俺のNot bad day
桜の木の蕾が花になってゆく、この季節。
きっと学校の前の通学路は、去年同様に桜が満開なんだろう。
まぁまだ冷える日もあるんだけど、今日は太陽も出ていて快晴、雲一つ見えぬ青い空。
典型的な春の朝だ。
そういや去年の今頃、俺は高校への準備で忙しかったな。
馬鹿親二人が旅行に行くって言い出して、俺を家に置いてどっかに行きやがったのもこの時期だった。
と、まぁ何やらしんみり語っているが、あまり気にしないでくれ。
今日は始業式。
つまりは今日から俺達は2年生って訳だ、めでたい日じゃないか。
しっかしこの一年は色々有りすぎる一年だったな。
3人揃って同じクラスになったり、見覚えの無い外国人が家に来たり、涼みたいな馬鹿と知り合ったり、不思議ちゃんな冬香とも知り合うし。
濃いね、うん濃いわ。
ハプニングも行く先々で起こったし、終いにゃあ俺ん家で誘拐事件だぜ?
解せぬ、うん解せぬわ。
「本年度はもっと穏やかになりますように~・・・っと、そろそろだな」
俺は小声で恐らく叶わぬであろう願いを呟くと、歩きながら首を右方向へ45度、そして斜め上に45度傾けた。
となると俺の目線はある一軒屋の2階の窓へと向けられる訳なんだけど。
『ガラガラッ!』
俺の目線の先の窓が音をたてて、勢い良く開かれると「とうっ!!」と言う掛け声と共に俊一が窓から飛び出してきた。
予想通りだな、今日は窓からか。
前にも言ったが、毎朝俊一はありとあらゆる場所から俺の前に現れる。
その時の着地やらフォームやらで今日の調子を計っているんだとさ。
まぁ俺や、これを見ている一般ピーポーには理解できぬ事さ。
俊一は音も無く着地をすると、無言でこちらを見た。
「・・・なんだよ」
「うむ、知樹。
奇遇だな」
「奇遇が一年通して続いてたまるかよ。
ほれ、行くぞ」
41話の『そこそこの日常生活』でも分るとおり、このボケとツッコミは入学したての頃から始まっている。
結局、俊一の「奇遇だな」の台詞はこの一年を通して変わる事は無かったって事だな。
俺はもう半ば定型文とも言える言葉を吐き出すと、俊一をスルーしてさっさと歩き出す。
そうすると、俊一は決まって俺の横に付く様に後ろから歩いてくる。
「ったくよ、春休みは散々だったよ。
誰かさんのせいでな」
「ふむ、まだ根に持つか?
全く小さい男だ」
「小さい事もクソもあるかぃ!
お前、春休み前に何言ったか覚えてるか?
『すでにお前の予定は全て埋めてある』だぞ?
せっかく宿題も無く、有意義な休みを過ごそうと思っていたのにだっ!」
「・・・・・・・・」
数秒考えた後、結論が出なかったのか、俊一はとんでも無い事を聞いてきた。
「何に不満があるのだ?」
「そこを理解してないのかよっ!
何で俺に春休みに予定を入れても良いかを、聞かなかったのかって事だよっ!」
「そんな事聞いたら、断られるではないか」
「理解してるんじゃん!!
お前、理解出来てるじゃん!!」
新しいツッコミを最終回でマスターした所で使い道はないから、これ以上ボケるのは止めてくれ。
くそっ、実は俺だって話を聞いた時から、ほとんど覚悟してたんだよ。
いい加減耐性も付いてきたしなっ!
「いいかっ!今度からは俺に用事を入れて良いか断りを入れろっ!」
「そんな断りを入れる事は、俺がお断りだ」
「意味不明な返しっ!?」
何だよっ!
断りを入れる事をお断りって!
「あ」
またもや唐突に俊一が声を出した。
これは何かに気がついた時の『あ』だ。
「もしかすると、紫城も不満があるのか?」
「それはあるに決まってるでしょ・・・・って、あたかも既に登場しましたって感じで話さないでくれる?
