表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/60

夏の誕生火

夏が終わろうとしている。

大抵の主人公は宿題が終わってないってのがセオリーだろうけども、俺はもうとっくに終わっちまっている。

悪いな、つまらない奴でさ。


まぁ、終わらしているのにも理由はあるぞ。

例えば、そうだな。

俊一や零奈に頼むと大変な代償を払う事になるとか~~・・・・。


結局の所、むしろ終わらしておくのが普通だろってのが結論なんだけど、一番の理由は他にある訳で。

そろそろその一番の理由が[やってくる]はずなんだけど。



『ピンポーン』




ほい、来た。


「今行くからまってろ~」


とりあえずそう言って玄関へ向かい、ドアを開ける。

ま、約束はしてたから驚きはしないけど、そこには俊一と零奈そして涼がいた。

それぞれ手にカラフルな箱を持っている。


「うむ、ご苦労、そしておめでとう」


「やっほ~、ハッピーバースデ~知樹~」


「うい~す、はっぴ~ば~すで~」


そう言いながら、ぞろぞろと玄関に入ってくる3人。


今日8月31日は俺の誕生日。

ま、宿題終わらしてるってのも、このせいで癖になっちゃったのかもな。


そんでもって彼らの手に持ってるカラフルな箱は、俗に言う誕生日プレゼントな訳だけど。

今年は一体何をもってきたのやら。。。。






「ど~も、とりあえず上がってくれ」


さて、祝ってくれるのはありがたいけども、俺の家に集まってロクな事があった試しが無い。

一体何が起きるのか。


「ん?零奈その紙袋は?」


零奈は箱の他に、右手に少し大きめの白色の紙袋を持っていた。

少し気になるから、リビングへ歩きながら聞いてみる。


「あ、これ?

 これは浴衣、今日の夏祭りでね、今年はニーナもいるし浴衣を着せてあげようと思って。

 あとケーキもあるわよ」


そう言えばそうだ。

この地域では毎年8月31日にこの家から少し離れたあたりの大きめの公園で最後の夏祭りがある。

俺の日課である早朝ランニングをやっている所だな。

祭りの内容はというと、夏の終わりを盛大に締めくくろうと行われる物らしく、毎年地域中から老若男女問わず結構な人が参加している。


「よいしょ・・っと、ってことは今年は夏祭りに参加するのか?」


俺がリビングのソファーに座って言うと、俊一は黙って頷き向かいのソファーに座った。


「でも、夜からだよな、祭りは」


「ああ」


「じゃあ、何でこんな早くから集まったんだ?」


現在昼の1時。


「・・・暇だから」


「なるほど」


納得できないけど、同意しておこう。


「そういや、俊一。

 聖奈さんはいないのか?」


「情けない事に受験勉強で忙しいのだそうだ。

 我が姉なら大学受験なぞ、平気でクリアしてくれないと困るのだが。


「夏休みは受験の天王山だろ!?

 そんな思考してるのはお前だけだ!」


旅行についてきただけでも奇跡だろ。



あ~、それと一応言っておくけど一日約10時間はやらなきゃダメだからな。

もしこれからの人がいたら勘違いの無いように、とこの話の作者が言ってたぞ。


この小説のせいで大学落ちましたとか冗談にならないからな!









「あ、お父さんまた変なの送ってきてるの?」


ん・・・デジャヴ?

嫌な予感から、今度は零奈の声が聞こえてきた方向を見てみる。

零奈は、変わり者の俺の親父が何処からか送ってくる、変わり物の泥人形を手に取っていた。


以前にも話をしたけど、俺の親父は『母さんと長期のハネムーンへ行って来る』と言ったきり何処かへ行ってしまった。

まぁ、それ以来、あの万年新婚夫婦からは、ありがた迷惑にしかならないような品が定期的に送られてくる訳だ。


前にも話したけど、補足までに。


「零奈、頼むから人の家の物を勝手にあさるのは止めてくれ」


何故、注意を促したかというとだな。

憶えてないかもしれないけど、入学したての頃に鏡を割られただろ?

だから、興味を示した時には要注意だって事だな。


「うわ・・・何これ。

 埴輪?土偶?」


変な人形に集中して全く話を聞いてない。。。


「おいおい、前にも鏡割ったんだから―――――『ガシャーーン!!』――――って、おいぃぃ!!!」


「あ・・・割れちゃった」


「割れたんじゃないっ。

 落としたんだろっ!!」


前に落とした時にも同じ流れだったような・・・・。


そんなことはどうでも良い。

あぁ、せっかく質屋にいれy・・・・ゴホンゴホン・・・・親父からの大切な品が・・・。


「・・・こんなんで割れちゃうコイツが悪いのよ」


逆ギレ!?


「いつからお前は悪女キャラになったんだよ!?

 少しは反省の色を見せろっ」


「・・・てへっ☆」


む・・・・やばい、わざとだと分かりつつも、少し可愛いと思ってしまう自分が情けない。


ってか零奈。

今日キャラおかしくないか?


「ふふっ・・・やっぱり男は女の笑顔に弱いんだ~~、メモっとこ」


前言撤回。

やっぱり何時もの零奈だ。

コイツ・・・もう信じれない。


「あ~んもうっ零奈カワイイ~~~~~(ガシッ!)」


とか言ってる間に、またやっかいなのが正面から零奈に抱きつく。


『やっかいなの=ニーナ』、な訳だけど、お前何時の間に起きてきたんだ?

