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零奈の誕生日~後編~




「それじゃ、そろそろプレゼントでも渡そうか?」


皆が揃って一時間以上、ある事ない事を話し続けている俺達。

特におばさんとニーナの加速は止まらず、ブレーキ代わりに俺はそう提案してみる。


「いいわねぇ、賛成~!」


おばさん、何でアンタが一番元気なんだ。


「・・・何でそんなに元気なのよ。

 プレゼント貰うの一応私なんだけど・・・」


「気にしないのっ、零奈がもらっても私が使うかもしれないでしょ」




そういう会話は、俺達が居ない所で頼む。




「もうっ・・・・それじゃまずは誰から?

 自信のある人からで良いわよ?」




ムッ。。。。

何というプレッシャー・・・これは手を挙げ難い――――




「ハイハイハイ!

 俺、自信ありますっ!!」




――――・・・・涼!?


涼は零奈の台詞を聞いてコンマ数秒で挙手した。

嫌な予感も多少するけど・・・その勇気流石だっ!!


「俺のプレゼントはこれだぁ!」


涼はそのままの勢いで、懐から一冊の冊子を取り出した。





・・・・待てよ?




冊子・・・だと???



「何々・・・『どりーむ封筒!校内のイケメン男子BESTSHOT30~魅惑の王子様!~』・・・・これって・・・」






「ふふふ・・・それは何を隠そう、知樹の誕生日に渡した『ドリー(以下略』の男子版!!

 即ちっ!校内の選りすぐりのイケメンを撮影した、超プレミア写真集なのだっ!!

 ――――って何っ、その振り上げた今にも落ちてきそうな握り拳はっ!?」




零奈は涼の説明が終わる前にはもう拳を振り下ろさんとばかりに、右手を準備した。


つ~か涼、かぶりは無いっすよ。

小説的にもネタがかぶるのはよろしくないっす。




「当たり前でしょっ!

 こんなの渡されたら怒りもするわよっ!」


「ま、ま、待って下さいっ!!

 きっと零奈ちゃんも喜ぶ特典が、その冊子には詰まっているんです!!

 その説明をっ、弁解の余地をっ!!」


「・・・良いわよ」


涼の床で必死に土下座する姿を見て、零奈は一旦手を下ろした。

すると涼はすかさず、冊子を手に取り語りだした。





「まずはその一!

 これは俺の広い人脈を使った完璧な本っ!!

 恐らく、あの学校にいるイケメンは全て完全網羅っ!

 絶対に漏れはありませんっ!!

 って・・・その拳を降ろしてくださいっ!!!」





「何?まだあるの?」




零奈は拳を天に突き上げたまま、冷めた表情でそう言った。




「ありますっ!」


「言ってみて」







「その二!

 これは大きいっ!!

 一番最初に『白沢 涼 特設写真集コーナー』がっ!!

 俺という人間を知りたい人にとって最高の―――――グホッッァ!!!!!」





今度は間髪入れず零奈の拳が涼の後頭部にヒット。

一瞬にして涼は、床に叩きつけられた。



何やってんだ、お前は・・・・。



「あっ!零奈が気に入らなかったなら、早速私が貰っちゃおうかしら」


今度はおばさんが涼のプレゼントに目をつけた。

明らかに好きそうだな。。。


「ちょ、ちょっと、そんな物貰わなくて良いわよっ!」


「え~、だって勿体無いわよ?

 こんな良い物作ってくれたのに・・・」





「ふふふ・・・気に入ってくれましたか・・・」


「アンタは黙ってて!!!」


『ドゴォ!!』


「グハァッ!!!・・・・・」


うつ伏せのまま声を出した涼は、わき腹を思いっきりカカトで踏まれ昇天した。








「あら、涼君大丈夫かしら・・・?

