冬のゲレンデ編:5 searching for the・・・
時刻は昼過ぎ。
朝食を食べてからは、ひたすら滑り続けた俺達。
相変わらず涼と俊一は競い合ってるし、ニーナも自由に滑ってる。
お前ら団体で着てるんだから、一応団体行動しろよ。
意味無いだろっ。
零奈の方は勘が戻ってきたのか、最初と比べて格段に上手くなった。
今も冬香と仲良く滑りに行っている様だ。
んでもって俺は。。。
「しっかし、良くやるよなぁ~・・・」
スキーに飽きていた。
いや、団体行動しろとか言ったけどさ、まとまり無いんだもんよ、仕方ないさ。
それに流石に5時間以上は疲れるし、飽きちゃうって。
最初は零奈に教えたり、やる事は沢山あったけど、今は何もないし。
だから一人麓の休憩所っぽい所で一人、缶の『本物』のミルクティーを飲んでいた。
絶対に俊一製のは飲まない。
命に関わる。
さて他は特に何も無かったから、言う事は何も無しっ。
ひとまず今はこんな感じって事だ。
あぁ~。
ここは暖房も効いてるし、過ごしやすいな~。
冷えた後に暖かい部屋に入る時の気持ちよさったらないね。
夏でも学校のプールは行った後の服着る瞬間。
最高ッ!!
なんて一人で盛り上がっていると、電話が架かって来た。
ニーナからだ・・・。
何かあったのか?
『もしも~し!』
「うおっ・・・声でかいって、もうちょっと小さくても聞こえるよ」
思わず電話から耳を離す。
『そうなの~?
こっちは結構賑やかだから~』
「分かったから、用件は・・・・―――――」
その続きを言おうとすると、何やら目線を感じる。
んでもって誰かが、俺の隣に立ってるような・・・。
俺はその視線の主の方向へ頭を向ける。
「――――うおっ!?
・・・・・熱ぃ!!!」
冬香の顔がすぐそこにあった。
いや俺を見てる訳じゃなくて、俺が手に持ってる缶を見てたみたいだけど、
驚きすぎて、コップの中身を思いっきり足の上にこぼした。
さっき買ったばかりのホットミルクティー、熱いに決まってる。
『何ぃ~どうしたの~?』
俺の様子が可笑しいと思ったのか、ニーナが大声で聞いてくる。
「あちち・・・ちょ、ちょっと悪い!
急ぎの用なのか!?」
『ううん、別に後でも良いよ~』
「じゃごめん、また後でっ!!!」
『え・・ちょっと――――』
ニーナが最後に何か言おうとしてたみたいだけど、今はこのミルクティーの処理が先だっ!!
ごめんな、ニーナ!!
「・・零したのは俺のせいだとして、何で缶なんか見てたんだ?」
急ピッチでこぼしたミルクティーを拭き取りつつ、冬香に聞いてみる。
「・・・ミルクティー・・・」
もしかして、あのゲテモノミルクティーを飲んだ事を根に持ってるのか!?
勇気を出して聞いてみよう。。。
「あぁ、そう言えば冬香もさっきミルクティー飲んだっけ」
「・・・あれは・・・ミルクティーじゃない」
・・・うむ、大当たり。
あれはミルクティーじゃない。
冬香も味を思い出したのか、ほんの少しだけ困ったような表情を見せた。
ん?
あれ?
冬香の後ろに零奈がいるぞ?
いつもなら真っ先に話しかけてくるのに、どうしたんだ???
後ろで立ってるだけなんてらしくない。
何かあったのか?
表情も心なしか不安げに見える。
「どうした、零奈。
何かあったか?」
「え・・・いや、ううん。
何も・・・」
自分の心が表情に出てるとは思ってなかったらしく、
少し驚いた表情を見せた後、わざとらしく笑って首を横に振った。
「・・・嘘つけ。
絶対何かあるだろ?」
「何も無いってば・・・いこ、冬香」
そう言って、零奈は建物の奥へと消えていった。
その場に残ったのは俺と冬香のみ。
・・・聞いてみるか。
「冬香、零奈に何かあったのか?」
俺は零奈の元へ歩こうとする冬香を呼び止める。
「・・・多分・・・指輪」
すると冬香はゆっくりと振り向いて俯きながら、静かにそう言った。
指輪?零奈がいつもつけてるアレか?
