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事件 ~中編~

 




「さぁて、いよいよだ。

 準備は良いか?」


学校への通学路をやや早歩きで来た俺達。

薄暗い体育館の扉の前の下駄箱に居た。


何時もは明るいこの場所も、緊張感やら薄気味悪さも相まって、心地悪い事この上ない。


ちなみに俺達が居る体育館の扉は、

舞台の正面の扉で舞台から一番離れている入り口だ。


何故そこかと言うと、それ以外からは入る事が出来なかったからだ。

多分、相手は人質の二人と一緒に舞台にでも陣取っているんだろう。

何より安全だし、俺が犯人でもそう陣取るだろう。


そう思って、他から入れないか調べたんだけどな、そう簡単じゃないか。



「ん?

 ニーナどうした?」


「えへへ・・・もしかしたら、この後――――」










以下、ニーナの妄想はいりま~す。



――――――――――――――――――――――――






「二人を離せっ!!」


颯爽とドアを開け、体育館中に響くように声を上げる俺。

体育館には照明も点いており、覆面男達も、そして零奈も冬香も確認できた。


「へっへっへ・・・・じゃあソイツをこっちに渡してもらおうか」


下品に笑いながら、指でニーナをそちらに歩かす様な仕草をする覆面男。


「くっ・・・ニーナ・・・すまない・・・。

 俺はお前を危険な目に遭わせたくは無い・・・だけど、だけどっ!」


俺の頬を一筋の涙が伝う。


「良いの、アナタが望むなら・・・」


それに呼応するように、ニーナの目からも涙が溢れ出す。


「あぁ・・・、最後になるかもしれないから・・・言っておくよ。

 俺は・・・お前を・・・・」


知樹が最後に言おうとした言葉を、ニーナは人差し指で唇を優しく押さこむ。


「良いの、言わないでっ、悲しくなるでしょ・・・。

 でも・・・最後に・・・最後の思い出に・・・」


知樹はその言葉を聞いて、ニーナを強く抱き寄せそして優しく口付けをする。





「素晴らしいっ!!

 こんなにも美しい愛がこの世に存在しようとはっ!!

 止めよう、こんな乱暴な事はっ!

 そして二人の新たな人生を祝福しようっ!!」





そう言いだしたのは覆面男のうちの一人であった。

の一人が号泣しながら拍手で二人を称えだすと、残りの覆面男も次々に号泣し拍手。




―――――――――――――――――――――――――――





「―――――こうして、私達は南の島へ引越しをして新たな生活をスタートさせる事に。。。

 こういうエンドもあるかもっ!!!」







「「絶対ねぇよ」」





俺と涼は間髪入れず、左右両サイドからニーナの額にビシッと突っ込みを入れた。

ふぅ、久しぶりに息の合った突っ込み入りました~。



てか、ニーナよ。

俺の作戦に触れてすらいないとは、どういう事なのか。



「・・・なぁ涼、俺が疲れるのも分かるだろ?」


「そうだなぁ、まさかこの場面から南の島まで飛躍するとは・・・。

 妄想レベルは俺を遥かに凌駕しているな・・・師匠と呼ばせてくださいっ!」


何ぃ!?


そういや、お前も冬香と妄想でイチャイチャしてたな、、、

お前も相当な重症だよ。


気になる読者は35話『妄想が一人歩き』をご覧くださいっと。




「え~いっ!!

 兎も角だっ、作戦通りに動けば怪我人もきっとでないしっ、安全に終わるからっ!

