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Miss GRAVE -The Silent Revolution-  作者: とき
Ep.1 A Boy Becomes the Weapon
1/15

1-1

(前略)

 1770年、エルシオン帝国が成立する。

 エルシオン帝国は、前年1769年にイギリスで開発された蒸気機関の技術をいち早く取り込み、蒸気機関車や蒸気自動車等、生活の基盤となる様々な技術の積極的な開発に乗り込む。エルシオン帝国の成立により、人々の生活水準は大きく上がり、人々の生活の転換期を迎えた。

 また、貿易面では、他国を排除する『梯子()ろし政策』を行った。他国との交易を絶ち、他国との交易の必要性を唱える国の宰相らを、処刑の対象としていた。特に、1869年に行われた『アドラーヤクト(鷲狩り)』では、当時の宰相(16 ら7名が処刑された。


(16 パーシヴァル・フォン・グレイブ(1824−1869)

 当時の宰相。『梯子下ろし政策』に異議を唱えたことにより処刑された。


 星堂社「詳細 世界史のすがた 改訂版」p.84 より引用



 ◇


「じゃ、今日はエルシオン革命から学習するぞ。教科書85ページ開いてー」


 毎日の授業は退屈で仕方がない。

 こんな歴史を学んだところで、一体全体何の役に立つというのだろうか。自国の歴史でもないのに、こんなことを学んだって意味があるように思えない。

 というより学校に来て、こんな無意味でくだらないことを学ぼうとしている姿勢を見せているだけ、偉いと思ってほしい。

 今日も大嫌いで退屈な世界史の授業を、60分間も耐えなければならないと思うと憂鬱だ。


 (……ああ、もう眠すぎて話が入ってこない)


 (いぬい)友一(ともかず)は、頭をカクカクと舟を漕ぐように動かした。先生の話が、まるで子守歌のように聞こえる。こんなに退屈で、ちっとも中身のない子守唄を聞かされたら、幼児どころか高校生の自分ですら眠くなってしまう。

 子守歌のせいで、乾は次第に眠気の限界を迎えつつあった。

 ─もう、睡魔に身を委ねてもいいのかもしれない。

 乾はとっくに睡魔と戦う気力さえも尽き、睡魔に体を委ねようとした。その時だった。


「おい、乾友一。居眠りするな!」


 そんな乾を先生は見逃してはくれず、机に突っ伏してた俺の頭をコンコンと、ドアをノックするがごとく叩いた。

 乾は顔を上げて、先生を見た。先生の目が全く笑っていない。


「寝るということは、全て分かっているということだな? さて、そんな乾君に問題だ。エルシオン革命を率いた指導者は誰だったかな?」


 名指しの質問に、クラスメイトは一斉に乾の方を向いた。


(寝起きからの公開処刑確定イベかよ……)


 睡魔に身を任せていたものだから、先生の話なんか当然聞いてないし、答えは分からない。先生もそれが分かっているのに、どうして試すように質問して、公開処刑のような真似をするのだろうか。意地が悪い先生だ。


