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50年目の悲願

外から差し込む朝日に気付き、眠気を抑え込み、頑張って目を覚ます。

(いつものことだけど、朝に弱すぎる……)

もぞもぞと動き始め、支度を始める。


「はぁ……」

昨日のやらかしを思い返し、今日これからのことを思うと、ため息とお腹が痛くなる。

(怖いから行きたくない……でもアポ取った形になるし)

約束を守らないのは、人としていかがだろう?など悩んでいるうちにソニアママから朝食のお呼びがかかる。

餌付けも、順調のようである。


まだ、約束の時間に早いので、街の散策とソニアから教えられた日用雑貨店で、不足しているものを買いそろえる。

改めてこの街、フォアを注意深く観察してみる。


フォアは、大森林からの恵みで成り立つ辺境の都市だ。

貴重な薬草や野生生物、そして危険な魔物の素材が日々この街を賑わしている。

王都までの道も整備されており、商人の行き交いも活発で、傭兵たちも仕事が溢れている景気の良い街だ。


武装した人が多いが、街の人たちは慣れた様子であまり気にしてはいない。

巡回している警備の人もそれなりに多く、治安は悪くないが、みんな顔が怖い。

(傭兵のプレート以外の人も結構目に付くな、武装もしてるし、素材集めの人達かな?)

傭兵より軽装なグループや単独の、恐らく素材採集の人も結構いるようだ。

こちらが観察するように、フードを深く被ったミディにも視線が集まる。

(あまり見てると、絡まれそうだね。ちょっと早いけど向かうかな)

広場にある、時計台を確認して、向かい始める。

ミディの挙動不審な行動は、傭兵のみなさんに「不審者では?」などと思われている。


約束の時間より早くギルドの門をくぐる。

昨日とは打って変わって、賑やかな喧騒が聞こえてくる。

入ってきたミディに一斉に視線を向けるが、大半の人はすぐに興味を無くす。

一部は、なんだこのガキ?と訝しみ、中には、胸元に視線を向ける者、様々である。

(ヒェ、こわすぎる、おうちにかえりたい)


受付の人も数人で対応しており、昨日の静けさが嘘のようだ。

「おいミディ、こっちだ」

昨日の受付の人が呼びかける。

隣には、二十前半くらいの青年と女性が立っていた。

青年は整った顔立ちで優しそうだ。

女性もちょっときつそうな顔をしているが美人だ。

ローブを着ているが、その上からもわかる、メリハリのついたスタイルをしている。

(でっか!)

思わず自分と見比べる。


「マーカスさん、この子が今回の?」

受付の男、マーカスに青年は尋ねる。

「ああ、アレン、こいつの世話頼むわ」

展開が早くてついていけないが、ぺこりとお辞儀をする。


「いやいや、いきなりすぎるよ、彼女の話を聞いてからでないと、この話は受けないよ」

アレンは、苦笑いをしながらマーカスに抗議する。

「まぁ、当然だな。奥の部屋取ってあるから、面談してくれや」

「わかった、モニカ、行こう」

アレンはとなりのモニカを伴って、部屋に向かう。


マーカスも立ち上がり、ミディを奥の部屋へと促す。

「おう、ミディも部屋に行くぞ、俺が立会人として一緒に居てやるからな」

無言で頷き、マーカスの後をついていく。


(ふ、ついに、前世の知識が火を噴くよ!面接マニュアルは空でも唱和できる!)

この世界に来て一番の気勢を上げるミディ。

皆が部屋に入っていき、ミディが入室する直前で硬直する。

(あ、あ、あ、ドアが最初から開いてる!ノックできない……)

開幕から頓挫するミディ。

だが、まだ気勢は衰えていない。

すかさず「失礼します」と中に入り、後ろを向いて扉を閉める。

(まだリカバリー可能だ、フード被ったままでは失礼だから、脱いで自己紹介と挨拶をする!)

皆に振り返り、フードを脱ぐ。

瞬間、ミディの容姿に、部屋の空気が固まった。

ミディは、そのようなことに気づく余裕もなく、挨拶に入る。

「はじめまして、ミディと申します」

上品にカーテシーを決めてから、皆を見る。


空気が固まっており、皆の視線がミディを凝視する。

(何か間違ったか?しまった!お辞儀じゃなくてカーテシーしたから!?)

