芸術って忙しい
夏が終わったら、今度は何が来るか。
そう秋だ。
誰が言い出したか知らないけど、秋と言えば――――
食欲の秋。
読書の秋。
スポーツの秋。
まぁ、色々あるけど、今日の学校行事はもう一つのアレだ。
「皆さん、今日は天気にも恵まれて絶好の写生大会日和です。
学校の伝統行事でもありますので、はりきって行きましょ~。
あ、今回は体育祭の時みたいに変な約束はしてないので、私の心配はしなくても大丈夫ですよ~」
久しく登場、クラスの担任の小坂先生。
教卓でいつもと同じ様に、おっとり口調の朝の挨拶をしている。
朝からこの声聞くと眠くなるんだよな、秋の陽気も後押ししてる感あるけど。
因みに変な約束ってのは、小坂先生がスポーツ科の筋肉ムキムキの先生に
体育祭で勝ったら付き合ってくださいと言われたのを、断れなかったあの事件だ。
うん、時が過ぎるのは早いもんで、あれからもう大分たって秋なのかぁ・・・。
「と、言う訳で。
公園には素晴らしい自然が溢れていますので、素晴らしい作品を期待してます。
でも、人の迷惑にはならない様にだけ注意してくださいね~。
それでは解散しましょ~」
うし、じゃあ、頑張り過ぎない程度に頑張るか。
因みにこれが行われる場所は、俺の家の近くにある、あの公園だ。
俺の誕生日に夏祭りに行ったろ?あの場所の事。
まぁ、普段行かないような所も結構あるし、描く物には困らないか。
「知樹っ」
誰かが俺の肩を叩く。
ん?
あぁ、零奈か。
「どした?」
俺が返事をして振り向くと、呆れた顔をした零奈が立っていた。
「どした、じゃないでしょ。
さっさと動かないと、良い場所取られちゃうわよ」
おっと、本当だ。
いつの間にやら、教室に人が殆どいない。
「まぁそうだけどさ。
零奈はどうするんだ?」
「私は冬香と一緒にやろうかなぁって思ってるわ。
言っておくけど、付いてきちゃダメよ。
女の子同士でしか話せない事もあるんだから」
「分かってるって。
じゃ、俺は俊一と涼にご同行願おうかな」
「あの、二人なら最初に教室から出て行っちゃったわよ。
それも別々でね。
多分追いつけないわよ、探すしかないわ」
零奈は教室をキョロキョロ見回して言った。
「マジかよ。
気合入ってんな、二人とも」
「うん、二人とも同じ事言ってたわよ。
『他人と同じ景色を描いてたら評価されない』って。
先生の挨拶が終わったら、急いで出て行ったもの」
「何でそんな頑張ってるんだ?」
「優秀作品に賞品が出るのよ。
確か学食の食券10万円分とか。
私は興味ないけど。
それじゃ、冬香に置いてかれると困るからそろそろ行くね」
「あぁ、じゃあ」
零奈は小走りで俺の席から立ち去っていった。
教室にはすでに俺一人のみ。
食券10万円分か。
それは美味しいけど、望みは薄いな。。。。
まぁ、期待せずがんばろ。
毎日早朝に走っているコースだけど、この時間帯に来ると、雰囲気違うな。
走ってるのと歩いている差もあるんだろうな。
もみじやかえで等の紅葉が舗装された道に化粧を施しているみたいに色鮮やかで、木に止まってる小鳥なんかも確認できたり。
こんなにドングリとか転がってたっけ。
う~ん、しかし、やっぱり俺が知ってる限りの良さそうなスポットは人が多いな。
丘の上とか、木々に挟まれた歩道とか。
でも、この公園、実は滅茶苦茶広かったりする。
人の手が加えられていないちょっとした森みたいな場所があるくらい。
・・・少し大衆から離れてみっか。
意外と知らない場所に良い所があるかもしれないし。
ひとまず、この道を外れて行こう。
俺は普段走っている歩道を思いっきり外れて、木々が生い茂る林の中に入ってみた。
こういう景色を描くのも良いな。
紅葉に彩られた林に囲まれてる景色。
でも、ちょっとありきたりかな・・・・・まぁ、いいかぁ、これで。
人も居ないし、道路と紅葉とか、人工物と自然とのマッチも良いけど、紅葉の林っていう自然だけを描くのもまた一興だろ。
え?主人公なのにテキトーすぎるって?
