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蝉の声が止む前に──読みたくなかった8ページ

作者: ハズレ

これは、明確な結末を持たない小さな物語です。

その中にある感情や風景を、どうぞ感じ取ってください。

 ある夏の暑い日。蝉の、耳をつんざく声をどこか遠くに感じながら、ぼーっとしていた。

さっきまで読んでいた読書感想文を書く予定の課題本は、そばに放り投げた。

読むのが辛くなったから。

 自分と似たような状況が描きだされた物語を選んだ。そうすれば、読むことが苦痛じゃなくなると思ったから。

でも、現実はうまく行かなくて。読めば読むほど苦しくなった。自分とは違う文体。的確なところに置かれた、適切で巧みな心理描写。有名な賞を獲得した本だもの。うまくて当然なのだけれど、いつもの私らしく、感動することができなかった。

 『こんな言い回しをすればいいのか!』『この表現使えるな』『こう言い換えられるのか!』と発見し、感動するのがいつもの私。なんなら良かったところを逐一ノートに書いていたのに。

今回は苦しくなる一方だった。

 自分の文才のなさをありありと気づかせられたから。

課題本を閉じて、自分の書いたニ次創作やら一次創作の小説を少しだけ読み返す。

読みづらいことこの上ない。『駄作』としか表しようのない、つまらない文章の羅列。

現実を突きつけられ、課題本をソファーの上へ投げ捨てた。


 ぼーっとする頭で今は何時だろう、とふと思った。スマホの電源を入れると思いの外眩しくて、目を細める。眉間にしわが寄る。

明るさを下げて、現在時刻を確認。


ーー15時25分。


本を読み始めてから、10分ほどしか経っていなかった。読みすすめたページは僅か8ページ。読むスピードの遅さに落ち込んだ。夏休み終了までに速読をマスターする、などという目標を掲げたのは一体誰だっただろうか。


 どこか霧がかかったようにはっきりせず頭痛がする頭をすっきりさせるために、冷凍庫からアイスクリームを取り出した。スタンダードなバニラ味。私と一緒だ。コンビニやスーパーに常に置いてある。ありふれた味。

 何度目かも分からないため息をつきながらベッドに向かおうと、その場を後にしようとしたとき。ふっと不自然に膨らんだカーテンが目に入ってきた。

猫がカーテンの向こう側に座って、外を見ているのだ。なんとなく私は猫に近づいてみた。猫はじっと窓の外を見つめている。

 こちらに目を向けてくれないのがなんだか悔しくて、持っていたアイスを猫の頭の上に乗せてみた。冷たくてびっくりするだろうと思ったから。でも、猫は全く動じない。外に夢中で気づかないのだろうか。

 「楽しい?」

 勝手にそう口が動いていた。猫はゆっくりとこちらを向いた。

ニャーと鳴くでもなく、すり寄ってくるでもなく、ただ、じっとこちらを見つめている。

何かを見透かすような目が怖くて、私はスマホと共に自分の根城であるベッドまで逃げた。


 ピロンッと無機質な音が響く。スマホの通知音だ。タオルケットを被っている体をゆるゆると起こし、確認する。

音楽ゲームの通知だった。現在イベント期間中で、完走しようね! と友達と誓ったのだった。でも。

もう今は何かをすることが億劫だ。何もしたくない。

 溶けかけのアイスクリームは変に冷たく、美味しくない。

微睡みが私の意識を攫っていく。次に目覚めたときは、机の上に積み上がった大量の宿題に手がつけられますように。

蝉の鳴き声がしんと止んだ。

この物語は、あえて“答えの出ない余韻”を残しています。

消化不良が起きるかもしれませんが、誰かの心の中で続く物語を想像してほしいためです。

読み手の皆さんが、自分なりの答えや感情を見つけるきっかけになれば幸いです。

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