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空と海の掌握者(コンダクター)  作者: 小田崎コウ
第一章
3/27

第二話 この人、何言っちゃってるっすか?

10/27:微調整しました。

「えぇーっ? じゃあ使えるんですか? 魔法――」

 硬直した状態から立ち直った早坂少尉は、目を見開いて、わたしを震えた指でさしながら叫びました。

「ハイ……使えますですヨ? 魔法――」

 こういう反応はもう慣れっこですから、わたしは表情も変えずに応えてあげました。

「じゃあ、履歴書に特技はイオ○ズンだって書けちゃいますね」

 すぐに信じてもらえるとは思わなかったですケド、いきなりネタに走られると、さすがに傷つきマス。

「いえ……ワタシ、イオ○ズンは使えないんですけど……」

「へぇぇ……イオ○ズンの事はちゃんと知ってるんですかぁ……」

「この世界のゲームは魔法の説明のためにかなりプレイしたです」

 狭いセーフハウスで、ゲーム画面に向かって、孤独にゲームをしていたころを思い出しますね。

 この世界共通の認識としての魔法を把握するためと、どう活用するかを探るために、ひたすらゲームをプレイしては、目をこすりながら、メモを取ったりしましたから。

「この世界の魔法使いは、みんな同じような魔法を覚えますケド、ワタシの世界では系統が多い上に、特定の血族にしか使えないような魔法がほとんどなんです」

 誰でもティルトウェ○トを使えるだなんて甘い話はないんです。

「へぇぇ……そうなんだぁ……勉強になるなぁ……」

 早坂少尉は、ぷるぷると肩を震わせながら顔をうつむけました。そこまでの反応を示されたのは初めてですけど。

「どうかしましたカ?」

 わたしは顔を傾けて早坂少尉に問いかけました。

「って、魔法を使えるだなんてありえないっしょ!」

「ちょっと、早坂? 落ち着きなさいって……」

 早坂少尉が奇声を上げてテーブルをたたいたのを見て、御笠大尉がなだめてくれました。理系って人はこういう反応するんですよね。ヲタクって人なら喜んでくれるんですけど。

「だって魔法ですよ? 二十一世紀を四半世紀もすぎたって言うのに、そんなオカルトはありえないっしょ!」

「どうして、そんなに信じられないんでしょうカ?」

 目の前に使えるという人間がいても、頭の中で考えて判断する事しかできないんでしょうか。ちょっと寂しい気持ちですネ。

 前の上司なら、考えるな感じろ。とか言ってました。

「じゃあ……魔法が使えるって言うなら実演してほしいっす!」

「わかったから、落ち着きなさいって……」

 妙な雰囲気になってしまったです。ここはやはり……。

「えぇト……じゃあ、使ってみてもいいですカ? 魔法――」

「え? ええ……人や物に被害がでないような魔法なら……」

 お伺いを立てると、戸惑いながらも許可をしてくれました。これで話がスムーズに進みますね……きっと。

「では、早坂少尉にかけてみマス。横になってくれマスカ?」

「何すんの? いちおう事前に教えて欲しいんだけど」

 早坂少尉はおびえているのか、テーブルをつかんで震えてました。それって、ちょっと傷つくんですけどネ――。

「大丈夫デス。眠るダケですヨ? こわくないデスから」

「へ? こんなところで眠るんですかぁ? それはちょっと」

 早坂少尉に説明するのが面倒クサくなったので、わたしは即座に魔法を発動させました。

「ふわ……なにこれ…………ぐぅ……」

 早坂少尉は、テーブルにもたれるような格好で脱力し、寝息を立てました。

「え? 眠っちゃったの? どうすれば起こせるの?」

 御笠大尉は驚きの表情を浮かべて、問いかけてきました。これが本来の感じ方なんですよね。ワタシの世界でも魔法使いはめったに世間に、姿を出しませんでしたから。

「手で刺激を与えればフツウに起きますから、大丈夫ですヨ――」

「そうなの? じゃあ……早坂ー……起きろー!」