 零奈、暴力はダメよ、暴力は」







最初の一撃で言ってください、その言葉。







「・・・しっかし、本当に大丈夫か涼は・・・・」


何時もはほんの数秒で蘇るはずなんだけど、今日は反応がまったく無い。


『くいっ、くいっ』


俺が涼を気にしてると、俺の服の袖の部分を引っ張る小さい手に気が付いた。


「ん?どうした、冬香?」


冬香も心配しているのか、いつの間にやら俺の隣で涼を見ていたみたいだ。


「・・・きっと・・・大丈夫」


心配している俺の言葉も聞こえてたのか、俺に小さい声でそういった


「でもさ・・・コイツはいつも数秒で蘇るんだぞ?

 今日はずっと寝てるし・・・どうして大丈夫なんだ?」


零奈とおばさんはずっと言い争ってるし、俊一は自分のプレゼントの準備をしてて、

俺と冬香以外は涼を気にかけてもいないみたいだけど、一応心配になってくるだろ。


「・・・この間言ってた」


「この間・・・?」


一体、何時の話だ?











「・・・『俺・・・どMだから』って。

 レストランで言ってた。

 きっと足で踏まれたら・・・幸せ」


冬香は自信満々の表情で、比較的力強く言って二度頷いた。






「い、いや、何と言うか・・・その。。。

 冬香」




「・・・??」


冬香はキョトンとした表情でこちらを見た。


「その話は忘れような?」




なんか純情系の冬香には似合わない台詞だし・・・。

幸い俺以外の人間は聞いてないんだけど、これからは涼の為にも封印してくれ。



「・・・わかった。

 ・・・忘れる」


どうやら素直に聞き入れてくれたみたいだ。

ふぅ・・・なんか冬香って時々、妙な発言をするよな・・・。


結構疲れるかも。





「ん・・・・なんだ?どうして俺はここで寝てたんだ?」


そしてめでたく涼も復活。

若干記憶も飛んでるみたいだけど、気にしない。


「じゃあ続きやるぞっ。

 次は誰だ?」


俺はこのどうでもいいやり取りに終止符を打つべく、話を流す。


すると、思いもよらない人物が手を挙げた。


「おぉ、冬香。

 自分のプレゼントに自信があるのかっ!?」


そう、手を挙げたのは冬香だった。

涼の撃沈を見て、手を挙げる勇気があるのは凄い。


いや、むしろハードルが下がったっていう考えか?