私って、今さっき合流したばっかなんだけど・・・」
俊一が零奈の名前を出すから、俺は自分の左隣を見た。
すると、そこには不満げな顔をする零奈がこっちを見ていた。
「あれ、零奈。
何時の間に」
「アンタは気がつくが遅いっ!」
怒られた。
だって気がつかなかったんだから仕方ないだろ。
零奈も一声かけろよな~。
そしたら作者が適当に登場の描写を書いてくれるってのに。
「何か言った?」
「いや、何も」
怖い、怖い。
「それで・・・何に不満だったって?
それすら聞いてないんだけど」
「春休みのスケジュールを全て埋めたと言う話だ」
「あ~それね。
不満に決まってるわよ」
当然の返答。
「ふむ、確かにおかしい部分はあったが・・・・。
どこが不満なのだ?」
「「おかしい時点で不満が出る事に気が付けっ!!」」
『『パァァァーーン!!!』』
朝から俺と零奈の手から快音が青空に響き渡る。
勿論『打楽器』は俊一本体だが。
俺達のこの小説始まって以来のインパクトの直撃を食らった俊一は、声を出す間も無くその場に倒れこんだ。
俺と零奈は、それをオールスルーしてそのまま歩き出す。
「あ、零奈って理系か文系どっちだっけ?」
高校ってのは2年生になると文理選択をやらされるんだけどな。
それでクラス分けもされる訳だし、一応聞いておかないとな。
「私?
理系だけど?」
不意をつかれた様な顔をする零奈。
「へぇ~、理系かぁ。
ははははっ」
「むっ、何が可笑しいのよ~~」
頬を若干膨らませて、俺の笑い声に不満を露にする零奈。
「いや、何か似合わないなぁ~ってさ。
文武両道で才色兼備って女子の場合大概が文系のイメージがあるからさぁ。
ほら、理系は男子ってイメージで、女子は文系ってイメージもあるし」
多分、どこの学校でも共学なら例外なくそうだろうな。
「それは、アンタの勝手なイメージでしょっ!
そ、それに才色兼備って・・・幼馴染に良くそんな事言えるわね・・・」
零奈が色白い頬を頬を赤らめて、俯き加減でそう呟いた。
褒められて照れてるのか?
「あれ?
いっつも自分で言ってるくせに何照れてんだ?」
「う、うるさいわね。
褒められて喜ばない奴の方が・・・どうかしてるわ」
「ふ~ん、そんなもんか?」
「そんなものよっ」
何で怒るんだよ。。。
今でも零奈の思考は良く分かっていない。
女心は複雑ってか?
「で、何で理系なワケ?」
そうそう、これが聞きたかったんだよ俺は。
「別にどっちも出来るし、将来の夢も曖昧だからどっちでも良かったのよ。
だから理系なのよ」
どっちも出来るから理系て。。。
俊一ですらちゃんと理由を持って理系にしたのにさ。
いや、アイツの場合は理由はあっても『ちゃんと』はしてないか。
「それ、理由になってないって」
「良いのよっ!
理由は秘密っ!」
「まっ、いいけどさ。
あ、でもさ零奈は、理系があってるかもなぁ~」
「え?どういう事?」
「性格上」
「・・・・それって私が男っぽいって事?」
零奈の歩く足がピタッと止まった。
俺はそれに反応しきれずに、数歩零奈の前に出てしまう。
が、そこで気が付く。
圧倒的な威圧感が俺の背を押している事に。
「い、いや、少しばかり逞しいなぁ~と・・・・」
「同じ事じゃないっ!!」
「ぎゃぁぁぁ~~!!!」
「まてぇぇぇ!!!」
俺は駆け出した。
後ろからは絶対に零奈が迫ってきている。
ここらは綺麗な桜が咲く学校前の道で、歩いていれば心安らぐいい場所なはずなんだけど、
いまはそんな安らいでいる暇は無いっ!