バスの中ではちゃんと着けてたけど、まさか・・・。
「落としたのか?」
落としたとすれば、あの落ち込みようは分かる。
バスの中でも言ったけど、あれは零奈のおばあさんがくれた大切な物だ。
たしか零奈と会った時から身につけていて、いつも肌身離さず持っていたはずだ。
「・・・はっきりとは聞いてないけど・・・。
・・・朝にスキーグローブを付ける時に指が痛いからって、ポケットに入れてるのを見たから」
「成る程な、それでニーナと衝突した時に落としたかもって事か」
「・・・さっきもポケットに手を入れた時に表情が変わった・・・」
・・・ほぼ確定だな。
「ったく・・・いくぞ冬香」
冬香はコクリと頷くと、俺と冬香は零奈を探しに建物の奥の方へ向かう。
え~と・・・いたいた。。。
一人で座って、落ち込んでいるみたいだな。
・・・ったく。
「・・・・指輪だろ」
そう言って俺が零奈の肩を軽く叩くと、零奈は大きな目を見開かせて驚いた様にこちらを見た。
「な、何で知ってるのよ・・・」
「いや、冬香がさ。
きっとそうじゃないかって、話してくれたんだよ。
お前なぁ・・・少しは人を頼れよ、探す前から諦めんなって」
「だって・・・・」
「自分の都合で皆に迷惑が掛かるとか、楽しんで滑ってる他の人に迷惑だとか思ってるだろ?
零奈と付き合いは長いから、俺は理解出来てるつもりだぜ?
本当は自分の事より、他人を優先する良い奴だって」
「知樹・・・・」
「だけどさ、そんな零奈だからこそ頼れる仲間が近くにいてくれてるんだぞ?
冬香だってさ、普段はあんまり俺と話さないけど、一生懸命話してくれてさ。
それは多分、零奈が困ってるから、零奈に頼られたいからだと思う。
そうだろ、冬香?」
「・・・うん・・・大切な・・・友達だから・・・」
「冬香・・・・。
二人とも・・・ありがと・・・でも・・・」
零奈は涙ぐみながら、また俯いた。
こいつは~~っ。
「まだ、そんな事言ってんのかよっ!!
ほらっ!探すぞっ!!大事な指輪なんだろ!!!」
「・・・・・うん!・・・」
俺の勢いに負けたのかどうか分からないけど、立ち上がってくれた。
目もやる気だ。
いよっし!!
じゃあ、探すぞっ!!!!
「まずはゲレンデの従業員の人に知らせないとな。
もしかしたら届いてるかもしれないし」
「うん」
「たしか俊一の滑ってる近くに建物があった。
ここからじゃ遠いし、俊一にも連絡しておこう」
俺は携帯電話をポケットから取り出すと、俊一に電話を架ける。
『もしもし、どうした?』
「もしもし。
あのさ、近くにゲレンデのお客様相談窓口っぽい建物ないか?」
『それならすぐ近くにあるが』
「悪いんだけど、そこに指輪が届いてないか聞いてくれないか?
零奈が落としたみたいなんだよ」
『あのいつも右手の指にはめてる物か?』
「そうそう」
『・・・分かった、聞いてこよう。
一旦切らせてもらうぞ』
「あぁ、分かった」
『追って連絡する』
通話が切れた。
俺が零奈に目を移すと、心配そうにゲレンデを見つめていた。
横では冬香が零奈に寄り添うように立っている。
「・・・心配すんなって。
俊一が聞いてくれてるし、俺達も全力で探せば良いだろ?」
「そうね・・・」
「よし、それじゃ俺達は落とした地点にひとまず向かおう。
時間は限られてるしな」
「うん」
零奈の強い返事を聞くと、俺達三人は建物を出てリフトへと歩き出す。
すると同時に俺の携帯電話がなった。
歩を休める事無く、電話に出る。
「もしもし、どうだった?」
『まだ届いてないそうだ。
営業時間が終わればパトロール隊が探してくれるそうだが、それでは遅いのだろう?』
「あぁ、そうだな。
零奈にとっても大事な物だし、あんまり雪の中に埋もれさせてちゃ気分が悪いだろ」
『うむ、ではここは俺達だけで探す事にしよう。
周りの客に迷惑だから、止まって探す事は止める様に言われたが
ゆっくり滑って探すには問題ないらしい』
「そうか、分かった。
悪いな、手間を取らせて」
『いや、かまわん。
それでは今から涼と2人で向かう、中級の中腹地点だったな』
「あぁそうだ。
それじゃあ後で」
電話を切る。
「どうだった・・・?」
すでに俺の会話から指輪が届いてない事は知っているはずだけど、
心配そうな表情で俺に尋ねる零奈。
きっと、聞かずにはいられないんだろうな。。。
「今の所届いてないってさ。
でも心配は今のでお終いだっ!
さっき言ったとおりだろ?