さっきまで確か2階で昼寝してたろ。


「ちょ、ちょっと・・ニーナ急に抱き付かないで―――――『ドタンッ・・・・パリンッ!!!』―――――あっ、また割れちゃった」


「割れたんじゃないっ!!!

 倒れた衝撃で棚の上から落ちたんだよっ!!」


ああ・・・俺が後で質屋に売ろと・・・・ゴホンっ・・・・もとい、親父から貰った大切な皿が・・・・。


「トモ・・・ゴメン」


「あたしもゴメン・・・これは不本意」


「さっきのは本意だったんかい!!!

 ・・・・ったく、怪我は?」


「あ・・・ありがと」


俺が手を差し出すと顔を赤く染める零奈。


「・・・・もうその手には乗らねぇって~の、よいしょ・・・っと」


力強く零奈の手を引っ張り、その反動で零奈は立ち上がった。


「え?あ・・・・・・・・うん、何でもない」


本当に今日は何か変だな。

何かあるなら言ってくれよ。


「トモ、ひど~い、私の心配は?」


「二回目は明らかにお前のせいだろっ!

 反省っ!」


「ちぇ~・・・」


反省の色無しかいっ。






「知樹~~、冷蔵庫の中に入ってたコーラ勝手に飲んでるけど良いか~?」


今度は手にコップを持った涼が歩いてきた。


「涼、そういう事は飲む前に聞け」


「あ・・・ダメだったか?」


「ダメとは言わないけどな、ちゃんと聞いてから――――」



「じゃ私麦茶!」←ニーナ


「私はレモンティー」←零奈


「アイスコーヒー」←俊一


「じゃ、もう一杯コーラ貰おうっか」←涼



「お前らっ!ここは喫茶店じゃねぇし、今日は俺の誕生日だろうがぁぁ~~!!

 ってか零奈とニーナは、はやく破片を片付けろぉぉぉぉ~~~~~~~!!!」








もうやだ、この人たち。

祝われてるのか呪われてるのか、どっちなんだか。












30分後。

結局ニーナは逃げるように二階の自分の部屋に行ってしまい、破片類は全て俺が片付け、飲み物まで用意するお持て成しぶり。

本当に今日は俺の誕生日なのかと疑いたくなるよ、うん。


「で、夏祭り行くんだっけ?」


とりあえず、一段落したから俺はソファーに体を預ける。


「ああ、何か問題でも?」


俺の問いに俊一がコーヒーカップを持ちながら答える。


「いや、まったく問題無いよ。

 ニーナも色々学べるし、自分の誕生日に豪勢な夕食を大量に作る必要も無くなるし」


うん、主に後者重要。


「でも、久しぶりよね。

 小学生の時以来かしら、夏祭りなんて」


「そういえば、そうだな」


零奈の言うとおり、夏祭りなんて久しぶりだな。

小さい頃は親に連れられてよく行ったもんだけどな。


「あ、そうだ。

 俊一が言うには、夏祭りが終わった後に花火やるみたいよ」


花火か。

まさに夏って感じだ。


「ふ~ん、で、その花火は何処にあるんだ?」


パッと見、俊一はプレゼント以外ほとんど手ぶらだ。

花火らしき物は見当たらない。


「大丈夫だ。

 それについては心配は及ばない。

 飽くまでも予定だ」


「・・・なんか気になるな」


一体何を考えているのか。。。


「さて、まだ祭りまで時間がある。

 ここでプレゼントタイムと行くか」


大げさな。

普通にプレゼントしてお終いでいいのでは。


「じゃ、まず俺から~~」


と言って涼が俺に手渡したのは一枚の封筒だ。

まぁまぁ厚さはあるものの、何が入っているのかは検討も付かない。


「何だコレ?」


「聞いて驚け・・・これはだな―――――」


涼が俺の耳元で囁いたのはとんでもない内容だった。

ど~せロクなもんじゃない、と思っていた俺でさえ、驚いちまった。


「・・・バカかお前」


「結構苦労したんだぜ。

 全員に頼むのさ」




この会話を聞いている他の3人は、全く会話の意味が伝わらないだろう。

聞いても呆れるだけだと思うけど。



「隙ありっ!・・・よしっ!」


零奈が俺の背後から封筒を奪い取る。

・・・まぁ、必死になるのもバカらしい内容だから、奪い合う事はしないよ勿論。


「どれどれ・・・・・ん?

 写真?」


「ふっふっふっ・・・俺のプレゼントはぁ~~~~!!!!

 校内の30人の美人&カワイイ女子生徒、先生に自ら頼み、写真を撮らせて頂き、その中から厳選した写真を入れた夢のような封筒。

 名付けて!!

