悪役王女ヴァレリーは逆行転生したので、一度は愛したクズ野郎をざまぁする
アルヴィア王国第一王女ヴァレリー。
彼女には前世の記憶…いや、〝同じ〟だが〝別の〟人生の記憶がある。
彼女はこの言葉を知らないが〝逆行転生〟というものである。
彼女はその記憶を頼りに、人生をやり直していた。
例えば、教養。
前世の彼女は怠惰で、勉強などしてこなかったため教養など身についていなかった。
けれど今回の人生では、生真面目に勤勉に生きて来た。
おかげで優秀になった彼女は、前回の人生では冷遇して来た家族から愛されている。
例えば、見た目。
前世では肥えて目も当てられない醜女となっていたが、今回の人生では乗馬を嗜み筋肉が程よくついた健康的な美女となった。
例えば、人徳。
彼女は前回の人生では人をこき使いこき下ろす最低な人間だったが、今回の人生では自由に使えるお小遣いの全てを下々の者への施しに使った。
特に下々による自然保護、動物愛護の活動にはより多額の寄付をしたことで人によっては彼女を聖女だとさえ言う。
「ここまでくれば、わたくしの評判は鰻登り」
そう、まさに彼女は〝王家の至宝〟と呼ばれるようになっていた。
「であればあとは、あのクソ野郎を下すだけ」
悪役王女ヴァレリーは逆行転生した時に決めた。
一度は愛したクズ野郎をけちょんけちょんに言い負かす。
ヴァレリーという婚約者が居ながら浮気をした、隣国であるターフェルルンデ王国の王太子。
その名をシルヴェストル。
婚約者のいる男に粉をかけた男爵令嬢を躾けてやっただけなのに、そんなヴァレリーを悪役に仕立て上げて公衆の面前で断罪した男。
あの男のせいで、前回の人生では離宮に幽閉されて一人寂しく死んだのだ。
「ぎゃふんと言わせてやりますわ!」
ヴァレリーは、シルヴェストルを完膚なきまでに叩きのめすことにした。
そしてやってきた、婚約者との顔合わせ。
十八歳にしてようやっと、輿入れ直前に顔を合わせた二人。
前回の人生と変わらず、これが初対面なのだが…。
「ふん、俺は真実の愛を貫く!こんな女とは結婚しないぞ!」
前回の人生では醜女と言われたので、まだマシだろう。
ヴァレリーは若干イラっとしたものの、それを押さえ込んであえて笑顔を向けた。
笑顔で、相手を狙撃した。
「あらあら…わたくしもこんな男とは結婚したくありませんわ」
「…は?」
きょとんとする目の前の男に続ける。
「王太子殿下の強みなんて、所詮そのお顔だけでしょう?そんな男こちらから願い下げですわ」
「え、あの」
「大体今さっき真実の愛とかほざきやがりましたわよね?それって浮気しているってことですわよね?」
「いやそれは…」
「こんな婚約、こちらから願い下げですわ」
そう、そうなのだ。
元はと言えばこいつが浮気したのがいけない。
ということで、この婚約はヴァレリーの方から破棄した。
瑕疵はシルヴェストルにあったため、もちろん彼の有責で。
自信満々のシルヴェストルの、初めて女から…しかも人から見て極上の【王家の至宝】から拒絶されたショックの表情は忘れられない。
快感だった。
王家の至宝ヴァレリーは、こうして見事に仕返しを果たしたのだ。
それだけではない、この件のせいでシルヴェストルは廃太子され第二王子が立太子したらしい。
廃太子されたシルヴェストルは断種され、離宮に押し込められ幽閉されたのだとか。
そしてあのクソ女…シルヴェストルの真実の愛の相手である男爵令嬢も、廃太子されたシルヴェストルの世話役として半幽閉生活を送ることとなったらしい。
まさに完全勝利!
