荷物持ちと言う名の何か~後編~
「んじゃ、お腹空いたし、お昼ご飯でも食べよっか」
買い物に付き合わされ続けて、1時間。
時計を見てみると正午を少し過ぎた頃だった。
「お昼を食べる事には異論は無いけどな。
これだけ回って、買い物袋が一つも無いのは如何なものか」
あぁ、そうさ。
さっきまで心の中では、荷物が多くて地獄を見るだろう、とか嘆いてたよ。
でもさ、これだけ連れ回されて、一つも買い物をしてないというこの状況。
文句の一つ位出てもいいだろ?
「何言ってるのよ。
いいじゃない、荷物が少ないんだから。
それに!一応頭の中で記憶してるのよ、どれが良かったか」
「ほう、流石零奈様。
計算高いお方だ。
そっちの方が荷物持つ時間が減る分負担も減るし、助かるよ。
それで、今の所のお気に入りは?」
「え~と、さっきの店で最後に見たコートでしょ。
3つ前の店の柄が可愛かったワンピでしょ。
後は・・・・ん~と・・・・何処だっけ?」
聞くな。
「覚えて無いって、、、それは無いぜ・・・。
今までの苦労は一体・・・・?」
「ちゃんと二つ覚えてたわよ」
逆ギレ!?
それも最近の二つを覚えてただけでその態度!?
「あ、お昼ご飯食べたら思い出すような気がしてきたな~。
さぁ行くわよ!」
なんと無理やりな。
「食べたら思い出すとか、聞いた事無いんだけど・・・」
「一々文句言わないっ!
ほら早くっ」
いや、これは文句じゃなくてですね・・・もういいや。
「・・・じゃ、零奈の食べたい物で良いから。
ご自由にどうぞ、俺は勝手に付いてくから」
「あっそう。
じゃあどうしようかな――――――・・・」
『ジュワーーーー』
目の前で、良い音を出しながら肉が焼かれている。
嫌いじゃないぞ、この音。
しかし、一つ言わせろ。
「昼から焼肉とか無いっすわ。
普通に無いっすわ。
マジないっすわ」
思わず一つ所か、3つ同じ様な事を言ったけど、気にするな。
さて。
様々な飲食店が並ぶ3階にて、零奈が数十分悩んだ末に入った店が、焼肉店。
一つの鉄板を挟んで向かい合う俺と零奈、それも昼真っから。
客とか全然いないし、この時間にやってる意味ないだろ。
・・・後で臭いが付いたまま売り物の服を試着して回るつもりか、零奈は。
図太い神経してやがるぜ。
「いいじゃない、昼から焼肉とか新鮮だし」
そういう問題か?
俺の中では昼から焼肉は考えられないんだけど。。。
昼間でもそこそこ客がいるから不思議だ。
「太ったりとか、気にしないのか?」
高1つったら、ダイエットに奮闘する年頃だろ、多分。
「いいのよ、これ位の年ならきっと脂肪は胸に行くはず。
きっとそうよ、お腹の方じゃなくて胸の方にっ」
口をキュっと締め、胸の前で強く握り拳を作る零奈。
何の意思表示だよ。
「しかも、ホルモンばっかりだし。
どうなってんだよ?」
もう昼間に焼肉は無理と言う概念は捨てて、いっその事注文の中身について言及してみた。
対応力のある男だぜ、俺は。
「そういうアンタも鶏肉ばかりじゃない。
牛を食べなさいよ、牛を」
痛い所を突かれた。
そう、零奈の言うとおり俺は鶏肉しか注文していない。
俺は鶏肉派なんだ。
他の肉も食べられるけど、選べと言われたら即効鶏肉だ。
「今まで言ってなかったけど、俺、鶏肉派だから」
「あ、そうなの?
こんなの何処が良いのよ?」
こ、こ、こんなのだと・・・・・?
「・・・ならばお教え致そうっ」
「何よ、改まって・・・」
零奈が若干怯んだが、俺の情熱は止まらない。
語らせて貰おうっ!
