そこそこの日常生活
これは俺、朝倉 知樹の余りにも普通すぎる日の日常。
まぁ、興味あったら今日一日よろしく。
・・・・・・・・・・・。
あぁ、寒い。
冬ってのは何でこうも寒いのかね。
布団から出たくないけど、目覚ましは俺を起こそうと必死に鳴り続けてる。
現在の時刻は朝6時。
さっさと布団から出て、日課のランニングをしないと、学校に間に合わなくなる。
俺は少し強めに目覚ましを叩くと、意を決し、布団から出た。
「う~寒い。。。」
だがモタモタしてる暇は無い。
さっさと、着替えるか。
俺は寝巻きを超高速で脱ぎ捨て、ランニング用のトレーニングウェアをこれまた超高速で着用する。
我ながら惚れ惚れする早さだぜ。。。
っと、自惚れてる場合じゃない。
ニーナを起こして、さっさと出発だ。
走ってしまえば体も暖まるし、そのあとのシャワーは何ともいえない気持ち良さなんだ、これが。
扉を開けて、ニーナの部屋に向かうと扉を叩く。
因みにニーナの部屋に鍵はついているけど、彼女に使う気は無いそうだ。
本意曰く「トモに襲われるなら大丈夫」との事だ。
俺は襲わんがな。
「ニーナ~、ランニング行って来るからな~。
帰ってくるまでに起きてろよ~」
・・・・反応なし。
まぁ、こんなのは何時もの事。
もう一回呼べば・・・。
「お~い、俺ランニング行って来るからな~」
「はぁ~い・・・いってらっしゃぁい・・・」
何とも気の抜けた声が扉の向こうから返ってきた。
これもニーナに起こしてと言われてやってる事なんだけどな。。。
家に帰ってきて、起きていた試しはない。
どうも二度寝がしたいだけらしい。
良い迷惑だぜ。
たまには朝飯でも作って待っててくれたら良いのにな。。。
まぁ、前に頼んだ時はシリアルと白米という、日米の朝飯のスーパースターが並んでいたからな。。。
白米のやわらかい食感の後に、あのサクサクとした感じ。
ベストなミスマッチだった。
朝飯を強請るのは止めておこう。
俺が辛いだけだ。
階段を軽やかに降りると、鍵を持って玄関へ。
一応戸締りはしてるぜ?
何せ、寝ている居候しか家に居ない状況になるからな。
玄関を開けると、そこは極寒・・・・は言いすぎだけど、やっぱ寒い。
季節は冬。
庭なんかに生えてる木の葉も、殆どが茶色く枯れており、道端なんかにそれが落ちている。
因みに夏か冬かと聞かれたら、俺は断然夏派だ。
何より冬の冷たい風は痛いんだ。
たまに足が霜焼けになったりしてさ、痛いし痒い。
着る服や使う布団が自動的に多くなるから、洗濯物も増えるし。
食器洗いなんかも地獄だ。
家事全般が大変になるんだよ、冬は。
それだけの話。
ただ、暑いのは苦手だけどね。
ささっ、走ろう、走ろう。。。
「「いただきま~す」」
さてランニングから帰ったら、汗を流すためにシャワーを浴び、下着を着てからニーナを起こす。
んですぐに朝飯を作って、二人で揃っていただきます。
今日は普通にご飯と味噌汁。
その他のお惣菜やら、昨日の晩の残りとか。
普通の味。
「そういえばさ。
さっき見たら羽毛布団一枚しか掛けてなかったけど」
2回目にニーナを起こす時は起きて貰わなきゃ困るから、部屋に入って叩き起こすんだけどさ。
こんな寒い中、ニーナは羽毛布団一枚で寝ていたのを思い出した。
信じられん。
「うん、それがどうかしたの?」
「いや、寒くないのかって事だよ」
「あっ、もしかして一緒に布団に入って暖め合おうとか。。。
あわよくば夜の営みを―――――」
「断じて違うっ!!!」
朝からお下品だな、オイ。
「風邪引かれたら、お前の兄さんに何言われるか分からないからな。
それが怖いだけ」
そういや、白人は寒さに強いって、ちょっと前に親父から聞いたっけな。。。
水温が低い海でも平気で泳いでいる人がいるそうで逆に暑がりが多い。
黒人はその逆なんだとさ。
だから、問題無いのか?
