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第1話:こぼれた朝
日常の中で、少しずつ心の温度が変わっていく物語です。
気が向いたときに、ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
朝、コーヒーを入れるのに失敗した。
黒いしみがテーブルに広がる。ああ、今日もか。
そう思った瞬間、何故か少しだけ肩の力が抜けた。
天気予報は晴れだったけど、外は曇っている。
まあ、そんなものだろう。
最近は、当たらない方が普通に感じる。
期待しなければ、がっかりもしない。
そう学んだのは、いつからだっただろう。
いつの間にか、それが普通になっていた。
通勤電車は少し遅れていた。
以前ならイライラしていたはずなのに、今日はスマホを見る気にもならなかった。
ただ、吊り革につかまって、流れる広告をぼんやり眺める。
何も願わない。
何も起きなくていい。
会社に着くと、珍しく上司が席にいなかった。
代わりに、昨日出した書類がそのまま机に置かれている。
「助かりました」とだけ書かれた付箋が貼ってあった。
それだけだ。
昇進でもなければ、評価が変わったわけでもない。
それなのに、胸の奥で何かがそっと整うのを感じた。
その日は、特別なことは何も起きなかった。
それが、少しだけ不思議で、少しだけ心地良かった。




