ってところっすかねぇ……」
お二人は早口で言葉を交わしたので、聞き取れませんでした。
「アノ……御笠大尉? 何を話してるんですか?」
「大丈夫よ。あなたひとりを行かせるわけがないでしょ?」
説明には続きがあったんですけど、早合点してるみたいです。
「二時に美保行きの貨物便があります。二人なら乗れますね」
「現地に使えそうな分室か施設はあるかしら?」
「待ってくださいです。飛行機乗らなくても大丈夫なんです」
このままぼーっとしていると、飛行機に乗せられそうだったので、あわててお二人に呼びかけました。
「アノ……衛星に魔法をかけてるですから、大丈夫なんですヨ!」
「赤道上空の静止軌道上にいるっていう通信衛星よね?」
「エト、魔法でそこから西日本を偵察できますから」
「高度が三万六千キロもあるっすよ? 届くんっスか?」
「通信衛星なのにどうして? 魔法の事はわからないわよう」
お二人は混乱しているようでした。無理もないです。
「愛媛県庁ってところを、ズット向くようになってマス」
「指向性をもった電磁波でも放ってるんすかね。いや、有限の推進剤を使うんなら、ありえない話っすよ――」
「このさい理屈はいいわ。それで、どうする事ができるの? 中尉」
御笠大尉は瞳を輝かせてわたしに近づいて来たです。
「愛媛県庁を中心に、半径二百キロを調べる事ができマス」
「なんですってぇ? それって、大助かりじゃないのぉ」
勢い余った御笠大尉にハグされてしまいました。
「それなら、本土への奇襲を早期に発見できるじゃない!」
「あとで地図を見て、有効な範囲を確認してみますけど、不審船の心配も減るっすね」
「中尉どころか中佐扱いでも私は文句を言わないわよ?」
「あ、常時魔法を発動させる事ができるわけじゃないです」
申し訳ない気分にナルですけど、説明しておかないとですネ。
「それでもすごいことじゃないっすか!」
早坂サンはハグされたままのわたしの頭をなでてくれたです。
ハグも頭をなでられたのも子どものころ以来です。
「って大尉、そろそろ離してあげないと苦しそうっすよ?」
「あぁ、ごめんなさいね……けど、それだけの吉報なのよ」
「情報の集約と分析が任務なのに、直接調べられなかったっんすよ」
「そうね。情報が集まるまでの間にも、戦局は大きく動くから」
思っていた以上に、喜んでくれてるみたいですネ?
「周囲は全部海だから、海岸線の防衛は頭痛の種だったんすよね」
「そうね。けど、上にはどう報告すればいいのかしらね……」
二人とも頭をフル回転させているようでした。
「なぁんだ、簡単っすよ! 中尉に敵の場所を聞いてから、UAV|(無人偵察機)を飛ばせばいいっす」
「なるほど! じゃあ、いつでも飛ばせるように、UAV基地との即応体制を強化しておけば大丈夫よね!」
お二人の会話を理解するだけで、精いっぱいでした。
「素朴な疑問なんすけど、いいっすか?」
「ハイ……なんですカ? 早坂サン」
あまりにもヒートアップしたので、休憩をしてたです。
「向こうでは、戦争に魔法を使わなかったんですよね?」
「そですね……戦争自体も少なかったですから……」
どうせ調停されるんなら、最初から話し合いをするか、代表者を決めて決闘とかする方がマシって結論に達したんですよネ――。
「自分は……この魔法を覚えようとした理由が聞きたいんすよ」
早坂サンは、わたしの事を心配してくれているみたいですね。
「意識を飛ばして、あたりを探る魔法はあったですカラ」
「言いにくい事なら、無理して言わなくてもいいのよ?」
「この世界で生きていくのに、必用だからだと思いマス」
監視されたままなら、食事は出たですけど、それは本当の意味で生きてるって事にならないと思ったんデス。
「そうだったんすね。もっと楽な生き方もあるんすよ?」
「いえ、そうしないと外に出られなかったですカラ」
わたしの言葉に、お二人は驚きの表情を浮かべていまシタ。
「保護されていたというのは……そういう意味だったのね?」
「内閣情報調査室の人たちは、優しくしてくれマシタから」
「その魔法を、都市部での捜査に使ったりもしたんすか?」
「一度だけ、銀行強盗の様子を調べた事がありマシタです」
銀行強盗と視線が合った時の、悪寒は忘れられないです。
「魔法にはいろんな系統があるって言ってたわよね?」
「そですネ。有名なのだけでも二十ぐらいの系統があるです。複数の系統を学ぶのも制限されていましたから、すべての魔法を学ぶなんてのは、ムリだと思います」
「あなたの専攻は何だったか、参考までに教えてもらえる?」
御笠大尉が問いかけてきましたけど。
「それを説明する前に、名前の説明をした方がいいですネ……」
「名前と魔法が関係あるんっすか? あ、続けてください」
だんだんと早坂少尉の言葉が柔らかくなったですネ。
「イアルローネというのは個人名で、ミストークが血族の名前です」
「じゃあ、真ん中の名前は何なんすか?」
「特定の系統の魔法を習得した人に対する称号のようなものです」
「なるほど、ここにつながってくるんすね……」
「アインスの称号は、門を管理する魔法使いに与えられるんです」
「門? それって、ど○でもドアのようなものっすか?」
「いえ、ど○でもドアとは、かなり違いまス」
「ど○でもドアも知ってるんだ。妙にくわしいよね?」
アレ? 一般常識だからって読まされたですヨ?