いいんだって、こういう性格だし、特別に絵心に自信があるわけじゃないからな。
そして2時間後。
「・・・・っと、ま。
こんなもんで良いだろ。
俺なりに良く頑張った!
うん、そういう事にしておこう」
ひたすら紅葉ばかり描きすぎて、橙と赤色の絵の具が思いっきり減ったのが分かる。
さて、残り時間何すっかな。
現在朝の11時。
今日は一日中写生大会だから、やる事ないし。
知り合いでも探しに行こうか、暇だし。
と、思った矢先。
俺の後ろから歩み寄る影が一つ。
う、後ろから覗かれてる気配が・・・。
俺はその痛い視線に耐え切れず、ゆっくりと振り向いてみた。
「ふ、冬香か・・・・」
俺の後ろには、無表情で前かがみになりながら俺の絵を見ている冬香がいた。
声も掛けてこないから、何事かと思ったぜ。。。
てか、零奈と一緒だったんじゃないのか?
「・・・・(じーーー)・・・・」
み、見られてる。
凄い見られてる。
「ど、どうした?
なんか変か?」
ひたすら、俺の絵を見つめる大きな瞳。
「色ムラが沢山ある。
あと、もっと色のバリエーションを増やしたほうが良い。
紅葉に深みを出す為に、他の色も微調整で混ぜたほうが味がでる。
要は基本的に塗り方が雑」
・・・・・・あ、そっちの冬香なの?
その後もダムが決壊した様に、絵の指摘をされ続けて10分が経過した頃。
「だから~。
もう勝手に元に戻って、落ち込むの止めような?
ほら、俺も気にしてないし、落ち込んでも無いし、自分の言った事に自信を持てよ」
俺の前には顔を赤くして、しゃがみ込みながら、両手の平で顔を隠すように押さえている冬香がいた。
「でも・・・酷い事言った事は・・・変わりない・・・」
半分泣いている状態。
う~ん、弱った。
どうにかしないとな、これは。
「そうだ。
零奈と一緒だったんだろ?
零奈は?」
「・・・・いつの間にか・・・逸れてた」
迷子ですか、貴方は。
「とりあえず、零奈を探そう。
楽しく過ごせば、悲しい事も忘れられるって」
「・・・(こくっ)・・・・」
うむ、それじゃ零奈を探しに出発だ。
「冬香は何描くか決まったのか?」
ひたすらに広がる紅葉の上を歩きながら冬香に聞いてみる。
「・・・・まだ・・・・」
冬香は俯きつつ首を横に小さく振ってから、そう言った。
「そうか。
じゃあ、零奈を探しつつ、描く風景も探したら良いな」
「うん・・・。
でも、きっと・・・・・私を探してるから・・・」
「あ、そっか。
じゃ、零奈最優先だな。
描く場所見つけたら、後で戻れば良いし」
冬香は小さく頷いた後、俯いた顔を上げて、キョロキョロを周りに目配せをした。
でも、流石にこの辺りには居ないだろうなぁ。
他に生徒が居れば聞く事も出来るんだけど。。。
「・・・お」
そう、思っていると。
森の中に小さな池を見つけた。
池って言っても、直径5m位の水の溜まり場みたいな所だけど。
でも、紅葉の葉が所々に浮かんでいて、これを描くのも良いなと思える風景だ。
「ん?
先客が居るみたいだな」
俺達が最初に見つけた場所かと思いきや、先客が居る事に気が付く。
こちらに背を向けて池を描いているみたいだけど、男子用の学生服を着ているから、間違いなく学校の生徒だな。
「ちょうど良い。
少し聞いてみっか」
「・・・(こくん)・・・」
人通りも無いし、こんな所に零奈が来てるとは思えないけど。
「ごめん、ちょっと良いか・・・って涼じゃねぇか!」
そうだ、何処か雰囲気的に見た事ある後姿だと思った。
「お、知樹・・・・とうとう此処へ辿り着いたか・・・。
ん?・・・・おおっ!・・・おいっお前!!!」
な、なんだっ!?
涼は自分の描いている絵を地面に置いて、こちらを見た瞬間に俺に飛びついて来た。
そして俺は首をロックされつつ、冬香から引き離された。
デジャヴか?これ。
「いてててて・・・・・・おい、何だよ急に!!」
「畜生っ、羨ましいぞ、お前っ。
どうして冬香ちゃんがお前と一緒に居るんだよっ。
はっ・・・もしかして、冬香ちゃんを大人しい子だと分かってて・・・。
無理やりお願いして連れ回してるんだろっ!違うかっ!?」
「思いっきり違うわ、アホッ!」
お前じゃあるまいし、そんな事するかっ!
