目覚めは悲しみと共に
初めて書いてみました。
目標は完結させること。
前世の記憶が目覚めたのは、少女の大切な人が亡くなった後だった。
埋葬後に悲しみが溢れ、慟哭の中で男として生きた前世を思い出した。
「あ、あれ、ここは?え、な、なんで涙が止まらないの?」
少女の心は混乱しつつも、今は悲しみの方が大きく、止めどなく涙を流していた。
(私の名は、ミディ。なのに、山田太郎の記憶もある?)
徐々に現在を思い出し、理解をしていく。
「そうだ、師匠が亡くなって、埋葬したんだ・・・」
病に臥せっていた育ての親であり魔法の師匠が、ついにその時を迎え、ミディが一人で埋葬したのだった。
ここは「大森林」と呼ばれる一般人には危険な場所。
その森の中に住まう、老魔女アゼルにミディは赤子の頃に拾われ、今まで育てられた。
病弱で身体の成長も遅く、そして感情の起伏があまりない少女であった。
そんな手間のかかる自分を、アゼルは厳しくも愛情をこめて育ててくれた。
今ならわかる。
感情の起伏がなかったのは、山田太郎の記憶が目覚めていなかったからだ。
目覚めた今、14年間分の感情が溢れ出てくる。
しかし、表情は殆ど変わらなかった。
表情筋が死んでおられる・・・。
太郎の記憶は曖昧ではっきり思い出せないが、あまり良い思い出が出てこない。
事故死した太郎の魂を、神様が導き、この身体に宿してくれたのは微かに覚えている。
『お前の使命は、既に果たされている。後は好きに生きるがよい』
神様の意図は判らないが、第二の人生を後悔の無いように生きていきたい。
「師匠、今はまだ思い出せないことも多いです。でも、心配しないで下さい、精一杯頑張って生きていきます」
墓前で師匠に決意を語り、自宅へ戻る。
自宅は、初めてなのに見慣れた風景に感じ、戸惑いながらも自室に戻る。
小さな部屋で、あまり物も無い。
数少ない手持ちの中に小さな手鏡を見つけ、自身を確認する。
十四歳にしては、やや小柄な気がする身長、凹凸がそれなりあるが幼く見える。
顔は間違いなく将来美女になると思う顔立ちで、髪は桃色で鎖骨まであるロングボブだ。
表情が硬すぎるので、まるで人形のようにみえてしまう。
これからどうしよう。
目覚めた時には、ミディには頼れる人もツテもない状態だ。
前世の朧げな記憶の中でも太郎は就職に失敗して、親のすねを齧っていた。
こんな私がこれから先、生きることが出来るのだろうか。
様々な不安を抱えながらも、自身の現状確認が終わった。
そして、師匠の部屋の片付けに入る。
そこで目にするのは、ミディへ宛てた手紙。
『親愛なる弟子へ
この手紙を読んでいるということは、私はすでにこの世にはいないのでしょう。
お前を残して逝くことが、何よりも心残りです。
身体も弱く、魔力も低いお前の行く末を案じてはいるけれど、
それでも、人はいつか独りで歩まねばなりません。
教えるべきことは教えたつもりです。
あとは、お前が自らの意思で選びなさい。
お前と過ごした日々は、少しも退屈ではありませんでした。
むしろ、かけがえのない時間でした。
外ではフードをしっかり被りなさい、顔を極力晒さないように。
最後に、東の大国には危険だから行かないように。
――私の大切な子へ、愛をこめて。
追伸
この地を出て行くのなら、もう一枚の手紙を持っていきなさい。
私が以前加入していた、冒険者ギルドへの紹介状を書いておいたわ。
こう見えても、昔はそれなりに活躍してたから、困った時には使いなさい。』
涙で手紙が見えなくなる。
いつまでも引きずっていては駄目だ、前世と一緒じゃ駄目だ。
まずは、自立して一人でも生活出来る事を目指そう。
記憶の齟齬が無くなり身体に慣れたら、旅に出よう。
一夜が明け、気付いたこともあった。
着替えやトイレ、入浴等に、恥じらいも戸惑わなかった。
14年間、女性として育ったことで、仕草や口調などで困ることはなさそうだ。
女性になった事で発生する洗礼を受けないで済む、これにはかなり助けられた。
魔法、薬草、錬金の知識も問題は無い。
後は、実戦で経験を積むこと。
そして、臆病な自分の心を奮い立たせ、この思い出の地から、一歩を踏み出すだけだ。
(外が怖い、どうせ何も出来ずに野垂れ死ぬだけだ)