「自信は・・・・ないけど・・・気に入ってもらえたら・・・嬉しい」


「自信持って良いわよ、冬香の選んだものだもん。

 絶対良いものだと思うから安心して」


恥ずかしがる冬香に笑顔で接する零奈。

それを見て冬香はやや大きめの箱を取り出して、箱をその場で開けた。


「あ、これって・・・・」


中に入っていたのはフライパンや包丁等、料理に必要な道具一式だった。


「・・料理を頑張ってるって・・・・言ってたから・・・。

 もう買ってたら遅いけど・・・」


「ううん、ちょうど欲しかったの。

 ありがと、すっごく嬉しい」


零奈はそう言うと、また冬香に微笑むと、冬香もまた小さく微笑み返した。


「まったく・・・さっきの大馬鹿とは大違いっ」


零奈はキッと涼を睨んだ。


「はっ・・・・そういえば俺は零奈ちゃんにプレゼントを渡して・・・。

 な、なんて事だぁっ!!!」


涼の記憶が戻ったみたいだ。

何故か、今更ショックを受けている様で大きく頭を抱えた。


さっきはショックの前に衝撃がきたからか。


「さて・・・流れに乗ってきた所で真打登場といくか」



そう言って、今度は俊一が手の平サイズの小さめの箱を取り出した。


確かに真打だな。



ある意味においては。




「何これ・・・?」


零奈も俺と同じ事を思っているのか、不審の目で箱を手に取る。


「まぁ、開けてみるがよい」


俊一に言われたとおり、包装を綺麗に取って中身を取り出した。


「・・・香水・・・?」


「そうだ、それは見ての通り香水だ」


ここまでは普通だ。

でも普通であるはずが無い。


「それで、どんな香水なの?」


零奈もそれを重々承知しているようで、謎の香水の詳細を聞き出そうとする。





「良くぞ聞いてくれた。

 以前、学校で男子共が鬱陶しいと言っていたな。

 確か高校入学をしてから、今日までの告白された人数は計41人。

 しかし何回もチャレンジするものも含め合計の被告白回数は62回。

 その内断った回数も62回。

 また自分の友達とのダブルデートなど様々な理由をつけられ近寄ってくる男も多く――――」


「何で私まで覚えてないような事知ってるのよっ!?」




俊一の知識よりも、その内容に驚きだぜ。。。

モテルのは知ってるけど、回数が凄すぎる。







『トントン』


俺が俊一の話に驚いていると、隣に何時の間にか立っていたおばさんに肩を突かれた。


「ねぇねぇ、零奈ってそんなにモテるの?」


「あぁそうですね、、、中学・・・いや小学校の時から人気ありましたよ。

 男子からも女子からも」


「へぇ~・・・娘の事だから容姿が特別に可愛いとは思ってなかったけど、

 やっぱり可愛いのねぇ~、流石我が娘だわぁ~。

 それで?知樹君はどう思ってるの?」


「へ?俺ですか?

 う~ん、幼馴染ですからね・・・あんまりそう言うのは」


「可愛いとは思ってないの?」


「いや、可愛いとは思いますけど、恋愛対象とかってのは・・・。

 ・・・って何言わせてるんですかっ!」


「ふぅ~ん・・・・望みはありって事ね~・・・」


「へ?何です?」


よく聞こえなかったけど・・・望みが何だって?


「ううん、何でもないわぁ。

 でもね私も零奈に負けてないわよ~。

 私もね、学生の頃は学園のマドンナって言われててね~。

 多い時は一ヶ月で――――」



ま、いっか。

何か自慢話が始まったから適当に頷いておいて、今は俊一の言動に注意せねば。



 






「企業秘密だ。

 それで、さらに――――」


「もう良いから・・・。

 簡潔に、この香水は何なのよ・・・」


俊一の長ったらしい前フリに呆れたのか、それとも情報量に呆れたのか。

疲れた様子で、俊一の話を切った。


「ふむ、つまりだ。

 この香水の成分は、臭いという言葉では言い表せない程の臭いを放ち

 何と一滴つけるだけで、半径2メートル以内に近寄りたくなくなるのだ!

 つまりコレで鬱陶しい男子も――――」









「それじゃ、友達まで近寄れなくなるんじゃないの?」









零奈が不思議そうにそう言うと、俊一は話を止めた。



そして5秒ほど考えた後に、発した言葉がこれだ。










「それは盲点だった」









最初に気が付け。







「何でそんな事も気が付かないのよっ!」


「気に入らないのなら、

 涼のプレゼントに情報を付けた冊子を付けてやっても良いぞ。

 出血大サービスだ」


「いらないわよっ!!」


『ドゴッ!!』


「グハッ・・・・」


腹に一発ボディーブロー。

俊一、ダウン。


ある意味出血しそうな一撃です。


「う~ん、そんなに臭いんじゃ流石に貰っても使えないわねぇ」


おばさんは香水の容器を手に取り、しぶしぶそう言った後、机の上に置いた。


おばさん。

考えるに値しませんよ、そればっかりは。


「はい、それじゃ気を取り直して次の人っ」


零奈が手をパンパンと叩いて、次のプレゼントの登場を促す。


「はいっ、はいっ、はいっ!」


「ハイッ!!」


俺とニーナが同時に、手を挙げる。

こういう場面で誰もが思う事。


ラストは荷が重い。


いや、ニーナはそんな事は思ってないかも知れないけど、

少なくとも俺は必死に手を挙げ、声を発した。


「それじゃあ・・・ニーナッ」


「は~いっ!」





くっ!