「へ?違うのか?」
涼の腕の力が緩まってゆく。
「ててて・・・あのなっ!!
こういう事になったのはだな―――かくかくしかじか―――――で零奈を今探してんだよ!!」
「そうだったのか~。
それなら早く言えよ~」
それを言う隙を与えなかったのは何処のどいつだ。
ったく、どいつもこいつも・・・・・・・・・あっ。
そういや、冬香を放ったらかしに・・・・。
でも、気づいたときには遅いなんてケースは良くある事でして。
俺達二人の視線の先には、しゃがみ込んだまま、涼が先程まで書いていたと思われる絵を見つめる冬香の姿があった。
と言っても、涼はまだこの事態を理解できてないみたいだけど。
「この絵、もっとしっかり水と紅葉の表現をしないと―――――」
「知樹・・・これってもしかして・・・・・」
涼の表情が一気に暗くなる。
「あぁ、そうだ。
今はあの冬香だから」
「そういう事は早く言えよっ!!!!!!」
涼のツッコミが公園内に木霊してから10分後。
「――――それでいて周りの木のグラデーションが―――――」
「あの~、お言葉ですが・・・まだその絵は未完成なので・・・」
「―――いまさら言い訳しても無駄」
「ひえぇ~~~許して下さいましっ!」
よほど、涼の絵の評価が酷かったのか、まだ終わってないっす。
俺の時はこれ位で冬香は普通に戻ってたのにな。
「知樹助けてくれ・・・」
遂に涼が涙目になりながら小声で俺に助けを求めてきた。
「俺に言われても、冬香の言いたい事が無くなるまでこのままだしなぁ・・・。
いつ終わるかも・・・」
「あの」
「「は、はいっ」」
急な問いかけに話の途中にも関わらず、声を揃えて返事をする俺達。
「邪魔するなら何処か行ってて」
冷たい瞳を向けられながら言われた。
それって・・・俺の事?
い、一応これが終わるの待ってる身なんですけど~・・・。
でも、ここで何か言ったらまたややこしくなるし・・・・。
「仕方ない、俺は零奈を探してくる。
このまま酷評を受け続けろ、頼む」
「え、ちょっとそれは無いだろ!?」
「大丈夫だ。
お前確かこの間ドM宣言してたし、それに冬香と二人っきりのチャンスだ。
あと、これが終わった後に慰めるのを忘れるなよ」
俺は小声でそう告げて、その場を立ち去ろうとするが、涼に腕を掴まれる。
「本当に頼む。
俺一人じゃ―――――あ・・・・」
涼の手が離れた。
何かと思って振り向いて見てみると、冬香の手が涼のもう一方の手を掴んでいた。
「・・・まだ終わってない」
何というホラー。
「助けてくれぇぇ!!
手を繋ぐ行為はもっとロマンチックな事だろぉ~~~~!!!!」
ご愁傷様です。
さて、独り身になってしまったが、目的は変わらんっ!
零奈を探す事のみ。
まぁ、例え零奈を探して連れて行っても、涼の地獄は続くだろうけどな。
そんな事を思いつつ、俺は一度最初の歩道に出る事にした。
やっぱり、人が多い所の方が探しやすいだろ。
そして、紅葉が彩る公園内の歩道を歩く事数分。
未だに零奈を見つける事は出来ないが、何やら人だかりが出来ている場所を見つけた。
大して気になるような場所は無かったような気がするけど・・・何かあったっけ?
まぁ、気になったら直行だ、零奈もいるかもしれないし。
そう思い、俺は人だかりに近づくものの思った以上に人が多い。
一体何なんだよ。
あ・・・でも気づいた事が一つ、女子ばかりだぞここにいるの。
俺は苦労しつつも、何とか好奇心だけで、人だかりの中心部付近へと辿り着いた。
そこにはある一人の男の姿があった。
「滝野く~ん、どんな絵かいてるの~?」
「キャ~!
