告白大作戦?~後編~
さて、いよいよ作戦決行の時間だ。
時刻は昼休み。
「零奈ちゃん、となりのクラスの子が零奈ちゃんを呼んでってさ。
廊下で待ってるってさ」
涼が廊下から教室に顔を覗かせて、俺と俊一、零奈の3人のグループに呼びかける。
呼ばれた零奈は、誰だろう、と言いながら廊下の雑踏に消えてゆく。
今だっ!!
最初の作戦――――――『この隙に木林に零奈の弁当を食わせる』作戦。
涼は勿論仕掛け人で、零奈を呼んだ人間なぞ存在しない。
「木林、ちょっと来いっ!!」
俺は先程の内に確認しておいた木林の位置を確認。
他のグループで弁当を食べている木林の腕を掴んで、俺が座っていた席へ座らせる。
その拍子に木林の持っていた箸が床に落ちたが、時間の猶予は無い訳で。
「きゅ、急に何っ!?」
驚いている木林の前に零奈の弁当を置く。
「コレは零奈の手作り弁当だ。
食べさせてやるから、食えっ!!」
「えっ!?ど、どうして!?」
確かに、恋の手助けに、弁当のおかずを盗み食いする事が何の関係があるのか。
疑問に思うのは当然だ。
「モチベーションの話だ。
コレを食べる事により、より一層やる気が増すかもしれないだろう?
付き合ったら、毎日の様にお弁当を作って貰えるかもしれないからな。
こちら側もお前のモチベーションは重要な要素なのだ」
「な、成る程・・・・」
俊一の上手い口車に乗せられる木林。
すまん、今一時地獄を見てくれ。。。。
『ぱくっ』
木林が一口目を口にした。
何を食べたのかは分からない。
「・・・・・美味しい・・・・」
「「「何・・・?」」」
俺と俊一と涼は声を合わせた。
あの、料理が美味しい・・・・だと???
ありえない。。。。
過去に病院送りにされた事すらあるのに、そんな事が・・・・。
「ありがとうございましたっ!!」
半ば放心状態の俺達を尻目に、歓喜の表情を浮かべて自分の席へ去ってゆく木林。
「試しに食べるか?」
「誰がだ?」
俺の質問に、明らかに嫌悪の表情を浮かべて聞き返す俊一。
「3人同時に決まってるだろ」
そうだ、やっぱり平等じゃないといけない。
俺達は暗黙のままコクリと頷くと、恐る恐るおかずを口へ運ぶ―――――。
「・・・・もうっ、ねぇ涼!
誰も居なかったじゃないのよっ!・・・・ってあれ???
どうしたの、皆?」
そりゃ驚くさ。
帰ってきたら悶絶する男が3人だもんな。
「「「ちょっと保健室行って来る・・・」」」
俺達は弱弱しい声を何とか絞り出すと、席を同時に立ち上がり、一目を気にする事無く教室を出てゆく。
「・・・変な奴ら・・・それじゃ一人で食べるのもなんだし。。。
ってあれ、なんかおかずが減ってるような・・・ま、いっか!」
そして、俺達は保健室のベッドの白い天井を見ながらこう嘆いた。
「「「恋は・・・盲目・・・・・」」」
さて日は改まって次の日。
時は下校の時刻。
俺達は「俺の家で作戦会議をする」という名目で、木林を俺達と共に下校させる事に成功した。
『俺達』と言っても、俺と俊一しか居ない訳だが、その訳は直に分かる。
「それにしても、僕をわざわざ家に呼ぶなんて・・・。
結構大掛かりな作戦なんですか?」
「家に着けば分かる」
呑気にそんな事を言っている木林に対して、俊一は素っ気無く言葉を返した。
まぁ素っ気無くなるのも分かる、何せ『そんな作戦は無い』んだからな。
普段なら自分の作戦を語る前の俊一は、多少なり興奮している様にも見えるんだけど。
さて、実はこの日に限って何時もの下校路を通っていない。
それは何故かと言うと。。。
「あっ・・・・」
木林が声を漏らした。
それもそのはず、突然目の前の路地から現れたのは、あの零奈だった。
零奈は、俺達のいる方向とは逆の道へと曲がって行く。
当然、こちらは気が付かれてない。
そりゃそうだ、こっちが木林と居る所を見られちゃマズイからな。
零奈の下校路くらい俺達は知ってるから、それを利用して先回りしてきたって事だ。
まぁコレも計画通り。
「どどど・・・どうして紫城さんがっ。。。」
「うろたえるな。
ここで気が付かれたら困るのはお前だろう。
これは単なる偶然だ」
俊一が木林の方を両手で後ろから押さえる様にして言った。
ただ何度も言うけど、これは偶然じゃない。
「あ・・・そうなんですか?
