告白大作戦?~前編~
今はちょうど昼食を食べ終えた後。
つまりはお昼休み。
「ったくよ~~・・・・零奈の奴、何処行ったんだよ・・・」
で、俺は零奈を探している。
何か、料理についてのアドバイスをして欲しいんだとさ。
実際はまた零奈の料理を食わされるかもしれないと思うと、
『別に探さなくてもいいかな~』とも思っている俺が居る。
でもアイツの気迫に押されて、つい約束してしまったとは言え
約束は約束。
一応探しているって事だ。
お、ちょうど良い所に冬香が教室から出てきた。
冬香も俺に気が付いたようで、何時ものクールな眼差しでこちらの顔を見つめている。
面倒な奴に出くわした、と言うような目に見えないこともない。
「冬香、ちょうど良かった。
零奈見てないか?」
「・・・さっき・・・誰かと一緒に屋上へ昇っていった。
誰かは分からないけど・・・」
「屋上??」
珍しいな。
友達と一緒にたまには屋上でご飯食べようってか?
約束しておいて、忘れるなっての。。。
俺は昼休みに廊下で談笑する生徒を縫うように歩いていき、屋上への階段を上る。
まだ冬真っ盛り、屋上へのドアがあるにしろ、無機質な階段は廊下と比べ寒い。
コレでいなかったら、何処に行こうか。
そんな事を考えながら、俺は屋上への扉をそっと開けた。
するとそこには・・・・。
「あの・・・紫城さん・・・・。
ずっと前から好きでした・・・付き合って下さい!」
ト、トンデモネェ所にキチマッタァァァ!!!
この状況はアレだ。
屋上で告白って言うベタなパターンか。
零奈の苗字を言ったって事は、告白されてるのは零奈に間違いないが。。。
あちゃ~~・・・そういや冬香からは男だなんて聞いてなかったもんなぁ。
ま、待て落ち着け。
アイツが告白される事は大して珍しい事じゃない。
そうだ、何を焦る必要がある。
相手は誰だ?
まだ扉は少ししか開けてない、そっと隙間から見ればバレない筈だ。
ちっ、屋上特有のフェンスや障害物のお陰で相手の顔所か零奈すらも確認できない。
「ふむ、あの声は確か同じ組の木林か」
「うおっ!?俊一何時の間に!?」
いきなり頭上から声が聞こえてくるもんだから、思わず声を上げそうになったが、
何とか抑える事が出来た。
ドアの向こうの二人にはバレて無いみたいだ。
そんな俺のリアクションも気にせず、いきなり現れた俊一は、興味深そうにドアの隙間から様子を伺っている。
俊一が口にした木林って名前には聞き覚えがある。
ま、同じクラスだから、何処かで聞いてて当たり前なんだが。
「何でここに来たんだよ??」
「ふっ、何か面白そうな匂いがしたのでな」
何時も何食わぬ顔でトラブルを起こす割には、他人のトラブルをすぐに嗅ぎ付ける。
俊一はそういう奴だ。
俊一を見上げつつそう思うと、零奈が再び話し出した。
「あの・・・今はそういう事あんまり考えてないんだよね・・・。
勇気持ってくれた事は分かるんだけど、ごめん」
「あ・・・ううん。
俺こそゴメン。
急に呼び出しちゃったりして・・・気にしないで」
「あぁ・・・また儚い青春の恋が破れたな・・・」
「だが、助かったと言っても良いだろう。
奴を彼女にするという事、それ即ち・・・。
奴の料理を食べなければならぬという事なり」
俊一にしてはそこそこ的確なコメントだ。
零奈のことだ、毎日弁当を作ってきてくれるに違いない。
零奈の料理は死に値すると言っても過言では無いのは確か。
即ち、毎日死に至る恐れがあるってわけだ。
「まぁ・・・結果オーライと言う所だろう」
俊一は真下にある俺の顔を一回覗いてから、前屈みの体勢から元に戻そうとした。
どうやら、イベント終了を察し教室に戻るらしい。
うっし。
じゃあ、このままダイレクトに零奈に会うわけにも行かないし、俺もそろそろ―――――。
「アンタ達、何やってるのよ・・・・・」
は?
俺の目の前には青い空、そして逆光でよく見えない女子生徒の影。
「あ・・・・いやぁ、昼休みに料理のアドバイスする約束を果たしにですねぇ、ここまで着たらですね。
まさかこんな場面に出くわして、尚且つ一部始終を盗み聞きしてしまうとは夢にも思わな――――」
「盗み聞きする必要ないわよね?」
「アイヤー、考えてみたらそうアルネ」
うむ、確かにそうアル、そうアルヨ。
「で、俊一はどうして?」
「面白そうだった」
火に油より凄いモンぶっ掛けやがった、コンチクショウ。
「こんのぉ・・・バカァァ!!
少しはデリカシーって物を考えなさいっ!!!」
『ドンッ!!』
俺は方を小突かれた。
「うぉぉぉ!??押すなぁぁぁ!!