う~ん、分からん。
飯を食べたら歯を磨き、寝癖を直してから顔を洗い、その後学生服を着る。
一連の流れ、高校の学生服にももう慣れたな。
気が付けば、もう少しで2年生だもんな。。。
「んじゃ、行って来るな~」
「ふぁ~い」
そんでもって、歯を磨いているニーナの間抜けな声を聞いたら、玄関へ向かい靴を履く。
何時もの靴の感触を確かめつつ玄関を開け・・・・。
おっといけね。。。
『あれ』を忘れてた。
「あれ?
トモ忘れ物~?」
「あぁ、ちょっとな」
俺は部屋に戻ると、一つの箱を机の中から取り出す。
コイツを貰ったのは俺の誕生日だったけど、ようやく出番だな。
こんだけ寒いとマフラーでもしていかないと、やってられないぜ。
俺が箱から取り出したのは、今年の誕生日に零奈から貰った白と青のストライプのマフラー。
零奈は買ってきたって言ってたけど、真相はどうなのか。
まぁ、そんな事聞かないけど。
これを使うのは初めてで、今日走ってる時にそろそろ良いかなと思った訳だ。
「あっ可愛いスカーフ~。
何処で買ったの?それ」
また、出て行く時にニーナに声を掛けられた。
スカーフなんか何処にあるんだ?
このマフラーの事か?
「スカーフ?
いや、これは何処からどう見ても毛糸のマフラーだろ。
スカーフはもっと薄いし、あんまり男は使わないし」
「あっ・・・そうなの?
英語ではスカーフなんだけどなぁ、マフラーはまた少しだけ違うんだよね~。
また一つ勉強になったな~」
ふ~ん。
そうか、英語じゃこれはスカーフなのか。
ふむふむ、俺も勉強になった。
「・・・それはいいけどさ。
いいのかよ、そんなのんびりしてて。
今日は一時間目から授業に出るとか言ってなかったか?」
ニーナは普通の英語教師と比べ、授業に出る回数は少ないから、
大概俺より遅く出発しても間に合うんだけどさ。
今日みたいな日は急がないと、一時間目の授業に間に合わないぞ。
「あれ・・・あっ!!
そうだった!!」
うん、完全に忘れてたね、この人。
「じゃ、先行ってるからなぁ~」
「は~い!!」
さっきと打って変わったニーナのしっかりとした返事を聞きつつ、玄関から外へ出る。
乾いた冷たい風が顔に当たって少し痛い。
けど首元はマフラーが良い感じに冷たい風から守ってくれてる。
良い感じ、良い感じ。
さて、俺が玄関から出て、道路を歩く事百メートル程の所。
右手には奴の家がある。
今日はどこからくるか。
「とうっ!」
俊一の家の前を通り過ぎようとした時。
何処かのヒーロー物の掛け声を発して、2階の部屋の窓から俊一が飛んできた。
高校に通い始めてから数ヶ月経った時から、俺が俊一の家を通り過ぎる時に、
俊一は家の何処かしらから俺の目の前に飛び出してくる。
ある時は普通に玄関から、ある時は塀を越えて、一番酷い時は屋根から飛んできた。
聞いてみたら、飛ぶ時のフォーム、着地の安定度なんかで、
今日一日の調子の良し悪しが分かるんだそうだ。
普通に玄関から出てきたら、調子は図るまでも無く最悪って事らしい。
んな馬鹿な。
「ふむ、今日も絶好調だ。
お、知樹、奇遇だな」
「奇遇が何ヶ月も続くかよ。
ほら、行くぞ」
俊一は明らかに俺が来るタイミングを狙ってる。
んな事ぁとっくに分かりきってる事。
数ヶ月前から毎日、俺と俊一の一日はこのボケとツッコミから始まってる。
仲が良いだこと。
「今新しいカイロの開発に取り組んでいるのだが、
昨日は成分の量を間違えて危うく火傷をしかけた。
まだまだだな」
歩き出した所で、俊一は俺の横でそんな事を語りだした。
頼むから、普段は高校生らしい事をしてくれ。
「気をつけろよ、ったく。。。
で、一体どんなカイロなんだよ?」
カイロなんかこれ以上進化のしようがあるのか?
