第27話 陽だまりのピクニック弁当
翌日の昼下がり。
城の裏にある小さな菜園は、昨日までとは打って変わって、明るい笑い声に包まれていた。
私は厨房の仲間たちにも手伝ってもらい、たくさんの「ピクニック弁当」を用意した。
大きなバスケットに詰めてきたのは、たくさんの種類を少しずつ楽しめる、彩り豊かなお弁当。
子供たちが大好きな、甘いソーセージをタコの形にした飾り切り。
一口サイズで食べやすい、色とりどりの野菜を入れたオムレツ。
そして、この菜園で採れた、少し不格好だけれど味の濃いジャガイモを使って作った、ほかほかのポテトサラダ。
主食は、皆が自分で好きな具を挟んで楽しめるように、たくさんの丸いパンと、レタスやチーズ、ハムなどの具材を別々に用意した。
「わあー! おいしそう!」
「見て、タコさんだよ!」
メイドたちや下働きの子供たちは、バスケットの中身を見るなり、目をきらきらと輝かせた。
私たちは菜園の隅に大きな布を広げ、即席のピクニック会場を作る。
最初は遠慮がちだった皆も、私が「さあ、たくさん召し上がれ!」と声をかけると、楽しそうにお弁当に手を伸ばし始めた。
「美味しい!」
「こんなご飯、初めて食べた……」
「自分で作ったパン、最高!」
皆が満面の笑みで頬張っている。
その幸せそうな光景を、私は少し離れた木陰からヴィンセント様と一緒に眺めていた。
「……すごいな、お前は」
彼が心からの感嘆といった様子で呟いた。
「ただの食事を、人を笑顔にするための一大イベントに変えてしまう」
「そんな、大げさです。私は、皆さんに喜んでほしかっただけで」
「それが、誰にでもできることではない」
彼はそう言うと、私の隣に腰を下ろした。
「あの菜園の土だが、騎士団に命じて、馬小屋の堆肥を混ぜ込ませることにした。専門の庭師もつけよう。そうすれば、もっと美味い野菜が育つだろう」
「まあ! 本当ですか?」
「ああ。……礼を言うのは、俺の方だ。俺は今まで、この城で働く者たちの、あんな顔を見たことがなかった」
彼の視線の先では、子供たちが食後のデザートのクッキーを巡って、楽しそうにじゃれ合っている。その光景は、まるで一つの大きな家族のようだった。
この城は、ヴィンセント様が守るべき、大切なお城。けれど、彼が一人で背負うには、あまりにも大きくて重すぎた。
「ヴィンセント様は、一人ではありません」
私がぽつりと言うと、彼は驚いたように私を見た。
「ここには、こんなにたくさんの人たちがいます。皆、ヴィンセント様のことが、この城のことが、大好きな人たちです」
そして、私は悪戯っぽく微笑んでみせた。
「それに、私だっています。ヴィンセント様がお腹を空かせたら、いつでも世界で一番美味しいお弁当を作って差し上げますから」
私の言葉に、彼は一瞬、虚を突かれたような顔をした。
次の瞬間、声を立てて穏やかに笑った。
私が初めて見る、彼の心からの笑顔だった。
その笑顔を見て、私の胸は春の陽だまりのような温かさで、いっぱいになった。
空はどこまでも青く澄み渡っている。
王都の脅威がまだ燻っていることなど、忘れてしまいそうなほど、穏やかで幸せな昼下がりだった。