 無駄な事だけはするなよっ?いいなっ!?」



「何それ?前フリ?ねぇ前フリってヤツなの?」


ニーナは俺と涼に確認するように、目を合わせてきた。


「覚えた日本語を危機的状況で確認しないっ!!」




「でも、前フリっぽかったよなぁ~」


「涼は悪ノリを止めろッ!!」




「悪ノリって?」


「おっとニーナ先生、悪ノリってのは~」





「危機的状況でやって欲しくない事であろう事ナンバーワンを、この場で教えるなぁぁぁ!!!」












・・・はぁはぁはぁ・・・・こ、こいつら・・・。


「・・・お陰様で、時間一杯となりましたので。

 突入しますよ。

 いいですね?」


「「は、はぁ~い」」



俺の引きつった顔があまりにも怖かったのか、二人は別の意味で緊張した面持ちで返事をした。


今からどうなるか俺もはっきりと分かって無いのに、気楽な奴らだ。

これくらい呑気な方が、かえって良いのかも知れないけどな。



「よし・・・・入るぞ」


俺達はゆっくりと歩を進め、体育館の扉を開けた。

体育館の中は明かりが点いており、俺達は暗さに慣れた目を細めながらも舞台側を睨んだ。


予想通り、舞台の上に連中は陣取っていた。

覆面姿の男が4人、一定の間隔で横一列に並んでいる。

それぞれ背丈はさほど変わらず、体格も同じだ。


そして真ん中の二人の前には、椅子に縄で縛り付けられている零奈と冬香の姿があった。

口にはガムテームが張られており、声も出せない状況だ。




「はは~ん・・・縛りプレイとは・・・やるなっ・・・」




そして、俺の隣の約一名は妙な所で感心をしていた。


「涼、せめて今くらいは真面目にやれよ・・・」





「いや、真面目に感心してるんだ」





「そうじゃねぇよ!!」


真顔で答えるなっ!



「先程から入り口でギャーギャーやってたようだが、まだやり足りないのか?

 こちらとしては早い内に取引を済ませたいのだが」


右から二番目の覆面男が、イライラした様子で足をゆすりながら言った。

先程の会話が聞こえていたらしい。


幾らなんでも恥ずかしい。


「いや、すみませんね。

 俺の連れは少々事の重大さが分かってないようでして・・・」


俺は兎に角、当たり障りの無いように答える事にする。



「ふんっ・・・まぁいい。

 早くその女をこっちに一人で歩かせろ、良いか?

 一人でだっ!!」


一人でという事を強調して、先程と同じ男が言った。

まぁそこの所は俺も予想済みだし、作戦どおりだ。


「よし・・・じゃあ、気をつけてな。

 奴らの狙いはお前だ、だから多分滅多に手を出す事は無いとは思うが・・・って、どうした?」


ニーナは俺の方を向くと、静かに瞳を閉じた。




「お別れのキス・・・は?」





「まだ妄想続いてるっ!?」


「え~、だってぇ・・・」


目をウルウルさせて、上目遣いで俺を見るニーナ。

ええぃ、そんな目をされたって出来ないものは出来ないの!


「だってもクソもあるかぃ!

 ほらっ、早くっ!!」



「う~、この薄情者~~~ッ!!」



は、薄情者て・・・。

いや、待て待てこんな所でショック受けてる場合じゃない。


ニーナが渋々歩き出すと、先程から話している覆面男も舞台を降りた。


途中で逃げられないようにする為か?

まぁ良いか、こっちの方がやり易い・・・多分。


ニーナが体育館真ん中のところまで来た時に、涼が俺の肩を叩いてきた。


「何だ?」


俺はそれに小さな声で答える。


「知樹はさ、誰か分かるのか?

 俺には全員同じに見えるんだけど」



この質問。

俺達の作戦を知っていないと、何の事だかサッパリだろう。

でも、俺には理解できた。


まぁ、もうちょっとでネタばらしするから辛抱な。




「あぁ、分かってるよ。

 ・・・一応これでも付き合い長いんだ」






左から二番目だろ。






ニーナが覆面男の元に到着すると同時に、アクションは起こった。

左から二番目の男が、唐突に左隣の男つまり一番左の男の急所に、目にも止まらぬ速さでキックをかましたのだ。


「ぎゃあぁぁ!!」


蹴りを入れられた男は、あまりの痛さに膝を舞台の床につける様に崩れ落ちた。

そこに間髪いれずに、下がった頭部目掛け、先程よりも速い速度のキックを入れて一人目はあえなくノックダウン。


一人目の並々ならぬ叫びに驚いた舞台の下に降りた男は、視線をニーナから後ろの舞台へと移した時には時既に遅し。

視界には二人目、つまり先程まで一番右側に立っていた男が、一人の覆面男によって吹っ飛ばされている姿が映っていた。



「くっ・・・お前らっ・・・・グハッ!?」



そして、舞台の下の覆面男も目の前に居たニーナの急所蹴りにより、あえなくダウン。

ものの十秒かそこらの間に、舞台には二人、そして舞台の下には一人の覆面男が横たわっている構図に変わっていた。



その構図を首を左右に振って確認すると、敵を一網打尽にした覆面男が覆面を脱いだ。





「見たか?