 御笠大尉は早坂少尉のほおを、ぺちぺちとたたきながら、声をかけていました。なんだか楽しそうですネ。

「んぁっ? なっ、なんすかいったい……って、いま、自分は寝てたっしゅか? 力が抜けるなーとは思ったんすけど」

 早坂少尉は、頭を振りながら上半身を起こしました。初めて魔法で眠った人はこんな反応ですけど、かわいいですネ。

「魔法で眠らせました。これで信じてもらえますよネ?」

 わたしは少し自慢げに、早坂少尉に声をかけました。

「いまの魔法っすか? でも、呪文とか唱えてなかったっすよね?」

 信じてくれたですカ? って、妙な所にこだわるですネ。

「えぇと、ゲームとかと違って、呪文を口にする必要はないんデス。頭の中で構築して、発動させるだけなんデス」

「えー? 情緒がないなぁ……そうだ、大尉にもやってみせてよ!」

 早坂少尉は興奮しているのか、顔を上気させたです。

「別にいいですヨ? じゃあ……御笠大尉も、寝てみるですカ?」

「そうね。眠れるのならありがたいから、十分間ぐらいお願いね?」

 早坂少尉みたいに怖がるか不安がるかと思ったんですけど、御笠大尉は、魔法に高い適応性を示していますね。

「わかりマシタ。じゃ、横になってくださいです」

「横になって楽にしていればいいのね?」

 わたしの指示を聞いて、御笠大尉は床に腰を下ろしてくれました。これからマッサージでもするみたいな感じですネ。

「あ、本気なんですか? 大尉……」

「昨日も眠れないから、五時までずっと資料の整理してたのよ」

 言われてみると、少しまぶたがはれぼったいですカネ?

「床で寝るのなら、段ボールでも敷きますか?」

「その方がいいわね……お願いできる?」

「すぐ取って来ますんで!」

 早坂少尉は小走りで部屋を出ていきました。



「じゃあいきマス……」

「あ、まぶたが重く……すぅ……」

 段ボールの上に寝転んだ御笠大尉は、すぐに寝息を立てました。

「えぇっ? これ、もう寝てるんですかね? マジで……」

「ハイ。ちゃんと寝てますですヨ?」

「けど、魔法のせいで眠ったって保証はないですよね?」

「うーん……。じゃあ耳元で音を鳴らてみてクダサイ。触りさえしなかったら起きないですから」

「マジっすか? じゃ……」

 早坂少尉は携帯電話を取りだして、大音量で音楽を鳴らしました。こっちの世界の音楽は苦手です。向こうでは、みんなで合唱をするような音楽がほとんどでしたから。

「すぅ…………」

「ほ、本当に寝てる! 魔法は本当にあったんですね?」

 耳障りだったですケド、音では目が覚めない魔法なんです。

「ハイ……こんなの、まだまだジョノクチですヨ?」

「その、確かめもせずに疑ってすみません……」

「イエ、こうして信じてもらえたからいいんです……」

 魔法を否定した事を、早坂少尉はぺこりと頭を下げて謝ってくれました。




「そういえば、説明してなかったですよね? ウチの仕事」

「ハイ。ココが何をしているか聞いてないです」

 仲良く二人でゲームなんかのお話をしていたんですが、話が途切れた時に、早坂サンが仕事の説明を始めちゃいました。

 そういえば、いまもお仕事をしている時間なんですよネ。

「えーと、三年前にこの世界にやって来たんっすよね?」

「そうですケド……」

「じゃあ……あの混乱を知らないんですね。上海軍の侵攻を」

 早坂サンは視線を落として手を組んだまま語り始めました。

「ハイ……年表に書かれている事ぐらいしか知らないんです」

 五年前に、西の大陸にある、中華連邦の軍事的勢力のひとつが、好機に乗じて九州に侵攻したそうです。

 前の世界でも戦争は起こった事がありますけど、本格的にやると魔法使いが調停に入ったりするんですよね。

「米軍が本国で大事件があったので、泡を食って太平洋から撤退するタイミングに、中華連邦から宣戦布告もされずに侵攻されたから、壊滅的なまでの被害を受けたんですよ――」