皆、精一杯零奈の為に頑張ってくれてる。
これで見つからない訳無いさ、心配なんて無意味だよ」
「・・・うん、そうよねっ・・・ありがとっ」
心配そうな表情から、少しだけ笑顔に変わった。
きっとこれは本当に頼られてるからこそ、見られる笑顔だろうな。
さっきの俺の言葉を信じてくれた事が純粋に嬉しい。
「感謝ならさっきされたからさ・・・。
それより、今はそのまんまでいてくれよ~。
何時もの男勝りな零奈じゃないと、こっちもやる気が出ないからさ」
「誰が男勝りよっ」
「おぉ~怒った怒った、怖い怖い・・・。
ま、その調子でいてくれよ。
そっちの方がやりやすいし、な?冬香」
「・・・うん・・・」
俺の問いに微笑を浮かべながら返事をする冬香。
さすが分かってるな。
「もうっ、冬香までっ!」
「あははは」
暗いムードは吹っ飛んだっ!!!
後は探すだけっ。
っと、その前にニーナにも連絡を・・・。
番号登録欄からニーナの名前を選び、電話を架ける。
『プルルル・・・・プルルル・・・ただ今、電話に出ることが―――――』
「あれ・・・電話に出ないぞ???
どうしたんだ??」
「滑ってるんじゃない?
また、後で架け直してみたら?」
「あぁ、そうだな」
ったく、ニーナは逆に肝心な時に・・・。
まぁいいかっ!!
いよしっ!!
頑張るぞっ!!!
そして、30分後。
このゲレンデを出発するまで、後25分。
「零奈っ!
そっちはどうだった!?」
「ううん、無かった・・・」
俺達はただひたすらに雪面を見ながら滑った。
俺達スキー組はゆっくりと、何も見落とさないように。
俊一と涼はスノボーなので、手が空いてる分、グローブを取って素手で雪を触りながら探してくれている。
こういう時はやっぱり頼りになる奴らだ。
「涼と俊一は~~!?」
「いや、見つからなかったが」
俊一は滑り終えると淡々と答える。
「俺もだっ!
ふぃ~・・・流石に素手は堪えるぜ~~。
だがコレも零奈ちゃんの為っ!!
この白沢涼!!もう一回行って参りますっ!!!」
涼は真っ赤になった手をヒラヒラさせながら、降りてきたばかりなのにもう一回リフトへと向かう。
「私も・・・・もう一回・・・」
零奈もそれにつられる様に、リフトへと向かいだす。
少しばかり厳しいけど、んな事は言ってられないっ!
「俺も・・・――――」
「ん?・・・・・皆、少し待ってくれ」
そう言って俊一が背中に装着していた小型のバッグを下ろす。
涼と零奈もその言葉に耳を傾け、歩を止め俊一を見た。
「やはりあったな・・・」
俊一がバッグに手を突っ込んだまま、不気味な笑みを浮かべた。
「あったって・・・・何が?」
俊一がバッグから取り出す物を息を呑んで見守る一同。
「よくぞ、聞いてくれたっ!
見よ、この起死回生の切り札。
何処に埋まっていても、金属製の物なら即効探知。
俺が開発した超小型金属探知機その名も『ちびっ子メタル探知君』だ!」
一同が黙り込む。
そして数秒の静寂の末、ついに俺が口を開いた。
皆が言いたいであろう一言をついに口に出すのだ。
「何で金属探知機もってるんだよっ!?」
「こういう事態に備えてだが」
「予測っ!?
指輪を落とすって予測したのかっ!?
ってか予測したのならもっと早く出せぃ!!」
「そうだそうだっ!
俺の手なんか真っ赤だぞっ!」
俺の抗議に乗っかる涼。
その二人を見て俊一がまたもや不気味な笑みを作った。
「ふっ、今はそんな事言える立場かね?
これは俺にしか使えない。
ましてや、俺がコレを持ってきてなければ・・・・」
「「す、すいません」」
全力で謝る二人。
攻撃するも、即効で返り討ちに会うとは情けない。
「兎に角っ、今は俊一に感謝するわ。
それを使って探しましょ、私達もほらっ!」
零奈は相当焦っているようで、捜索をしきりに促す。
「そ、そうだな。
時間も余り無い、ここは俊一の機械に頼るしかないっ!!」
そうして、捜索する事3回。
一回目の捜索。
「まだ、反応しないな。
滑るルートを変えてみる」
2回目の捜索。
「反応無しだ」
3回目の捜索。
「可笑しいな。
全く反応が―――――」
「不良品!?」
再び皆が集まった所で、真顔で見つかりません宣言すなっ!
「不良品ではない。
動作確認もしている立派な機械だ」
俊一の発明で立派だったのがあるか・・・?