「分かりません」


 乾は内心ふてくされながらも、正直に答えた。その答えを聞いた先生は、呆れたように重い溜息をついた。


「はあ……。お前はまず授業中寝るな」

「はあい…」


 乾はあくびをしながら返事をした。

 悪いのは退屈な話をする先生だ。自分は全く悪くない。


「寝るなよ?」


 全く反省する素振りを見せない乾に、先生は念を押して、授業を再開した。乾は先生の有難い忠告を無視し、再び睡魔との戦いに身を投じる。

 戦いに夢中だった乾に授業を聞く余裕はなく、話の十割を理解できないまま、授業はそのまま終わってしまった。


 授業が終わり、睡魔との壮絶な戦いを経て、乾は大きなあくびをかました。

 そして、少しでも眠気を覚まそうと体を伸ばした。だが、それでも眠い。

 休み時間も少し寝るか、とぼんやり考えていると、乾の友人がニヤリと笑いながら、傍にやってきた。


「お前、授業中寝てたろ。また怒られんぞー」

「もう慣れっこ。それよりも次の時間、何?」

「体育だよ。お前、今日は準備当番じゃね?」


 乾ははっとした。今日は当番が当たっていて、体育の授業に必要な道具を、授業が始まる前に準備しなくてはならなかった。

 しかも、体育の先生はやたらと時間に厳しい。すぐに行かなければ怒鳴られること間違いなしだ。


「やべっ、忘れてた! もっと早く言えよ!」

「お前が寝てたのが悪い」

「もおおおおおお! ふざけんなよ!!!」


 乾は慌てて立ち上がって、体育館へ向かった。だが時すでに遅く、準備は大方終わっていて、体育の先生に「もっと急いで来れんか!」と大目玉を食らってしまった。

 今日は災難だ。世界史では公開処刑され、体育では怒られ……、厄日か。乾はふてくされながら、渋々体操着に着替えた。


 ◇

 今日の体育では、バスケットボールをすることになった。他の生徒が試合中、乾は手に抱えていたバスケットボールを、隣にいた友人にパスした。


「お前のせいで怒られたじゃん……」

「慣れっこじゃなかったっけ?」

「慣れてるけどさぁ、怒られるのは嫌だわ」

「ご愁傷さまー」


 友人は鼻で小さく笑った。ちっとも励ます気はなく、むしろ馬鹿にしているようにしか思えない。そんな冷たい励ましを受けたところで、ピーッとタイマーがうるさく鳴った。

 目の前の試合が終わり、次は乾たちの番となった。


「あ、次俺らだ」

「行こうぜー」


 乾たちは、バスケットボールのコートに入った。

 正直、試合も面倒だ。こんな体力使う競技なんて面倒にもほどがある。体力おばけな運動部とは違い、乾は帰宅部。体力のステータスも最初から違う。


(今日は乗り気じゃないし、程々にやろう)


 多少手を抜いても問題はないだろう。乾はそう考え、なるべく走り回らないよう、コートの隅の方に立った。

 だが、乾の考えとは裏腹に、友人はお構いなしに乾にパスを出した。


「へい! そっち!」

「えー、俺かよ」

「へいパス!!」


 友人からパスを受け取ろうと、渋々手を伸ばす。

 しかしパスは乾の顔面に一直線に向かっていき、乾の顔面にボールが激突してしまった。

 そして乾は鼻血を出しながら、思いっきり頭から床に倒れてしまった。


「おい、大丈夫か!! 乾!!!」


 慌てて駆けつけた先生の声が聞こえる。

 だが、返事をしようにも、意識がぼんやりしていて言葉が出ない。頭を強く打ったからだろうか、痛みで何も考えられない。


(大丈夫じゃねえ。今日は、やっぱり厄日だ……)


 乾の視界は暗転し、そのまま意識を手放した。



 ◇


「おい、これか?お前の言う『遺産』っていうのは」

「そうよ。これはお父様の形見。これを使って革命を成功させるの、絶対に」


 何やら男女の声が聞こえてくる。だが、意識はまだはっきりしていない。


「……どうしても、やるのか?」

「ええ、もう決めたの。お父さんの命を奪ったこの国を、決して許しはしない」


 視界がだんだん開けていく。ぼんやりしていた頭が段々クリアになっていく。

 そして、目の前に広がる光景が乾の目に入った。

 目の前にいるのは。金髪ロングの美少女と、茶髪のそばかす男。そばかす男の方は知らないが、少なくともこんな美少女、うちの学校にはいなかったような……。


「……お前たち、誰?」


 乾が声を出すと、目の前の男女は目をしばたたいた。


「ん? 今、なんか武器から声が聞こえたんだけど……」

「まさか……、気のせいでしょ?」


 二人は顔を見合わせ、不思議そうな顔をしている。


「いや、気のせいじゃ……」


 乾がそう言うと、目の前の二人は「は!?」と大きな声を出して驚き、固まってしまった。

 乾が困惑していると、二人の後ろにある全身鏡が目に入ってしまった。

 そこに映し出された己の姿に、乾も思わず固まってしまった。

 自分は今、人の形をしていない。映っているのは、大きな()……。


 ─待って。俺、武器になってるんですけど……!?




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