「鶏肉の皮がこんがり焼けた所で、塩コショウを程よく振り掛け、口に入れる。
その時のスパイシーな香りと、カリッと言う食感、溢れる肉汁・・・まさに至福っ!
さらにっ!
家庭で楽しもうと思えば、リーズナブルなお値段でスーパーでも買う事が出来る!
どんなに安くても塩コショウで美味くなるのだ。
さらに唐揚げやグリルにレモン汁をかけたり・・・。
トマトソースなんかで煮込んでも絶品!!
皮を取り除くのは俺にとってはナンセンスだが、カロリーが低くなりダイエットの強い味方にもなる。
焼く時間が長い事を除けば、まさにパーフェクトな食材なのだ!!!」
ふぅ~・・・少し俺のチキン愛に火がついてしまったぜ。。。
ついつい長話になっちまったが、
鶏肉を美味しく食べるなら、皮をこんがり焼く為にも長めに焼く事が肝心。
これくらいがちょうど良いのさ。
「でもそれだったら家で食べた方がいいんじゃない?
やっぱりこういう所なら、家じゃ中々食べれないものを食べなきゃ」
・・・・・・盲点!
「い・・・いや。
そんな事は無い、このような場で食べるからこそ意味がある!
・・・と信じたい」
「明らかに動揺してるじゃない」
全てにおいて図星だけど、まぁいい。
そろそろ、食べ頃だ。
俺が置いた鶏肉は3つ。
今まで零奈だけが自分のホルモンを淡々と食べているのを、我慢して見ていた甲斐があった!
塩コショウが彩るこんがりチキン!
美味そうだ。
「いただきまぁ―――――――――――――
「でも、話し聞いてたら美味しそうに見えてきたから一つだけ、も~らおっ」
俺の箸が空を斬る。
『パクッ』
――――――――――――あぁぁぁぁぁ!!!!」
「あふぃへど、もぃひぃ」←満面の笑みで口を手で覆いながら「熱いけど美味しい」
な・・・・な・・・・な、何という事だ・・・・。
俺が長い時間かけて、大事に見守りながら焼き上げた鶏肉が、零奈の口へ・・・。
あいつはきっと鉄板の上で俺に食べられたいと思いながら、
一生懸命頑張っていたのに。。。
あっ・・・零奈の頭の上に、眩い光を放つ一羽の鶏がっ!!!
『知樹君に食べて欲しかったチキー・・・・・・』
おぉ、、、何という事だ、あれはチキンの精霊だ!
零奈に食べられたチキンの精霊の悲しみに満ちた声が聞こえるぞ!!
本当にすまなかった、いや、申し訳在りませんでしたっ!!
語尾が『チキー』なのは気にしないっ。
何せチキンの精霊だ、可笑しくはない。
・・・・・いや、可笑しいだろっ!!!
ブルブルッ!
目を瞑って首を振ってみると・・・あ、消えた。
やっぱり、幻か。
「何で、首振ってるのよ?」
「チキンの精霊が・・・じゃなくてっ!!!
勝手に食べるなよっ、俺が一生懸命に見守った3つの内の一つなんだぞ?
3分の1だぞ?
円柱の体積から円錐の体積が求められちゃうぞ?」
「数学は関係無いわよっ」
「意味の無い一言だって必要だろ。
何せ、無駄な事が出来る生物は人間のみなんだから」
「急に哲学的な話にするなっ!」
『バシィン!!』
「くぅ・・・何で俺が叩かれなくちゃいけな・・・・ん?」
何か焦げ臭いぞ?
・・・・・あぁぁぁ!!
「あ~あ~」
焦げてるよ、焦げてるっ、俺の鶏肉が二つとも!!
『熱いチキー』
『知樹君、酷いチキー』
あぁぁ!!
もうお前ら出てくるんじゃねぇよ!!!!
