冬のゲレンデ編:2 雪上での喜劇&悲劇!?
一面真っ白。
すぐ隣の県だというのにこの景色の違い。
家の近所じゃ、せいぜい道に残された枯葉が落ちている程度だ。
それも一興なんだけどさ。
家の近所で雪が降った日には、歩きにくいからって文句ばっかり出ちゃうんだよな。
特に金属製の排水溝用のカバーには注意。
でも雪山ならそんな心配もご無用。
むしろウェルカム。
好き放題滑る事にしよう。
「しっかし、人が多いな~」
涼は手で雪から反射する光を遮りながら、ゲレンデの下から全体を見て言った。
確かに、まだオープン時間から然程時間も経ってないにも関わらず、
すでにリフトで上に上がって滑っている人までいる。
「だな。
もう滑ってる人も居るし。
俺達も滑るか?」
俺達はもう準備を済ませているから、後は上るだけ。
リフトの券も購入済み。
因みに全員経験はあるらしいから、一から教えなくても大丈夫みたいだ。
しかし俊一と零奈と涼は分かってたけど、ニーナも冬香もスキーが出来る事には驚いた。
特に冬香に良い所を見せ付けられるチャンスと企んでいた涼にとって、それは大きな打撃だったらしい。
俺もニーナに教えるつもりだったんだけど、アメリカにある実家から愛用のスキー板と備品一式が送られてきた事には驚いた。
教えなくて良い分、楽で良いけど。
「よっしゃあ!
じゃ、早速俺は上級コースに行くぜっ!!」
涼はスノーボードを自慢げに立てながら大声で言った。
因みに今いるここは、すべてのコースのゴール地点となっている場所で、
多くのリフトがここを中心に放射線状に広がっている。
だから上級コースも一望できるんだけど、見た感じ結構角度もあるし久しぶりに滑る人が急にって言う感じじゃない。
「いきなり上級かよ・・・。
腕慣らしとか良いのか?
少なくとも一年近くやってないだろ?」
ウォーミングアップは大事だと思うよ?
俺達は雪国の人間じゃないんだからさ。
「だから前も言ったけど、俺の異名は『雪男』!
いきなり上級でも関係ないのだっ!!
ハッハッハッ!!!」
「奇遇だな、俺も上級コースへ向かおうと思っていた所だ」
俊一もかい!?
「俊一・・・俺はあの時の・・・あの夏休みの海でのビーチバレー。。。
惨敗を喫したあの屈辱を忘れた事は無い!!
勝負だっ!」
何で勝負するんだよ!?
「ふっ・・・俺は構わん。
同じスノーボードだ、やろうではないか」
だから何をだよ!
「じゃあな、皆!
俺は俊一と一足先に上級コースへ行って来る!」
そう言って涼と俊一は、上級コースのスタート地点へ向かうリフトに向かって行き、
ボードを足に装着すると、同じリフトに乗って山の上部へと登って行った。
「まったく・・・ホント困った奴らだわ」
零奈もその光景を見つつ、白い溜息を吐く。
「だな・・・俺達はまず初級コースで勘を戻してから中級に行って、
余裕があれば上級って感じで良いよな?」
「うん」
零奈は頷いて返事をした。
「ニーナも冬香もそれで良いか?」
「・・・(コクリ)」
相変わらずの調子の冬香は無言で頷く。
しかし、ニーナの返事が無い。
「あれ・・・ニー―――――」
「隙ありっ!!」
『ビュン!・・・ボスッ!』
「うおっ・・・冷てっ!?」
何かが俺の後頭部に直撃。
帽子やゴーグルは装着してるけど、髪の毛が露出した所から雪の冷たさが伝わってくる。
「や、やりやがったな!!」
「わ~~、トモが怒ったぁ~」
こうなったら俺も雪玉を作って・・・・・よしっ!!
「ちょっと・・・アンタ達まで・・・・」
零奈も呆れ顔だけど、そんな事を気にしてはいられん!
必ず当てる!!
「ほら~。
当ててみてよ~」
ふふふ、ニーナ。
俺を中心に円状に回れば当てられないとでも思っているな!!
今すぐその笑顔を消し去ってやる!
動きを良く見て・・・次の瞬間の瞬間を予想すれば、横に動いてもムダだぁ!
「ここだっ!!」
良しっ!
位置は見事に一致!!
「わっ!」
ニーナが咄嗟にしゃがみ込む。
くっ・・・流石と言いたいところだが――――――
『バシッ!』
―――――――・・・・・・・。
「あ・・・」
「あ・・・」
「・・・・」
気が付けば、零奈の顔が雪まみれに。
勿論ゴーグルは頭に装着しているだけなので、顔は殆ど隠れていない。
故に顔面全部に雪が行き届いている。
数秒の硬直。
「と・・・知樹っ!!」
『ビュン!ビュン!!ビュン!!!・・・』
「ちょっと待て!
