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悪役令嬢の誤算

悪役令嬢は、聖女に嫌味を言いたい

作者: おかゆ
掲載日:2026/07/28

悪役令嬢の誤算シリーズ7

「ベル。」


「はい、お嬢様!」



午後のティータイム。

セレスティアは優雅に紅茶を一口飲み、静かに言った。



「明日は、私が主催する昼餐会です。」


「はい。」


「聖女ソフィアも招待しています。」



ベルは目を輝かせる。



「ついにお嬢様が出るのですね!」


「ええ。」


「では、聖女に飲み物をこぼします!」


「却下です。」


「聖女の椅子に細工します!」


「却下。」


「聖女のデザートだけものすごく甘くします。」


「パティシエの手間です。論外です。」



ベルは肩を落とした。



「今回、私ができることはあるでしょうか……。」



セレスティアは静かにティーカップを置く。



「今回の昼餐会は、王宮でも指折りの格式にしました。」


「はい。」


「元庶民の聖女にとっては、いつも以上に不慣れな作法も多いでしょう。」



ベルは息を呑む。



「なるほど……!」



セレスティアはわずかに口元を緩めた。



「私は主催として、円滑な会の運営に努めねばなりません。」


「私もお手伝いします!」


「聖女には、最初だけご挨拶します。......けれど、その後は、ご自身で何とかしていただきますわ。」


「見て見ぬふりですね!さすがお嬢様!」



その時だった。



「お役に立てそうですね!」



白い翼を揺らしながら、ルミエルが現れる。

セレスティアはすかさず声をかけた。



「ルミエル!!」


「はい!」


「今回、私への恩返しとやらは必要ありません」


「!!!」


ルミエルは驚き、そして悲しそうに目を伏せた。



「で、でも。」


「......貴方には、会の成功()()()祈って欲しいのです。」



その言葉に、ルミエルはパッと顔を輝かせる。



「任せてください!」



ルミエルは嬉しそうに部屋の中を飛び回る。

ベルがぽつりと呟く。



「お嬢様。」


「ええ。」


「昼餐会、無事に終わるでしょうか。」


「……終わることだけは、祈りましょう。」




**




翌日。

公爵家の迎賓館。

美しく整えられた庭園では、色鮮やかな花々が風に揺れていた。


白いクロスが掛けられたテーブルには、銀食器と繊細な茶器が整然と並んでいる。

招待客たちが席に着き、昼餐会が始まった。



ソフィアは運ばれてきた前菜を見て、小さく息を呑む。



(きれい……。)



だが、その視線は料理ではなく、並んだカトラリーへ向いていた。



(どれから使えば……。)



慣れない作法に、手が止まる。

その様子を見たセレスティアは、満足げに目を細めた。



「聖女様。」


「は、はい。」


「どうぞ、お好きなように召し上がってください。......作法など、人それぞれでございますから。」


「ありがとうございます。」



ソフィアはほっとしたように笑顔を浮かべた。



(緊張しなくてもいい、と言ってくださったのね。)



そう思って料理へ向き直るものの、



(でも……どれを使えばいいのでしょう。)



やはり手は止まってしまう。



少し離れた場所。

ルミエルは真剣な眼差しで昼餐会を見守っていた。



(さすがセレスティア様主催の昼餐会です!)



使命感に溢れた眼差しで全体を見渡す。



(みなさん、楽しんでいらっしゃいますね)



ふと、隅のテーブルに視線を移した時、

困ったようにカトラリーを見つめるソフィアが目に入った。



(あっ!)



ルミエルは慌てる。



(お困りのお客様がいては、お嬢様のおもてなしが失敗してしまいます!)



ふわり。

優しい光が、テーブルの上を舞う。

すると、ソフィアの前で、一番最初に使うべきフォークが淡く輝いた。



「……?」



不思議に思いながらも、そのフォークを手に取る。

次の料理では、スープスプーンがほんのりと光る。



(あれ……。)



迷いながらも、光るカトラリーを手に取る。



魚料理。

肉料理。

デザート。

そのたびに、使うべきカトラリーだけが静かに光る。

ソフィアは理由が分からないまま、最後まで一度も作法を間違えることはなかった。



昼餐会も終盤を迎える頃。

招待客たちは感心したように口々に言う。



「素晴らしい会でした。」


「さすがセレスティア様のおもてなしですね。」


「細やかなお心遣いに感服しました。」



ソフィアも席を立ち、セレスティアへ深く頭を下げた。



「ありがとうございました。」


「……。」


「最初にお声を掛けてくださったので、とても安心できました。おかげで最後まで楽しむことができました。」



屈託のない笑顔だった。

セレスティアは一瞬だけ言葉を失う。



「……そう。」



それだけ答えるのが精一杯だった。




**




すべての招待客の馬車を見送った後。

ベルが不思議そうに首をかしげる。



「お嬢様。」


「ええ。」


「聖女様、一度も作法を間違えませんでしたね。」


「……ええ。」



セレスティアはゆっくりと向かいを見る。

ルミエルが満足そうに鼻歌を歌っていた。



「今日も大成功でした!」


「あなたですね。」


「はい!」


「説明なさい。」



ルミエルは胸を張る。



「聖女様が困っていらっしゃいました!」


「……。」


「せっかくのお嬢様の昼餐会です!楽しんでいただけるように、使うカトラリーが分かるようにしたんです!」



ベルは目を丸くする。



「だから全部正しかったんですね!」



セレスティアは静かに目を閉じた。



「私は、嫌味を言ったのです。」


「……?」


「『お好きなように』は、言葉どおりの意味ではありません。」



ルミエルは少し考えて、



「難しいですね。」


「……。」


「でも、昼餐会は大成功でした!」


「……。」



しばらく沈黙が流れる。

やがてセレスティアは、小さくため息をついた。



「成功したのは、昼餐会です。」


「はい!」


「私の計画ではありません。」



口元をひくつかせるセレスティアに、

さすがのルミエルも不安そうにこちらを見上げてきた。



「......お役に立てなかったでしょうか?」



純粋な子供のような目で見つめられ、セレスティアは静かに目を逸らす。



「……そういうわけではないわ。」




**




その夜。

公爵家の自室。

セレスティアは机に向かい、革張りの手帳を開く。

羽ペンを手に取り、今日の記録を書き込んだ。



作戦7

結果:失敗



さらさらと、敗因を書き記す。



敗因:天使。



ぱたん、と手帳を閉じる。



「……次こそは。」



その決意とは裏腹に。

廊下の向こうから、ルミエルの弾んだ声が聞こえてくる。



「明日もお役に立てるよう頑張ります!」



セレスティアは小さく息をつき、窓の外を眺めた。



「……本当に、困った天使ですこと。」




【登場人物】

セレスティア:公爵令嬢。完璧主義で、今日も華麗な計画を立てる。

ベル:セレスティア専属メイド。お嬢様を慕う、元気なメイド。

ルミエル:ひょんなことからセレスティアへの恩返しに奮闘する押しかけ天使。

ソフィア:庶民出身の聖女。


※ルミエルは、基本的に関係のない人たちには見えていません。

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