 これが『我流拳法(名前募集中)』の秘技だ。

 両側に居る敵を5秒足らずでノックアウト出来てしまうのだ」





先程の華麗な動きを、舞台上からドヤ顔で自慢してくるのは、他の誰でもない俊一だった。

というか未だに名前募集中なのね、その怪しげな拳法。


「ったく・・・あのなぁ俊一。

 もうちょっと分かり易い罠を仕掛けろよ。

 もし電話に出たのが俺じゃなかったら、きっと気がつかなかったぞ?」


「ふっ・・・。

 だが、結果としては成功だろう?」


俊一は零奈と冬香を縛っているロープを器用に解きながら言った。


ったく・・・それ言われちゃ、文句も無いよ。


「あぁ、悪い。

 本当に助かった」


俺は片手を挙げて、俊一に感謝の意を表さずを得なかった。









さて、それじゃそろそろネタばらしするかね。


俺が作戦を思いついたのは・・・・いや、気がついたのは電話が掛かってきた時だ。




電話の相手はこう言った。


「外出先から呼び出してソイツを連れてこい」と。


何故、ニーナが外出している事を知っていたのか。

もしかしたら、二階に居たかもしれないのに。

外出した事を知っているのは、俺の家にいたメンバーだけなんだ。

つまり、電話の相手は俊一だったって事さ。



覆面男達が焦って、一階に女の影が二つある事で


『この二人の内のどちらかがニーナである』


と勘違いを起こしてしまった為に成功した作戦って訳さ。

もし2階も調べられていたら、家にいない事は確定しちまうからな。


でもさ、仲間の内の一人が違う奴だって普通気がつくはず何だけどな。

まぁ敵が馬鹿だったって事もあるけど、俊一の演技力の成せた技かもな。




じゃあ何故覆面男の中に俊一が潜り込めたのか。

それは外出した直後に不審な車に目がいった俊一が、

敵の侵入時に敵の一人を家から這いずり出し、そのまま入れ替わったのだろう。

俺がそれを確信したのは例の玄関付近にあると言った『アレ』が関係してくる。


『アレ』と言うのは、身包みを剥がされた敵の姿だ。

しっかりと縄まで使って縛るおまけつき。

ただし、そのお陰で逃げるのに手間がかかった訳なんだがな。

つまりあの時最後に車に乗ったのは、逃げ送れた俊一って事さ。


んでもって最初は興味本位で「面白そうだ」とでも思ってたんだろうが、その後だんだんマジになってきたから電話をかける役を買って出たんだろう。





ったく、無茶な作戦だぜ。。。








「大丈夫か?零奈、冬香」


俺は舞台の上に昇り、ロープとガムテープを取り終えた二人に声をかける。

冬香は何時もどおり、何事も無かったかのように頷くだけだった。


しかし零奈の方は遠くからじゃ確認できなかったが、目元の辺りが赤く腫れている。

泣いていたのか。

怖かったんだろう、きっと。


「・・・もう・・・大丈夫じゃないわよ~・・・」


零奈は椅子から立ち上がると、弱弱しく俺に倒れこむ様にもたれ掛かってきた。

髪のほの甘い香りが鼻を擽るが、それどころじゃない。

零奈の瞳からは大粒の涙が流れ始めていた。

俺は零奈の肩を、優しく、なるべく優しく抱いた。


「あ、あの・・・・さ。

 悪いな、遅くなっちまって」


俺ももう少し気の聞いたことが言えないのかよっ。

胸の中ですすり泣く零奈に、どう言葉をかけたら良いか分からない自分を叱りたくなるぜ。


「本当に・・・遅すぎるくらいなんだからっ・・・!

 でも・・・良かった。

 本当に助けに来てくれたもん・・・ありがと、知樹。

 ありがとね、皆っ・・・・」


そっか。

怖くて泣いてたんじゃないのか。

皆が必死になって助けに来てくれた事が嬉しかったんだ、きっと。


「あのな~、ったり前だろ~。

 今まで見捨てた事があったか?」


「うむ、その通りだ。

 だが、今回の作戦の8割方は俺の手柄だが」


う・・・俊一の言う事にしては正しいな。

明らかに命を張ってたのは俊一だし・・・つ~か、大の大人を3人も倒すのってどうよ。

俺が一応主役のはずなんですけど、主人公補正は全部俊一にいったのか?