てっきり今から告白しろと言われるのかと・・・」
な訳あるかい。
んな事したら返り討ちだい。
「まぁコレだけ離れれば気が付かないだろうからさ。
気にすんなよ」
一応俺もそれらしいことを言っておく。
「は、はい。。。」
木林はそれを信じきって、安堵の溜息を吐いた。
嘘吐きまくってすまん、木林。
仕返しは閻魔大王にでも頼んでくれ。
俺が心の中で木林に深い謝罪をしている時だった。
木林は小さく「あっ」と言った。
「おっ、そこのネーチャン、可愛いねぇ~。
何処の高校なの?」
それは零奈がいかにもそれ風なヤンキー高校生に絡まれそうになっているからだ。
ヤンキー高校生は、サングラスを装着し、リーゼントにブカブカのズボン、さらにはボタン全開の学ランと
『時代錯誤もいいとこだろ』とツッコミを入れられそうな格好をしていた。
俺も今時それは無いだろうと思うよ。
明らかに変だろ、少なく見積もっても20年は出てくる時代を間違えてる。
「しゅ・・・俊一。。。
やっぱりアイツに頼んだのは失敗だったんじゃないか・・・?」
俺はこっそりと俊一に耳打ちをした。
「流石にバレルかもしれんな・・・・」
俊一も珍しく困惑を隠せない様子。
そう、あのヤンキーの正体は涼なのだ。
奴は危険なあの役を引き受けるや否や、完璧な変装をしてやる、と意気込んでいたんだけど。
完璧とは程遠い違和感丸出しの外見。
正直笑えない。
「ちょっと二人共!!
何で突っ立ってるんですか!
助けに行きましょうよ!!」
「いや、実はな。
奴の正体は涼だ」
俊一は、困惑を隠せない様子のままで木林に答えた。
ただし目線は零奈と涼を捉えたままだ。
「えっ、そうなんですか???
何でそんな事を・・・」
「ほら、よくあるだろ?
好きな子を助けて、良い所を見せるって奴だよ」
「あっ・・・成る程。。。。
でも、それって紫城さんを騙すって事に・・・」
だよな。。。
そうやって、良心の呵責に苦しむのも俊一は計算ずくって訳なんだよ。。。
悪いな、木林。
そうやって時間かけてる内に。。。。
「・・・ちょっと汚い手で触らないでくれる?」
「へ?――――(ドゴッ!!・・・バキッ!!)――――-うへらっ!?」
涼は意味不明な言葉を発しながら、地面に崩れ落ちた。
ボディーブローで体を屈ませてからの顔面への正面蹴りという見事な繋ぎ・・・。
本当に普通の女子高生なのか?
そして俺の疑問に答えるかのように、普通の女子高生の用に、何事も無かったかのように颯爽と立ち去る零奈。
そそ、これを見せる為に木林を呼んだって訳さ。
さ、これで木林も零奈の恐ろしさが・・・。
「か・・・・かっこいい・・・・!!!」
何という羨望の眼差しっ!?
「「「お前、変わってるな」」」
その突っ込みには倒れた涼もすかさず参加せざるを得なかったようだ。
そして、その日。
直ぐに俺の自宅にて緊急の会議が開かれた。
「・・・手ごわいな」
俊一はそう言って、少しではあるが下唇を噛んだ。
珍しく手こずっている様子だな。
「確かにな~~・・・。
でもあれ以上、見せようとすると体が幾つあっても足りないぜ??」
涼は、蹴られた時に出来た傷を指で触りながら答えた。
確かに最初だって俺ら全員が被害にあってる。
まぁ自業自得なんだけどさ。
「・・・・もう認めた方が良くないか?
アイツの気持ちは本物だよ」
「引くレベルの事でも、受け入れるどころかプラスにしてるもんな~」
「む・・・・、そうか。
ならば、仕方ない、暇つぶしに体を張るのは割に合わん。
やや、代償は大きいが作戦を変更するか」
は?作戦変更?
「もういいだろう。
お前には真実を話そう」
・・・・真実って?
そして、次の日の学校の昼休み。
「と、言う訳で、そろそろ自信がついてきた頃じゃないか?