空回りが加速する。


「……丁寧な挨拶痛み入る。「大地の盾」団の団長アレンです。こちらは団員のモニカ」

「……モニカよ、貴女は貴族様なのかしら?」

二人は「どういうことだ?」とマーカスに視線を投げかける。

「いやいやいや、俺もミディの顔見たのはこれが初めてだから、なんにも知らねーよ!書類にも平民って書いてある!」

あわてたマーカスが弁明をする。


おいてけぼりのミディだが、貴族に勘違いされるのは困るので、三人のやりとりに口をはさむ。

「あ、あの、私はお貴族様ではありません、ただの平民です」

面接マニュアルは頭の中から消えていた。

もう心は折れかけている。

意識の片隅では、とうに帰路のシミュレーションを始めていた。


「……そう」

全然信じていない表情で、モニカが答える。

「ま、まあ、面接を始めるよ。色々聞くから答えてね。」

アレンが無理やり軌道を修正して、話を進める。

「はい」

ミディは、無表情に頷く。

頭の中はすでに真っ白だ。


「ある程度の経緯は、マーカスから聞いているからね、その辺は省略するよ」

「まず、特技は魔法と記載があるけど、どの程度つかえるんだい?」

「はい、生活魔法とイオ……失礼、火球を使えます」

「イオ?」とアレンは首をかしげるが、続けて世間話程度のやり取りをして、ミディの善性や性格を確認していく。


「……以上だ。ミディ、君のことが何となく判ったよ」

モニカと目合わせをして、二人で頷く。

「君さえ良ければ、「大地の盾」に入らないか?魔力持ちは貴重だ、それに後方支援だけでも助かる。」

まさかの採用通知にミディは目を見開く。

(は、はじめての採用通知だぁぁぁ、え、これ夢じゃない?)

荒れ狂う心を押さえつけ、いつものように無表情で返事をする。

「未熟者ですが、宜しくお願い致します」

丁寧に答え、頭を下げる。


「うちの団は今一仕事終わって、皆休暇中なんだ。だから顔合わせは2日後にするとしよう」

アレンは団の拠点の位置をミディに伝え、二日後に会うことを約束する。

「よかったな、ミディ。これで俺も少しは肩の荷がおりたわ」

マーカスも、自分の肩を揉みながら安堵の声を出す。

「じゃあ、ボクたちは手続きがあるから今日は解散しよう。ミディ、これからよろしく」

「……よろしく」

アレンとモニカから挨拶を受け、ミディは部屋を後にする。


―――部屋の中で会話が続く。

「マーカス、何の冗談かと思ったよ」

アレンはため息をつきながら椅子に背を預ける。

「本当よ、あの容姿で礼儀作法までこなせて、平民は無いわよ」

ジト目でマーカスを睨むモニカ。

「本当になにも知らないっつーの。世間知らずすぎるから、お前さんところ位しか頼める団が、なかったんだよ。」

「……確かに、他の団に入っていたら想像したく無いな」

「そうね、解りやすい最後が見えるわ」

何かトラブルの元になりそうだが、ミディ本人の印象は良かった。

「モニカ、ミディの世話係頼むよ。支援隊にも言っておく」

「まぁ、それしか無いわね、やるわ」

「じゃあ、アレン後は任せたぞ。俺は仕事に戻るわ」

マーカスはそのまま部屋を出て行く。


アレンとモニカも少し疲れた顔をしながらギルドを後にするのだった。―――


(採用!っしゃぁぁぁぁ!)

自室で一人、無表情でガッツポーズを取るミディ。

(入団したからには、誠心誠意団の為に、身を粉にして働くよ!)

舞い上がりすぎるミディであった。


ミディの徒然日記

〇月/日

採用決定!採用決定!採用決定!

前世も合わせて50年目にして、人生で初めての正規社員!

超頑張るよ!

忠誠心の証として、脱げって言われたら脱いじゃう勢いだよ!

嘘だよ!!!

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