「良くぞ聞いてくれた。
俺が作るカイロには特殊なボタンが付いている。
それは『リミットブレイク』ボタンと言うのだが、それを押せば中の成分が一気に反応。
一時的に超高温となり、護身用のアイテムになって敵を撃退。
さらにはシベリアみたいな寒い気候にでも対応できる。
ただし、注意点としては『自分が火傷』するということ位か」
誰が使うんだよ、そんなもん。
「しかも、あらかじめ用意したリサイクルパックを使えば、酸化した鉄を還元させ、
もう一度使う事が出来る。
これが地球にも、力が無い者にも、シベリアに漂流してしまった者にも優しい新世代のカイロなのだ」
地球に優しいのは分かる。
でも、護身用のアイテムで火傷したら致命傷だし、ここからシベリアにどうやって漂流するんだ。
教えてくれ。
「下らない開発するのはいいけどな。
周りの人に迷惑掛けるなよ?
お前の姉さん、もう直ぐ受験だろ?」
「心配するな。
最悪『火事』になる程度だろう」
「それをするなって言ってんだよ!!」
はぁ~・・・朝から疲れる。
これだけは慣れない。。。。
俺が溜息をつくと、その吐息は白くなって前方へと散らばった。
「あ、おはよ。
また溜息?朝から疲れててどうすんのよ」
すると、前方の曲がり角から零奈が歩いてきて、白い息を見るや否やそう言ってきた。
こっちだって、好きで溜息をしてる訳じゃないっての。
それにしても今日の零奈は、何時もは持ってないような大きな鞄を持っている。
何かあるのか?
・・・・あえて聞かないでおこう。
「お、零奈、おはよう。
そりゃさ、溜息もつきたくなるって。
こいつの話に一々ツッコミいれてたら」
「俺はボケてなどいないのだが」
「それをマジで言ってるから、コッチも疲れるんだって」
「そうか?・・・・」
そこら辺の理解力は一般人より低い。
まぁ、俊一ってのはこういう奴だ。
「と・に・か・くっ。
溜息なんかついてても仕方ないでしょ。
溜息をついたら幸せは逃げていっちゃうのよ?」
「「・・・・・・」」
「な、何で二人揃って黙るのよ。。。
何よその目はっ」
足を止め、黙り込む俺と俊一を見ると、零奈は戸惑いながら早口でそう言った。
だってなぁ。。。
「零奈が珍しく乙女チックな事言ってるなぁ・・・・と」
「うむ」
「・・・私がそんな事言っちゃ悪い?」
むっ、殺気。。。
「「いや、悪くない」」
何か久しぶりに俊一とハモったなぁ。
これも零奈の殺気を、同時に読み取った俺と俊一のシンクロ率故か。
こういう時だけは俊一と息が合う。
「はぁ・・・もうっ。
ん?・・・・・・あ、それ」
零奈は溜息をついた後、顔を上げると何かに気が付いた。
正確には、俺を見て何かに気が付いた。
「?」
「そのマフラー・・・。
ちゃんと使ってくれるんだ」
どうやらマフラーに気が付いたらしい。
零奈の顔がちょっとだけ笑顔になった気がする。
「当たり前だろ。
貰ったんだから、それも零奈から。
使わなきゃどうなることやら」
「うむ、そうだな。
やはり、知樹。
賢明な判断だ」
「あんたら、本当に殴るわよ・・・」
「「ごめんなさい」」
なんか今日は良くハモるな。
「で、どうよ、これ?」
早速聞いてみよう。
「どうって?」
「似合ってるかどうか、だよ。
あの時に、似合わなかったら~どうのこうのって、言ってただろ?」
「あ・・・え~と。
に、似合ってるわよ。。。
ていうか、私が編ん・・・じゃなくて、、、選んで買ってきたんだから似合って当然!」
「へいへい・・・これは失礼しました」
顔が真っ赤だ。
そこまで照れる話かね?
いや、風が冷たいだけか。
「・・・マフラー・・・そうか・・・!