俺は見た、零奈が俺を覚めた目で笑う表情を。


俺をどうしてもラストに仕立て上げたいのかっ!?

何てことだ、こんな事なら初めの方で手を挙げてれば。。。

てか、俺も何故それに気が付かなかったのかっ!




「って、あれ?

 ニーナ、何にも持ってないけど・・・」


おっと、つい自分の考えの中に入り浸ってしまった。


確かに零奈の言うとおり、ニーナはプレゼントを持っていない。

そういや行きも俺しかプレゼントを持ってなかった様な。。。


「まさか、ニーナお前。

 忘れてきたとか?」


「ううん、違うよ~」


「じゃあ何だよ。

 この間買いに行ったろ」


「実はね・・・」


ニーナはそう言って、携帯電話を取り出して電話を掛けた。


「あ、そろそろお願いしま~す」


ニーナはそう言って通話を切ると、徐に席を立った。


「皆~ちょっと付いてきて~」


何だ?何だ?


皆の疑問の眼差しを背にニーナはリビングを出て、更には玄関から外へ。

俺達も指示通りに、外へ出るとそこには。。。


「じゃ~ん!!」


某宅配会社のトラックから運び出される

高さ2メートル以上はあると見られる程の大きな箱があった。


「ニ、ニーナ・・・コレって一体。。。」


コレには流石の零奈も困惑気味。

まぁ誰だって困るさ、こんなドでかい物玄関先に置かれたら。


「さて、明日は何の日でしょう?」


明日は、、、クリスマスだ。

って事は・・・。



「もしかして・・・クリスマスツリー?」


「正解っ!!

 高さ2m50cmのクリスマスツリーで~す」


「あははは・・・ニーナらしいというか、何て言うか」


未だに困惑の色が消えない零奈だったが、感動している人もいたりする。


「あらぁ素敵だわ~。

 こんなに大きいクリスマスツリーなんて、すっごく嬉しいわ~。

 本当にありがとうね~」


おばさんは本当に嬉しそうな表情でそう言った。


「ふふっ、お母さんも喜んでるし。

 本当にありがとね、ニーナ」


「どういたしましてっ!」




「ん、待てよ・・・?

 俺の品もお母様は喜んで下さったはず・・・。

 何故俺は殴られたんだっ?」


「まぁ涼。

 そう言うなよ、もう一回殴られるかもしれないぞ」


小声で疑惑の判定に文句を言っている涼を宥める。

そうでもしないとコイツの身が幾つあっても足りないし。






さて、そんなこんなでリビングへと戻った俺達。



あ、勿論ツリーは運んでもらった。

いつまでも道路に置いてちゃまずいし。


玄関に入らなかったから、今は庭先でその存在感を放ってる。




「さて・・・いよいよラストね。

 きっとラストだから、凄い物が出てくるんだろ~なぁ」


意地の悪い眼差しで俺を見てくる零奈。


クッ!・・・無駄にプレッシャー掛けるなっ!!


「・・・そんな期待すんなよ。

 大したモンじゃないから」


クールを装ってるけど、内心ドキドキしながら俺は箱を机の上にゆっくり置く。

そして俺が自ら包装を解いていく。


「ちょっと何でアンタが開けてるのよ?」


「中身を見れば分かるって」


あんまり雑に扱うと中身が酷い事になるからな。


何せその中身は俺の会心の作品。


「いいか?

 開けるぞ?」


「な、何よ。

 勿体ぶらなくてもいいでしょ!」


「ならば、開けて差し上げようっ!

 じゃ~ん!!」


俺は自信満々を装って勢い良く、箱を上部を開けた。







「・・・何これ?」







「っておいっ!?