滝野君って、絵も凄く上手いのね、やっぱり完璧だわっ!!」
「俊一君こっち向いて~」
「誰よ、今滝野君を名前で呼んだのはっ!」
そう、俊一だ。
相変わらず、外見だけは優れている男、滝野 俊一。
いや、外見のみならず、勉強、スポーツ共に完璧な超人で女子からの支持もナンバーワン。
でも、コイツの中身を知ったら逃げ出すに違いない、あまりの変人ぶりに。
「・・・どいてくれ、俺は静かに描きたい。
俺はこの場所をこの角度で描く事が最も美しいと言う事を調べ上げて、今日に臨んでいるのだ。
それを何処の馬の骨かも分からない輩に邪魔を―――――」
「きゃ~、私滝野君に馬の骨って言われちゃったぁ~」
「何言ってるのよ。
私の事よっ!」
「私の事よね?
滝野君っ!」
うむ、よくあるよね、こういう事。(ねーよ)
てか、俊一の言動に誰も引かないどころか、馬の骨の称号を巡って激しい火花が・・・。
「くっ・・・これでは満足に絵が描けん」
すっかり困り果てている俊一。
そういう時に、お得意の発明を生かせよ。
やっぱり何処かヌケている俊一。
そうだな~。
もし、俺が助けるとしよう。
周りの女子の矛先が全て俺にくるだろ。
一斉攻撃→俺様、ご臨終。
・・・よし、考えがまとまった!
このまま、逃げようっ。
「ん?・・・誰かと思えば、知樹ではないか、流石我が親友。
やはり、いざと言う時現れるのだな!」
あっ!
気づかれた。
だが、こういう時の返事くらい考えてある。
「・・・・・誰だ、お前」
必殺、他人のフリ。
「・・・・・・」
あ、俊一の目の下がピクッてなったぞ。
珍しく怒ったみたいだ。
でも、日頃からの仕返しだと思えば軽い軽い。
じゃあなっ!!
俺は別れの言葉を声に出す事も振り返る事もせず、その場を去った。
「はぁ~~~・・・興味本意で突進したら損したぜ」
何とか人混みから脱出。
疲れた・・・ちょっと座って息を整えよう。
「あ・・・」
俺が中腰の姿勢からしゃがみ込むと同時に、俺の視界にニーソックスを履いた白い脚が入る。
ふむふむ、これが例の絶対領域か、分からんでもないぞ・・・・じゃなくてっ!!
「あ、零奈」
ようやく発見しました。
思えば長かった。
時刻は現在午後の2時。
「どうしたのよ、こんな所から出てきて」
「零奈こそどうした?
この人混みの中心部にいる俊一君に御用か?」
「あ~、一体何かと思ったら俊一ね。
納得、納得」
やっぱり、好奇心でこの人混みに近づいたのか。
何だかんだで、ここにいて正解だった。
感謝するぜ、俊一、助けはしなかったが。
「納得してもらえた所で、一ついいか?」
「うん」
「冬香探してんだろ、今」
「えっ、もしかして、会ったの?」
「あぁ、今は涼と一緒にいるんだけども・・・。
とりあえず、歩きながら話そう」
「うん。
でも、良かったぁ。
私が絵に集中してたら、いつの間にか居なくなってるんだもん。
冬香、可愛いからガラの悪い男子に誘われてないかって心配しちゃって」
ふぅん。
結構、友達思いなんだな、零奈って。
「何よ。
顔に何か付いてる?」
零奈は右手で自分の顔を触る。
おっと、そんな事考えてる間に無意識に零奈の顔を見つめてたみたいだ。
「いや、結構友達思いの良い奴なんだなぁってさ」
「い、今更なによ。
もう十年近く一緒にいるのに・・・」
「いやいや、俺に対しては全然そんな事無かったからさぁ。
分かんなくっても仕方無いだろ?」
「べ、別にそんな事なっ―――――」
零奈が俺の言葉に反論しようと、後ろを歩く俺を見ようと振り向こうとしたその瞬間。
落ち葉に隠れていた木の根っこに躓いて、零奈の体が倒れてゆく。
「危ないっ・・・・・」
危ない、と思った時には手が出ていた。
いくら軽い体とはいえ、反射的に伸ばした手で俺の、そして零奈の体を支えきれるわけも無く・・・・。
『バサッ・・・・』
俺は零奈に引っ張られる形で倒れてしまった。
「いてて・・・・おいおい、大丈夫か・・・・よ・・・」
俺は急いで地面に両手を着くと・・・・目の前の光景に心臓が跳ね上がりそうになった。
紅葉に映える綺麗な髪、大きな濃褐色の瞳、白い肌に・・・・・・小さい唇。
俺の顔との距離、およそ10cm程。
意識しなくても分かるくらい、太鼓の様に強く心臓が脈を打つ。
っ・・・おいおいっ!
