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リトライ  作者: 炯斗
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001

ふたりは暫し呆然とその様を見ていた。脳は回転を止め、再始動には幾らか掛りそうだった。

──どうして

その言葉だけが働かない脳内に取り残されている。

仁麗殿の上空に開かれた狂気の瞳。金色の筈の城内に、赤く焼け爛れた大地が重なって見えた。

思考を取り戻したのはaが先だった。遂に『その時』が来たのだと、覚悟を決めて喉を鳴らした。

盾は──使える。

感覚を確かめて、拳を握り締めた。




黒紫城の会議室であくび混じりに議論を聞き流していた煌王は、ふと視線を明後日の方へと向けた。

「どういうことだ、そりゃ」

発言中だった大臣は深刻な表情で口を噤んだ。気付いた煌王は指先を振った。

「ああいや、こっちの話だ。そっちの話は原因も対処法も解ってる。だが、悪いが急用が入った。続きはおまえらだけでやるか、また今度にしてくれ」

ざわつき非難を投げかける臣たちに背を向け、王は会議室の扉に手を掛ける。

「その論題を軽んじるつもりはないが、こちらも火急だ。後は任せた」


会議室を出たその足で、王は城中を歩き回った。宰務室、宰相の私室、サロン、部下の研究室、展望の間。されど目当ては見付からない。展望の間から街中を…見渡せる範囲を全て見回しても、その気配は感じられない。

「…何処だ?」

自分の背後に語りかけるように視線を向け、そう独りごちる。

「別の国域…ゲブラーか?……何?」

この王のそんな表情を、誰が見たことがあるだろう。目を見開き、点にして、数度瞬いた。

「はっ、」

口の端が上がり、僅かに開いて音が洩れた。

「『海』か!海とは!なるほど、セフィロートの者(オレたち)には思い付かんな!」

そして、手が出せない。

「それじゃあ仕方がない。任せるとするか」




「っは!!え!?何処!??」

「海!!?」

帝国の仁麗殿で貝空が玄霊に戻った。aは覚悟を決め、いざ挑まんと拳を握ったところまでは覚えている。それが、次の瞬間には海の上だ。状況の把握が追いつかない。

口に入る水は塩味で、身体を運ぶ波も感じる。幸い水温は低くはない。見れば、Kはスチロール板を召喚しよじ登っていた。aも倣ってビニールボートを召喚する。

「どうなった!?」

「わかんない!貝空は!?」

上空を見渡すがそれらしき陰はない。アレだけ仁麗殿に残して自分たちだけ転移してしまったのだろうか。だとしたら一刻も早く戻らなくてはならない。姫とエリさんに何かあれば、帝国は滅亡する。

「玄霊は今、ヘクサオクタが捕らえ海底に向かっている」

「へっ?」

ふわりとたなびく淡い緑の髪。硬質な口調の割に酷く優しい声。二度と会えなくなった筈のカルキストの保護者がそこにいた。空中に腰掛けるようにしてaとKを見下ろしている。

「タクちゃ…」

「てことは…」

ヘクサオクタ。初めて聞く音だが、流れ的にaの持つ盾の事だろう。

「私はヘクサオクタが玄霊を捉えた際引き剥がされた」

「それって…」

タクちゃんは戻り、玄霊は深海へ。万事解決、というものではないだろうか。aの肩の荷も降りる。

喜色を湛えてKを見れば、Kは複雑な面持ちをしていた。

「………」

十年。アレを『貝空』として手元に置いて十年だ。Kが貝空をとても信じて用いていたのは知っている。流石に「良かったね」などと声は掛け難いことに気付き、aは言葉を飲み込んだ。

「K…」

「いや、そっか。こんな手があったんだね。思い付かなかったや」

宇宙とかに飛ばしても良かったかも、などとブツブツ続けている。

「タクちゃん、ラグに会いに行ってあげ──は?ここ何処?」

台詞の途中で気付いたKが目を見開く。

「ゲブラー沖の海上だな」

あっさりと答えたタクリタンに、aも驚愕を返した。

「セフィロート!なんで??」

「望んだ転移ではなかったのか?」

違う。少なくとも、aはあの場で倒そうと思っていた。ではKの仕業か?目をやれば、Kも目を丸くしたまま首を横に振っている。

「ワンチャン、帝国だったら玄霊も弱まるかなと。…でもそうか、タクちゃんも弱まるよな…でも武器とか設備が用意できるし…」

この様子ではKの所為ではなさそうだ。

「まあどうして転移したのかは解らないけど…」

見渡す限り陸の陰はない。これだけ遠洋の深海であれば、狂気も害を及ぼさないだろう。

「解決、でしょ」

長年の重みが、唐突に呆気なく失われた。最強の武器と盾も失ったが、aとしては身が軽くなったことの方が大きい。突然過ぎた別れにKは暫く凹むだろうが、派手に遊ばせてやればすぐに落ち着くだろう。

「うん、じゃあ、ラグに会っておいでよタクちゃん。きっと喜ぶよ」

「ああ。おまえたちはどうする?」

「少し遊んで帰る」

aの提案にKも頷いた。

「そだね。折角来たし」

「そうか。ではまた後で」

タクリタンは揺らいで消えた。

Kは暫く自らの下方…揺れる水面を眺めていたが、一度固く目を瞑り、顔を上げた。

「取り敢えずグールん家でシャワー借りよう」

温かな海水に浸かった身体はベタベタしていた。

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