前世の太郎としての人格が枷となり、その一歩が踏み出せない。
ここは居心地がよい、だから、長く留まれば二度と歩けなくなる。
師匠の手紙を読み返し、恐れる心を奮い立たせ十日後にやっと旅立った。
魔物避けの香を焚き、深い森を迷いもなく進む。
ここはミディの庭のようなものだ。
道中で薬草を採取しつつ、この先ある街へと向かう。
考えてみると、師匠と数回訪れたことしかない。
ましてや、一人などある訳がない。
不安に挫けそうになるが、ここまで来て戻るわけにもいかない。
(失敗して心が折れたら帰ろう)
逃げ道を作ることで、逆に心が軽くなる。
街はもう、目の前だ。
門に到着する前に身なりを確認する。
古いが、仕立てのよいローブとマント。
フードもしっかり被り、片手に師匠から授かったロングスタッフを握る。
小柄だから少年で通したいが、大きめのローブからでも起伏が確認できる胸元にあきらめ顔のミディ。
(猫背でも厳しいな、……もうこのまま行こう)
門に到着し、入場待ちの列に加わる。
この街は、大森林から採れる様々な素材が集まり発展を遂げた街である。
そして、大森林からのスタンピードを警戒、防衛する面も持っている。
「辺境の街フォアへようこそ、ずいぶん小さいが、一人できたのか?通行証か入場料が必要だぞ」
門番からの質問に無言で、師匠の通行証を見せると、顔色を変えた。
「これは……、おい、これをどこで手に入れた?」
(なにかやらかした!?師匠の通行証借りただけなのに!)
頭は混乱しながらも、身体は冷静に答える。
「これは、我が師から預かりし通行証、問題は無いはずです。」
「この通行証は、アゼル様の物。貴殿はアゼル様の弟子と申すか?」
無言で頷く。
「……わかった。だが、顔は改めさせてもらう、お尋ね者の確認だ。」
フードを払い、顔を上げる。 門番の言葉が止まる。
後ろに並んでいた行商人のガヤガヤとした喧騒も、一瞬で引いていく。
桃色の髪、陶器のように白い肌、そしてどこか遠くを見ているような、感情の抜け落ちた瞳。
「……よろしいでしょうか?」
「あ、あぁ、確認した。……町中ではフードは取らないようにな。トラブルの元となるだろう」
門番の善意に感謝し、足早に街の中へ消えて行く。
(ふぅ、いきなり心が折れかけた……)
森に帰りたい衝動を抑えながら、冒険者ギルドに向かう。
途中、薬屋が目に入り、数少ない交流関係を思い出す。
(そうだ、この薬屋……師匠が薬を卸してた店だ、師匠の事を話しておかないと)
記憶の中の薬屋の店主ソニアは、恰幅の良いやさしいおばさんだった。
一度来た時、飴玉をくれた思い出も蘇る。
意を決して店内に入る。
「いらっしゃい!何かご入用かい?」
出迎えたのは、三十代後半くらいの恰幅の良い女性ソニアであった。
「ソニアさんでしょうか」
「おや、私のことを知っているのかい?」
「はい、ミディと申します。一度師匠と共にここに来たことがありまして……」
師匠?といぶかしげにこちらを眺めるソニア。
少し間を置き、何かに気付いたように声を上げた。
「あぁ!アゼル様のとこの子かい!久しぶりだね、今日は一人なのかい?」
ソニアの問いに、少し顔を伏せ小さく答えた。
「……師匠は、十日ほど前に亡くなりました。今日はそのことをお伝えに来ました」
一瞬驚き、その後、肩を落とすソニア。
「そうかい……。いつまでも元気だと思ってたんだけどねぇ……」
彼女は小さく息を吐き、顔を上げた。
「教えてくれてありがとうね。ミディちゃんはこの後どうするんだい?」
「私は、師匠の家を出て、この町で暮らそうと思っています」
カバンから、紹介状を取り出し見せる。
「師匠の遺書に、冒険者という道があるとありました。私も、それを目指そうと思います」
冒険者?といぶかしみながらもソニアは頷いた。
「そうかい、ところで今日の宿はもう取ったのかい?」
「いいえ、この後宿を探すつもりです。おすすめの宿はありますか?」
ソニアの言葉で、今日の宿の事を考えていなかった事に気が付く。
「良いところがあるよ!1泊なんと無料!場所はこの店の二階だよ!」
ソニアはニコニコしながら、上を指さす。
(凄い助かるけど、甘えていいのかな?)