 『どりーむ封筒!校内の激カワ女子高生BESTSHOT30~狙うならコノ子!~』だ!!!」





・・・その怪しげなDVDの題名みたいな名前は止めろ。





「はぁ・・・・・バッカじゃないの・・・」


呆れる零奈。


「あ、零奈ちゃんもニーナ先生も入ってるから心配後無用」


「涼、心配してるんじゃない、呆れてるんだよ」




やれやれ・・・・。

こんなのに一体誰が喰いつくかって―――――





「ふむ・・・面白そうだな」





「何故俊一が喰らい付く!?」


全米が驚愕する程の衝撃だろ、これは。


「いや、俺も色々な工作上、人のデータという物が必要な訳だ。

 しかし情報だけでは扱いにくいからな、故に写真がいるかと思っていだけた」


「俊一、お前普段何してんだよ?」


高校生らしい工作をしてくれ頼むから。


「ふっ、国家機密だ、教えるわけにはいかないな。

 まぁいい、それはまた今度貰うとしてだ――――」


「結局貰うんかい」


「―――俺のプレゼントに追加で、特別に人物の情報をその写真に付けてやろう」


「いらねぇよ、そんなもん」


写真でさえ欲しくないってのに・・・いや、そりゃ少しは興味は・・・。

って、何言ってるんだ俺は。


「まぁ、遠慮するな」


「遠慮はしてねぇよ!」


「・・・それじゃ何か情報が信じれないのか?

 ならば・・・例えばだな・・・これだ」


そう言って、胸元から取り出したメモ帳らしきものを開いた。


「紫城 零奈。

 誕生日12月24日。

 血液型はO型。

 趣味はウィンドウショッピングだが衝動買いが多々ある、特に洋服類、料理が苦手。

 身長168cm 体重43kg 今現在の胸のサイズはBカップ スリーサイズは上から82 58 ―――――『バゴッ!!』――――ぐはっ・・・・」


スリーサイズの最後の部分で顔を赤らめながら零奈が俊一を殴り倒した。


「人の詳細を勝手に言うなっ!

 その前に何で知ってるのよ!?」


だけど、どうやら情報は本物みたいだ。


「・・・知っているものは仕方ないだろう」


立ち上がりながら、俊一はそう言うけど、仕方なくないだろと俺は思う。


「兎に角。

 俺は要らないからな。

 その怪しげなメモ帳は自分で勝手に使ってくれ」


「・・・本人がそう言うのなら引き下がろう」


一応俺の誕生日だけあってか、普通に引き下がってくれた。


「あ、それとだ。

 先程の中のスリーサイズは今後変わっていく可能性が大きいので、その際のクレームは受け付けな―――――『ドゴッ!!』―――――・・・くっ・・・さらばだ」


あほかお前は。

あ~ほら、明らかに零奈の機嫌が・・・・。




「・・・・・はいっ・・・」


機嫌を悪くしたのか、零奈がそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに俺に青色の箱を差し出す。

ったく、俊一のせいで俺までとばっちりが・・・。


「サンキュー、開けてもいいか?」


「ど~ぞ・・・・」


ご機嫌は斜めのまんまだけど、許可を貰ったので早速開けてみる。

ここは何が入ってようが、喜ばないとな。。。


俺は箱の包装紙を丁寧に剥がし、箱を開けた。


箱の中には、夏も終わりこれから徐々に冷えていくのを考慮してか、冬物の服に手袋、更にマフラーが入っていた。

・・・まだちょっと早いような気もするけど、中途半端な時期だし・・・まいいか。


「・・・知樹も高校生なんだから、身なり位気にした方が良いって事。

 一応似合いそうな物を選んだつもりだけど・・・」


若干零奈が心配そうな顔を見せたような気がした。

そんな洋服の趣味悪かったっけか俺。


「このマフラーってさ、もしかして手編み・・・・」


「買って来たに決まってんでしょ」


「そりゃそうか。

 ま、いいや、服も気に入ったし。

 早速冬場に着てみるわ、サンキューな」


「・・・感謝しなさいよね。

 こんな可愛い子に服選んで貰って・・・着こなせなかったら承知しないからね」


「ははっ・・・さぁどうだろうなぁ。

 ま、ご期待に添えられるよう頑張りますよ」


「ふふっ・・・」


零奈の表情が笑顔に変わってきた。


よしっ、良かった。

機嫌直ったみたいだな。






俺は何の問題なく零奈の機嫌を直した事に満足していた・・・が、ここで俺はあることに気づく。


次は誰のプレゼントを受け取るかという事だ。

俺はちらっと、先程音も無く復活した俊一の方を見た。


「ふむ、俺の番か」


俺の目線を咄嗟に察知し、プレゼントを取り出す。

箱の大きさからしてそんなに大きくないみたいだけど~・・・・・。


本当に受け取って大丈夫な物なんだろうな?

今年は何が入ってるのやら、考えるだけで受け取るのを躊躇っちまう。

なにせ前例がひどい物のオンパレードだからな。




去年は『一ヶ月飲み続けるだけでIQが5伸びる』らしい、俊一が勝手に作った妙な錠剤。

もちろん飲んでない。



一昨年は『飲むだけで跳躍力が5cm上がる』らしい俊一が勝手に作った妙な粉末を。

もちろん飲むはず無い。



またその一年前は確か・・・・あぁそうだ。

『家を尋ねるにしてもインターホン押すまでも無い用事があるとき、石を適度な速さで二階の部屋の窓へ投げてくれる機械』をくれた。


俊一曰く「コレを使えば、相手の部屋の窓へ適度な速さで石を投げつけ、音で訪問を気づかせる事が出来る訳だ」とのことで、勝手に俊一が俺の部屋の窓で試し打ちをした所、

盛大に窓が割れて何故か俺が親に怒られるという始末。



やっぱり心配になってきた。。。



「顔色が悪いが、何か心配事でもあるか?