新型カイロ・・・・マフラー型にすれば、遠距離攻撃も可能になるのでは?」
俊一。
もうカイロの話は終わってるから。
変な創造は頭の中だけでやってくれ。
怪我人が出る前に。
「ふぅ~・・・・流石に教室は暖かいな」
3人で教室に入ると思わず声が漏れる。
流石に改装工事があったばかりなので、暖房も最新式。
良い感じに教室内が暖まっている。
俊一と零奈はそんな俺の言葉に軽く返事すると、さっさと自分の席に向かって行った。
まぁ、俺の今の席は窓際だからな。
何時までも重い荷物持って、話す気は起こらないだろうから仕方ない。
それでも、いつも零奈は「アンタ達との付き合いより、女の子同士の付き合いの方が大事」って事で
女子のグループに混ざって行く。
女子の社会は、男子が思ってる以上に怖いんだとさ。
恐ろしや、恐ろしや。
一方、俊一は直ぐに机に伏せて寝る姿勢に入っている。
・・・まだ、朝だよな。
朝の空き時間に、無駄なエネルギーを使いたくないのか??
とまぁ、そんな感じで一人になってしまう俺に、近づく奴は一人しかいない。
『バシッ!』と背中を叩かれる。
「う~っす、知樹っ!
相変わらずの顔だな」
振り向けば、そこには笑顔の涼。
「ってか、それどういう意味だよ」
相変わらず冴えないとか、寝ぼけた顔、とかなら分かる。
相変わらずの顔ってなんだ。
「知樹は、知樹って事だ。
それより、聞いてくれ」
涼がさっきまで冷たい風に晒されていたであろう赤い頬を、俺の肩を寄せ俺の顔に近づける。
「・・・なんだ改まって」
「俺は今日ほど、冬の北風・・・いわゆる季節風・・・モンスーンに感謝した事はないっ・・・!!」
静かに力強く握り拳を作る涼。
「冷静に聞けば3つとも同じ風だけどな。
何か嬉しい事でもあったか?」
「よくぞ聞いてくれたっ!」
聞いてやったんだよ。
「俺の『どりーむ封筒!校内の激カワ女子高生BESTSHOT30~狙うならコノ子!~』に載ってる先輩をたまたま見かけたんだ」
「あぁ、あの誕生日に俺にくれる予定だった、可愛い女子生徒に頼んで、ってやつの事か?」
長ったらしいんだよ、名前が!!
「そそ、それだ。
その中に載ってる、番号21番の3年B組の工藤先輩なんだけどさ」
知らんがな。
「今日見かけたときに、突然強い北風が吹いてさ・・・見えたんだよ・・・。
そうさ、今時の女子高生は何でああもスカートを短くするのか!?」
なんかこの前も同じ展開だったような。。。。
「あのな・・・そういうネタは自分の心の奥底にだけしまっておけ。
それと、お前も今時の高校生だから、おっさん臭い事は言うな」
「・・・色が知りたいのか?」
「聞いてないから!
朝から下ネタはいらん!!」
顔も知らないってのに・・・。
・・・知ってても聞かないけど。
ったく、、、、涼もニーナもよく朝から不純な事が言えるよな。。。
さてさて、流石に授業の合間の短い時間に、俺の愉快な仲間たちか何かをしでかす事は無く、
このまま昼までフツーに過ごして、時は昼休み。
いや、まぁ涼や零奈はいつも普通だから、問題は俊一だけなんだけどな。
その俊一も最近よく授業をサボって何処かへ消えているから、休み時間は探しても見当たらない。
そんなんでも定期テストはほぼ満点。
常に学年順位一位をキープしている、真面目に授業を聞いてる俺達の身にもなってくれ。
「俊一、購買行こうぜ」
とは言っても昼休みになると、何時の間にか席に戻っている不思議。
「あぁ」
そんでもって嫌な顔一つせず、俺と一緒に購買への勧誘に返事をする。
「ちょっとまったぁ!」
すると、零奈が俺と俊一の目の前に歩いてきて、大きな箱を鞄から取り出した。
あれは確か朝に気になってたけど、あえて聞かなかった鞄だな。
「何だよ・・・これ」
「何って・・・決まってるじゃない。
お弁当よ、お弁当っ。
皆の分を全部作ってきたの、朝凄い早く起きたんだから」
自信満々に答える零奈。
そしてうろたえる俺と俊一。
思わず顔を見合わせる。
説明しよう。
過去に一度だけ・・・。
中学時代に一度だけ、零奈は手作りのお弁当を学校へ持ってきた事がある。
そして、零奈の料理の実力を知っている俺達にそれを勧めてきた。
すでに弁当の見た目がイエローカードだった事は言える訳が無い。
幼馴染で性格もアレな零奈とは言え、心は女の子。
零奈の気持ちも考えて食べようと決心した俺達を待っていたのは悪夢。
そうナイトメアだ。
内容は・・・思い出すと今の食欲に影響するから止めておこう。
しかし、言っておこう。
味は前のイエローカードも関係無く、即退場の味だった。
そして、今!
