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第3話:何も起きない日
その人は、いつも少し遅れて出社してくる。
急ぐ様子もなく、慌てる気配もない。
なのに、不思議と仕事は滞らない。
隣の席の先輩だ。
特別優秀というわけでもないのに、なぜか周囲が助けてくれる。
「期待しないんですよ」
昼休み、缶コーヒーを開けながら、先輩はそう言った。
まるで天気の話でもするみたいに。
「うまくいったらラッキー。ダメでも、まあそんな日もある、って」
それだけ?
と思ったけど、先輩はそれ以上何も言わなかった。
帰り道、その言葉が頭に残っていた。
期待しない。
願わない。
それは、諦めとは少し違う気がした。
家に着いて、靴を脱ぐ。
今日は雨だったはずなのに、靴下は濡れていなかった。
理由は分からない。
ただ、少しだけ安心した。




