婚約破棄された冷酷令嬢は、裏切りの全てを暴き尽くし隣国王子に溺愛されながら華麗に復讐する
――それは、あまりにも滑稽な断罪劇だった。
「公爵令嬢リゼリア・フォン・アルヴァレス。貴様との婚約は、ここで破棄する!」
王城の大広間に響く声。
壇上に立つのは、私の婚約者であった第一王子エルヴァン。
その隣には、見覚えのある女。
平民出身の令嬢――いや、今や“聖女様”と持て囃されている女、ミレーナ。
「彼女に対する嫌がらせ、さらには毒殺未遂……証拠もすべて揃っている」
ああ、なるほど。
筋書きとしては三流ね。
私はゆっくりと微笑んだ。
「……それで? 証拠とやらは?」
ざわり、と空気が揺れる。
エルヴァンは一瞬言葉に詰まったが、すぐに鼻で笑った。
「しらばっくれるつもりか。だが無駄だ。証人もいる」
数人の貴族が前に出る。
見覚えのある顔――私の家に取り入っていた者たち。
裏切り者。
でも、いい。
全部、想定内だから。
「……では、その証言。全て“偽証罪”として裁かれる覚悟はありますの?」
「何を言って――」
その瞬間。
大広間の扉が、重く開かれた。
ざわめきが一気に広がる。
現れたのは、異国の衣装を纏った男。
銀の髪に蒼い瞳――隣国レイヴァルトの第二王子、カイル・レイヴァルト。
「その断罪、少々待ってもらおうか」
低く、よく通る声。
彼はゆっくりと歩み寄り、私の隣に立った。
「彼女に関する調査を、我が国でも行っていた。結果は――真逆だ」
ざわり、と再び空気が揺れる。
「嫌がらせも毒も、すべて仕組まれたもの。むしろ被害者は彼女の方だ」
「な、何を――!」
「証拠ならある」
カイルは指を鳴らした。
すると、数名の兵士が書類と共に現れる。
それらは、金の流れ、偽証の依頼書、毒の入手経路――全てを示していた。
そして。
「黒幕は――お前だ、エルヴァン王子」
その一言で、場は完全に凍りついた。
「ふざけるな!!」
叫ぶエルヴァン。
だが、その声にはもう威厳はなかった。
私は、静かに一歩前へ出る。
「私を排除し、ミレーナ様を王妃に据えるため……でしょう?」
「……っ」
「けれど、甘かったですわね」
私は微笑んだ。
「私は、最初からあなたを信用していませんでしたもの」
どよめき。
エルヴァンの顔が歪む。
「……いつからだ」
「最初からですわ」
私は淡々と告げる。
「あなたが私の家の財産にしか興味がないことも、彼女と通じていたことも……全部」
だからこそ。
私は“先に動いた”。
カイル王子と接触し、証拠を集め、全てを暴く準備を整えた。
「貴様……!!」
「終わりですわ、エルヴァン」
その瞬間、王の側近が動いた。
「エルヴァン殿下、ならびに関係者を拘束せよ」
衛兵が一斉に動く。
ミレーナが泣き崩れ、エルヴァンは抵抗するが、無意味だった。
全ては、終わった。
――いいえ。
ここからが、始まり。
私の復讐は、まだ終わっていない。
*
「……見事だったな」
後日、庭園にて。
カイル王子はそう言って、私を見つめた。
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「謙遜するな。お前がいなければ、この結末にはならなかった」
彼は少しだけ笑う。
その表情は、初めて見る柔らかいものだった。
「……それで?」
「?」
「報酬、でしょう? あなたは見返りなしで動く方ではない」
私の言葉に、彼は肩をすくめた。
「確かに。その通りだ」
そして、一歩近づく。
「俺は――お前が欲しい」
……は?
一瞬、思考が止まる。
「レイヴァルトへ来い。俺の隣に立て」
「それは……政略、ですか?」
「いいや」
即答だった。
「完全に、個人的な理由だ」
真っ直ぐな視線。
その瞳に、嘘はない。
「お前のような女は初めてだ。強く、冷静で、そして――誰よりも美しい」
心臓が、わずかに跳ねる。
「……口説き文句にしては、下手ですわね」
「そうか? 本心だが」
さらりと言う。
ずるい男だ。
「私は……復讐を終えたばかりですわ」
「知っている」
「人を信じることなど、もう――」
「それでもいい」
被せるように言われた。
「信じなくていい。俺が勝手に信じる」
「……」
「逃げてもいい。拒んでもいい。だが――」
彼は、静かに笑った。
「それでも俺は、お前を離さない」
――ああ。
なんて厄介な男。
でも。
少しだけ。
本当に少しだけ――。
「……仕方ありませんわね」
「?」
「そこまで言うなら、付き合ってあげます」
彼の目が見開かれる。
「ただし」
「なんだ?」
「私を退屈させたら、すぐに捨てますわよ?」
「上等だ」
彼は笑った。
今度は、心から楽しそうに。
「絶対に飽きさせないと誓おう」
差し出された手。
私は、それを見つめ――。
そして、そっと重ねた。
こうして。
婚約破棄から始まった私の物語は。
復讐と、そして――。
思いもよらぬ寵愛へと、繋がっていく。
けれどそれは。
きっと、悪くない未来。
――そう、思えたのだった。




