第4話 幸せになれなかったお姫様
満月の月明かりが倒れたレオナールを照らし、体から血が広がっていく。
(ク……ソ……)
大量に出血しながらも、悔しそうに指を震わせる。
(もう少しで……もう少しで美味しそうな血が手に入ったのに……)
体が再生できない。もうすぐ死ぬだろう。
(あいつ……あの男のせいだ……)
レオナールは白髪の美青年を思い浮かべる。
(あの男がいなければ……僕は……)
意識がなくなっていく。自分はもうすぐ死ぬ……
「何倒れてるの?」
長髪を後ろに束ねた男がレオナールの顔を覗き込む。
「もしかして誰かにやられたのか?血誓いの眷属の一人に数えられるお前が?」
男は噓だろ?と言いながら爆笑する。
「なんで生きているのかと思ったら心臓が完全に破壊されてないのか。運が良かったな」
「助……けて……」
「おいおい俺に助けを求めるのか?俺に貸しを作ることになっていいのか?」
「いい……から……早……く……」
「しょうがないなぁ~これで《《貸し1》》な」
男は所持していたナイフで手のひらを斬ると、レオナールの口に血を垂らす。
「こぼすなよ?俺の血は高いからな」
答える暇を与えることなくレオナールに血を飲ませる。
「ぐ……ゲホッ!」
「まぁこれだけ与えれば再生能力も戻るだろ」
男は血を与え終わると、手のひらの傷を再生させる。
「はぁ……はぁ……」
「で?誰にやられたの?」
「……何しに来た?」
レオナールは血を飲んだことで心臓と戦いで負った傷を再生させ、話せる状態まで回復した。
「何って……結婚祝いを持ってきてあげたんだよ。これこれ」
そう言って大きなバッグからワインを取り出す。
「どう?20代の美女の血から作られたワインだよ。美味しそうでしょ?」
自慢気に披露するが、レオナールは無視して王宮に戻ろうとする。
「なんだよ……そっちが聞いてきたから答えたのに」
「いらない。帰ってくれ」
「おいおい。助けた恩人に向かってなんだその態度は?」
男は親指を噛んで、出血させると槍を生成する。
「ここでお前を殺してやってもいいんだぞ?」
「……」
回復したとはいえ、再び戦闘できる程の体力は残っていない。
この状態で戦えば、あっさり殺されるだろう。
「……わかった。入れスカルド」
「そうこなくっちゃ」
スカルドは槍を消すと、レオナールについて行った。
とある一軒家のドアがガチャッと開くと、不思議に思ったロイズとミナが玄関にやって来る。
「ジュリエッタ?」
「どうしたの?こんな時間に」
「お父さん……お母さん……」
両親の顔を見て、ジュリエッタは安堵する。
「あのね……話があるの」
ジュリエッタはさっきの出来事を両親に話す。
「だから一緒にこの国を出よう!」
「待て待て。理解が追いつかない」
ロイズが困惑する。
「どういうことだ?レオナール様が吸血鬼なんて……」
「そんなの私が聞きたいよ……」
「それにこの国を出るなんて……急に言われても難しいぞ」
「でも……他の貴族たちに吸血鬼がいたら私だけじゃなくてお父さんとお母さんも殺される!」
必死に説得するジュリエッタを見て、両親が顔を見合わせる。
「しかし……」
「あなた。ジュリエッタの言う通り、この国を出た方がいいかも」
「出国するには金がいる。どうするんだ」
「お金ならある!」
ジュリエッタが部屋に向かい、クローゼットから大事にしまっていた巾着を取り出す。
「これだけあれば出国できる!」
両親に渡すと、ロイズが中身を確認する。
「こんな大金……どこで……」
「レオナール様……ううん……レオナールから貰ったの。これだけあれば足りるよね?」
「まぁ出国はできるが……」
「お父さんお願い!この国を出ようよ!」
ロイズは渋っていたが、決意したのか表情を変える。
「……ミナ。荷物を準備してくれ」
「わかった」
「ジュリエッタも手伝ってくれ」
「わかった」
三人は出国準備に入った。
国門にいた門番があくびをしていると、もう一人の門番が呆れた顔になる。
「おいおい……あくびするなよ。こっちまで眠くなるじゃないか」
「仕方ないだろ。普段夜勤じゃないんだから」
「まぁ助っ人で来てくれたのはありがたいとは思っているが……」
「おっ……こんな時間に誰か来た」
人力車の音に気づいた門番が、前に出る。
「お疲れ様です」
「ジュ……ジュリエッタ様⁉こんな時間にどちらに行かれるのですか?」
「両親と一緒にレオナールに送り物したくて……寝ている間に買いに行こうと思って……」
「素敵ですね!どうぞどうぞ!」
門番が門を開けると、ジュリエッタは頭を下げる。
「ありがとうございます!」
両親を頭を下げて、王都を出た。
「おい。外出許可証の確認忘れてるぞ?」
「しまった!でもいいだろ。ジュリエッタ様なんだから」
「そうだけどさ……」
一方、ジュリエッタ達のパン屋を訪れたスカルドとレオナールは中に侵入し、ジュリエッタ達を探す。
「逃げられたみたいだね。どうする?」
「どうして……どうして僕から逃げるんだ……」
「はぁ……ダメだこりゃ……」
スカルドは落ち込んでいるレオナールに呆れる。
「王都を出たんじゃないの?両親もいないし」
「そんなこと……」
レオナールは焦って店を出る。
「そこまで女に執着するかねぇ……」
不思議に思いながら、レオナールの後を追いかけた。
暗い夜道を歩いたジュリエッタ達は、誰も使っていない小さな家に辿り着いた。
「誰の家かわからないが今日はここにお世話になろう」
「もう住んでいないんじゃないかしら?」
「お父さん。お母さん。もう休んでいいかな?」
「……ジュリエッタ」
ロイズが無言でジュリエッタを抱きしめる。
「ジュリエッタが無事で本当によかった」
「……!」
その言葉にジュリエッタが涙を流す。
「ごめんなさい……私……幸せになれなかった……」
「いいんだよ。必ずジュリエッタを幸せにしてくれる人は必ず現れる」
ミナも二人を抱きしめる。
「大丈夫よジュリエッタ。あなたが生きて戻ってきただけでも嬉しいの」
二人の腕の中で、ジュリエッタは疲れるまで泣いた。