「イチニイゼロサン……ですネ」

 『大破局』が起こる前の世界の事もよく知らないですケド……。それによって、この世界の人たちは大変悲しい思いをして、不便を強いられる生活をしているんだそうです。

「長い間……米国の核兵器の傘で保たれていた平和は、その無力化によって破られたんっす」

 早坂サンは当時の事を思い出しているのか、肩が震えていますけど……誰か大事な人でも亡くされたんでしょうか。

「民間人を相手にした、一方的な戦闘で十数万人が殺され……いまだに多くの同邦人が上海軍の占領下であえいでるんス」

「早坂サン……泣かないでクダサイ。希望はありますカラ」

 わたしは、むせるようにして泣く早坂さんの手を握って、精いっぱい力づけてあげるような事しかできなかったです。

「すみません。しめっぽくなっちゃいましたね……」

 早坂さんは軍人としても、ものすごく九州の人たちに責任感を感じているんですね……。

 その姿勢を見ると手助けしたくなります。そんなわたしの様子を見て、逆に頭をなでたりもしてくれました。とっても優しい人なんですね。出会えてとてもうれしいデス――。




「統合情報部と、第二情報分析室の仕事はなんですカ?」

「敵が攻めて来た時などに、即座に対応して、敵の情報を総合的に集める情報部門が、統合情報部なんすよ」

「そうだったですカ……とっても責任の重い仕事なんですネ」

 そういった緊迫感の中で働くっていうのは、大変な事なんでしょうね。御笠大尉もよく眠れないみたいですし。

「ウチの仕事は九州の上海軍の情報を逐一収集して分析する事っす」

「エト……第一情報分析室とは、どういうふうに違うんですカ?」

「第一が北海道を除く東日本で第二が西日本。第五まであるっス」

「そうだったんですか……それで、ワタシが派遣されたんですね」

 これまで魔法について、すこしづつ考えをまとめていたんですが、この世界での使い道が、見えて来たみたいです。

「えぇ? 何か言いましたか?」

「いえ、いいです……それより時間……大丈夫ですカ?」

 わたしは眠っている御笠大尉の事を思い出したです。



「もう十五分もたってますね。そろそろ起こしましょうか」

「もうそんなたったですカ……お願いするです」

「おーい……大尉ー。起きてくださーい……」

 早坂サンは御笠大尉の肩をつかんで揺らしながら起こしたです。もっと優しくおこしてあげてください。

「んっ……ふぁっ……あー……よく寝たぁ……って、ここどこ?」

 御笠大尉は、あくびをしてから目を見開き、回りを見て混乱しているようでした。

「覚えてませんか? 中尉の魔法で眠ってたんですよ」

「どれぐらいたったの? かなり熟睡した気分なんだけど!」

「だいたい十五分ですね。気持ち良さそうに寝てましたから」

「十五分だけなの? 夢とかも見なかったと思うんだけど」

 御笠大尉はよく休めたようですね。よかったデス。

「十五分じゃ体の疲れは無理ですケド、良質な睡眠が取れるんです」

 前の職場でも徹夜明けの職員が訪ねてきて、魔法をかけてくれって頼まれたぐらい、満足してもらいましたから。

「じゃ、この魔法で八時間ぐらい寝たら最高じゃない?」

「電話ごしでもかけられますから、言ってくださいです」

「何それ、ものすごく助かるじゃないの! お願いしたいわぁ」

 不眠症の御笠大尉なら、きっと効果は大きいですよね。

「うるさくても目は覚めないですから、起こしてもらわないとです」

「じゃあ、IDで隣の私の部屋に入れるようにしておくわね」

 御笠大尉は上機嫌で首と肩を動かしていました。

「へぇ……そりゃ良かったですねぇ、大尉」

「こんな気分で目覚めたのはマジで久しぶり……んーっ――」

 御笠大尉は笑みを浮かべて、背筋を伸ばしていました。わたし、御笠大尉の事が、とても親しみを持てるようになって来ました……。なんだか頼りがいがある、おねえさんができたみたいですネ――。

