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覚醒しても、フィジカルは雑魚

―――とある和室にて

夢の中で目覚めた、ミディは太郎と対峙していた。

ミディは正座を、太郎は土下座をという、訳のわからない状況だ。

何故か隣にコタツもある。

「すまない、俺の記憶が君に、悪影響しか与えてないことを謝らせてくれ」

太郎から、突然の謝罪が始まる。

「これ知ってる!神様が間違って殺しちゃったシチュエーションだ!……私死んじゃったの?」

ミディは突然の出来事に、混乱してとんでもないことを言い出す。

「よく見てくれ、俺だ。神様じゃない、山田太郎だ」

「えっと、ここは?」

「たぶん、夢の中だろう。丁度そこにコタツがあるから、入ろう」

太郎の提案に、二人ともコタツに入る。机にはみかんが置いてある。


コタツで寛ぎ始めたミディに太郎が問いかける。

「ミディは、この夢に来る前……あっちの世界でどこまで覚えてる?」

「ん~、確か村に居た男の人に押し倒されて、危うく薄い本になりそうなところまでかな?」


それを聞いた太郎は「薄い本……」と呟き、コタツからでて再びミディに真顔で土下座をした。

「俺の記憶が君に悪影響を与えて、誠に申し訳ありませんでした!」

慌てて、今度はミディが太郎を落ち着かせる。


「ふう……すまない、落ち着いたよ。」

再度コタツで対峙する二人。

「その、あんなことがあって、大丈夫か?男が怖くないか?」

「うん、多分大丈夫!」

「……そうか、ミディは俺より全然強いな」

「そうかな?今思えばあの時、何タダで触ってるんだ、金とるよ!くらい言えばよかったよ」

「……ミディさん!?」

あまりの言い草に絶句する太郎。


「……わかっていたけど、ミディは俺そのものじゃ無いな。」

「?」

太郎の言葉の意味が掴めず、ミディは頭をかしげる。


「君の過去を見て判ったのだが、俺の記憶が目覚めるまで、自我というものがほとんど無かったよな?」

太郎の問いに、ミディは頷く。

確かに、今考えれば当時のミディは人形のように言われたことをこなすだけで、感情の動きもほとんど無かった。

「でも、完全に自我が無かったわけではない。ただその存在が凄く小さかったんだと思う」

「そこに、俺の記憶が混じり、自我が形成されたんじゃないかと勝手に考えてる」

ミディは、太郎の説明がよくわからず、思考を放棄しかけていた。

太郎は苦笑いをしながら簡潔に言う。

「ミディの自我は、俺の記憶に刺激され芽生えた君だけの自我だ」

「だから、俺のダメなところを使わないでくれ、俺と同じにならないでくれ」

「俺に新しい人生を見せてくれ!」

太郎の中から、押し殺してきた負の感情が溢れ出してくる。

どうしようもなく嫌いな自分にならないでほしいという思い。

もう、普通に泣くこともできず、太郎は愛想笑いを顔に張り付ける。


ミディはその負の感情を受け止める。

「太郎!自分を嫌いなまま終わらせちゃダメ!私がこれからの人生で、太郎の記憶が役に立つことを証明して見せる!」

コタツから立ち上がり、胸を張って太郎に言い放つ。

太郎はその言葉を聞き、呆然とミディを見上げる。

「確かに、知識は偏ってるし、エッチな知識は豊富だしネガティブ思考だけど!」

また凹み始める太郎。

「でも、全部が悪いわけじゃないよ!良いところも一杯あるはずだよ!……多分」

「だから、これからの私の人生で何か役立たせて見せるから、見てて!」


「今、多分って言った……」

「そんな細かい事気にしない!これからの私を見てて!」

「……はい」

どこか不満そうな太郎だが、観念したのかミディに微笑む。

「じゃあ、これからの君の人生を一緒に見せてくれ」

「うん、見てて!」

ミディの差し出した手を、太郎が再び取る。

太郎の姿が徐々に光になり、今度は完全に消えて、ミディに取り込まれる。

消えゆく太郎から最後の言葉が届く。

「ありがとうミディ。これでもう直接会うことは無いと思うけど、これからもよろしく!」

ミディは力強く頷く。

「最後に、言っておくよ。ミディの自我はまだ生まれたばかりで、これから成長をしていくと思う。今はまだ幼い子供みたいなものだけどね。」

「大地の盾の皆と一緒にいればきっと良い成長ができるよ、これからも頑張れ!」