後ろは階段だぁぁぁ!!」
あれ、でも俺の後ろって。。。。
「案ずるな、お前同様俺も絶賛落下中だ。
人は同じ状況の人がいると安心するという心理学的証明がある。
安心しろ、ここは冷静に判断を―――――――」
「できるかぁぁぁぁああああ!!!」
危険なので、階段で人を押さないでね。
でも、人の心配してる余裕無いよね。
明らかに落ちてるもんね。
(ドンッ!!)
そして俺の意識は途絶えた。
『キーンコーンカーンコーン』
チャイムの音が聞こえる。
どうやら死んでないみたいだな。。。
いててて・・・・・。
背中が痛い。。。
俺は痛さで顔を歪めつつ目を開いた。
「あ・・・」
今度は保健室の白い天井と、少しだけ怒った表情の零奈が映った。
校舎一階にある保健室は簡素な作りで、白いベッドが二つにそれをそれぞれ囲い、区切るようにこれまた白いカーテンがある。
他には先生用の業務用の机、救急用の包帯や薬品が入った大きめの棚、それ以外は何も無い。
「・・・やっと起きたの?」
零奈はそのままの表情で言った。
「いてて・・・・階段で人を突き飛ばしておいて良くそんな事が言えるよなぁ・・・」
「でも、生きてたでしょ。
アレくらいじゃ死なないって事ぐらい知ってるわよ」
死ななきゃ良いってモンじゃないだろっ!?
「でも、腰の具合は最悪だ。
打撲でもしてるのか・・・?
「うん、腰の打撲だけだって」
これまた平然な顔して・・・・。
「十分重症だろっ」
俺は寝たまま弱く零奈の額を小突いた。
「な、何よ~、私だって悪いことしたなぁって反省してるんだからっ。
今日のバイトもキャンセルして、放課後ずっと見ててあげたんだから・・・感謝して欲しい位よ・・」
「へいへい、サンキューな」
「何よ~その軽い返事っ・・・・まぁいいわ。
起きて帰る事くらい出来るでしょ、私先に帰るからねっ」
「あっ、ちょっと待ってくれ。
俊一はどうした?」
俺は椅子から立ち上がろうとする零奈を呼び止め、聞いた。
正直俊一が無事だってこと位分かってるけど、一応な。
零奈は俺の呼びとめに、まだ何か有るの、と不満そうな顔をしつつ答えた。
「俊一は落ちた時、綺麗に受身を取って何処かへ消えていったわ。
『これが冷静に対処したかどうかの差だ』とか言ってね」
あ、あいつ・・・・・。
マジで無傷なのかよ。
「じゃ、今度こそ帰るわ」
零奈は立ち上がると、小さく「やっぱり今日はちょっとやりすぎたかも・・・ごめん」と言って早歩きで部屋を出て行った。
「素直なのか素直じゃないのやら、分からないな~・・・・」
まぁいいや、俺もそろそろ行くかな。
打撲って言っても、腰の痛みは歩けない程じゃないし・・・。
と、俺起き上がってベッドから立とうとすると、勢い良く保健室の扉が開いた。
「ん?保健室の先生か・・・ちょうど良かった・・・って、俊一かよ。。。
それに涼も・・・お?」
保健室の入り口から入ってきた顔ぶれは何時もの二人・・・に加えもう一人居た。
中肉中背の少し気が弱そうな男子学生。
瞳が大きく、俊一に切れ長の瞳とは正反対な顔つき。
つまり格好いいと思われるより、可愛いと思われる様な感じか。
見たことある様な、無いような顔だけど・・・・あ、思い出した。
「確か・・・同じクラスの木林、だったか?」
「おいおい、知樹。
一年近く同じクラスで生活してきて、断言出来ないのかよ~」
涼が何やら妙なものを見る目で、俺にそう言ってきた。
仕方ないだろ、面と向かって話した事もないんだし。
「あははは・・・涼君、大丈夫だから。
ほら、僕ってあんまり目立たないから」
木林は見た目もそうだけど、かなり控えめな性格みたいだな。
飽くまでも第一印象に過ぎないけどな。
「さて、知樹よ。
目立たぬクラスメートを覚えていた事は褒めてやろう」
俊一、それは俺と木林を同時に貶していると取って良いよな?
「彼をここにつれて来たのには訳がある」
神妙な顔をして話す俊一だが、どうせまたとんでもなく面倒くさい事を言ってくるに違いない。
俺はその言葉を聞くや否や、直ぐにそう思った。
最早直感的レベルで分かるんだな、これが。
「何だよ?」
「我々の手で救済しようではないか」
は?
「コレだけでは分からないだろう。
つまりだ、昼休みに木林と紫城を見ただろう?
そう意味での救済だ」
俊一は天井を指差しそう言った。
多分、屋上を指しているんだろう。
「つまり何か?