俺と俊一の目の前に出された一つの箱。
多分大きさからして、4人前はある。
「・・・もしかして中学校の時の事思い出してない?」
「思い出すも何もトラウマだって」
「見てなさい、私だって一生懸命やれば出来るんだからっ!」
そう言って、零奈は勢い良く弁当箱の蓋を取った。
「おぉ、見た目は良いぞ」
「うむ、見た目は」
「『は』を強調するな~!
味だって自信あるんだからっ」
でも、見た目が進歩したってのは大きいと思う。
多分この間一緒に買った料理本を見て凄い研究したんだろうな。
野菜も多く入ってて彩り鮮やか、栄養面もまぁまぁ良さそう。
口には出さない。
何せ味は未知数だ。
どこかに味見・・・いや、毒見役はいないのか。。。
・・・・今、俺を酷い奴だと思っただろ。
確かに!俺は最低の人間かもしれない!
でも、そこのアンタも零奈の料理を食ってみれば分かる。
本当に不味い物を食べた人になら分かるはずだ!
人の立場に立って分かる事もあるんだ!
「おっす、みんなもう飯買ってきたか~?」
ちょうど良い所に涼がトイレから戻ってきた!
俺と俊一の目が光った事はお互いしか分かるまい。
「いや、飯は買わんくっても良い!!
ここに、あの零奈が作った手作り弁当がある!」
「おぉ!!食べてもいいんすか!?」
弁当が置かれている机に身を乗り出す涼。
おぉ、そうか嬉しいか!
無知は悲しい事だ。
「いいわよ、きっと3人じゃ食べきれないから」
「よっしゃ~~~~」
そう言って、一人興奮しながら自分の机からイスを運んで座り、箸を取り出す。
「いただきま~~~す・・・・パク・・・・」
そして、弁当の中心にあるハンバーグを丸まる1個口へ運んだ。。
『モグモグ・・・・』
「・・・・ん?」
笑顔だった涼の顔つきが変わった。
明らかに変わった、悪い方向に。
「・・・・ん~~~~!!!」
今度は苦しみだした。
だが、確実に口は動いており、徐々に頬の膨らみが小さくなってきた。
『ゴクンッ!!』
そして、口の中の物を逃がす様に飲み込む。
「っぷは・・・・お、美味しかったぜ・・・・」
「嘘付け」
涙目になりながら、全力で嘘を言っても通じるか!
「でも・・・少し、しょっぱいかな~と・・・」
「・・・?可笑しいわね・・・・」
恐らく涼のリアクションは正常かと。
んで、多分少しじゃなくて『かなり』しょっぱい物かと。
「ご苦労だった。
涼、これを飲め」
俊一は自分の鞄から、コーラが入ったペットボトルを涼に渡した。
珍しいな、俊一が礼をするなんて。
よっぽど零奈の料理を警戒していたんだろうな。
「おっ、サンキュ。
早速・・・・『ゴクゴクッ・・・』・・・・な、な、何だこれっ!!!
すんげぇ酸っぱい!?」
涼はボトルを開けて、一気に中身を飲みだすも目を見開き直ぐに口を離し叫んだ。
酸っぱい?
見た目は普通のコーラだけど。
「やはり・・・お酢とコーラを混ぜるのは失敗だったか」
「失敗!?俺で実験すんなよっ!!!」
・・・この期に及んで尚も妙な研究をする俊一。
流石です。
「で、どの様な味だ?