いかんいかん、幼馴染なのに・・・・ついつい変な事考えちまった。
何が起きたのか理解できていないのか、瞳を大きく開けて呆然とした表情の零奈。
「あ・・・あの・・・その・・・何これ・・・?」
徐々に状況が掴めてきたのか、零奈の顔が真っ赤になってきた。
「はは・・・ははは・・・・」
何か、笑えてきた。
「な、何笑ってるのよっ。
・・・早くどいてよね・・・・」
「ははっ・・・悪い悪い・・・」
幸い周りに人は居ないけど、明らかに俺が押し倒している構図だし、
俺はひとまず、零奈の上から地面に転がるようにどいた。
そして、仰向けに大の字になる。
「っもう・・・・ふふふ・・・」
「はははは・・・・」
二人揃って、紅葉の布団に仰向けに寝転んだまま笑った。
なんか変だけど、笑ってしまった。
「あ~あ・・・何やってんだろうな、俺達。
二人揃って、落ち葉の上に寝転んでさぁ」
「本当よね。
なんか、バッカみたい」
「まっいっか、零奈の困った顔も見れたし。
本日一番の収穫だな」
『ペシッ』と横から額を叩かれた。
「もうっ。
大体アンタがそういう風に変な事言うから、私が躓いてあんな事に・・・」
さっきの事を思い出したのか、再び零奈の顔が赤くなってゆく。
「・・ぷっ・・・」
思わず噴出してしまった。
「あ、、、何がそんなに可笑しいのよっ。
・・・・ほら、早く立つわよ、冬香と涼が待ってるんでしょ」
おおっと、そうだそうだ。
今までそれしか頭に無かったけど、さっきのアクシデントですっかり頭から飛んじまってた。
「だな。
よっと・・・」
落ち葉のクッションに手を置き、立ち上がる俺と零奈。
今度は転んでも大丈夫なように、俺が前を歩くようにしよう。
そして、森の中を歩き始めてすぐの事。
「ん~・・・そうだっ」
零奈がポンと手の平を合わせた。
何か思いついたのか??
「さっきの事故のお詫びに私のお願いを一つだけ聞いて欲しいんだけど・・・」
何だよそれっ!
と反論したかったけど、明らかに俺が悪かったようにしか思えないからそうは言えなかった。
「お願いって何だ?」
「ん~と・・・まだ決めてないっ」
「何だ、決まってないのかよ。
そういう事は決まってから言えっての・・・」
「だって、言わないと忘れちゃうでしょ。
約束だからねっ、来週までには決めておくから」
忘れちゃうって・・・忘れられるかよ、あんな事。
「へいへい、どんな重労働でもござれだっ」
「その心意気っ!」
全く、さっきの慌てっぷりは何処へ行ったのやら。
「あ、池ってここの事?」
話しながら歩いている内に、いつの間にか涼と冬香を残してきた場所に到着した。
「そそ、え~と・・・二人はっと・・・いたいた」
見回してみると、少し遠い所に二人がいた。
けど、何か様子が変だ。
うん、明らかに変だ。
仰向けに倒れている涼に膝枕をする冬香の姿。
「おいっ!
膝枕というシチェーションには触れないで置くけどっ!
涼の奴どうしたんだ!?」
「・・・ついさっき、倒れた・・・。
きっと私が今の今まで、話し続けてたから・・・」
今の今まで、酷評を浴びせ続けたのか???
分かれてから、結構時間経ってるぞ???
「・・・まぁ、いい。
とりあえず、涼を起こすぞ。
おいっ、起きろっ」
俺は涼の頬を2、3度軽くペチペチと叩いた。
「う・・・う~ん。
あれ、知樹戻ったのか、俺は何時の間に倒れて・・・。
ハッ!・・・・冬香ちゃん、もう許してくださいっ!」
涼は目が覚めると共に、冬香を見て土下座し始めた。
「待て待て、もう何時もの冬香に戻ってるって。
そんなに怖がる必要ないから」
「へ、あぁそうか・・・ホッとしたぜ。
俺の人生で最も辛い時間だった」
「あの・・その・・・本当にごめん・・・なさい」
土下座の姿勢のまま顔を上げた涼の前にしゃがんで冬香が小さく頭を下げる。
「それは良いんだけど・・・いや良くないけどさ。
それよりも、冬香ちゃん。
さっき、もしかして膝枕してくれてたりした・・・?」
「・・・(こくり)・・・」
「マジか!?
