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苦難を支えるモノ

「ハァ・・・・ハァ・・・・」


(ザーーーーーーー)


――――――――降りしきる雨。


「ハァ・・・・ハァ・・・・」


頭から、足の先まで全身が冷たい。

いや――――正確には全身じゃない・・・足の一部分は―――熱い。

怪我をしているらしい、でも幸い、少しずつ歩けてる事は骨まではやられてない。


でも、上手く歩けない。


それが、地面がぬかるんでいるからなのか、それとも俺の疲労のせいなのか、怪我をしてるからか。




・・・・いや、止めとこう、考えるのも面倒くさい。






今はとにかく――――――辛い。






「・・・くっ!!」


一旦、木に体を預けて休憩だ。


倒れるわけにはいかない。




いや、倒れないなんて事は前提だ。


辛いなんて言ってる場合じゃない。


俺が選んだことなんだ、今は一時も早く――――――――――――。









30分前・・・・。









俺達は昼食を食べ終わり、皆で座って談笑していた。

昔の思い出話とかそんな内容だったような気がする。


こういうのもたまには良い。

俺は人生なんてつまらない物だと考えていた。


少なくとも、俺が親友と思える奴等と会うまでは、と言ったら小学校低学年の頃までか。


そう考えると、俺は人生の半分をそれなりに過ごしているという訳か、悪くは無い。




そして、話が一番盛り上がっている時、俺はあることに気付き、皆に言い渡す。


「そろそろ『帰る』ぞ」


「帰る・・・・っておい、俊一?

 引き返すのか??

 まだ、全部歩いてないだろ?」


「ふっ・・・・知樹よ、お前は何も分からないのか?」


「何がだよ」


「風向きが変わった。

 雲行きも怪しい、雨が降るかもしれないと言う事だ」


「まじか?それ」


「でも、今日の朝の天気予報・・・晴れとか言ってなかった?」


確かにニーナが言うとおり、部屋で流れていたニュースでは晴れと言っていた。

だが、案外信用できんこともある。


「そうは言っていたが・・・兎に角、帰るぞ。

 雨は降る。

 先に進むより戻ったほうが早い、行くぞ」


「あ、あぁ分かった」








数分後、雨がポツリ、ポツリと降ってきた。


案外早く降ってきたことに加え、雨量も見て取れるほどのスピードで増加していた。

俺は思った、これはマズイ、と。


・・・・俺達一年生はまだ良い、運動不足による体力の低下などは気にならない。

ニーナも体育祭でみた限り大丈夫そうだ、現にまだピンピンしている。


問題は受験生である姉だろう。

一気に体力が落ちるこの時期。

この状況はかなり堪えるはずだ。


それに・・・彼女は運動が得意ではない。

現に、隣で歩いているその顔には疲れが見られる。


万が一、この狭い山道で足を滑らせ、この高さから転がり落ちれば・・・死の危険性もある。


何故だかそんなような最悪の事態が鮮明に脳内で再生できた。




その時だ。




「きゃ―――――」


短い、悲鳴ともいえないような小さな声が、俺の隣で聞こえた。



――――――ついさっき思い描いたのと、何も変わらない光景だった。


俺は手を咄嗟に伸ばす。

しかし、俺の手は空を切るだけだった。




「姉さん!!!!」




俺は、常に理性を保ち続け、何でも客観的に物事を判断する人間だ。

それは俺自身が一番知ってるはず。


そして、俺の周りの人々は俺―――『滝野 俊一』―――という存在はそうであると思っているはずだ。



しかし、俺はその時――――己の理性を無視して行動した――――。




「っ!!!・・・・・」


俺は姉を追ってそのまま跳びだしていった。


「俊一ぃぃぃ!!!!」


知樹が俺の名を叫んだのが聞こえた。


そして、それが最後に聞こえた友の声だった。







「・・・つ・・・・」


何とか気絶せずには済んだ。

打ち所も悪くないと思う、が、転がってくる時に脚部を何かで強打したような気がする。


必死だった故に、痛みは感じなかったが・・・落ち着きを取り戻した俺にはハッキリと痛さが伝わってきていた。


だが、そんな事は気にして入られない。

・・・俺は無事でも・・・姉が無事であるとは限らない。


俺は辺りを見回す。

近くには・・・見えない・・・・。


クソッ・・・・これでは俺が何の為に飛び出したのか分からん。


落ち着け、こういう時こそ冷静になるんだ。





――――そうだ、携帯で電話すれば、着信音で探し出せる。


頼む近くで鳴ってくれ・・・・!!