それ遊びのスピードじゃな・・・・ゲフッ!!」
・・・こ、これが雪玉の痛さなのか?
いやこれは雪玉ならぬ雪弾だ。
「反省しなさいっ!
ニーナもっ!」
「「は~い・・・」」
「む、面白そうな事をやっているな」
!?
この声は・・・。
「俊一、どうしたんだよ!!
さっき登って行ったばかりだろ?」
声が聞こえた方向を見ると、当然かの様に立っている俊一がいた。
勿論これには一緒にいる一同も驚いた表情を見せている。
「もう、滑り終えた」
早ッ!?
確かに良く見れば足にスノーボードを装着したままだ。
俊一は体を曲げて、ブーツを固定しているバインディングを外す。
「てか涼はどうしたんだよ!?
一緒に滑ったんじゃないのか?」
「あぁ、滑ったが途中で見えなくなってしまったな」
「途中で見えなくなったって・・・」
ん?・・・・よく見たら、俊一・・・手に何か怪しいモン持ってないか?
「おい、俊一。
その手に持ってる怪しい物体は何だ」
「ん?これか。
良くぞ聞いてくれた」
これは俊一の発明品を披露する時のお決まりの台詞。
もしかして、それで涼を。。。
「これは俺が開発した機械で、雪をここにある容器にさっと軽く入れると、
自動的に雪玉を精製し、発射口からそれを発射できる優れた機械。
その名も『400口径ユキダルマグナム』
これさえあれば雪合戦でも大勝間違いなしだ」
「物騒なもの使うんじゃねぇよ!
大怪我でもしたらどうするんだよっ。
大体他の人も居るんだぞ!?」
実際、涼も帰ってこないし。。。
「ふむ・・・威力が強すぎたのが問題か。。。
ならばこちらの『ユキダルマシンガン』でチョコチョコと攻撃すれば良かったのか」
「どっちもダメだろ!?」
今更だけど、何だよユキルダルマグナムとかユキダルマシンガンって。
「それにしても、本当にどうしたんだろ?
まだ返って来ないよ?」
涼が中々帰ってこないので、ニーナが心配そうな表情で俊一達が滑ってきたコースを見つめている。
零奈と冬香はいつもどおり、二人で雪をいじくって遊んでいる。
ちったぁ心配しろよっ。
「まぁ・・・アイツの事だから大丈夫だとは思うけどな・・・・・・」
「道に外れて大怪我でもしてなければ良いけど・・・・」
こういう時ニーナは素直に心配してくれるから良い奴だな、とは思ったりする。
いや普通は心配するもんだけど・・・。
雪で遊んでる二人は涼を信じてるのか、それとも本当にどうでも良いのか。。。
「・・・・ん?
お、あれってそうじゃないか?」
確か涼はシルバーのスキーウェアに黒の帽子だったはず。
今、雪の斜面を滑ってくる服装が一致する男が滑ってきた、しかもスノーボードでこちらに向かってくる。
「ふむ、来たな」
いや、俊一。
お前がやったんだから反省の色をみせろぃ。
近づくと分かったけど、涼のスキーウェアは全身雪まみれで、髪なんかはもうびしょ濡れ状態。
これは相当酷く転んだな。
「いやぁ~~~、俺とした事が、何かが足元にヒットした衝撃で盛大に転んでしまったぜ。
はっはっはっは!」
開口一番これだった。
俊一の攻撃に気が付いていないのか!?
「待て、涼。
話は俊一から聞いたぞ。
まずはこれを見ろ」
俺は俊一の『400口径ユキダルマグナム』を持った腕を掴んで涼の目の前まで上げた。
「何だこれ??」
首を傾げる涼。
「コレにやられたんだよっ!
お前は!」
「な、何ィ!?
本当か俊一!!」
涼は大げさに驚いたリアクションを取った後、俊一に詰め寄る。
「道具を使ってはいけない等と言うルールはあったか?」
「いや、そんなルールは無いっ!!」
潔い!?
てかどういうルールだったんだ・・・・?
「第一ルールも決めずに滑ること事態が間違っているだろう」
お前らもルール決めてないのかよっ!!!!
「くっ・・・それを言われては仕方ないか・・・」
「うむ、分かれば良い。
だが、こちらにも非はあっただろう。
お詫びとして、俺が持参したミルクティーを差し上げよう。
保温されているから温かいはずだ」
俊一は懐から、魔法瓶の水筒を取り出し、中身をコップに注いで涼に手渡した。
何か嫌な予感が。。。
いや嫌な予感しかしない。
でもコップから白い湯気が立ち上っていて、中身も普通に美味しそうなミルクティーだ。
「おぉ!
ちょうど冷えてた所なんだ。
サンキュ!ありがたく貰うわ!」
そう言って涼は勢いよくミルクティーを口に含んだ。
「因みに材料は『ウーロン茶』と『練乳』だ」
「ブーーーーーーッ!!!」
見事に噴出した涼。
幸い室内じゃなかったけど、涼の前方の雪がミルクティー色に染まってしまった。
※スキー場では飲み物を地面にこぼす事はマナー違反だ。
実際では絶対にやらない様にしてくれっ!!