「ははっ・・・・確かにね・・・。

 な~んだ、知樹って実は何にもやってなかったんじゃない・・・」


「何にもって・・・・まぁ良いよ。

 確かに俊一は危ない所を良い判断で切り抜けてくれたし・・・お陰で怪我人も出ずに済んだし」


「本当よ、全く・・・・・・あ・・・・ほ、ほらっ!

 何時まで・・・・そ、その・・・抱いてるつもりっ!?

 抱き心地が良いのは分るけど、早く離しなさいよねっ」


腫れた目も気にならない位に顔を真っ赤にして、上目遣いで俺に訴えてくる零奈。

う・・・確かに成り行きでこんな事やってるけど、言われてみれば結構恥ずかしいかも。


「わ、悪いっ!」


俺は慌てて零奈の肩から手を離した。


「こ~~~ら~~っ!!

 何よ私を差し置いて、良い雰囲気になっっちゃって~!」



その場面を見て、ニーナは舞台に昇ると頬を膨らましながら俺の頬を突いてくる。


「「だ、誰が良い雰囲気なんかっ・・・・」」



俺と零奈の声が被ると、俺達は顔を見合わせて笑った。


「やっぱり、良い雰囲気だよ~」


ニーナもこの状況が分っているんだろう、次のシーンにはすでに俺達と一緒に笑っていた。






「いやぁ~~~、最高だっ!

 冬香ちゃんは、誰かの胸に飛び込みたく無いかいっ!?

 例えばそうだなっ、この白沢涼の胸にっ!」






「ヤダ」




「即答ッ!?」



本日一番のショックを受けた男、涼。

こいつの春は何時来るのか、一応興味がある話だ。

雰囲気に乗ってそう言う事を言うから、嫌われるって事を覚えろぃ!







「ふっふっふっ・・・・・勝利ムードの所悪いが、残念ながらまだ終わっちゃいなんだよ」



一瞬でこの場の空気が凍りついた。

どうやら、先程ニーナに蹴られた男にまだ意識があったらしい。


俺達が男の声の方向を向くと、その手には短銃が握られていた。


「まだ意識があったのかっ!?」


「そりゃそうだ、女一人に急所を蹴られたくらいで気絶する程ヤワな体じゃないんでね。

 このまま捕まれば一生の恥だ。

 どうせならお前ら全員道連れにして、この世に名でも残して死んでやるっ!!」


男は銃を構えた。

女性陣は悲鳴を上げるが、今の俺にはどうしようもない。


ちっ・・・半分どころかヤケクソ全開って感じだな。

男の覆面から除かせる瞳には、理性が宿っていないように見えた。


「待てっ、そんな事したって罪が重くなるだけで――――」




「うるせぇぇぇ!!!」




『バンッ!!!』




銃声が鳴る前には、俺の体は勝手に動いていた。

俺は零奈の体を突き飛ばした。

『ドンッ!!』と言う音と共に零奈が床に倒れた。

そして、俺の脇腹には熱とも言うべき感覚、それが一瞬にして痛みに変わっていく。


流れていく景色の中で、俊一が舞台上から舞台下の男に向かって飛び膝蹴りを頭に食らわしている所が見えた。

セリフは「我流拳法(名前募集中)秘奥義」だったかな、良く聞こえなかった。





俺はその痛みの中、仰向けになってそのまま倒れこんだ。


「え・・・?

 い、いやよ、知樹っ・・・?

 知樹っ!!!!」


「トモッ!?

 大丈夫、トモッ!!」


「おいっ!!

 知樹っ!!

 おいおいっ、マジかよっ!?」


「・・・しっかりしてっ」


「っ!・・・・ここで死んだら、許さんからな、馬鹿知樹。

 今、救急車を呼んでやる」


零奈、ニーナ、涼、冬香、そして俊一。

悪ぃ、ちょっとヤバイかも俺。


俺の意識は、見た事がない必死な顔をしている5人の顔を瞳に焼き付けたまま、薄れていった。。。








さてさて、山場を越えましてですね、何時もには無いシリアス(笑)状態です。

まぁ最後くらいはね、少しくらい登場人物に格好をつけさせてあげて下さい。


さて、何とですね。

銃で撃たれるという、ありがt・・・・予想外の展開!


イヤーオドロイタナー(汗


ネタバレも露骨にやっちゃって・・・慣れてないもんですみません。


さて、知樹の運命やいかにっ!!

お楽しみにっ!!



↓は私のブログ『U日和』

もはや小説は全く関係の無い内容で、不定期更新中。


http://u0831.blog89.fc2.com/


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