 過去の作品は失敗作だったが、今年の作品は自信があるのだが」


「失敗作っ!?

 ・・・変な薬飲まなくて良かったぁ・・・てか失敗作渡すんじゃねぇよ!」


「うむ」




何の『うむ』なのか。




「聞いて驚け。

 今年はなんと、我ながら驚くべき開発をしてしまった」


「毎度聞けば聞くほど心配になるけど、一応聞いといてやるよ。

 何を作ったんだ?」


「・・・・・やっぱり今は止めておこう」


そう言って、プレゼントを手に持ったまま手を引っ込める俊一。


「何なんだよ!?

 さっき『俺のプレゼントを受け取れ』って自分から言ったろ!?」


「いや、今渡しても面白くないと思っただけだ。

 然るべき時、こいつはベールを脱ぐ、楽しみにしていてくれ」


一体何なんだ。

楽しむ所か、その然るべき時が来るまで俺は心配しっぱなしじゃねぇか・・・・。




「じゃ、私は浴衣の着付けでもしてこよっかな。

 ニーナの分もやんなきゃいけないし」


俺と俊一のやり取りが終わったのを見計らって、零奈は持参した紙袋を手にとって立ち上がり言った。


「浴衣の着付けってそんな時間掛かるのか?

 まだ夕方まで結構あるけど」


全く分からん。


「慣れてる人なら一人で20分も掛からないと思うけど。。。

 久しぶりだもん、手間取ったらどれだけ掛かるか分かんないでしょ。

 早く準備するに越した事は無いから」


「そっか、そうだよな。

 じゃ、ニーナをよろしく頼むわ」


「うん。

 あ、ニーナの部屋って何処だっけ?」


零奈は階段の一段目に足を掛けたまま、思い出した様にそう聞いてきた。


「俺の部屋の正面~、あいつ寝てたら叩き起こしても良いぞ~」

 

「出来る訳無いでしょ、そんな乱暴な事・・・。

 まぁ、いいわ、ありがと」


そう言って、階段を昇って言った零奈。


冗談半分で言ったつもりなんだけど、結構マジに聞こえたみたいだ。

女性を思いっきりぶん殴れる程悪い男にみえるのか?


「浴衣も良いよな~、きっと二人なら超似合うんだろなぁ~」


零奈目で追って見えなくなったのを確認したのか唐突に涼が口を開く。


「ま、それには否定も肯定もしねぇよ」


多分似合うんだろ~けどさ~。



「和服だからスタイルのシルエットはハッキリ出ないけど。

 何せ二人とも長身だからな~。

 身長の低い子が浴衣で隣を歩いているってのも良いけど、やっぱさ、長身の浴衣美女ってのも良いよなぁ。

 だけどな、知樹、俊一。

 俺はもう一つポイントがあると思うんだけど、何だと思う?」


「延々と一人で語るのかと思いきや俺達に振るのかよ」


「ったり前だろ?

 せっかく男しかいないってのに・・・こういう時しか話せないし、兎に角!

 その重要なポイントとはっ!はい二人とも!」


別に話せば良いんじゃないか、とか思うんだけど。

今時の女子高生はそれ位の話題、笑い話の内に入るだろ、多分。


「・・・・ってかさ、感じ方は人それぞれだろ?

 な?俊一」


「うむ」


「冷めてんなぁ~。

 まっ良いか。

 とりあえずだ、その重要なポイント・・・それは『髪型』だ!!」


「なんか・・・普通だな」


「普通といえど侮る無かれっ!

 普通に何も工夫を凝らしてないと、あの浴衣を着ている後姿において最大のポイント、そう髪で『うなじ』が見えない!

 後ろで髪をまとめて上げて、ちょうどうなじが見えるくらいのラフな感じの髪型がベストな訳だ。

 別にポニーテールでも良いじゃないかと言われるかもしれないが、否!!

 少し崩した感じの方が浴衣においては似合うのだ!!

 そう、髪をまとめておいてラフな感じに崩す、うなじが見える程度にだ!

 それとポニーテールの使い時はだな、体育祭なんかで運動するときだ。

 あの時のポニーテールは本当に良い!

 なんか健康的に見えるし、もう・・・説明できん!!

 まだ他にもあるぞ。

 それは――――――――」



涼。

・・・話長いから抜けるわ。






そして、俺と俊一がソファーで黙って他事をする背景で、涼の熱弁が続く事一時間。。。。。



「――――――――結局の所、ロングかショートで言ったらショートになる訳だ。

 ショートヘアじゃないとうなじがみえないし、何よりフワフワにした時の清潔感は最高だ。

 もちろん様々な事を考慮に入れて―――――」






「お待たせ~~~」


「う~・・・階段降りにくい・・・」


ソファーで寝ている姿勢だから、姿は見えないけど上のほうから上機嫌そうな零奈と何やら苦しそうなニーナの声が聞こえてきた。

どうやら、零奈たちの着替えが終わったみたいだ。


涼の話?