「わっ・・・。
ちょっと止めてよ涼!」
「・・・汚い」
零奈と冬香は何事かと振り向いた後、そう言った。
二人とも、涼の身になってみてくれ。
「ゴ、ゴメンッ二人とも・・・でも悪いのは俺じゃないんだ!!
ミルクティーの成分を先に言わない俊一のせいだっ!!
つかウーロン茶と練乳って、片一方飲み物じゃないだろ!!」
ご尤もで。
「大体ね・・・・俊一が家から持ってきた物なんて、よく口に入れる勇気があるわね。。。
私だったら絶対止めておくけど」
零奈は立ち上がって、これまた尤もな事を言った。
「た、確かにっ・・・」
涼も言い返せない様子だ。
「だが、俺自身は普通に飲めるのだが」
「普通に飲んでるっ!?」
飲んでやがる、ウーロン茶と練乳で作られたミルクティーを!?
「うむ、中々イケるぞ」
そして、その言葉に反応する者が一人存在しようとは。
その時点では誰も思ってなどいなかった。
『・・・ムクッ・・・・テクテクテク・・・・』
俊一の「中々イケる」発言を聞いて、先程まで座って雪を触っていた冬香が立ち上がり、
俊一の下まで歩き出す。
そして俊一の前まで来て、右手を差し出した。
「・・・一杯・・・頂戴・・・」
「「「「飲むんかいっ!!」」」」
俊一と冬香を除く4名が同時にツッコミを入れる珍事件。
いや、それ以上の珍事件が目の前で起こっている訳だが。
「うむ」
何時もと同じ調子で俊一は返事をして、コップを取り出して水筒の中身を注ぎ始める。
『コポコポ・・・・』
そして遂にコップにミルクティーが注がれた。
一同は固唾を呑んで、コップを手に持ち中身をじっと見る冬香を見つめる。
『・・・すぅ・・・・』
いよいよ俊一の特性ミルクティーを口に含む冬香。
『・・・ゴクン・・・』
飲みこんだぁぁ!?
「ど、どうなんだ?」
冬香は俺の言葉に反応して、こちらを向いた。
その後無言で3秒俺を見つめた後、再びコップの中身に目を移し、固まった。
『・・・・ボスッ・・・・』
コップが雪の面に落ちた。
あ、やっぱりまずかったのね。
「・・・ぷっ・・・・あはははははは」
全員が冬香の姿を見て笑い出した。
最近で一番の大笑い。
いや愉快、愉快。
「ははは・・・・ヨォ~シ!!!
雰囲気もよくなった所で俺がこの俊一の作った機械で、一発景気付けをしてやろうっ!!!」
笑いが収束してきた頃に、涼は大声でそう言うと俊一の手から先程の機械を奪い取る。
「コレはどう使うんだ?」
「ここに雪を入れてトリガーを引くだけだ」
「成る程っ!!!
ではっ、撃ちまぁぁす!!!」
『ドンッ!』
涼は空に向けて、トリガーを引いた。
「お~、よく飛ぶなぁ~~」
「ちょっと!!
何をしてる!!」
涼が口を開けたまま撃った雪玉を見上げていると、何処からかゲレンデの係員が現れて涼に向かって怒鳴り声を上げる。
「へ?
いや、ちょっとコレで雪玉を空に発射して・・・」
「困るんだよ。
そんな危ない事されちゃぁ、それに雪に飲み物をこぼしたりして・・・。
コレ君たちがやったの?」
マズイッ。
ここはどうにか切り抜けねばっ!
「いえ、全部彼一人でやりました」
俊一何を言い出す!?
「へ?」
「私達は止めに入ったのですが・・・どうしても止めなくて」
「いや、ちょ・・・お前っ・・・」
「それじゃ君一人。
ちょっと付いて来て貰えるかな?」
涼の腕を掴む係員。
「いやっ、ちょっと待てくださいっ!!
話せば分かるっ!!つ~か離せぇぇ~~~~!!!」
行ってしまわれた。
「俊一、お前悪魔だな・・・」
「勝負に負けた罰だ。
勝てば官軍、負ければ賊軍だ」
何だかなぁ。。。
まぁいいか。
涼が帰ってくるまでに汚した分を皆で掃除しよう。
マナーは大切に。
まず最初に、スキー場での雪合戦やゴミを残したり汚したりする等の行為は
マナー違反となっております。
冬場にスキー場へ出向く際は涼の悲劇をお手本にして、マナー違反防止に努めてください、お願いします。
↑どうも真面目っぽく見えないのは気のせいか・・・?
さて今回はコメディーMAXでお届けしました。
笑っていただければ幸いです。
次の話もお楽しみにっ!!