「ちょっと不良品は言いすぎたけど。。。
・・・もう時間が・・・」
残りは5分。
そこで零奈が口を開いた。
「もう良いよ、知樹。
皆頑張ってくれたもの・・・その気持ちだけで、私十分嬉しいから・・・」
「だけど、大事な指輪なんだろ?
このまま一生見つからないかもしれないんだぞ?」
「ううん、良いわ。
むしろ皆に精一杯感謝したいの。
指輪も大事だけど。。。
こんなに一生懸命になってくれてる友達の方が大切だから・・・」
零奈が背一杯の笑顔でこちらを見る。
でも零奈の目は涙を我慢しているのが分かる位に潤っていて。。。
「零奈・・・・・・・」
これは見つけられない悔しさからなのか、それとも友達への感謝の気持ちからなのか。
分からない俺は零奈の名前を言う事しか出来なかった。
あぁくそっ!こういう時にニーナは一体何処に・・・・。
「あっ!!お~い!
皆ぁ~~~!!」
この声はまさか・・・ニーナか?
やっぱりそうだ。
積もった雪の上を転びそうになりながらも、一生懸命走ってくるニーナの姿があった。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・。
今電話しようとしたんだけど、ちょうど見つかって良かったぁ・・・。
って、あれ?
皆どうしたの、暗い顔して?」
「こっちはこっちで大変なんだよ・・・。
零奈が指輪を落としたらしくて、ずっと探してるんだけどさ・・・。
結局、今まで見つからなくてさ」
「あれ?・・・・指輪ってこれの事?」
ニーナが徐にポケットに手を突っ込んで取り出す。
そこには何と、零奈のあの指輪があった!!
「あ~~~~~!!!!
そうそう!これよっ!
ありがとうっ!!ニーナ!!!」
「え・・・え・・・・何でこんな喜んでるのっ~!?」
零奈はその指輪を見ると、歓喜の余りにニーナへと抱きついた。
抱きつかれてるニーナ、新鮮だ。
雪景色で抱き合う美女二人。
良い絵だっ!!
いや変な意味じゃないよ?
主人公のイメージが崩れるから止めてくれ。
「うっ・・・本当に・・・本当に・・・見つかって良かったぁ・・・・クスン・・・」
嬉しさのボルテージが最高潮になったのか、
気が緩んでニーナに抱きついたまま零奈の目から涙が溢れ出す。
友達の方が大事とは言ってくれてたけど、やっぱりこの指輪の存在は零奈にとっても大きいんだな。
「えっ、零奈!?
な、何で泣いてるのっ!?
う~んと、、、まいっか・・・・よ~しよし、良かった良かったぁ」
ニーナも状況がよく把握できてないみたいだけど、
最後は抱きついて泣いている零奈の背中を笑いながら優しくゆすった。
「で、何でニーナが指輪を持ってたんだ?」
「何でって、零奈とぶつかった時に落とし物しちゃってね~。
それ探してたらたまたま見つけたんだけど、何処持っていったら良いか分かんないから、
さっきトモに電話で聞こうと思ってたんだけど、急に電話切っちゃうんだもんっ」
「あ、さっきの電話の要件ってそれだったのね。
まぁ結果オーライだな」
うむ、めでたし、めでたし・・・・・・あ!!!!
「ってうぉ!!!
まずいぞ、ここの出発予定時刻、2分オーバーだっ!!
皆走れっ!!」
「れ、零奈っ!
ほらっ、皆走ってるからっ!いこっ!!」
「・・・うっ・・ぐす・・・・・・・・分かった・・・うっ・・・」
そんなこんなで俺達のドタバタなゲレンデでの話は終わり。
女の子の涙は嬉しい事じゃないけど、嬉し泣きなら見てても苦じゃないな。
それに零奈だしなぁ。
零奈の嬉し泣きは、ちょっと儲けかも・・・・いや、変な意味じゃなくてですね。。。
おほん。
それじゃあな~。
あ、因みにバスは全員間に合った。
終わりよければ全て良しっ、だな。
いい話を書きたかった。
でも最後は茶番に。
まぁ、『俺のnot bad day』らしくて良かったと思います。
これからも、こんな話を書いていきたいなぁ。
あとですね。
話とは全く関係ないのですが、
ヒマな時にブログなるものを作ってしまいました↓
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小説の話が中心ですが、飽くまでも意見や報告等の為のブログです。
まぁこちらの方が読者様からのお声が聞き易いかと思いまして、
簡易的ながら作らせていただきました。
まぁ、気軽に寄っていって小説に対する意見や誤字脱字の報告等。
よろしくおねがいいたします。
ただし『あまり更新しないかもしれない』のと『小説以外の事』も書くかも
しれないので、そこの所はご了承ください。
では。