最初の部分以外聞いてないって。


まぁでも、涼じゃないけどやっぱり俺も二人の浴衣姿は気になる訳だ。

どれどれ。


俺は階段からの足音が途絶えると、寝ている状態から体を起こし階段の方向へと目をやる。


零奈は南国の海を思わせるような鮮やかな水色の波模様の浴衣で、ニーナは逆に夕日の様に眩しい橙色の模様が入った浴衣だ。


「ほらっ、2人とも似合ってるでしょ~」


零奈がそう言いながら、満面の笑みで回ってみせる。


「・・・そこそこ・・・な」


「強がらなくてもいいのに。。。

 本当はどストライクですっ、って素直に言っちゃなさい」


うっ・・・コイツ冗談で言ってるのか本気で言ってるのか分からないけど、半分図星な俺。


そう、悔しい事にかなり可愛かった。

流石外見だけは優れていらっしゃる。


「へいへい、そういう事にしといてやるよ」


だが、ここで負けるわけにも行かない!!

取り合えず話を切っておこう、逃げてるように見えるのは気のせいだ。


「ふ~ん・・・いいけどさ・・・・んでもって見て!

 このニーナの可愛さ!」


少々不満げな顔を見せたが、零奈はそう言ってすぐに表情を笑顔に変え、隣のニーナを前に押し出す。

だけど、当の本人は何やら、気分が優れないのか元気が無いみたいだけど。


さっきから喋らないかと思ったら・・・何処か調子でも悪いのか?


「ニーナどした?

 気分でも悪いのか?」


「あはは・・・ちょっと苦しかっただけ~・・・。

 もう慣れたから大丈夫」


と言って、少し前屈みの状態で苦笑いしながらピースをするニーナ。


「何も無いならいいけどさ、何処か悪かったら言えよ?

 酷くなんない内にさ」


別に何かの伏線じゃない・・・はず。

そんな奥の深い話じゃないよな、コレ。


「う・・・・・」


唐突にニーナが手の平を顔に当て、その場にしゃがみ込んだ。


「やっぱり何処か悪いのか?」


「ううん・・・・トモがこんなにも心配してくれるなんて思ってなかったから・・・嬉しくて」


「・・・っだよ、大袈裟だな」


「うわ~~ん、トモォォォ~~~~」


「うわっ!!!!」


しゃがんだ姿勢から、ノーモーションで抱きついてきやがった!!


うん、まぁ当然避けきれる訳も無いし、当然抱きつかれてるんだけど。

浴衣のお陰で胸の感触が薄いのが幸いか。

・・・いや!そこあまり問題じゃねぇよ!


「っ離せ!!

 俺はただ、お前の兄さんが心配すると思ってだな!」


更に言っちゃうと暑い。

今夏ですよ普通に。


「口ではそう言ってても本当は好きなんでしょ?

 このツンデレ男~~~」


いつそんな単語覚えたんだよ!!




「・・・・さて、まだ時間はある。

 各自、夕方5時まで自由行動を許可する」


「俊一!!!

 そんな事言ってないで助けろ!!

 つ~か、ここ俺の家だから勝手に自由行動を許可するなぁぁ!!!!」




「・・・トランプ持ってきたけどやる人この指と~まれ!!」



懐からトランプを出して、大声でそう言いながら人差し指を突き上げる涼。


「やるか」


「面白そうだから、参加しよっかな」


「私もやる~」


「おっいいね、俺もやるわ・・・・って、皆まで揃って無視すんなよ!!

 俺を解放してくれぇぇ~~~~!!!!」


俊一、零奈、ニーナの順にリズム良く返事をしたから、俺まで釣られちまった。

はい、皆普通だったけどまだ抱きつかれてます普通に。


「じゃ、そうだな。

 大富豪でもやるか」


「だから涼、無視するな。。」


「大富豪って何?