「あ、あの、よろしいのですか?一度しか会ったことない者を泊めるのですよ?」
「何言ってるの、アゼル様のお弟子様なんだから、信用してるに決まってるじゃない!」
カウンターから出てきて、ミディの肩に優しく手を置く。
「……あの方には随分お世話になったんだよ、少しはお返ししないとね」
あまり変化の無い表情。しかし涙が止めどなく零れ落ちる。
(あの日から、感情が制御できない。嬉しさが溢れる……)
ソニアは優しくミディを抱きしめる。
「大丈夫、落ち着くまでここに居ても良いんだよ」
声も出さず、ミディは胸の内で何度も頷く。
ソニアの厚意に甘え、その日は店の二階に泊まらせて貰い、ギルドは明日向かう事にした。
部屋の中では、ミディがベッドの上で悶えていた。
(うわぁぁ……。いきなり泣き出して恥ずかしすぎる!)
なお、いつもの通り無表情だが、顔は耳まで真っ赤になっていた。
(明日に備えて、今自分に何ができるか再度確認しよう)
2度目の人生で最初の就職活動?に向けて、最終確認に余念が無い。
(表情が全然動かない……。面接時の笑顔は諦めた!)
(今使える魔法は、生活魔法と火球の魔法のみ)
(薬草知識と調合、錬金技能は多少自信あり)
(後は……顔の良さ位か?まぁ、デメリットにもなりうるのが怖いが)
自己肯定感は低いのに、自分の容姿だけは自信がある少女である。
(頑張って就職して、師匠やソニアさんに安心してもらおう……!)
孤独な少女は細い縁をつなぎ止めた。
ミディは、新たな決意を胸に眠りにつくのだった。
ミディの徒然日記
〇月×日
この世界で目覚めてから暇な時に、日記をつけることにした。
二人の記憶が曖昧に繋がり、思い出せないこともいっぱいあるけど思ったことを書いていこうと思う。
正直、三日坊主の自信しかないけど、前世の二の舞は避けたいし頑張ってみる。
〇月▽日
いきなりだけど、以前の私との違いが少しあることを発見した。
以前の私は、魔力が低く生活魔法がギリギリ行使できる程度だった。
でも今は、火球の魔法が使える程度には魔力量が増えている!
二人分の魔力ということかな?検証の仕方もわからないので、よくわかんない!
少ないより、多い方が良いからヨシ!
〇月△日
今日、この家から旅立つことにする。
師匠から頂いた、マジックバッグを大切に使わせてもらいます。
着替えや、ポーションが入ってとても便利です!
師匠、立派になって戻ってくるので期待しててください。
〇月◇日
フォアの街に到着した。
門番に止められた、師匠の紹介状が強すぎた。
私の顔の良さに、門番はひれ伏した(誇張)。
ソニアさんとの出会いは、本当に嬉しかった。
優しいし大好き!
はやく自立して安心させたいから、これからも頑張れそう!