「エト、十年に一度ぐらい現れる世界のひずみだと言われてマス」
最初に、ひずみを作り出したとか、逆にそれを抑えるために飛び込んだとか、複数の説があるのが、祖先のミストーク高導師です。
どちらにせよ、あの世界からは消えてしまったので、高妹と呼ばれた妹さんが術を継承し、血族にひもつけたと言われていますけど、実際のところは、よくわからないんです。
「世界のひずみっすか? 急にファンタジーっぽくなったすね」
「ひずみを放置すると、世界が壊れてしまうって言われてるです」
深い湖が一晩で干上がったり、木々が一晩で枯れたり、ものすごい竜巻なんかも発生したと言われてるです。
「えぇっ? それはマジで、世界の大ピンチじゃないっすか!」
早坂サンは、額の汗を手の甲でぬぐいながら息を飲んだです。
「ひずみを魔法で制御するのが、アインスの術者の使命なんです」
この世界に来る事になった、切っ掛けになった事件の事を思い出すと、三年たったいまでも胸が痛くなるです。
「アインスの魔法は、わたしの血族でないと、使えなかったので、その研究をしてたデス」
「危機から世界を救えるのは、中尉しかいなかったんすか?」
「ワタシのお師匠は叔母で、弟子は、血のつながりのある親せきのおねえさんたちでした」
「その人たちは大丈夫だったのかしら? 行方とかは、つかめているの?」
御笠大尉はおねえさんの事まで心配してくれたです。
「女しかいないなんて、魔女っ子みたいっすね」
早坂サンも興味津々でわたしの話を聞いているかと思えば。
「ワタシは未熟なので、アインスの称号を得るのも大変デシタ」
「まだ若いんすから、仕方ないっすよねぇ?」
「ワタシの世界に、六つのひずみ……門が生じる事が分かったので、みんなあわてて対処しようとしました」
「六つも同時っすか? 対処しきれたわけがないんすよね」
早坂サンは早々に結論にいたったようで、表情を暗くしたです。
「いちばん大きい中心の門を師匠が。ほかの門は五人のおねえさんが担当になりました」
一番未熟な自分には手伝える事がない事で、悲しい思いをしたのを思い出しました。
「六人がかりっすか。そりゃあ……かなり大がかりなプロジェクトだったんすね」
「ところが実行前日になって……。お師匠の恋人さんが、このまま死ぬかもしれない儀式に、行かせるわけにはいかないって言って、無理やり純潔を奪ってしまったそうなんです」
「えぇっ? それ……どういう事なのかしら……」
「ワタシが、師匠の代わりに大きい門に行く事になったんです」
「魔法使いって……乙女なのが条件なんすか?」
早坂サンは顔を真っ赤にして、ハズカシイ事を口にしましタ。
「その……フツウの魔法ならそんな事はないそうです」
「じゃ、門を制御する魔法だけは普通じゃないんですか?」
「アインスの乙女の役目は、ひずみにささげられる事だったんです」
ミストークの血族の者以外でアインスの称号を得られた人もいないんですけどね。長女は修行に出されるんです。
「ささげられるって、その……いけにえみたいなものなんですか?」
早坂サンは暗い表情のままうつむいてしまったです。
「デモ、門を制御する事ができたら助かるので、修行してました」
留守番をする事の罪悪感の裏には、ずるい気持ちがあったです。
「ワタシは、師匠の代わりに門を制御するために、旅だったんです」
おとうサンやおかあサンがいる世界を、守りたかったですから。
「そうだったの……ちょっと頭の中で整理させてね……」
「そっ、そんなの……自分には無理っすよぉ。中尉……」
早坂サンは、涙をこらえているのか鼻声でした。
「門を制御しきれずに、門に飛び込む事でおさめようとしたから、この世界に来たって事かしら」
「その通りなんです……。まるで見て来たかのようですごいです!」
スゴい人だとは聞いていたですけど、想像以上ですネ。
「それって、とても勇気が必用な事よね……あなたを尊敬するわ」
「本当にすごい事ですよ。誰でもできる事じゃないっすから……」
「それが役目でしたし、みんなを守る事ができたですから……」
そんなふうに優しくされたら、泣いてしまいそうになるです。
「えっと、魔法って、こっちの人間でも覚えられますかね?」
しんみりした空気を察したのか、早坂サンが話題を変えたです。
「体を調べられたですけど、ミトコンドリアに違いがあるそうです」
「逆にいえば、それ以外はほぼいっしょって事なんっすね……」
「門があるという事は、過去にも人間の行き来があったのかもね」
「ですネ。魔法使いの血引いてるんじゃないかって思う人いるです」
御笠・早坂の、ワンポイント・ご都合主義講座
御笠:「中尉の魔法がどれぐらい役立つか……チート具合の解説よ」
早坂:「下の図を見て、ご都合主義だと思わない人はいないっすね」
御笠:「半径二百五十キロて、最大の幅が五百キロってどんだけー」
早坂:「魔法と名乗れば理屈と膏薬はどこにでもつくって事っすね」
【キャンプ座間(半径二百五十キロ) http://goo.gl/u5ZVE】
【愛媛県 県庁(半径二百キロ) http://goo.gl/0tmNl】
説明する部分が少なくなってくると、
多少は読みやすくなって来ると思いますので、
もうしばしの我慢をお願いします。