その一心だった。






雨の音に紛れて微かに、本当に微かに電子音が聞こえた。





俺は音の鳴るほうへ向った。


そしてすぐの事だ、意識が無い姉さんを見つけたのは。

俺は考える前に、すぐさま姉に賭けより駆け寄った。


この時ばかりは、現代の科学の発展に感謝したものだ。


俺は、すぐに知樹達に連絡を取ろうと携帯電話を操作するも、雨にやられて壊れてしまっていた。

同様に姉の携帯もタイミングよく壊れてしまっていた。




悪運が悪かった・・・いや、今日に限っては朝からツいて無かったか。




「・・・・次に買うなら防水機能付だな・・・」


と俺は一人で悪態を吐いて姉を背負った。


ほんのりと温かい体温が背中から伝わってくる。


姉の体重はとても軽い。

背負うくらいどうって事はない。


だが、それは足の怪我と、人の手が入っていない獣道、というハンデが無い場合だ。


その状況では一歩歩くのですら辛かった。。。

だが、俺は歩いた、背中に背負う、俺の唯一の姉の為に。





「ハァ・・・・ハァ・・・・」


(ザーーーーーーー)


――――――――降りしきる雨。


「ハァ・・・・ハァ・・・・」


頭から、足の先まで全身が冷たい。

いや――――正確には全身じゃない・・・足の一部分が熱い。

怪我をしているらしい、でも幸い、少しずつ歩けてる事は骨まではやられてない。


でも、上手く歩けない。


それが、地面がぬかるんでいるからなのか、それとも俺の疲労のせいなのか、怪我をしてるからか。




・・・・いや、止めとこう、考えるのも面倒くさい。






今はとにかく――――――辛い。






「・・・くっ!!」


一旦、木に体を預けて休憩だ。


倒れるわけにはいかない。




いや、倒れないなんて事は前提だ。


辛いなんて言ってる場合じゃない。


俺が選んだことなんだ、今は一時も早く―――――――――――「う・・・っ・・・しゅ・・・ん・・いち?」



背中から声が聞こえた。


「・・・・・・・・ようやくお目覚めか。。。

 何処か・・・・痛い所は?」


「両足と・・・背中が痛いわ・・・・」


「そうか・・・となると・・・歩けないな。

 ・・・・頭痛や意識の方は」


「だい・・・じょうぶだと思う。。。

 でも・・・・何で俊一がここに?」


「気がついたら俺も身を投げ出してた。

 助けようと、思ったんだろう・・・」


「何よ、それ・・・人事みたいに」


客観的にしか判断しようが無い。

俺でも分からないのだから。


「でも・・・・ありがとう。

 目が覚めて一人だったら・・・私もう諦めてたかも知れなかった」


「一応・・・姉弟だ。

 姉の性格くらい知っているつもりで・・・・・・・っ!!!」


不意に足がよろついた。


「くっ・・・・!」


「きゃ・・・・・・」


・・・・どうやら悪運は尽きてはいなかったようだ。

よろついた方向には木があり、何とかもたれ掛かることができた。


「ちょっと・・・俊一!!!

 足怪我してるんじゃないの!?」


「いや・・・こんなもの・・・・怪我と呼べん」


「・・・降ろして・・・・」


「何を・・・」


「いいから、降ろして!!

 無理してまで、私を助ける必要なんて――――」


「黙れ!!」


「!!!」


きっと背中の上で姉は驚いた表情をしているに違いない。

俺が声を張り上げた事なんて、過去に一回あるかどうかだから。


「・・・・俺が勝手にやってるんだ・・・!!