 何これって事あるかよ・・・俺の手作りケーキだよっ!!!」


そう、その中身は俺の手作りケーキだ。

見た目は普通のオーソドックスなショートケーキのホール。


ちなみに夜中から作り始めて、今日の朝に完成した物。

今日ニーナが起きてくる前の話だな。


「え?何で今更手作りのケーキなんて?」


「いや、今更も何もあるかっ。

 前に零奈さ、『ケーキも作れないの?』的な事を言っただろ?

 それでさ俺の魂に火がついたのさ。

 料理すらまともに作れない零奈に、そんな事言われて黙ってられるかってな。

 そう、あの妙な弁当を持ってきた零奈にだ!

 それで今日、俺の渾身の力作を持ってきたってわけだ」


「い、いちいち引っかかる所が多いと思うのは何でかな・・・?」


それはそういうニュアンスで伝わる様に言ってるから。


「それでまぁ、研究に研究を重ねて出来たのがこのケーキだっ。

 どう?お気に召しましたか?」


「ま、まぁね・・・で、でもそれなら早く言いなさいよ!

 冷蔵庫に入れておかないと、駄目になっちゃうじゃない!」


「まぁそれもそうなんだけどさ。

 驚いて貰おうと思ってさぁ」


「驚かすとかそんな・・・まぁいいわ。

 じゃ、私冷蔵庫に入れてくるから」


そう言って、零奈は家の奥へと向かっていった。


「知樹君。

 零奈ね、あ~やって強がってるけど、本当は物凄く喜んでるはずだから。

 本当は『勿体無くて、食べられない・・・』とか思ってるはずだからっ」


隣でおばさんが笑顔でそう話してきた。


「ちょっとお母さんっ!

 また知樹に何か変な事言ってたんでしょ!」


すると戻ってきた零奈がすかさず、その表情を見ておばさんの言動を止める。


零奈が喜んでるって・・・?

・・・まぁおばさんの言葉に大しては半信半疑って所だな。














それからはひたすら話なんかをしながら楽しい時間を過ごし、夕食食べ終えた頃。

ついに、俺の自信作が食べられる時がやってきた。


まぁ食後のデザート的なポジションで、机に置かれた一つのホール上のケーキ。

自分で言うのもなんだが、見た目は相当研究したからプロの作品と比べても然程変わりは無い。

綺麗なショートケーキの筈だ。


「わ~本当に上手ね、知樹君」





「確かに、知樹。

 俺はいつかやる男だと思ってたぜ・・・」





おばさんは良いけど。。。



涼。






お前何様だ。







まぁ褒めてくれてるんだろうとは思うんだけど。。。




「み、見た目だったら私だって上手に出来るわよっ・・・」




「む・・・」


「あ・・・・」


「そ、それは・・・」




零奈が放った一言に思わず、あの時零奈の料理を食わされた3人が反応する。

た、確かに、零奈の料理は見た目は完璧だった。


ただ、味が殺人的な・・・い、いや、ちょっとばかしデンジャラスな域にあったんだ。


だがしかし、俺は味も保障する!!


「ふふふ、俺は見た目だけでなく味にもしっかりと拘ってるんだな~。

 ちょっとばかし危険なケーキもニーナに食べてもらったし」





「あ、それで最近ケーキがよくご飯の後に出てたんだ~。

 どれも凄く美味しかったよ~」




「ニーナ、そこは怒る所でしょっ!?」




零奈がニーナの危機感の無さにツッコミを入れる。


「え?美味しかったのに怒るの?」


「え・・・あ、まぁそうなんだけど・・・」


どうやらニーナには危険な目に合わされていたと言う気は全く無く、

結果よければ全て良しな人間らしい。


うんうん、過ぎた事は気にしない。

人間の鑑だな。


「零奈、困るなって。

 さっきのは冗談だって、全部安全に決まってるだろ?

