表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すいき  作者: 京惠须神護
6/8

006-「水鬼」の正体は……?

井上さんの表情が、一瞬にして硬くなった。

すぐさま無線を取り、増援を要請する。駆けつけた警官たちは現場を封鎖し、丸井建設の人間を制圧。さらに重機を手配し、コンクリートを掘り返して、あの「水鬼」と呼ばれた死者の遺体を掘り出す準備に取りかかった。

だが――。

私が横から手を突っ込んだせいで、仁野から辿った手掛かりは、そこで途切れてしまった。

丸井建設は、うなだれたまま法の裁きを受けることになるだろう。

それでも、私も井上さんも、胸の奥は晴れなかった。

そう、偶然とはいえ、埋もれるはずだった真実を一つ暴いた。だが、私たちが望んでいたのはこれじゃない。

リゾート建設地で起きた出来事は、ダム湖で見つかった水死体とは何の関係もない。新しい進展などなく、ただ大きく遠回りして、元の場所に戻ってきただけだ。

「……どうだ、警察の苦労ってやつが分かったか?」

井上さんが私の肩を軽く叩く。

「新聞であんまり叩くなよ。こんなの、俺はしょっちゅうだ」

私は口元だけ笑みを作ったが、心は重いままだった。

その時だった。

工事現場の方から――「ガンッ」という鋭い音。

コンクリートを砕く音だ。

掘削が進み、ついに穴を塞いでいたコンクリートが割れたのだ。

次の瞬間、丸井建設の男の、信じられないといった叫び声が響いた。

「そんなはずはない! あいつはここに……ここにいるはずなんだ!」

私たちは駆け寄り、状況を確認した。そして……息が止まった。

コンクリートの中に――遺体はなかった。

あの死んだはずの「水鬼」は、そこにはいなかったのだ。

丸井建設の男は、腰を抜かし、砕け散ったコンクリ片を呆然と見つめながら、意味不明の言葉をつぶやいていた。

井上さんが近づき、胸ぐらを掴んで引き起こす。

「本当に、こいつをコンクリートの中に埋めたのか?」

「間違いない! 目の前で見たんだ! 生きてても上がれなかった……死んで出られるわけがない……幽霊だ! 化けて出やがった!」

男は半狂乱で叫び続ける。

「誰かが遺体を運び出した可能性は?」

私は尋ねた。

店長が首を振る。

「さっきも聞いたが、この現場の資材は高価だから、入り口は全部厳重に見張ってた。一体の遺体なんて、通れば一発で分かるさ」

「全員がグルになって俺たちを騙すなら別だが……」

井上さんは苦笑する。

「そんなこと、あり得ると思うか?」

「水鬼の遺体……」

私は呟き、脳裏に、信じがたい考えが閃いた。

「井上さん、ダム湖の水死体の写真……丸井建設に見せてくれ」

井上さんも察したようで、スマホを取り出し、画面を差し出す。

「これは先日、ダム湖で発見された遺体だ。目撃者は『水鬼に殺された』と言っている」

丸井建設の男は、一瞥した途端、金切り声を上げた。

「間違いない! あいつだ! やっぱり化けやがった……水鬼だ……俺を殺しに来た!」

井上さんはスマホを仕舞い、私に小さく頷いた。

これで死者の身元は確認された。死因もはっきりした。

だが――。

一体どうやって、コンクリートの中の遺体が、一瞬にして一キロ先のダム湖へ移動したというのか?

そして、釣りをしていた老人が見たという「水鬼」の正体は……?

真実は、いまだ霧の中に沈んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