・・・・俺の鶏肉・・・・が・・・。
時間は午後一時。
惜しくも三つの鶏肉が犠牲となった店を後にした俺達だったが、
何処に行くかは零奈次第なので、俺は零奈の後ろについて歩いている。
「ふぅ・・・お腹もいっぱいになったし、何処に行こうっか?」
零奈が手を後ろで組みながら、くるりとこちらに振り向いた。
この動作は可愛らしくて嫌いじゃない、けどそれよりも俺が焼肉の代金を払わされた事の方が・・・。
逆らえないのは辛い。。。
まぁ、あれからは何の問題も無く食べれたからいいけどさ。。。
「服の買い物はどうしたんだよ?」
「焼肉の臭い付いちゃってるから、試着出来る訳ないでしょ。
どこまで図太い神経してるのよ、アンタは」
・・・・すんません。
ん?でも、待てよ?
「でもさ、それじゃあ普通のデ――――――」
「あ~!!ダメダメそっから先は言わないでっ!」
俺の言葉を遮るように、俺の顔の前で手をバタつかせる零奈。
何なんだよ一体。
「焼肉の臭いが付いちゃったから、仕方なしに暇つぶしするのっ!
だからこれは・・・その・・・そういうのじゃないわよ・・・きっと」
「??
まぁ、それならそれで良いけどさ」
「でも、こういう時の為に消臭剤位は用意したから・・・えいっ」
「うぉ!・・・急に顔にかける奴があるか!?」
目に入ったらどうすんだ!?
※良い子も悪い子も大人も真似しないでね。
つ~か、こういう時の為?
焼肉食べる準備を常日頃してるのか?
そんな事って・・・・・・あぁ、なるほど。
よほど焼肉が好きなんだろうな。
納得納得。
今度、家で何かしらやる時はホルモン焼きでも用意してやるか。
「やっぱり食後と言ったら、美味しいケーキを食べる。
そう決まってるわね」
「いや、決まってはいないと思うけど・・・」
結局そのまま同じ階を歩き回った結果、そういう結論になったそうで、
零奈が気になる店に二人で入っては、食べたいものを互いに買って・・・・。
いや、俺が払わされたんだけど。
まぁいいや、とりあえず空いている二人用の円形テーブルの席に、向かい合って座った所だ。
実際はケーキだけじゃなくて、
様々な種類のプリンやパフェなんかも食べられるらしく、
日曜というだけあって多くの客で賑わっている。
店の内装は女性向けなんだろうな、明るい色に、店内の装飾品やイス、テーブルなんかは可愛らしいデザイン。
これまた繁盛の要因じゃないかな、と思う。
「それじゃ、いたただきま~す・・・・。。。
あっ、美味しいこれっ、やっぱり私の目に狂いは無かったわね」
零奈が食ってるのは、ナントカカントカっていうイタリア語かフランス語か知らないけど、とにかくブルーベリーやらいちごやら
フルーツがふんだんに使用されているケーキだ。
生クリームにもフルーツの風味があるらしく、全体的にカラフルで確かに美味そうだ。
んで俺が買ったのは、普通のガトーショコラ。
なんか選ぶのメンドイし、テキトーに選びました。
いや、まぁちょっとした狙いもあるんだけど。
じゃ、いただきま―――――
「あ、それ美味しそうね」
『パクッ』
―――――あ、また食べられた。
別にさっき程悔しそうじゃないって?
だってチキンの方が愛がこもってるし、何より予想できたし。
『知樹君、ボクの扱いが酷いガトー』
おぉ、今度は零奈の頭の上に、羽の生えた茶色の丸い物体が!!
あれはきっとガトーショコラの精霊だっ!!
よし、今度はテレパシーを送ってみよう。
(お前は誰だ)
『ボクはガトーショコラの精霊の加藤ですガトー』
通じたぞ、恐らく世界で始めてだろう、ガトーショコラと話せた人は。
しかし、何で加藤なんだ????
(加藤?あぁ、なるほどガトーだからカトーって・・・・うるさいわボケッッ!!)
『ガトォ~~~~』
俺がより一層強い念力を送ると、ガトーショコラの精霊は何処かへ飛んでいった。
・・・・ここまで書くと、頭可笑しい人みたいに見えるけど、嘘だから、半分。
へ?
何処からが本当だって?