 ニーナを危険な目に合わすと、俺だって色々怖いんだからな」


ニーナのお兄さんとか、お兄さんとか、お兄さんとか。


「んで、まぁ結局の所、一番オーソドックスなケーキになった訳だけどな。

 楽しかったよ、俺自身色々作っててさ。

 ささ食べようぜ」


「あ~知樹君。

 ちょっと待ってて~」


俺がそう言うと、おばさんは立ち上がって台所からナイフを持ってきた。


ん?まだ何か持ってるぞ?


「おっ、ロウソクじゃん」


涼の言うとおり、おばさんが持ってきたのはロウソクだった。



「ふふふ~、こんな事もあろうかと用意してました~」



な、何と言う準備のよさっ!?

今日ケーキ持ってくる事すら言ってないのに、何故!?


「・・・準備がいいっすね」


「あら、誰かがケーキくらい持ってきてくれると思ってたのよ。

 もし誰も持ってきてなかったら、

 近くのお菓子屋さんで後で買えば良いものね。

 でも、こんな素敵な手作りのケーキとは思わなかったわ~、うふふ」


おばさんはそう言いながら、満面の笑みで色取り取りのロウソクをケーキに指してゆく。


「な、なるほど・・・」


何かしら反応に困る答えだけど、まぁいい。

おばさんが全てのロウソクに火をつけている間に、俺は立ち上がって部屋の電気を消す。


ロウソクの明かりだけに照らされた部屋の中。

さっきまでの部屋の雰囲気とは全く違う感じになった。




「何かこういうのも久しぶりだけど、なんつ~か幻想的だよな~ロウソクの炎ってさ」


涼が言った一言に、ロウソクに見惚れながら皆も静かに頷く。


「俺も小さい頃は家族ぐるみでやってたんだけどさ、やっぱり良いよな、何か」


自然な光だからこそ出せる雰囲気ってのはやっぱり良い。



「ほう、だったら次の誕生日プレゼントはロウソク一年分にするか」



「俊一、何故そこで余計な事を言うんだ」


雰囲気ぶち壊し。

つか、ロウソク一年も使わないし。





「よ~し、それじゃ皆で歌いましょ~」





おばさんの掛け声と共に、皆で一斉にハッピーバースデーを歌った。


そして歌い終わると、零奈が勢い良くロウソクの火を一発で吹き消す。

部屋が真っ暗になると同時に拍手をした後、部屋の明かりを点ける。


おばさんはロウソクをケーキから抜くと、上手い具合にケーキを6等分に切った。








「「いただきま~す」」


皆が一斉にケーキを食べ始めた。


「ふむ、普通に美味い」←俊一


「美味いっ!」←涼


「やっぱり美味しいっ」←ニーナ


「う~ん、おいしいわぁ」←おばさん


まぁ評価は上々。

あの俊一ですらも一言も悪評を言わないと言う出来栄えっ。




そして、甘いものと言えば、この方。




『ぱくっ・・・』




・・・・ゴクリ・・・・・。


「・・・89点」


どうやら冬香の評価は89点らしい。


90点にも乗らず、微妙な評価だけど、

高得点である事は間違いないのでよしとしよう。







さて本日の主役零奈にも聞いてみよう。

まぁ零奈が俺にケーキを作らした張本人みたいなもんだし、

聞かない訳には行かない。


「どうだ、零奈?」


と、思ったけどまだ零奈は手をつけていないみたいだ。

どうしたんだ?


「どうした?零奈。

 食欲が無いのか?」


「ううん、違うけど・・・」


けど、何だよ?



「ふふふっ、やっぱり勿体無くて食べられないとか~?」


「なっ・・・お母さん、何言ってるのよっ!」


顔を赤くしておばさんに反論する零奈。


「と、知樹っ。

 別にそんなんじゃないからね。

 ちょっと他の人の評価を聞いてただけだからっ!」


「へいへい、そ~かい。

 じゃあもう安心だろ?

 食べてみ」


零奈はケーキを小さくフォークで切って、口の中に入れた。


「どうだ?」


「・・・お、美味しいわよ・・・」





よっしゃあ!

