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第34話 おかえりなさい、私たちの英雄

 初戦勝利の報せから、半日ほどが過ぎた夕暮れ時。城門が、ゆっくりと開かれた。

 戻ってきたのは、伝令の騎士が言っていた通り、戦いで傷ついた負傷者たちと、その護衛にあたる十数名の騎士たちだった。


 誰もが雪と泥に汚れ、その顔には深い疲労の色が浮かんでいる。中には、仲間の方に担がれ、ぐったりとしている者もいた。

 しかし、城門をくぐった彼らが目にしたのは、不安げな顔で出迎える人々ではなかった。


「皆さん、おかえりなさいませ!」


 私の張りのある声が、彼らを迎える。

 その背後には、湯気の立つ大鍋がいくつも並び、食堂は清潔な毛布が敷かれた即席の野戦病院へと姿を変え、薬師たちがいつでも手当てできるよう待機している。

 そして何より、城中に満ちる、焼きたてのパンと、野菜スープの温かい香り。


 極限の戦場から戻ってきた騎士たちは、その光景に、一瞬、呆然と立ち尽くした。


「……夢、じゃねえよな?」


 若い騎士の一人が、隣の仲間に呟くのが聞こえる。


「さあ、動ける方はこちらへ! まずは、温かいスープで体を温めてください! 酷い怪我の方は、薬師様がこちらに!」


 私の指示にメイドたちがきびきびと動き、負傷した騎士たちを誘導していく。

 最初は戸惑っていた騎士たちも、手渡された木の椀から立ち上る、心安らぐスープの香りに、強張っていた顔をゆっくりと和らげた。


「……うめえ」


 一口飲んだ騎士が、心の底からといった声で呟く。


「……生きてるって、味がする」


 その言葉に周りの騎士たちも、こくこくと頷きながら夢中でスープを啜った。


 私は、一人で歩くのもやっとといった様子の腕を負傷した騎士の隣にそっと座った。


「お怪我は、大丈夫ですか?」

「このくらい、かすり傷です。それより……エリアーナ様、本当に感謝いたします」


 彼は戦場のことをぽつりぽつりと語ってくれた。


「凄まじい戦いでした。敵は、まるで獣のようだった。けれど、ヴィンセント様は、少しも怯まれなかった。常に我らの先頭に立ち、その剣で道を切り開いて……。あの方こそ、本当の『氷の悪魔』だ。敵にとっては、ですがね」


 彼は誇らしげにそう言った。


「ヴィンセント様は……ご無事なのですね?」

「はい。お怪我一つございません。今は、残りの部隊を率いて、敵の本隊を追撃しておいでです。おそらく決着は明日か、明後日には」


 その言葉に安堵しながらも、私の胸は再び緊張にきゅっと縮こまる。

 本当の決戦は、これからなのだ。


「さあ、これをどうぞ。たくさん食べて、早く元気になってください」


 私は彼に焼きたてのパンを差し出した。


「エリアーナ様」


 パンを受け取りながら、彼がふと、真剣な顔で私を見つめた。


「どうか、閣下のことを、よろしくお願いいたします。あの方が、あんな風に誰かのことを想って戦われるのを、我々は初めて見ました。……エリアーナ様は、我らにとっても、そして何より、閣下にとっての、希望の光なのです」


 その真っ直ぐな言葉に、私は胸が熱くなるのを感じた。


 希望の光。

 その言葉に応えるためにも、私は、私の戦いを続けなければならない。


 私は力強く頷くと立ち上がった。


「さあ、皆さん! スープもパンも、おかわりはたくさんありますよ!」


 私の声に食堂は再び、温かい活気とパンをかじる幸せな音に満たされていく。


 この温かさこそが、彼の帰る場所。


 私は、この光を決して絶やしはしないと、心に強く誓った。

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