うぉ~~~俺はたった今、最高にハッピーだぁぁ!!
何時間も罵声を浴びせられ続けた甲斐があったってもんだっ!!」
頬を赤くしながら小さく頷く冬香の姿に、思わず狂喜乱舞する涼。
「・・・でも、気絶から立ち直った後の数秒しか実感出来てなかったのは残念だな。。。
そうだっ、冬香ちゃんっ!
今なら言えるっ、もう一回、10秒で良いからお願いしますっ!」
「え・・・・・・・」
『ポカーンッ!!』
「痛っ!!」
涼の唐突な要求に慌てふためく冬香を見かねて、零奈が涼の頭をぶん殴った。
「馬鹿っ、調子に乗らないっ、冬香困ってるじゃない。
ほら、遊んでる暇ないわよ、もう直ぐ学校へ集合する時間なんだから」
あ、本当だ。
腕時計を見てみると、針はもう学校へ戻る時間を指していた。
「んじゃ、戻るかっ」
そういや、戻る間にも俊一の所の人混みは無くなってなかったなぁ。
そんなこんなでアクシデントもあったけど、一年生の写生大会は幕を閉じた。
後日の審査結果は、何というか予想通りだけど俊一が優勝だった。
あいつ曰く『本調子の半分も発揮できなかったが、優勝出来た』らしい。
あの他人のフリ事件も、この前の皆で遊びに行くのをドタキャンした行為と相殺してチャラになった。
あ、そうそう、俊一は別に学食の食券目当てじゃ無かったらしい。
俺という男は常に完璧でなければならない、って言ってた。
何の事やら。
でも、何より驚いたのが、審査員特別賞に冬香が選ばれた事かな。
絵を描いていた時間、冬香がずっとあのドSモードだった事を考えると、涼が罵声を浴びせられ続けたのは、涼の絵のせいではないという事になるな。
結果的に涼は時間オーバーで描き切れず、絵は駄作に終わり、変わりに同じ場所を冬香が描いた事になる。
何と言う不運。
涼よ。
どこまでも、哀れな男だな。
と思っていたら、涼は後日、興奮気味に語りだした。
「実はあの日、膝枕より嬉しい出来事があったんだ」
「なんだよ、急に」
「あの時さ、冬香が俺の前でしゃがんで謝ったよな」
「だな」
「俺が土下座の姿勢からちょうど頭を上げた時だ。
まさにタイミングがベストだったのさ・・・・・・・・見えたんだよ」
「何が?」
全く理解できん。
「・・・ったく、健全な男子諸君なら直ぐに分かるだろっ!!
しゃがんだ時に見えるといえば、あの絶対領域だろっ!!」
「ちょ・・・まさかお前・・・」
「色を知りたいか?
うんうん、言わずとも分かるよ、君が知りたがっている事くらいさ」
「いや・・・そうじゃなくてッ!!―――――」
白だったらしいです。
いやいや、待て待て待て・・・・アホかっ!!!!
・・・おほんっ、兎に角。
これで写生大会の話は全てお終いっ。
俺の結果?
俺は元より希望の薄い絵なんかよりも、零奈に何を頼まれるかの方が気になるね。
ナニカナー。
タノシミダナー。
まさかのハイペース更新。
いやね、ずっと書きたかったんですよ。
知樹と零奈の事故シーン。
うん、実はこれをカキタカッタダk(略
しっかしあれだ、涼がだんだんスケベキャラになってゆく・・・。
ん?何か未練あるのかだって?
何も無いです(キッパリ
むしろ、これを貫き通しますよ。
もうエロ要素はほとんど涼担当で行きますから。
でも、彼は今の所、冬香一本ですからね、頑張って欲しい物です。
そうだ。
そのうち、特別編と題して涼と冬香の話でも書きましょかね?
実は頭の中では幾つか特別編と言うか、知樹以外の人物の
視点でオリジナルのサイドストーリー的な事も考えてるんですけど。。。
俊一×特別編のみの人物みたいな構想もあったり。
まぁ、でも次回は零奈のお願いの話で決まりかと。
大体話の内容は固まってるので、また早い内に書き上げたいです。
おっと・・・また後書きでは無くなってしまった。。。
反省。
ではでは。