その俺が作ったミラクルドリンク『酢コーラ』は?」
そのスコールみたいなネーミング止めろ。
似てるのは名前だけだろ、味はスコールの方が何万倍も美味いはず。
「酢のものすごい酸っぱさと、コーラの微妙な甘さが混ざったクソ不味い味」
まんまじゃねぇか。
「成る程・・・甘酸っぱい・・・・。
よし、キャッチコピーは『青春の甘酸っぱさが蘇る味 恋の酢コーラ』だ」
それって『愛のスコール』じゃねぇか!!
キャッチコピーまでパクるなよっ!!
「売れるっ!!」
「売れねぇよ!!」
涼まで乗っかるんじゃない!
お前被害者だろ。。。
「あのなぁ・・・お前等ふざけてないで―――――」
「隙ありっ!」
俺は俊一と涼を止めて、この零奈の作った大量の弁当をどう消費するかについて言及したかっただけだ。
なのに・・・・・。
何故俺の口におかずが突っ込まれてるんだ!?
「ふふ~ん・・・こんな可愛い子に食べさせて貰ったんだから美味しくないはずが無いわよね?」
もしや、零奈が俺が口を開くのを待ってたというのか!?
そして、箸で俺の口におかずを捻じ込んだのか!?
女の子の箸からおかずを貰うという行為・・・これはもしや。。。
たとえ幼馴染とはいえっ!!!!
・・・こんな形で・・・・!!!
こんな形で人生初の『あ~ん』が終わってしまうとは!!!
いや・・・初の『あ~ん』は零奈からでも良いんだ。
ただ、口に無理やり捻じ込むってのはさ、可愛く無いだろ。
もっと笑顔で・・・または、恥ずかしがって頬を赤くしながらとか。。。
そういうシチュエーションをっ!!!
いやいや、何を言っている。
過ぎたことを後悔するな。
それよりも決定的な事実があるじゃないか。
特に俺の口の中に。
マズッ!!
いや、何を突っ込まれたか分かんないけど。
良く分からない、甘さや辛さが入り混じったような味・・・・。
上手く飲み込んだけど何だったんだ、あれは。
「零奈っ!!
今俺に何を食わせたっ!?」
「エビチリだけど」
え・・・エビチリッ!?
甘さや辛さは間違いではないけど、エビチリの味じゃなかった!!
エビの食感も分からなかったし、一体どうなってんだ!?
「・・・・酢コーラ飲むか?」
「いらんわっ!!!」
すかさず、俊一の追撃。
お見事。
「・・・・まぁいい、それでは次の飲み物の―――――
「隙ありっ!」
「なっ・・・・ごふっ!?・・・・」
俊一の口に箸が突っ込まれた。
俊一。
さらばだ。
時は巡ってもう下校時間。
一日って早いなぁ・・・・こうすると、卒業まであっという間かもな。。。
おっと、まだ早いか。
何時もの俺と俊一と零奈での下校ルート。
涼の家は俺達とは逆方向だから、いつもいないんだけどさ。
最近、同じ方向に家があるらしい冬香を誘っているらしい。
『もう、冬まで・・・雪のシーズンまで時間が無いんだっ!』
と、言っていた。
どうもあの時の妄想ストーリー『俺ドMだから』を本当に実行する・・・かどうかは知らないけれども、
冬香の事は本気らしい・・・・いや、分からんけども。
別に冬香は嫌がって無いみたいだけど、どうなるのかね?
「しかし、今年の冬は計画が多くて困る」
俊一が急にぼやきだした。
またあの色んな実験の話か?