 早坂少尉はずっと前から友達だったような感じがするんです……人見知りをするわたしにしては珍しいんですけど。



「魔法って便利な物なんですねぇ……。そういえばホ○ミとかも使えるんですか?」

「エト……ホ○ミは使えないです」

 予想していましたけど、申し訳がない気分になりマス。

「えぇ? ホ○ミも使えないで魔法使いを名乗れるんっすかぁ?」

「早坂……ホ○ミは、だいたい僧侶が覚える物なんじゃないの?」

 御笠大尉もそれなりにはゲームにくわしいようです。

「あっ、自己治癒能力を飛躍的に高める魔法なら、あるですヨ? 普通なら数週間かかるけがや病気が三分の一の時間で治るです」

 魔法使いの里は一般の人を受け入れないんですけど、病人やけが人が出た時は、山ひとつ越してでも頼って来るんです。

「ありがたいっちゃありがたいけど微妙っすねぇ……」

「ワタシのいた世界……魔法はあっても魔物いないですカラ」

 味方の危機に現れて、さっそうと魔法で、けがを治す魔法使いや僧侶にあこがれたりしたんですけど。

「じゃ、攻撃呪文とか、それほど発達していないという事っすか?」

「戦争の道具にされるのは、魔術師としては最大の禁忌タブーになりマスから」

「ふーん……じゃあ、わたしたちが抱いてる魔法使いのイメージでは見ない方がいいみたいね」

 御笠大尉はそう言って何か考え込んでいるようでした。

「じゃあ、内閣情報調査室ではどんな仕事してたんですか?」

 早坂サンは興味が出て来たのか、体を乗り出して、わたしに問いかけてきました。

「エト、一般常識と言葉を覚えるのに、二年ぐらいかかったです。三年目に、あちこちに出向いて、いろんな実験をしたです」

 基本的には独学だったですね。ゲームの攻略本や、テーブルトークRPGのルールブックなんかも、魔法の概念を知るのに、勉強になったんです。だけど、いっしょにゲームをプレイしてくれる仲間はいないので、とても寂しい思いをしたんです。

「魔法で実験って、どんな実験なんですかね?」

「ソウですね。打ち上げる衛星に、魔法をかけたりしたです」

 あの魔法は、いろんな条件によって自動で制御しないといけないので、人工的な精霊を作るのが大変でした。魔力の供給を太陽光で行う事を思いつくのに時間がかかりました。名前までつけてあげて、時折念話で話しかけてあげないと、さみしがるんですよね。上司は『はやぶさタン』と名付けました。

「え? あれにかかわってたの? 静止軌道上の通信衛星よね」

 情報部門の人だけあって、御笠大尉は食いついてきたです。

「中尉が魔法を使う事によって、どんな事ができるんですかぁ?」

 早坂少尉も瞳を輝かせながら、ずいと近づいて来ました。

「えと、最新の哨戒機四機と、無人偵察機二十機分て言われたです」

 以前言われた言葉を口にすると、お二人は固まってしまいました。


 御笠・早坂の、ワンポイント・ミリタリー講座

御笠:「いきなり哨戒機と言われてもピンと来ない人もいるかもね」

早坂:「一定以上の年齢の人だと対潜哨戒機のP3Cが有名っすね」

御笠:「哨戒機もUAVも任務は同じで敵の発見をするのが仕事よ」

早坂:「UAVってのは無人偵察機の事です。哨戒機は有人っすよ」


私は別にミリタリーオタクというわけではありません。

創作上でのアクションやサスペンスのために必要な題材として、

知っておくべき最低限のラインを薄く広く知っているだけです。

なので、認識の誤り等あれば、ご指摘の程をお願いいたします。

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