それを聞いちゃあ、おしめぇよ。
「これも美味しい~、知樹も中々やるわね・・・」
零奈が俺のガトーショコラを飲み込むと、罪悪感ゼロでそう言った。
だが、その様な事は気にしてはいられないっ!!
さっき言ってた『ガトーショコラを買った、ちょっとした狙い』って奴をここで決めるっ。
俺が今まで生きてきて『この瞬間に言おう』。
そう決めた改心のギャグがあるのだっ!!
いくぞっ。
「お褒めの言葉ありガトー―――――――――」
殆ど言ってしまった所で零奈の冷たい瞳が目に入った。
「―――――・・・・ショコラ・・・・・」
「・・・・・・・」
な、何だこの間はっ!?
俺が長年温存してきた
『ガトーショコラを食べた際、褒められた時に大ウケする改心のギャグ』
という超チャンスの少ない難易度トリプルSのギャグを披露したのにっ!!
「・・・・ははは・・・・やめた方が良いよ、そういう親父ギャグ・・・」
冷たい目でみるなぁ~~~!!!
苦笑いするなぁ~~~~~!!!
俺の会心のギャグでドン引きとか止めてくれぇ!!
「待て待て、今のは冗談だからっ」
ちょっとややこしい文になった。
「分かるわよ、それくらい。
ガトーショコラとありがとうを掛けて――――」
「そうじゃなくて、今のギャグを言った俺自身が冗談だったって言うか・・・。
あぁ・・・ややこしいっ!
つまり、俺はさっきみたいなギャグを、いっつも言うような人間じゃないって事だ」
「・・・あっそう、別に良いけどね。
場の雰囲気を和まそうとやってくれたんでしょ?」
「ま、まぁ一応な」
「でも、女の子を笑わそうと思ったなら、もうちょっと考えなさいよ」
「・・・ごめんなさい」
何か謝らされてる。
こんなはずじゃなかったのに・・・。
ガトーショコラの馬鹿ぁぁ!!!
『ごめんなさいガトー』
お前はもう出てくんな!!!!!
「・・・もぐもぐ、、、、さっきのギャグと違って本当に美味しいわね、ここのケーキ」
「さっきのはもう忘れてくれ」
心にグザグザくるんです。
助けて。。。
「アンタもこれくらい作れないの?」
「・・・無理に決まってんだろ。
俺はパティシエでもなんでもない、そこらに居る普通の料理好きだ」
まぁ文化祭の時には俺と量でパフェを大量生産した事もあるけどな。
特に涼が。
でも、ケーキは勝手が違うだろ。
「何だ、つまんないわね」
料理すら出来ない人間が何を言うか。
「あ、今、お前は料理すらできないくせに・・・、とか思ったでしょ~」
零奈に指を指され、思わず目を背ける。
つか親子揃って心を読むなっ!
「思ってないっす」
「はぁ、隠さなくていいわよ。
ど~せ私は料理も出来ないし。
『家庭的』って言葉には無縁の女ですよ~」
急に机に人差し指を押し当てながら、いじけだした。
「まぁまぁ、そうめげるなよ。
今時の男には料理が出来ない女子に惹かれるって事もあるし」
「そうなの?」
零奈のいじける動作がピタリと止まった。
「いや、無いな」
「どっちなのよ~」
泣くな。
でも零奈をからかうのが、少し面白いのは否めない。
「と言うよりも、勉強も出来てスポーツも出来て容姿端麗みたいな完璧な人に
何か一つ欠点があると、グッとくるみたいな事らしい」
「分かるような、分からないような・・・」
「だから、零奈にも当てはまるんじゃないのか?」
「え?」
鳩が豆鉄砲食らったような顔をするな。
いつも自分を褒めまくってるくせに、こういう時は鈍いって言うか。
「だってさ、勉強も俺よか出来るし、スポーツだって女子の中じゃ出来る方だろ。
文化祭の時も男子からの投票で上位に入ってたし、でも料理は苦手」
大体当てはまるよな。
確かに。
「・・・・・・」
何故かだんまり。
どうやら何か考えているみたいだけど。
「あ・・・あのっ、だったら!」
10秒程で零奈の口が開いた。
黙っていたのにも関わらず、口調は強め。
しかも顔が若干赤い、何なんだ?