この夢の世界も消え始める。

コタツもみかんも……。

みかんを食べなかったことが心残りだが、目覚めの時がきたのだ―――



救護所は空気が重かった。

ミディの熱は下がらず、モニカが付きっきりで看病していた。

皆が、モニカに休むよう言う。

当然、モニカ自身も疲労を自覚していたが、ミディから目を離した罪悪感と、謝罪の呟きが脳裏から離れずにいた。


依頼最終日、ミディの容態は安定して穏やかな顔で寝ていた。

モニカもそれを見届け、疲労で倒れる。


アレンはモニカをミディの隣のベッドに寝かせ、ぽつりと呟く。

「後は、今日到着予定の、あちらさんの本隊と合流できればお役御免になるな」


移住者の護衛と村の守備を担う、傭兵団「ヤマアラシ」は防衛を得意としている。

今の状況では最も頼りになる傭兵団だ。

先程、先行して到着したあちらの団員に、現状を伝え、再度本隊まで使いとして走らせた。


だが、現実は厳しかった。


村に設置してある警鐘がけたたましく鳴り響く。

その音に、村全体が一気に緊張する。

「森から、十数体の影が村に向けて走って来ます!」

物見からの報告を聞き、各自が事前の手配通りに行動を開始する。


自警団は皆、弓を構え、緊張した面持ちで号令を待つ。

柵の前では、クラウスを筆頭に団員たちが前衛を張る。

そのなかに、ミディを襲った男もいて、最前線に囮として、最低限の装備で出されている。


アレンは指揮と、モニカの分まで回復役としての立ち回りを求められていた。


序盤は、村側が有利だった。

近寄ってくる魔物のオオカミに矢を当て、突破した相手にクラウスたちが対処する。

これらを繰り返すことで、こちらの被害も少なく、相手の数を減らせていた。


しかし、ここで形勢が変わる。

再度の警鐘が鳴り響く。


「も、森から新たに数十体の影を確認!さらに、奥から巨大な影が一体見えます!ト……トロルです!!」

最悪な報告に、村の人たちが浮き足立つが、ケントが声を張り上げ、なんとか動揺を抑えている。

団員たちは、場馴れしているので落ち着いているが、内心は舌打ちしていた。


皆が思った。

このままでは、持たないと。

オオカミは門を閉じれば時間を稼げるが、背後の巨大な魔物トロルには、あまりにも無力だ。

四メートル近い巨大な体躯。

丸太のような腕から繰り出される一撃は、村の防備を簡単に粉砕する光景が目に見える。

その様な化け物がゆっくりと村に近寄ってくる……。


村の希望は、ヤマアラシ団からの救援だ。

ここに居る全員が、その希望を信じて必死に矢を放ち、槍を突き出していた。

しかし、迫りくるトロルへの対処が無い。

矢は通らずそのまま村に直進してくる。

再び絶望に染まる皆をみて、クラウスが言い放つ。

「俺がアイツの相手をする!周囲のオオカミは任せるぞ!」

返事も聞かず、村から飛び出したクラウスは、トロルへと突撃を始めた。


「クラウスの突撃を援護する!当てるなよ!……射てぇ!」

アレンの号令のもと、クラウスの周りにいるオオカミへ牽制する。

その間にクラウスは、トロルに取り付く。

トロルは足元のクラウスを、邪魔そうに手で振り払う。

一撃でも貰えば、ただでは済まない攻撃を回避しつつ、足元に傷を負わせていくクラウス。

村も、オオカミに包囲され、膠着状態に陥っていた。


そこに絶望の第三波を知らせる警鐘が鳴るまでは……


―――クラウスが突撃する少し前にさかのぼる。

(目は覚めたけど、身体がだるいし動けない……)

太郎との対話も終わり、眼を覚ましたミディ。

だが、現実のミディは数日間の高熱により消耗しており、今は絶不調であった。

「誰かいないかな?……モニカ?」

小さく呟きながら辺りを見回すと、隣のベッドにモニカが寝かされていた。

ふらつきながらも、モニカの元に歩み寄ると、「ミディ……」と呟きながら、苦しそうにうなされていた。

(あ、これ私が原因なやつじゃん。モニカいつもごめんね?そして、ありがとう)

優しくモニカの顔を触りながら感謝をする。

すると不思議と、モニカの表情が安らいでいき、寝息も穏やかになっていった。


ほっと一息ついて落ち着くと、周りの喧騒が耳に入ってきた。

また、薄着で飛び出し掛けるが、説教を思い出し、急いで着替えを始めた。

(ふ、私は反省の出来る子!二度目の過ちは犯さない!)