と、喜ぶべき所なんだけど、どうも様子が可笑しい。

何か色白の顔がどんどん赤くなってるような???




「ど、どうした零奈っ!?」


「どうして・・・・」



へ?




「どうしてアンタの作る物は全部私のより美味しいのよっ!!」




拳が飛んできたっ!?




「何だその、被害妄想的発言はっ!!!???

 てか、殴りかかるなぁぁ!!!!」

 




零奈の急なパンチに驚いた俺は、思わずソファーから飛び出した。




『コンッ・・・』




すると、その拍子に俺の手に何かが当たった。

素材はガラスのような感じ、でもケーキの皿じゃない。


何かの容器のような・・・・?







『パリーンッ』




その中身は・・・・?

















一分後。


零奈の家の前には、ケーキを食べながら家を眺めている男女がいた。

玄関先でケーキを食べるこの様子は、他人から見たら相当滑稽な絵だろうな。




「って、待てぃ!!!!

 呑気にケーキ食ってる場合かっ!!??

 あの悪臭漂う家の中をどうにかしようって気はないのかっ!?」



こんな感じになるまで突っ込まなかった俺も少し可笑しいけど、

そうなるのも勘弁して欲しい。




まぁ説明するとだな。。。。




さっき俺の手に当たったのは、俊一が持ってきた激臭香水の容器。

つまり俺が零奈の攻撃を避けた際に、容器が落下。

結果的に家の中にとてつもない悪臭が充満してしまったってワケだ。



2階へ逃げる手もあっただろうって?

2階もすでに臭いが充満してたよ、俊一製の品はいつも余計な所で抜かりない。



「でも、どうしようも無いでしょ。

 俊一の作った物に対処法があるとは思えないし」


「零奈、他人事みたいに言ってるけど、今日何処に泊まるつもりだよ。

 このままじゃこの家で寝る事になるぞ?」


「何言ってるのよ、知樹の家に泊まるに決まってるでしょ」


「へ?」


「もちろん、お母さんも一緒にね」


「ちょ、ちょっと待てっ!

 何で、俺の家なんだっ!?」


「決まってるじゃない、アンタが私を怒らせたからこうなったんでしょ?」


何と理不尽なっ!?


「・・・っ・・・・まぁいいや。

 おばさんもいるし、今日くらいはさ・・・。

 でも俊一、この臭いはどれ位で無くなるんだ?」


「自然に消えるのを待つと一ヶ月はかかる」


「い、一ヶ月!?」


「あら、それは大変だわ~。

 パパが帰ってきたら臭いで気絶しちゃうかもしれないわねぇ~」


おばさん、それは解決できるかと。

心配する場所そこじゃないでしょ。





「だが安心したまえ。

 俺はあの香水を作るついでに強力な消臭剤も開発したのだ。

 コレを家に置けば僅か24時間で消臭可能なのだ!」






「俊一」





「どうした」




「そんなん作ってるなら、最初から言えっ!

 持って来る暇あっただろ、今の会話の間にっ!」





そう俺が言った後に

5秒ほど考えた後に、発した言葉はこれだ。






「それは盲点だった」










「お前幾つ盲点があるんだよっ!?」









 








そんなこんなで色々あった誕生日会はそのままお開きとなった。

どうやら消臭剤の取り付けにはコツがいるらしく、俊一が取り付けてくれるみたいだ。

まぁあんな物を持ってきた俊一にも責任が無い訳じゃないしな。


他の皆はそのまま解散。

俺はニーナ、零奈、おばさんを連れて我が家に帰った。



待てよ?





・・・・と、なるとクリスマスもこのメンバーで過ごすのか?




勘弁してください。























さてようやく後編。

思った以上に長くなってしまい、時間が掛かりました。


最終的なオチは俊一が持っていきましたが、

ここからまた次の日のクリスマスへと繋げる予定。


それでは次回をお楽しみに。

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