「もし・・・もし!だからね?
飽くまでも、参考にするだけだから・・・」
「分かった、分かったから。
何だよ、一体?」
「もし知樹が私と付き合うとしたら、私みたいなのはイヤ・・・かな?」
・・・・それはまた急な質問て言うか。
幼馴染だし、そんな事考えた事すら無かったなぁ。
零奈が彼女ねぇ。
そりゃ性格はお世辞でも大人しいとは言い難いし、直ぐに殴るし、料理も出来ない。
こう考えると色々問題はあるけど、傍から見ればさっきも言ったとおり完璧な美少女。
う~ん。。。。
「これはさ。
飽くまでも俺の意見で良いんだよな」
零奈が真剣な眼差しで俺の目を見つめながら頷いた。
「俺の場合はさ、さっき自分で言ってたのと違うんだよなぁ。
勉強が出来るとか、スポーツが出来るとか、外見が可愛いとか、料理が上手いとか。
そんなんじゃ無いな」
「え?・・・・じゃ何?」
「やっぱりさ、お互いの個性にあると思う、助け合える個性がさ。
一人が料理出来なきゃ教えれば良いし、勉強できなくても教えあえば良いし。
スポーツにしたって、そうだな、、、助け合えばきっと上手くいくと思う。
それならさ、きっと楽しいだろ?
問題は何が出来る出来ないかじゃなくて・・・何て言ったら良いのか分かんねぇけど。
つまり、その出来る出来ないの関係を楽しみに変えられるかどうかだな。
二人とも完璧だったらつまらないし、二人ともダメダメでも同じだろ、多分」
もっとも、同じ趣味を共有するっても有りだけど、
何かしら違いが欲しいはずさ、きっとな。
やっぱ自分と違う何かを持ってるって事かな、俺の場合は。
「・・・・・」
『ベシッ!』
「いってぇ!
何で無言で叩くんだよ!?」
「何かあんたの言ってる事聞いてたら、イラっとしちゃってね」
ムスッとした顔で言う零奈。
何だ、機嫌悪くしたのか?
「でも・・・ありがとね。
真剣に答えてくれて」
と、思うと直ぐに笑顔になった。
何時もの事だから、驚きはしないけど。
「あぁ、別にいいって。
俺のつまらない話で日曜の貴重な時間を潰しても良いなら」
「ほんとよね。
何聞いてるのかな~、私」
そこは否定しろよっ。
「で、結局どうなの?」
「へ?何が?」
「もし私と付き合うとしたらって話よ」
「あ~~・・・そうだな。。。
別に良いと思うよ?」
零奈の良い所も悪い所も知ってるし。
俺ならカバー出来そうだもんな。
たださ、それは一人の女性として見るならの話。
零奈を合わせて、俊一とか涼とか色んな関係があるだろ。
結構さ、怖いんだよね。
その関係が崩れる事がさ。
「えっ!?」
「何でそんな驚くんだよ?」
「べ~つにっ」
・・・何時にもまして笑顔が眩しいのがムカツク。
もしかして、からかわれてる?俺。
こうなったら俺も少し意地を悪くしてみよう。
「あ~~・・・・そうだそうだ。
一つだけ言い忘れてた」
「何よ」
「料理くらいは出来た方が良いかな~、と思うぞ。
多分さっき言った、料理下手な女の子に惹かれる男子は少数派だから。
俺は料理は出来た方が良いかな~」
助け合えるとかどうとか言ってたけど、要は相性だし。
今の一言で、俺のさっきの熱弁がほぼ無になったような気がするのは、気のせいです。
「えっ・・・それじゃ、私完璧になっちゃうわよ?」
「ならない、ならない。
何よりその乱暴な性格が大きなマイナスだ」
『ベシィン!!』
「痛っ!!」
だから、そういう所の話だって!!