 私の事???」


「・・・・ニーナ、それはお前のお家の話だろ。

 大富豪ってのはな――――――」







幸いトランプのお陰でニーナは抱きつくのを止めたけど、その後の時間ずっと腕を絡まされた。

・・・ホント暑いから引っ付かないで欲しかったんだけど。。。

まぁ、本当に嬉しそうだったから無理やり突き放す事はしなかった。


・・・やっさしいなぁ、俺。







「お、そろそろ出発じゃないか?」


大富豪、7並べ、ババ抜き、トランプの定番ゲームをやり終えた俺達は

その後、何故か俊一が持っていたUNOを、皆で始めた。


その最中に時計を見るといつの間にか午後の5時手前。

テキトーな小説だなぁ、おい。


「じゃこのゲームが終わったら、出発しよっか」


「だな」


零奈の返事に俺は頷いて答えた。

途中で止めるというのもアリだけど、今は熱戦真っ只中。


コレを止められちゃあ、祭りも楽しめないってもんだろ。


で、軽く説明しておくと、今までのゲームもそうだったけど、

ニーナは意外とゲームが得意らしく・・・っつ~か運が良いだけかもしれないけど、トランプもゲームのルールを教えるや否や

あのパーフェクトな俊一と張り合う程の勝負強さを見せ、このUNOでもそれは健在で今回は一抜け。


その隣にいた俺も運よく上がる事が出来・・・つ~かニーナが不正に手札を除いたり教えてくれたりして、俺も抜けることが出来た。

いや、俺は断ったんだけど、聞こえるもんは仕方ない。


残るは俊一と零奈と涼。


3人とも3枚ずつカードを持っている状況。


「・・・さて、これ程カードが揃えば二人の手札は分かったも同然だ。

 先程から数えて2回目の涼は青をパスをしてカードを引いたが、何も出せなかった。

 つまり、涼は青を持っていない訳だが―――――」


おいおい、俊一の意味分からん講義が始まったぞ。


つ~か、コイツは出たカードを全部覚えてるのかよ・・・。


「・・・・・ふっ、これで終わりだな」


おっと、呆れてる間に俊一が最後のカードを出したみたいだ。


「あ、ラッキー、私もコレでお終いっ」


俊一に続いて零奈も最後のカードを捨てる。

残ったのは涼ただ一人。


「・・・さて言い忘れていたが、本日ラストのゲームの敗者には罰ゲームが与えられる」


「なっ・・・聞いてないぞ、そんなこと!!」


「それも『都合よく』涼にしか出来ない少々危険なモノだ、頑張ってくれ」


「・・・ハッ!・・・さては俊一っ!、わざと俺が負けるように勝負を運んだのか!?」


「それは答えかねる質問だ。

 さぁ、そろそろ出発しようではないか、時間を潰してメインイベントに遅れたのでは本末転倒だ」


・・・どうりでこのゲームだけ俊一のカード捌きが遅いと思った。。。

ったく恐ろしい奴。。。













 



さてさて、場所は変わっていよいよ祭りの行われる公園へやってきた。


準備の良い零奈は下駄までも二人分用意していた訳なんだけど、慣れてないニーナは何度も躓く訳だ。

その度に俺の腕にしがみ付いてくるから邪魔でしょうがない。


「きゃ・・・トモ~~助けて~」


終いにはわざとらしくしがみ付いてくる始末。


「っく!・・・ニーナ・・・躓くフリをするのは止めろよな。。。

 それで怪我でもしたらシャレになんないから」


「そんな・・・・私の身をそこまで気にしてくれるなんて・・・」


手で頬を押さえながら赤くなるニーナ。





「特に医療費の面でな。

 うん、骨なんか折っちゃって入院とかなったら高くなりそうだし」





「・・・トモの馬鹿っ!」


少しこちらを上目で睨んだ後、そう言ってそっぽを向くニーナ。


上げてから落とす。

普段の仕返しはいっつもこんなもん。


「んで~、俊一~何やるんだ?」


「無難に金魚すくいから初めても良いが・・・何がやりたいんだ?

 お面くらいなら奢ってやるぞ、ほら今人気のヒーロー物が勢ぞろいだ」


「ヒーローとか戦隊物はずいぶん前に卒業したよ。。。

 ほら冗談抜きで何やるんだ?」


「それでは、俺の分だけ買っておこう。

 顔を隠す為にな」


お前は買うのかよ。





「あっ、あれ食べたい!」


俺が俊一に聞くと同時に後ろから甲高い声が聞こえてきた。

振り向くとニーナが一つの屋台を指差していた。


「ん?あれって綿飴か?

 暫く食ってないな、そういや」


小さい頃は祭りがあるごとに食ってた記憶があるけど。

この不思議な食べ物は何なのか、毎回疑問に思いながら食ってたなぁ。。。


「ねぇニーナ、アメリカにも綿飴はあるの?」


ニーナの横にいる零奈が不思議そうに尋ねた。

うん、確かに気になる。


「うん、というかアメリカのお菓子なんだけどねっ」


何故か胸を張るニーナ、お前が開発した訳じゃないだろっ。


「綿飴ってアメリカ生まれなの!?知らなかった~」


零奈は感心するように言った。

確かに俺も日本のお菓子だと思ってたよ。


「向こうでは'Cotton Candy'って言うんだよ」


「コットンキャンディー??まんま『わたあめ』だな・・・」


涼が頷きながら言う。


「・・・ちなみに一般的に東日本では『綿飴』、西日本では『綿菓子』と呼ばれている」


「相変わらず妙な所にまで知識が詰まってるな、俊一」


俊一よ、最後に全部持っていかないでくれ。





「ねぇ、トモ早くぅ~!!」


「わ~った、わ~ったから、引っ張るなよ!」


俺を無理やり引っ張って、人混みの中、綿飴の売店まで連れて行こうとするニーナ。


「知樹ぃ~、俺達そこら辺テキトーに見てるから終わったら合流してくれよっ!!」


大勢の人ゴミの中で、涼がこちらに大きく手を振りながらそう言っているのが見える。

一応返事をしておこう。


「あぁ~分かった。

 って、だからお菓子が逃げるわけじゃないんだから引っ張るなって!」


ってか普通、男が女を先導するはずじゃ。。。


「わかんないよっ、今に大行列が出来て売り切れちゃうかもしれないもんっ。

 ことわざにもあるでしょ『一寸先は網』って」


「網じゃなくて、闇!!

