表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/38

第27話 陽だまりのピクニック弁当

 翌日の昼下がり。

 城の裏にある小さな菜園は、昨日までとは打って変わって、明るい笑い声に包まれていた。


 私は厨房の仲間たちにも手伝ってもらい、たくさんの「ピクニック弁当」を用意した。

 大きなバスケットに詰めてきたのは、たくさんの種類を少しずつ楽しめる、彩り豊かなお弁当。


 子供たちが大好きな、甘いソーセージをタコの形にした飾り切り。


 一口サイズで食べやすい、色とりどりの野菜を入れたオムレツ。


 そして、この菜園で採れた、少し不格好だけれど味の濃いジャガイモを使って作った、ほかほかのポテトサラダ。


 主食は、皆が自分で好きな具を挟んで楽しめるように、たくさんの丸いパンと、レタスやチーズ、ハムなどの具材を別々に用意した。


「わあー! おいしそう!」

「見て、タコさんだよ!」


 メイドたちや下働きの子供たちは、バスケットの中身を見るなり、目をきらきらと輝かせた。


 私たちは菜園の隅に大きな布を広げ、即席のピクニック会場を作る。

 最初は遠慮がちだった皆も、私が「さあ、たくさん召し上がれ!」と声をかけると、楽しそうにお弁当に手を伸ばし始めた。


「美味しい!」

「こんなご飯、初めて食べた……」

「自分で作ったパン、最高!」


 皆が満面の笑みで頬張っている。

 その幸せそうな光景を、私は少し離れた木陰からヴィンセント様と一緒に眺めていた。


「……すごいな、お前は」


 彼が心からの感嘆といった様子で呟いた。


「ただの食事を、人を笑顔にするための一大イベントに変えてしまう」

「そんな、大げさです。私は、皆さんに喜んでほしかっただけで」

「それが、誰にでもできることではない」


 彼はそう言うと、私の隣に腰を下ろした。


「あの菜園の土だが、騎士団に命じて、馬小屋の堆肥を混ぜ込ませることにした。専門の庭師もつけよう。そうすれば、もっと美味い野菜が育つだろう」

「まあ! 本当ですか?」

「ああ。……礼を言うのは、俺の方だ。俺は今まで、この城で働く者たちの、あんな顔を見たことがなかった」


 彼の視線の先では、子供たちが食後のデザートのクッキーを巡って、楽しそうにじゃれ合っている。その光景は、まるで一つの大きな家族のようだった。


 この城は、ヴィンセント様が守るべき、大切なお城。けれど、彼が一人で背負うには、あまりにも大きくて重すぎた。


「ヴィンセント様は、一人ではありません」


 私がぽつりと言うと、彼は驚いたように私を見た。


「ここには、こんなにたくさんの人たちがいます。皆、ヴィンセント様のことが、この城のことが、大好きな人たちです」


 そして、私は悪戯っぽく微笑んでみせた。


「それに、私だっています。ヴィンセント様がお腹を空かせたら、いつでも世界で一番美味しいお弁当を作って差し上げますから」


 私の言葉に、彼は一瞬、虚を突かれたような顔をした。

 次の瞬間、声を立てて穏やかに笑った。


 私が初めて見る、彼の心からの笑顔だった。

 その笑顔を見て、私の胸は春の陽だまりのような温かさで、いっぱいになった。


 空はどこまでも青く澄み渡っている。

 王都の脅威がまだ燻っていることなど、忘れてしまいそうなほど、穏やかで幸せな昼下がりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