「あのなぁ、朝も言ったけど。
実験とか発明も大概にしろよ?」
「何を言っている。
忙しいとはその事ではない」
「・・・じゃ、何だよ」
「例えば、山へスキーへ行ったり、何処かでキャンプ等だ」
何だよ、何処かでキャンプって。
「でも、面白そうよね。
皆でスキーに行ったり、スケートに行ったり」
「まぁな。
それは言えてるけど」
「それに、年末には恒例の『知樹の家で年越し&お正月大パーティー』もある」
「何時の間にか、恒例になってるみたいだけど、俺は認証した覚えは一切ないからな」
小学生の頃に俺の両親が俊一と零奈を呼んでから、毎年こいつ等は俺の家に数日間寝泊りしていく。
まぁ、俺も面白くないわけじゃ無いんだけどな。
お正月番組をひたすら見てるよかマシさ。
「今年は人数も多いから、心しろ。
正月が終わる頃には知樹の家が、廃墟になっているかもしれん」
「どんな計画してるんだよ!?」
「安心しろ、冗談だ。
だが、先程言った発明も大切といえば大切だ。
何とか年越しまでに、何処にいても初日の出を真っ先に見る事が出来る様に、
高い所から風景を見られる特殊スコープ『初日のスコープ』を完成させなければ」
何でそんな用途の少ないもん作ろうとするんだ。
「でもさ、その時の御節料理とか作るの全部俺なんだぜ?
俊一も手伝ってくれよ、涼も誘うからさ」
「じゃあ、私が手伝う!」
「「全力でお断りします」」
零奈。
もう少しお料理を勉強してからにしような。
「ただいま~」
うっし・・・家に到着~~。
疲れた、疲れたぁ。
俺が靴を脱ぎ始めると、奥から満面の笑みでニーナが走ってきた。
「あっ・・・お帰り~~~。
ご飯にする?
お風呂にする?
それともア・タ・シ?
あっ・・・でもご飯とお風呂も準備してないから、やっぱり私を・・・」
家に帰ってくると5割の確立でこの台詞。
「じゃあ、暖かい紅茶っ」
「は~い、分かったぁ」
もう返しなれてるせいか、一々突っ込まないし、ニーナも笑顔のまま台所にドタバタと走っていく。
んで、俺が着替えを終えると机には暖かい紅茶がある。
流石のニーナでもお茶くらいは普通に入れられる。
というか、雑なだけで普通に料理も出来るみたいだけど、
面倒くさがりだからか、たまにしかやらない。
でも朝飯は絶対に頼まない、これは朝の話の通り。
「ニーナ、今日の晩御飯何がいい?」
とまぁ、ソファーで隣同士に座りながら、こんな普通の会話をする。
実にまったりな平日の夕方。
「う~んとね・・・・あっ・・・ロブスター!!」
「無いわっ!そんなもん!!」
途中、何に気が付いてロブスターになったんだ!?
「え~・・・だって、食べたいものって言ったから・・・」
「無理を言うな、無理を」
これだからお嬢様はっ!
「じゃあ、そうだなぁ~・・・・パスタ料理とかは?」
「スパゲッティか・・・確かパスタはまだあるし。
大根も、しその葉もあるな。。。
よし、んじゃ今日は『しその香り立つ和風スパゲッティ』を作ろうかな」
「スパゲッティなのに和風なの?」
ニーナが首を傾げる。
確かに疑問に思うかもしれないけど、食べれば分かる。
「そうそう。
パスタの上に大根おろしを乗っけて、和風のスープをかけて、細く刻んだしその葉を乗っける。
こんだけでコッテリした洋風パスタとは違う、サッパリした和風パスタの出来上がり」
「へぇ~、美味しそうだね~。
早く作って、作って!」
ニーナが立ち上がって、俺の体を持ち上げようとする。
「ちょっと、こそばゆいから止めろって。。。
まだ、早いから我慢だっ。
そしたら例え口に合わなくても、美味く感じるから」
「『空腹は最大のスパイ』ってやつ?」
「スパイじゃない、スパイス!!」
お前が横文字を間違えるなよっ!
その後、夕食に出した俺のパスタ料理はニーナに大絶賛。
好物リストにまた一つ和風パスタが加わったらしい。
良かった良かった。
飯食った後は、風呂に入って宿題や予習なんかを終わらしたら就寝。
いや~、今日も色々あったけど、無事終了。
それじゃ、また今度な~。
近況報告で書いた通り、何の山場も無い話。
元々、そんなもの無いですが。
まぁ、次回の予告的な感じで、俊一の話の通りです。
冬は色々あります。
雪で滑ったり、するかもよ。
・・・特に深い意味は無いです、はい。
涼と冬香の関係は、妄想は現実となり「ドM」宣言をするのか。
乞うご期待。