 なんだその捕らわれる寸前の魚みたいなシチュエーションは!!」


「兄さんっ、綿飴一つっ!!」


「俺の会心のツッコミは無視かいっ!!」


いつの間にか綿飴の屋台に辿り着いていたようで、ニーナはツッコミを無視しながら屋台の兄さんに元気良く言った。

結構自信があったのに・・・傷つくわぁ・・・。


「ははっ、二人とも仲が良いねぇ~。

 こんなベッピンさんに好かれて、憎いぜ色男っ!!」


何故か屋台の兄さんにまで煽られる。


「兄さんも煽らなくて良いからっ、幾ら?」


「この子に免じて少しだけ負けとくよっ」


俺は屋台の兄さんの提示した金額を支払うと、ピンク色の綿飴がニーナに手渡された。


「まいどありっ」


売店を後にしながら、ニーナは笑顔で袋を開けるとそのまま勢い良くかぶりついた。


「はむっ・・・・モグモグ。。。。

 ・・・・・!!!!」


すると、ただでさえ大きいニーナの瞳がより一層大きく見開かれた。

どうしたんだ、今度は。。。


「どうした?」


「う~ん・・・あんまり甘くない・・・かな?」


「・・・せっかく金を出したのに一言目から文句かいっ」


「文句じゃないけどぉ~~~、だったら食べてみてよ~」


「どれどれ?(パクッ)」


「やったぁ、間接キスっ」


(ペシッ)


何かムカついたから頭を軽く叩いておく。


「痛~い・・・・」


「ん?普通の綿飴だぞ、これ」


昔食ったのと全く同じ。

マジで間接キスが目的だったら口聞いてやんないぞ。


「だってアメリカで食べてたのはもっと甘かったよ」


アメリカ・・・どんだけよ?

まぁ俺達日本人の間ではアメリカの食文化は日本より量もカロリーも多いみたいなイメージがあるけど。


「でもきっとトモとのキスの味はもっと甘いと―――あっ、無視しないでよ~」


そこから先は言わせない。

どうもクサすぎる。


さてと、他の3人は何処に行ったのやら・・・そんなに時間は経ってないはずなんだけど。

・・・見渡しても人込みだらけで分からない、何のために身長が180センチ近くあるのか。


しゃ~ない、ケータイで連絡とるか。

零奈あたりにかければ問題ないだろう。


『・・・もしもし?どうかした?』


「・・・・あぁ、もしもし?

 今何処にいる?見失っちゃてさ」


『あ・・・ごめん私もはぐれちゃって・・・余所見してたら何時の間にか一人でぽつーんって・・・ハハ』


おいおい、マジかよ・・・ったくウチの男共は何やってるんだか・・・。


「はぁ・・・今何処にいるか分かる?目印みたいなもん無いか?」


『目印ね・・・今一応人がいないような場所に出てきたけど。。。

 近くは・・・そうね、射的の屋台があって、後ろに公園の滑り台が・・・あっ』


「ん?どうかしたのか?もしもし?」


『・・・・・・・ごめ・・なさ・・・・今・・・ま・・・い』


ん?誰かと話しているのか?

声が小さすぎて聞き取れない。


『ちょっと!!!離し・・・・何・・・て・・・』


「おいっ!!!零奈!!零奈!!!・・・切れやがった・・!!」


「何?どうかしたの?」


ニーナが綿飴を頬張りながら首を傾げる。


「いや、どうも零奈がはぐれたらしくて、ちょっとヤバイかもしれない・・・・」


「ヤバイってどんな!?」


「俺もぜんぜん分かんねぇけど、雰囲気がそんな感じだったんだって!

 兎も角、場所は大体分かってるから急がねぇとまずそうだ!」


俺はニーナの手を掴み、駆け出そうとした。


「わっ・・・・・ちょっと走りにくいっ・・・」


っと、そうだった、浴衣に下駄って走れないだろ明らかにっ!


「っと・・・悪いっ!

 あ~どうしよっ!!!」

 

「バカッ!

 私は置いてっていいから早く行って!」


「でもお前を一人にしちゃ・・・」


「大丈夫っ、人混みにいればきっと安全だからっ」


「・・・ごめんっ、後で迎えに来るからなっ。

 コレ持っててくれ」


俺は後で会えるように自分の携帯電話をニーナに手渡すと、零奈の言ったことを手がかりに走り出した。



親子連れやカップル、夏祭りの色彩豊かな人混みを避けつつ走る。

ったく、賑やかは悪くないけど、こういう時ばっかは困るな。。。


ったく、普段から走ってている所がこうも走り難いとは。

余計に焦っている自分に焦っているのが分かるってのが気に食わない。



「射的の屋台があって・・・・滑り台は確か・・・・あれだ」


祭りの光が行き届かない闇の中。

いつも大して気に掛けてもいない風景の記憶と無理やり、照らし合わせると少し小高い丘の上、その闇の中に滑り台が見えた。

人間の視野ってのは記憶に頼っている部分もあるってどっかで聞いた事があるから、実際見えてるのか分からないけども、、、確かあそこにあったはずだ。


俺は、人ごみの中を掻き分け無理やり屋台と屋台の間を抜け小高い丘を登った。

そこに佇む一つの小さな滑り台。


「ちっ・・・・いない・・・」


俺は辺りを見回す。

けど、誰もいない。


「クソッ!!!」


そう言って、闇の中滑り台の脚を思い切り蹴った。

妙な寂しさと言うか、自分の不甲斐無さというか、兎に角いろんなカタチが俺の心にあるような気がした。


滑り台から聞こえた音も鈍くて、冴えない音で。


なんか・・・・どうしようなく情けない男だ。


ここまで自分が何も出来ない人間だと思ったのは初めてだな・・・・。

親友がいて、勉強も運動もそこそこ頑張って、高校に入学して・・・何処かで自分は何でも出来るんだ、と勘違いしていた自分が急に恥ずかしくなってきた。




「―――――引っ・・・・よ!」



ったく・・・・本当に―――――



「・・・あ?」


―――――何か今聞こえなかったか?