その後。
店を出た俺達は、零奈の記憶が確かな内に、
零奈の気に入った服を買いに行くことにした。
勿論、大半の品は忘れていたけど、もう一度同じルートで店を回る事、2時間。
ようやく零奈の買い物が終了し、俺の両手は洋服店の袋で完全に塞がれている。
かなり重いからか、指の一部に血が通ってない。
くそっ、指の感覚がっ・・・・指達も苦しんでいるのが分かるっ!
流石に指の精霊は出ないけどね。
出ても構ってやる余裕ないし、何より気味が悪そうだしな。
「あのだな・・・一つ位持ってくれても良いんじゃないのか?」
俺は一つ提案をしてみた。
地獄を見ている俺と比べ、零奈は鼻歌交じりで俺の横を歩いている。
もちろん手ぶらで、明らかに余裕綽綽だ。
「今日の知樹の仕事は何だったっけ?」
笑顔でこちらを見て聞いてきた。
「荷物持ちですけど」
「はい、当たりっ。
じゃ、頑張ってっ!!」
えぇ、会話終了!?
アンタにゃ慈悲とかないのかよっ!?
う・・う・・・・ようやく今ショッピングモールの入り口だぜ?
ここまででも大変だったのに、ここからバスに乗って零奈の家まで・・・。
バスでも座れるかどうか分からないし・・・。
聞くんじゃ無かったなぁ、願い事なんて。
ロクな事ないもんな・・・ったく。
泣きたい。
このような頼みを易々と受け入れた自分に対して泣きたい。
「あ~~・・・・そうだそうだ。
一つだけ言い忘れてた」
愚痴り路線まっしぐらだったけど、唐突に零奈の口が開いた。
それもさっきの店での、俺の最後の話の口調を真似して。
「買いたい本があったのを思い出したわ」
「本っ!?
本屋って言ったら、4階だぞ?
そういう事は入り口に着く前に言ってくれっ」
零奈の口角が少しだけ上がった。
さっきの仕返しなら、もう受けてるはずだぞ!?
思いっきり殴られてっ。
何にせよ・・・計りおったな、この女っ。
「・・・でっ?
どんな本なんだよ?」
俺を苦しめる為だけに、デタラメに4階の本屋に行きたいとか言い出してないかと、
ちょっとだけ確認してみる。
「・・・・・・」
するとちょっと黙りこんだ後に、早口で喋りだした。
「・・・これは別にさっきの話を聞いたから欲しくなった訳じゃないからね。
ちょっと前から欲しいなぁ、って思っててそれでっ」
「分かったから、何だよ」
「・・・料理本」
料理くらい、教えるよ。
それもまた助け合いだし。
とか言えば、俺は重たい荷物持って、4階まで行かなくてもいいかもしれないけどさ。
恥ずかしそうに顔真っ赤にして、そう呟いた零奈見たらさ。
んな事言えないよな。
しゃあない。
「んじゃあ、まぁ。
ワガママなお姫様の為に、戻るとしましょうかね」
「・・・うるさい」
悪いな。
もうちょっと辛抱してくれよ、俺の指達。
どうも読んで頂きありがとうございます。
この話は、久しぶりに第一話から話を見返してから書いたので
ボケが初期の話の時のボケに近いかな、と自分では思います。
あの訳の分からない、ノリ。
さて、途中は零奈に否定的な感じだった知樹でしたが最後は
彼なりの優しさを出してます。
あ、あと、時々からかうのは、からかうのが面白いのが分かってるからです。
小学生の時に、好きな子に構って欲しくてとか言う理由では有りません。
彼らは高校生ですしね。
まぁ、こんな事は書かなくても良いとは思いますが。
しかし、あれですね。
流石に書く側も思いますよ。
『気づいてやれよ、知樹』って。
・・・何気に知樹が読者から嫌われてそうで怖い。
主人公は愛しましょう(何
それにしても、何気に書いてて楽しかったです、この話は。
大まかに決めて残りは、基本ノープランで書いてるので
ボケの場面は本当にその場で思いつくだけです。
妖精とか何故思いついたのか、自分でも分かりません。
でも何故か書いてる時は、楽しくて指が止まらない。
はっ・・・さては新手の精神系の病か!?
・・・いや、それはないですね。
皆様も健康にお過ごしください。
ではでは。