だが幸いにも校門はもう目の前。
校門に着いたからってどうって話じゃないんだけどさっ!
俺は直角に曲がり、高校の門を潜る。
おっ、おの見覚えのある二人は・・・・。
「ようっ、知樹っ!
初日から何を急いで――――って零奈ちゃんもっ!?」
「・・・・二人共・・・・おはよう・・・・」
「よっ!
涼と冬香っ!
何で二人で登校してるのとかは聞けない状況だから、また後でなっ!!」
「おはよっ、二人共っ!
私もあの馬鹿捕まえないといけないから、じゃあねっ!!」
俺と零奈は、走りながら二人に聞こえる様に声を発した。
きっと、涼と冬香以外の人間もこの光景は奇妙に映っているだろう。
「ええいっ!!
零奈っ、来るなぁぁ!!」
俺はそう言いつつ、クラス発表の紙が張ってある掲示板を探す。
広い校庭の中で人だかりが出来ている場所・・・あそこだっ!!
俺が見つけた場所には、すでに大勢の人が居て、我先にと掲示板に人が群がっている。
多分2年、3年のクラスが同じ場所に掲示されているからだろうな。
っと、そんな悠長な事言ってられるかっ!!
先へ進まなければっ!
「すまんっ!!
どいてくれぇ!!!!!」
俺の命を懸けた大声は、そこに群がる生徒にも通じたらしい。
彼らは一瞬掲示板から視線を俺に移すと、その必死さからかすぐに掲示板への道が出来上がった。
まるで皆が祝福してくれている様な構図だが、断じてその様な穏やかムードではないっ!
「はぁ・・・はぁ・・・ついたぁ・・・・どれどれ・・・あれっ?」
「はぁ・・・はぁ・・・・・・やっと・・・追いついたわ・・・・・あ~~っ!!」
息を切らしながらも掲示板を見た俺達の目に映ったクラス名簿。
そして、何かに気が付き、声を上げる俺達。
「また同じではないか」
「「俊一っ!?
何時の間にっ!?」」
何時の間にやら俺達の横に立っていた俊一の言葉どおり。
また俺達は同じクラスになったらしい。
本年度も並大抵な一年じゃないだろう、きっと。
「あれ?
それで零奈・・・俺を追っかけてたんじゃ?」
大変な事もあるだろうな、必ず。
「・・・・きょ、今日は気分が良いから許してあげるっ。
感謝しなさいよ」
でもさ、俺が過ごしている毎日はそこまで悪い日々じゃないと思う。
良くも無いんだけどさ、悪くないんだよ。
「なんじゃそら・・・・。
まぁ良いか。。。
よしっ、それじゃあ教室行くか~」
これまでも、これからも。
たぶん・・・・・な。
俺のNot bad day
―おしまい―
さて、まず初めに。
この小説をここまで読んでくださった読者の皆様。
本当にありがとう御座いました。
小説の更新が滞る事も多々有りましたが、今ここにちょうど全60話・・・・・
完結する事が出来ましたっ。
これも皆様が読んでくださっているという、勇気があってこそだとおもいます。
自分ひとりで黙々書いているだけでは、ここまで続かなかったと思いますし
本当に感謝してもしきれません。
私の最初の長編小説であるこの作品。
如何でしたでしょうか?
文章能力が劣っている分ですね、ネタだけは精一杯考えたつもりです。
特にこの作品の核となるコメディー部分ですね。
思いっきり笑っていただけたでしょうか?
さて、名残惜しいですが、ここにてこの作品も閉幕となります。
私もとても感慨深い物がありますが、どんな物でも終わりは有りますしね。
最後なので言っておきましょうか。
この作品について意見やご感想が御座いましたら是非とも、お願いいたします。
メッセージを送ってくれるだけでも、構いません。
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皆様ありがとう御座いました!!
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もはや小説は全く関係の無い内容で、不定期更新中。
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