どうだ?もう一度アタックしてみたら」
俺の突然の切り出しに木林は驚いた表情を見せる。
「えっ!!??
ま、まだキッカケすら作って貰ってないんだけど・・・」
そら、そうなるわ。
一応手伝う名目でやってたんだもんなぁ。
だが、心配はナッシングだ。
「任せておけ、我々には秘策がある」
「秘策?」
俊一の言葉に首を傾げる木林。
「聞いて驚けっ!!
今週末の日曜日、零奈ちゃんとのデートをセッティングしておいたのだ!!」
「へ~・・・って、えぇぇ!?
無理無理無理っ!!
二人きりでデートなんて無理っ!」
「なんだ?なら止めるか?」
俊一が脅迫紛いの形相で木林に問うと、木林は首を勢い良く横に振った。
「い、いや・・・・頑張ろう。。。
そこでもう一度チャレンジするよ!!」
そう、これが最終作戦。
いや最後の手段だった。
最後に思い出を作って、キッパリと振れば諦める。
それが『零奈』の考えだった。
そう、実はこの作戦は昨日俊一から聞いた話によると、零奈から持ちかけられた話らしい。
昨日の自宅会議の続き――――――。
「なるほど、じゃあこの作戦は零奈が最初に頼んだ事だったって事か?」
俺の言葉にコクリと頷く俊一。
「そういう事だ。
恐らく、自分が彼を束縛しているような心地がして、悪いと思ったのだろう。
キッパリと諦めさせてあげたいのだそうだ」
「まぁ、作戦内容自体は俺達が考えたんだけどさ」
なるほど・・・零奈なりの優しさって訳か。。。
「え、じゃあ何で俺には黙ってたんだよ?
何のメリットも無いだろ?」
俺は木林と親しい訳でもなく、作戦に支障をきたす様な真似はしない。
ならどうして?
「それも零奈ちゃんの頼みの一つ・・・・って・・・あ。
これは言わない約束だったっけ?」
涼はどうやらNGワードを言ったらしい。
言わない約束って何だ?
「なんだそれ?」
「細かい事は気にするな。
兎に角だ、デートに二人を連れ出すと言うのは最終手段だ。
まだ紫城にはこの旨を伝えていないから、今から頼み込むしか無い」
すごい誤魔化された様な気がしたのは気のせいか。
それにしても、さっき言ってた『作戦変更のリスク』ってそういう事か。
まぁでも、元々は零奈の頼みだ、きっと作戦には協力してくれる。
そして、最後の作戦が日曜日に行われた。
俺達はもう木林を見守る事もしなかった。
結果は分かっている事だったから。
次の日、木林が俺に話しかけてきた。
「やっぱり、ダメみたいだったよ。
ごめんね、協力してもらったのに」
「いや、良いんだよ。
それに謝らなきゃいけないのはこっちの方だし・・・」
「はい?」
お、おっと、口が滑りそうになった。。。
「い、いや、何でもないよ」
「そうですか・・・。
でも何か諦めがついた様な気がします。
一回とはいえデートもできて思いでも作れたし、最高に楽しかったから」
木林はこの数日間で一番の笑顔でそういった。
何だかんだいって、零奈にも木林にも良い終わり方になったんじゃないのかな。
「なら、多少は救われたよ俺達もさ」
「ははは、なら良かった。
じゃあ、僕はこれで・・・」
「あぁ」
木林は背を向けてこの場を立ち去ろうとしたが、もう一度何かを思い出したかのように振り返った。
「あ、そうそう最後に―――――
―――――彼女を悲しませる事はしないように!!」
「は?それってどういう意味だよ?」
「やっぱり、気がついてないんだ~・・・・・・」
木林は「はぁ~~」と残念な物を見る目でこちらを見て大きく息を吐いた。
「まぁ、僕が言ったらいけないし、僕はこれで」
「おいおい・・・・何だったんだ???」
俺が何時零奈を悲しませたんだよ。。。
まぁ、そんなこんなでドタバタな作戦も終了し、ひとつまた青春の恋が散っていった。
俺もそんな恋がしてみたいもんだ。
前編の続きで、結構な文章量になってしまいました。
さて、零奈が知樹に真実を隠そうとした意味合いはですね。。。
知樹の反応が見たかったから、だとか。
本当なのかどうかは、ご自身の判断で!
もうちょいこの小説続きます。
最後までよろしくお願いします!