ドヤ顔をしながら、着替えを終え、ふらつきながら外に出る。

「え?」

ミディは、戦闘中の村の状況に驚く。

(これって、森からの襲撃?みんなは大丈夫なの!?)

一番戦闘音が激しい、森側の門に急ぎ向かった。


門には大勢の人が防衛に当たっており、その先には、数多くのオオカミと巨大なトロルが見えた。

そして、そのトロルの足元でクラウスがたった一人で戦っている姿も目に映り焦る。

(え、一人であんなの相手にしてるの!?皆も頑張ってるし、私も何か手伝わないと!)

しかし、ミディは槍も弓も使えない。

だが、一つだけこの場で役に立つ魔法があることを思い出す。

(そうだ、全然使う場面無かったから忘れてたけど、火球があるじゃん!)

唯一使える、初級の火魔法「火球」を思い出した。

ミディは高いところから打ち込むことを考え、門の近くにある物見台を登り始める。

(身体が重い、また熱が上がってきた気がするけど、ここが踏ん張り所でしょ!)

なんとか、登り切ったミディの耳に第三波を告げる警鐘の音が響く。


(まだ、森から来るの!?)

周囲の人々の絶望を肌で感じる。

「でも……」

ミディは気合を入れて立ち上がり、敵を睨みつける。

「ここで、私が一発かませば、今までのやらかしは帳消しにしてもらえるよね!!!」

叫びながら、火球の詠唱を始めた。―――



迫りくる第三波の大群に、大きな火の玉が飛来し直撃、爆発した。

その爆発に巻き込まれた、十体近いオオカミが吹き飛ぶ。


突然の出来事に、両軍共に動きを止めて、その発生源を探った。

そして目に映ったのは―――

小さな身体の少女が、常識はずれな巨大な二発目の火球を撃つ姿だった。


火球を撃った反動でフードがめくれ上がり、桃色の髪が風になびく。

その場にいた者たちの瞳に、美しい少女の姿が焼き付いた。


「ミディ!?」

その姿をみた、アレンが叫ぶ。

その声に答えたいミディであったが、本人はそれどころではなかった。

(ちょ、魔力が溢れ出てくる!排出しないと死ぬ!!!)

太郎と完全に同化したことにより、魔力が飛躍的に上昇していたのだが、そんなことは知る由もないミディは、自身の身体を駆け巡る魔力の奔流に死にかけていた。

(うおおおお、どこからでもいいから排出してくれぇぇぇぇ!)

ミディの願いは通じた。

ミディの背中から、抑えきれない魔力が噴き出した。

光の奔流は空へと広がり――

まるで二対の翼のような形を作りながら消えていく。


誰もがその光景に目を奪われていたが、クラウスだけは違った。

「あれは、やはりアイリス様の!?」

クラウスは何か覚悟を決めて、詠唱を始めた。

詠唱が終わると、ロングソードに炎が宿っていた。


トロルもそれに気付くが、クラウスはそれより早く、トロルを切り裂く。

切り裂かれた箇所から、炎が燃え広がり、トロルは絶叫しながら転がりまわる。


戦況が一気に覆る。

トロルが燃え上がるなか、オオカミたちの行動も乱れ及び腰になっている。

とどめとばかりに、ヤマアラシの先行部隊が到着し、そのまま敵に切り込む。


その後は、掃討戦になりオオカミたちは森に逃げ帰った。

トロルもまだ生きてはいたが、全身が燃え上がり、もはや虫の息だった。

クラウスがとどめを刺し、それを見届けたアレンが叫ぶ。

「我々の勝利だ、勝鬨を上げろ!」

「「「うおぉぉぉぉ!」」」

戦い抜いた自警団と大地の盾、そしてヤマアラシによる雄たけびがこだまする。


雄たけびがこだまする中、ミディは物見台でうずくまっていた。

病み上がりの中、魔力の暴走までした身体が限界をむかえ、動くことも出来なくなっていた。

(これって、また怒られるやつじゃん!やだぁぁぁぁ!)


クラウスはトロルを始末した後、姿が見えなくなったミディの元へ駆け出していた。

走りながら思い出すのは、先程の光の翼。

(あれは……アルカディアナ王家に連なる者にしか現れない翼)

様々な記憶が渦巻く中、クラウスは、おそらく倒れているであろうミディの救出に向かうのだった。


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