016
「ところで御二方のお話は偶に突飛ですね?ひょっとして三人目がいらっしゃいます?なんて…ひひ」
冗談を言ってやった!みたいなタゲちゃんにaとKは真ん丸な目を向ける。
「ツッコミがないなとは思ってた」
「もしかして、聞こえてない?」
「えぇ?」
そう言えばタウちゃんも「その声は誰ですか?」みたいなことは訊いてこなかった。
『恐らく聞こえていないのだろう。ふたりがこの虚海で玄獣の認識に時間が掛かったように、彼らの感覚器は私に波長が合っていない』
「なるほど。見えもしないし聞こえもしない。そりゃあカミサマはこの世界には入れない」
信仰で成り立つカミサマだ。信仰のない地で存在も感知されなければ存在を保てない、ということらしい。
「今は?」
『ふたりがいるし、私は一応玄獣と縁深い職能だからな』
珠に護られてギリギリ、というところなのだそうだ。万が一を考えて分け身で来たのだろう。
そうこう言っている内にダストシュート前だ。
「じゃあねタゲちゃん。今んとこ監視端末の中でタゲちゃんが一番好き」
「ひひ…そりゃ照れちゃいますね」
またのお越しを、と慇懃に礼をするタゲちゃんに手を振って、一行は経路の扉を潜った。
「あー、特に何もなかったっぽい」
経路を抜けたaは扉を振り返る。Kは涙が止まらないようだった。
「うべ…悲しいわけじゃないけど…ムカつくわけでもなさそうなんだけど…」
ズビズビと洟を啜っている。
対してグランチェスカは分かり易い。大分お怒りのようだ。
「玄獣も同じなんだね。タクちゃんは?」
『私は──いや、そうだな。同じなのかも知れない』
そうなんだ、と言った処で、aは目を瞬かせた。
「Welcome,human!オギエルえよおこそ。この地区の監視端末です」
「かわいっ」
ツチブタ、つなぎを着た二足歩行のツチブタだ。遂に人間型じゃなくなった。耳の先まで入れてもaの腰辺りまでしかない。
「かわい…」
しゃがみ込んだaとKに眺め回されワタワタしている。
「美味しそう…ですね?」
グランチェスカのネットリとした視線を受けビクリと跳ねる。小さくなってカタカタと慄える様は可愛すぎた。
「監視端末は食べられないでしょ。ね、オギー」
Kは立ち上がり、グランチェスカとツチブタを見比べた。
「そうでしょうか…」
グランチェスカの視線は離れない。
「ひぇ…」
aは怯えるオギーを自身の陰に匿った。
「それで、貝空の気配は?」
「…あるような、ないような」
『ある気はするが、薄いような…だな。探してみる価値はありそうだ』
オギエル地区は、まるで廃棄場のようだった。汎ゆる物質が無造作に積まれている。やがて崩れ落ち、そこにまた積み上げられていく。
「すごいなコレ…何?」
「何、と訊かれましても。何でもありますよ。探し出せればね」
積まれたそれらはゴミではなさそうだ。錆も無ければ壊れてもいない。腐臭もなければ傷んでもいない。
「アレが庁舎?」
より堆く盛られた山には、大玄獣の気配がある。aでも感じるくらいだから相当だろう。
「あちらわヨグ=ソトースの住処ですね」
「クリフォトが解らなくなってきた」
Kが疲れた様子で息を吐いた。
「翻訳の具合なんじゃないの?」
「そうだよね。これまでもそう乗り切ってきたもんね。おーけー気にしない」
「『全て』お教えてくれるありがたぁいおかたですよ」
「マジで『全て』過ぎて頭パァンなるヤツでしょ知ってる要らない」
「それでわ庁舎に向かいましょお」
「この辺、この辺です。庁舎お出たのが久し振りでしたから、帰るのも一苦労です」
モコモコとガラクタに頭を突っ込んで蠢いている。おしりが大変に愛らしい。
「いつも引き籠ってんだ」
「そおですねえ〜。物が在り過ぎて大変ですから」
「地区をあげて整頓とかしないの?」
「ヘタなものに触れたら頭パァンですよお」
此方の表現を引用しての警告に、Kは適当に伸ばしかけていた手を引っ込めた。
「ココにあるのは『知識』なんだねぇ」
「そおですね。昔わ知識の竜が棲んでいて。ある時いなくなりました」
「へー」
姿が見えなくなっていたオギーがガラクタの中から勢いよく頭を出し、周りの物が崩れ落ちた。
「入口お見付けました!えらい」
えらいので、イイコイイコしておいた。
なるほど、庁舎は地下に伸びていた。
「この地区で一番の玄獣ですか?ヨグ=ソトースじゃないですか?」
「そうだわなぁ。それ以外で」
「うーん…この地区の皆わ引き篭もりがちなので、あんまり把握出来てないのが現状です」
オギーが地区の座標図を映し出す。各所に様々な明度の点が描かれている。一際明度の高い点は、位置からしてヨグ=ソトースだ。つまりこれは玄獣の配置とその強さを表しているのだろう。
「これ、リアルタイム?」
「そおですね。皆動かないので」
「んん?このうっすいの、やたら動き回ってるけど」
見えるか見えないかくらいの明度の点が、地区中を動き回っている。軌道に法則性は無さそうだ。
「ハエみたいですね。何でしょおか、ちょっと解りません」
「気になる。見に行こう」
「えぇ?まあいいけど…」
明度が強さなら、そのハエに用はないんだけどな…とaは思った。