「こ・・・・ば・・・・」


間違いない・・・零奈の声だ。


誰もいない事に落胆して耳を澄ます事すら忘れてたのか?

意気消沈したのが幸いかもな。



さて、声が聞こえた方向は・・・・・祭りとは反対方向の丘の向こう側だな。

真っ暗でよく分からないけど、取り合えず走るか。


無心で走ってみた。

何も考えないってのは馬鹿のする事。

んな事は分かってても体は動くさ、勝手にな。


俺は丘を下った。

ここはあまり来た事はないけど、確か広い芝生の敷き詰められた敷地だったような気がする。

日曜日に草野球をしているのを見た事がある、それくらい広い広場だった。




「痛いから・・・離してって!!!」


確実に、この闇の中、近くで声が聞こえた。


「零奈!!!!」


俺はまたもや考えも無しに、名前を呼んだ。


「知樹!?」


・・・・よかった、無事だった。

いや、まだ無事とは言えないけど、先程の虚無感はもう何処かへ行っていた。


さぁ、声が返ってきたのは俺の前およそ10m・・・・・・微妙に影が見える。

よし、今ならっ・・・。


「うおぉら!!」


「っ・・・!危ねっ・・・」


俺の全力の蹴りが避けられた。

それどころか、見失っちまった。



でも待てよ、さっきの声って・・・・・。









突然、俺の目の前が光った。

いや正確には敷地内を囲むように、何時もは無かったはずの大型のライトが点灯したのか。


俺は眩しさに目を細めながらもそれを確認した。


そして、目が慣れてくると・・・柄の悪い男に拘束されてなんかもう大変な事になっている零奈―――――じゃなくて!

左から、俊一、零奈、涼、ニーナの順に横一列に並んでいた。



・・・訳が分からん。



「ご苦労だったな、知樹君。

 君にミスター苦労人の称号をあげよう」


「・・・いらねぇよ。

 てか、何だよそのカッコ、んでこの大掛かりな照明は」


何故か俊一はタキシードに眼鏡、シルクハットを身に纏っていた。

さらに手には、黒色のステッキ。


「まだ、お気づきでないのか、流石苦労人。

 先程の電話、更に他の衆の振る舞い全て、知樹をここへ誘き出す為のドッキリだ。

 まず、意図的に俺達からお前を引き離しセット完了。

 電話で適度にヒントを与え誘導し、さらに先程のUNOで負けた罰ゲームとして、

 危うくキック直撃の危険な誘拐役に涼を使うというハイブリッド構造」


そう言って、俊一はステッキの先から花束を出した。


お前は何処のマジシャンだよ。


「・・・どうりでニーナが我がままだったり、素直だったりした訳だ」


いや、いつものことか?






「ちなみにこの服は俺の部屋のタンスから。

 このステッキはネットで購入した、値段は秘密だ」


「知らんがな」


ってか、なんでその服が家にあるんだよ。







「そして、今ドッキリの本来の目的を明かそう」


そう言って俊一はステッキの先の花を取り出し、宙へ放り投げると同時にステッキで地面を2、3回突いた。

すると、4人の後ろ、10m位の所から一斉に花火が上がった。




「誕生日・・・おめでとう・・・か」


夜空に浮かんだのはこの文字だった。


「このドッキリを企画したのは俺だが、この花火の依頼をしたのは他の皆だ。

 花火と言うのは中身の物質の配置で模様が出来るのだが、コレを文字にして、さらに逆さにならない様にするのには流石の俺でも苦労した。

 恐らく世界初の発明だろうな」


「・・・って事は、さっきのお前のプレゼントって・・・」


「あぁ、これだな、でも渡して皆で花火しました、ではつまらないだろう?

 だから、このようにちょっとしたサプライズを加えようと思った、カードゲームで遊んでいる時に思いついてぶっつけでやったにしては大成功だ。

 事前に考えてこればもっと複雑に出来たのだが」


「・・・・おい俊一」


「何だ?」


「・・・もっとマシな事考えろやぁぁぁぁ!!!」


『ドゴォォ!!』


「グハッ・・・・・」

 



そんなこんなで疲れたけど、この後はまともに夏祭りを楽しんで、後は家に帰ってケーキを食ったり。


これにて俺の夏休みはおしまい。


ま、悪くは無いな、こんなのも。






さて、夏の雰囲気はあまり出てないかもしれませんが、夏の終わりと言うのは名残惜しいですね、特に学生時代は。。。

リアルでは今から夏本番ですが、友人とこんな風に過ごせたら良いですね~うん。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