ヴァレリーは高笑いを決めた。
さて、婚約破棄によってフリーになったヴァレリーだが。
教養もあり、美人で、人徳もある王家の至宝。
それを放っておく者などいるわけがなく、数多くの他国の王族から釣り書きが届く。
その中で、ヴァレリーが惹かれたのが…他でもない、あの憎きシルヴェストルの弟であった隣国ターフェルルンデの王太子、エルヴェだ。
「この男、前回の人生で唯一わたくしを庇っていたのですわよね」
そう、エルヴェは唯一の味方だった。
何故かは知らない。
彼は大層お人好しだとの噂だから、単純に同情されただけかも知れない。
それでも、会ってみる価値はある。
ヴァレリーは、エルヴェとお見合いをすることにした。
「エルヴェ・アンリ・ターフェルルンデと申します。その節は兄がご迷惑をおかけして…誠に申し訳ございませんでした」
「ヴァレリー・ルーナ・アルヴィアですわ。兄君のことはもう忘れましたから、どうかお気になさらず」
ヴァレリーが微笑むと、エルヴェは顔を赤らめて目を逸らす。
「あら?どうしましたの?」
「いえ、その…王女殿下がとてもお美しくて…微笑まれると、その…照れて、しまって」
「まあ、そうなんですの?」
なんと初々しくて可愛らしいのか。
ヴァレリーはエルヴェを心底気に入った。
「ねえ、わたくしと婚約してくださる?」
「!…王女殿下が望んでくださるなら、ぜひ」
「望むに決まっているでしょう?こんな素敵な殿方、初めてだもの」
「王女殿下…!」
「ヴァレリーと呼んでくださいまし」
エルヴェは頬を染め、微笑み一つで一目惚れしてしまった相手の名前を呼ぶ。
「ヴァレリー様…僕のことは、エルヴェと」
「エルヴェ様…わたくし、貴方となら上手くやって行けそうですわ」
「僕もです…!」
こうしてヴァレリーは、姉さん女房として婚約者の手綱を握った。
握られた本人も幸せそうなので、これでよかったのだろう。
…ちなみに、前回の人生でエルヴェがヴァレリーを庇ったのは単なる同情ではない。
ヴァレリーがこっそり薄汚れた子犬に食べ物とミルクを与えて救い上げたのを見たからであった。
ヴァレリーは前回の人生では最低最悪な人間であったが、動物には優しいという唯一の美点があったのだ。
今回の人生でもヴァレリーは、エルヴェに会う前にその子犬の様子を見に行って救い上げていた。
それをエルヴェもまた目撃してしまったのだ。
だからこそ、微笑み一つでノックアウトしてしまった。
つまりは情けは人の為ならずということだ。
善行は、自分を救うのだ。
そもそも今回のやり直しの人生も、数多くの動物を救い庇護したヴァレリーのために獣を守護する神が与えた蜘蛛の糸のようなものであったので、ヴァレリーは自分の善性に助けられたようなものなのである。
ヴァレリーとエルヴェが仲睦まじく過ごす一方、離宮に押し込められたシルヴェストルと男爵令嬢は罵り合っていた。
「お前が妃になりたいなんて言うから!」
「なによ!婚約者とは別れて私を妃にしてやるって言ったのはそっちじゃない!」
前の人生ではヴァレリーが嫌われ者だったため、シルヴェストルのわがままにこれ幸いと乗っかる形でヴァレリーがアルヴィア王国の離宮に押し込められた。
しかし今回の人生ではヴァレリーは王家の至宝。
嫌われるどころか溺愛されているヴァレリーにあんなことを言ったシルヴェストルは非難の的だ。
よって今回の人生ではそんなわがままを言い出して国を乱したシルヴェストルとその愛人がターフェルルンデ王国の離宮に押し込められた。
まあつまりは自業自得だ。
だが二人は自分の非を認めない。
「私はただ豪華で幸せな生活をしたかっただけなのに!」
「俺だって生まれながらの婚約者なんかより自分で選んだ相手と幸せになりたかっただけだ!」
わっと泣き出す愛人に、シルヴェストルの目は冷たい。
「だが、自分で選んだ相手がこんな女だったなんて…」
「なによ!?どういう意味!?」
「俺の見る目のなさに辟易してるんだよ!」
「私だってアンタなんか信用するんじゃなかったわよ!」
「なんだと!?」
こうして今日も二人は罵り合う。
二人の喧嘩は治ることはなかった。
情けは人の為ならず、いい言葉ですよね。
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