俺達が木林の恋のキューピット的な事をしろと?」
「そんな所だ」
俊一、いつから他人の恋に干渉する様になった。
お節介にも程がある。
「木林は良いのかよ、それで」
「はは・・・一応僕は断ったんだけどね。
一人で出来なくてどうするって気持ちもあるから。
でも、皆が応援してくれるなら心強いし・・・、諦められないしでどうしたら・・・」
う~ん、これは俺達が手伝わなくてもまたアタックするだろうけどな。。。
「そこまで木林が悩んでるんなら手伝っても良いけどな・・・。
俊一はさ、具体的にはどうやって手伝うつもりなんだ?」
「ふむ、その話はまた今度にしよう」
俊一は、淡々と言った。
ここに来てどうして勿体ぶるんだ?
さては、ここで話すと不味い事・・・裏があるのか。
「では、木林よ。
今日はご苦労だった、今日の所は帰ってもいいぞ
「あ、良いよ。
今日は部活も休みだったし、こっちこそ何かごめんね。。。」
いやいや、木林が謝る必要は無いだろ。
どうせ俊一と、涼に半ば無理やり連れてこられたんだろうし。
となると、さっきの様子から俊一がまた妙な事を考えている確率が
いよいよ高くなってきたな。
「それでは―――――」
やはりと言うか何と言うか、木林が保健室を後にすると同時に俊一は改まって口を開いた。
「我々の計画の目的を話そう」
きたぜ、いよいよ。
事実上の本題って訳だ。
「やっぱり、また何かやるつもりだな。。。
もしかして木林が不利益を被る様な事じゃないよな?」
「まさか。
むしろ利益だらけだ」
「は?まさか真面目に恋のキューピットをやるのか?」
さっきも聞いた事だけど、俺は先程の俊一の言葉は木林の前で使った方便としか思ってない。
つまり、俺は本当にキューピット的な事をやるなんて事は微塵にも思ってなかった訳だ。
「それでは面白くないだろう?」
「じゃあ何なんだよっ!?」
「その逆だ」
「逆?」
俺のキョトンとした顔を見てか、ここでようやく涼が口を開く。
「・・・オホン・・・まぁ何だ、零奈ちゃんって外見はパーフェクトだけどさ、
料理は殺人的、大男も倒さんばかりの暴力的な力。
つまりだ、ある種の耐性がないと彼女の相手は務まらないって訳だな。
そういう意味での『救済』って事」
何を言うかと思えば、珍しく真面目な事を言い出した。
いや、冷静に聞けば無茶苦茶な理屈ってこたぁ分かってるけども。
「つまり、クラスから一人死人を出す事を防ごうって事か」
「簡単に言えばそういう事だ。
木林の心を傷つけないように、俺達は恋の手助けをすると言う事にしているが、
実際は紫城の恐ろしさを伝えて、自然と好意を削いでいこうという作戦なのだ。
実に素晴らしい事だろう」
この話を零奈が聞いたら、死人が一人所か3人に増えそうな内容だけどな。
無論、俺ら3人だ。
「う~ん、でも良いんじゃないか?
せっかくの青春だし、好きにやらせれば」
別に俺達が干渉しなくても、勝手に収束するだろ。
木林もかわいそうだ。
「青春だからこそ、だ。
分かるだろう?木林に可能性があると思うか?
それを拒み続ける紫城の気持ちも考えろ」
いつも巧妙な言い草で言いくるめて来やがる。。。
まぁ零奈もあんまり人を傷つけたくは無いってのは事実だろうけどさ・・・・。
つまりこいつ等の言いたい事はこうだ。
木林には零奈に告白しても可能性が無い。
↓
つまり青春の無駄遣い。
↓
例え零奈の気持ちが変わったとしても
↓
待っているのは『死』のみ。
↓
だったら二人を楽にしてあげよう!←今ここ
っつ~ワケか。
ううむ。。。。
どうせ引かないだろうし・・・・条件付きでOKしてやるか。
「・・・しゃあない、分かったよ」
「うむ、賢明な判断だ」
「ただし!!
・・・アイツの気持ちがマジだと分かったら、全力でサポートする事が条件だ」
こうでもしなきゃ木林が哀れで仕方ない。
「そのつもりだ。
では作戦は明日からだ、休む事は許さんぞ」
「じゃあな知樹~~」
そう言って、俊一と涼は保健室を出て行った。
ただ、今は放課後で静かな校舎内、出て行った後も奴らの会話が耳に入る。
「俊一は口が上手いよなぁ~、知樹は絶対手伝わないと思ってたぜ~~。
本当はただの暇つぶしなのにさぁ」
「涼よ、真実を言うな。
知樹に聞こえたら面倒だ」
「・・・ア、アイツら・・・・」
全力で断るべきだったと、今は思う。
何と5ヶ月ぶりの更新。
私もびっくりなんですね、これが。
気長に待ってくださった方、ありがとう御座います!
何とか完結まで頑張ります!