 約束する、絶対にこれ以上怪我はさせない」


「そういう意味じゃ・・・・・・・・・もう・・・分かったわ、俊一は頑固だもん、言っても無駄だよね。

 一応姉だから、弟の性格は知ってるつもりよ」

 

「・・・・・・・」


俺は再び歩き出す。







「偶然よね・・・・ついさっき皆に話してたのよ」


それからかなり山を下り、斜面も緩くなってきた辺りで 姉さんが口を開く。

姉さんの吐息が俺の冷えた耳にかかり温かさを感じた。


「何を」


「覚えてる?

 あなたが5歳の頃の話よ。

 二人で遊んでた時、急に雨が降ってきてね」


「・・・・・」


「木の上に上っていたあなたは、木から滑り落ちちゃって、足を怪我しちゃったんだよね」


「そんな事もあったか・・・・・」


「うん。

 で、幼いながらに責任を感じちゃったのかな、私は。

 あなたをおんぶして家まで連れて行ったのよ。

 今のあなたのように雨の中フラフラになりながらね」


ああ・・・かすかに覚えているかもしれない。


「馬鹿よね、誰かに助けを求めればいいものを」


「そうだな・・・・馬鹿だ」


「少しは否定しなさい」


「ふっ・・・・・」


でも、何故俺の体が無意識に彼女を助けようとしたのか、分かったような気がする。


やはり彼女は俺にとってたった一人の姉であり、彼女は俺をたった一人の弟として信頼してくれている。


そのような存在を俺は一心に『守りたい』と思ったのだろう、無意識的に。









暫く山を下ると、人影が見え、声が聞こえてきた。


「お〜〜〜い!!!」


その声は知樹か。


聞き覚えのあるその声は、雨音にかき消される事無くハッキリと聞こえた。


「こっちだ!!!」


俺は知樹の声に答えるように叫んだ。






「俊一!!聖奈さん!!

 ここにいましたぁ!!!!」


暫くして知樹が走ってきて、俺を見つけると、誰かを呼ぶようにそう叫んだ。


すると、見知らぬ人が4人程集まってきた。

恐らく知樹がレスキュー隊を呼んでくれたのだろう。


「大丈夫ですか??」


レスキュー隊員の一人が俺に声を掛ける。


「いや、俺よりも、こっちを頼む・・・・」


俺はレスキュー隊員の人たちに言って姉さんを担架へと降ろす。


「あんたも足怪我してるでしょ!

 無理しないでよ?」


「分かっている。

 背中の重いのが無くなったから麓までは自力でいける」


バシッと担架から腹を叩かれた。


「・・・女の子にはちゃんと言葉を選びなさいよね」


「ふっ・・・・」


「・・・ありがとね・・・俊一・・・」


「ああ、これで貸し借り無しだ」


レスキュー隊員は話が終えるのを察すると、手馴れた様子で、歩き出した。


雨が降ると、このような事が頻繁に起こるのだろうか???



全く・・・何にせよ、情報不足だった、天気予報などに天候の具合を任せるとは・・・・。



「他のメンバーは?」


「あぁ、他のメンバーは待たせておいて、俺だけ無理言って付いて来た。

 つれてきたらまた何かトラブル起きそうだしな」


確かに、違いないな。


「知樹」


「何だ?」


「ナイス判断。

 流石我が友だ」


「まぁな」


俺達はレスキュー隊の後につきながら、小さく笑うのであった。













その後、姉さんは病院で診てもらったが、心配していたほど酷くは無かった。

暫く安静にしてればすぐによくなるとの事なので、すぐに全員ホテルへと帰ることが出来た。


幸い、次の日は帰ることだけだったので、俺達は一泊してすぐに各自の家へと帰った。

・・・・その夜の部屋わけは、男女別々で色々あったのだが・・・・その時の話は、また誰かが後日、語ってくれるだろう。




俺の計画した夏の旅行はこれで終わりだ。


旅行の疲れもあってか眠い・・・寝ることにしよう。



さて、いかがでしたか?


今回は知樹視点じゃない事にはどれくらいから気が付きましたかね?

結構最初の方で分かったのでは?


今回は、家族の絆の話。

姉と弟の絆は固いんです。

俊一と聖奈でも、兄弟でも姉妹でも、それは変わりません。


うん、絆って良いヨネ!!!(←誰だ?



それでは次回をお楽しみに!!

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