004-死体
「君の職業は『水鬼』だって聞いたけど、本当か?」
「どこからそんな噂を聞いたんだ?俺はちゃんとした潜水学校を出た工事潜水士だ。昔は水中での接合作業ばかりだったが、ここ数年はドリルの回収も請け負っている。」
「そうだったのか……仁野さん、今月11日にリゾート工事現場でドリルの回収作業をしたよね?」
「……どうしてそれを知ってる?それは……商…商業機密で、話せない。」
「昨日からずっと君を探していた。興味深いことに気づいたんだ。あの回収作業以来、今後1ヶ月分の仕事を全部断っている。なぜだ?」
「そ、それは……商…商業…」
「今は何も言わなくてもいい。ただし警察はもうリゾート施設を調査中だ。もし何か見つかれば、君は私だけが唯一の情報発信源になるかもしれない。今話さなければ、数日後にも誰も君のことを話さないだろう。」
そう言いながらも、内心は不安でいっぱいだった。仁野の言う通り、彼には私に話す義務はない。私はただの記者だ。警察が現地を調べているというのも大げさかもしれない。何がわかるかもわからない。だが私は賭けに出たのだ。あの回収作業がただの作業じゃないと。仁野が何かを隠していると。
口では平然を装いながら、心の中では、この一言で線が切れてしまうのではないかと冷や汗をかいていた。
しかし、幸運にも賭けは当たった。
仁野はしばらく沈黙した後、ため息をつき、遠い記憶を辿るように語り出した。
「その日、俺は防護服と酸素マスクを着けて泥水の中に潜った。下はほとんど見えなくて、手探りで進んだ。抵抗が激しくて、体に付けた鉛の重りが頼りだった。潜るほどに水圧が強くなり、20メートルを越えたあたりで目まいがした。でもドリルは見つからず、焦り始めていた……」
「その時、長いものに触れた。見つけたと興奮して、その周りを手探りで探り、フックを掛けて引き上げようとした。だが触った感触が違った。ドリルは鉄だが、それは柔らかくて、形も違った。節々があった……やっとわかったんだ……それは人の死体だった。」
「その時、無線機が鳴った。丸井建設から『見つかったか?』と連絡が来た。俺は冷や汗が出た。前にもう一人『水鬼』が潜ったが上がって来られなかったと、会社は隠していたんだ。もし俺が死体を見たと話せば、彼らはロープを切って俺を沈めるだろう……怖くて、何もなかったことにして、あと数分かけてドリルを見つけ、フックに掛けて引き上げてもらった。」
「丸井建設は俺に50万円を渡したが、心は冷え切った。声を上げられず、金を受け取ってその場を去った。潜る度にあの死体が浮かんできて……精神的に参って、全部の仕事を断って、近いうちに心療内科に行こうと思ってる……」
「鳴海さん、これは俺の仕事の話であって、あの死体とは関係ない。俺が潜った時には、もうその人は死んでいたんだ……」
仁野の話を聞き終わった私は、言葉も出ず、すぐに井上に電話をかけた。
「井上、今どこだ?リゾートにいるか?そこで待ってろ、丸井を絶対に逃すな。すぐに行く!」