第2話:絶望と人形の世界
「調子に乗るから、こうなる。魔法都市のためだ」
少女は、かくまっていた魔法を使えない者たちから激しい暴力を振るわれ、尊厳を深く傷つけられた。服を破かれ、全裸で放置されたみゆきに、ひとりの男が近づき、その自慢の白い髪を鷲掴みにして冷酷に言い放った。
彼女は、すべてを悟った。この裏切りの背後に、魔法都市の存在があったことを。その瞬間、彼女が創り上げた白亜の都は、音を立てて崩れ去り、見るも無残な廃墟と化した。
わずかに残った力で、みゆきは荒廃した都市から逃げようとした。しかし、本能のままに牙を剥き、嘲笑う声とともに無数に伸びてくる手に捕まり、再び都市へ連れ戻された。
そこから始まったのは、永遠とも思える長い、長い夜。
「さっさとやれ!この役立たずが!」
彼女はただ言われるがままに動いた。顔見知りの者たちからの冷たい視線が、彼女の心を凍えさせる。
「休むんじゃないよ!もっと動くんだよ!この怠け者が!」
「ごめんなさい」
力なく答えるみゆきの心は、何度も何度も不快な指示を受け、深く疲弊していった。
「こんなことはしたくないのに……」。彼女の意思とは裏腹に、その体はただ指示に従う。
「見事な才能だな。可愛がってやるから、感謝しろよ?」
「ありがとうございます」
虚ろな声で答えるみゆき。まるで品定めされるかのように扱われ、彼女の心に不快な感情の波が押し寄せてくる。それは、心の中で何度も擦られ、思考の奥深くまで侵入していった。
「私自身の価値をそんな風に言わないで……」
心の中で叫んでも、声は届かない。彼女の純粋な心は、彼らの歪んだ欲望をただただ受け止めることしかできなかった。
「いい気味だ!」
「この愚か者が!」
嘲笑と罵声が飛び交う中、みゆきは熱く煮えたぎるような絶望に苛まれていた。呼吸することすら許されないように、彼らの醜い感情が彼女を支配する。
彼女の透き通るような白い心は、もはや何も感じない抜け殻と化していた。
「もう、何もかもどうでもいい……」。意識は遠い場所にさまよい、目の前の光景は現実感を失っていく。それは、もはや彼女にとって非日常ではなくなっていた。
彼女を守ってくれる者は、誰一人いなかった。
ある夜、また見知らぬ男が近づいてきた時、みゆきの心の中で何かが音を立てて壊れた。
「もう、こんな世界は嫌だ……」
それは、か細いけれど、確かに彼女の中から生まれた叫びだった。理解できない不条理への怒りが、静かに、しかし確実に燃え上がっていく。
「そうだ……こんな世界なら、いっそ壊してしまえばいい」
絶望の淵で、彼女は一つの考えにとりつかれた。自分を傷つけた者たちも、傷つけ合う愚かな人々も、全てを自分の作り出した「人形」に変えてしまえば、争いのない、優しい世界を作れるかもしれない。
歪んだ希望だったかもしれない。だが、彼女にとっては、生き残るための最後の光だった。
過去の優しい記憶を封印するのは、あまりにも辛い選択だった。しかし、あの裏切りと痛みを忘れることができなければ、彼女はきっと壊れてしまうだろう。
「もう二度と、あんな思いはしたくない」
そう強く念じながら、彼女は人形の世界を創造する決意を固めた。
青白い光が彼女の体から放射状に広がり、世界は変わってしまった。
世界の民の魂は、みゆきが作った人形にすべて封じ込められた。そして、この「人形の世界」では、人間も動物も、皆が互いを喰らうことを宿命づけられた。