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33.異世界の扉を超えて

 目の前の魔物たちが迫るが、すぐに静奈の大剣が一振りで二体を倒し、燈華の狐火が一匹を焼き尽くす。俺の刀がもう一匹を瞬時に両断し、残りの魔物は無力化された。


「……え?もう終わり?」


 静奈が驚きの声を上げた。その通りだった。あっけなく魔物たちは倒れる。


「なんか…あっけなかったね…」

「今戦ってた奴が強すぎたのか?」


 たしかに、今戦ってた奴が桁違いに強かったのは間違いないが、急に俺たちが強くなったとも思えない。


「魔素の影響かと思われます。なぜかここは特段濃かったですからね。数ヶ月もいれば凶暴化する可能性はあります」

 

 燈華が冷静に分析する。確かに、ここは空気が濃い。肌を刺すような圧があるのに、どこか馴染んできている自分が怖い。


「じゃあ、今まで戦ってきたやつらは」

「通常個体よりも強かったってことか」


 静奈が続きを言ってくれた。俺は頷く。


 このまま放っておけば、凶悪な個体が増え続けていたかもしれない。そう思うと、やはりここで止めなければならない。


「……行こう」


 俺の言葉に、誰も何も言わない。ただ、各々が無言で武器を構え直す。


 扉の前まで来ると、日向丸の光が少しだけ強まった。その光が、扉の奥を照らす。


 そこは、黒とも紫とも言えない濁った空間だった。闇の中にうねるような靄が見える。空間が歪んでいるのが分かる。何かが、この先で蠢いている。


「ここから先が……異世界、か」


 実感が湧かない。けれど、この空間は、確実にこの世界のものではない。


「気を抜くなよ。ここを出た途端魔物に囲まれてるなんてこともあるだろうからな」


 静奈がそう言いながら、先に進もうとする。その肩に、俺は手を置いた。


「俺が先に行く。日向丸、お願い」


 日向丸がふわりと前に出て、柔らかく輝き、俺の前に魔法壁を展開する。


 俺は深く息を吸い込んだ。


 緊張しているのか、それとも興奮か、心臓が早くなっている。


「……行くぞ」


 一歩。扉に足をかける。


 靴の先が境界線を越える。ぞわりと全身をなぞるような嫌な感覚。空気が変わった。違う世界に触れたという確信が、肌を通して伝わってくる。


 次の一歩で、俺の身体は完全に向こう側へと入った。


 そして、その直後、予想だにしない光景に驚きを隠さなかった。


 扉から無秩序に魔物が溢れ出ることから、もっとヤバい状態の世界を想像していたが、実際に来てみるとぱっと見は平和そのものだ。


 あたりに広がる森に異常は見られず、目の前に見える城塞は綺麗に整備されており、傷一つ見えない。


 遅れてやってきた静奈も予想外の光景に素っ頓狂な声をあげていた。


「なんだぁ??思ってたのと全然ちげぇな」

「そうだね。一見平和そのものだ」

「まぁただ、この扉を守るはずの兵士が一人もいねぇのはおかしいよなぁ?条約で最低でも十人はここを守るのが決められてるはずだ」


 きょろきょろと周りを見渡すが、兵士らしき人は一人もいない。


「異常があるのは間違いねぇ。とりあえず歩いてみようぜ」

「あぁ、まずは情報収集だな。と、その前に」


 ラーヴェンを呼び出し、静奈と燈華を回復してもらう。その後に俺も回復してもらい、一旦ラーヴェンを含む全員を戻す。


「魔力は大丈夫なのか?」

「あぁ、念の為吸っといたよ」

「はは、そうか」


 俺たちは扉を背に、森を抜けるように歩き出した。足元の土は固く踏み固められており、明らかに人の手が入っている。森というよりは街道に近い。城壁の見える方向に沿って道が伸びていた。


 不気味な静けさが辺りを包んでいる。鳥の鳴き声もなければ、風に揺れる葉の音もほとんど聞こえない。ただ、自分たちの足音と、時折日向丸が発する小さな光音だけが、現実感を保ってくれていた。


「でもほんとに、街が普通すぎて逆に怖いな。まるで全部偽物みたいな……」


 静奈がぽつりと呟く。


「幻覚魔術か? いや、こんな広範囲にかけるのは不可能か」


 そう考えながら進んでいくと、やがて城壁の大きな門が見えてきた。高く、白く、重厚な石造り。まるで絵本に出てくる中世の城そのものだ。


 しかし、その門の前にもやはり誰の姿もなかった。


 俺たちが門の前まで来ると不意に声をかけられた。


「そこで止まれ。身元を明かせ」


 硬質な声が上から飛んできた。


 見上げると、門の上部、見張り台のような位置に一人の兵士らしき男が立っていた。銀の胸当てに紺のマントに身をたたんでいた。


「よかった……いたんだな、守りの兵士」


 静奈が胸をなでおろすが、兵士は険しい目つきのまま、こちらを睨み続けている。


「答えろ。何者だ?どうやってこの地に入った」


 その問いに、俺はほんの少しだけ躊躇した。まさかあの扉から来たなんて言っていいものか……。


「俺たちは……旅の者だ。この国の事情に詳しくない。できれば、誰かと話がしたい」


 できるだけ無難に言葉を選んだつもりだった。


 兵士はしばらく沈黙したまま俺たちを見下ろしていたが。


「その格好…?お前ら、まさかニホンジンかっ…??」


 俺たちは顔を見合わせ、静かに頷いたが、なぜか日本人とバレて余計に警戒をされてしまう。


 門の上にいた兵士は慌ててどこかに行くと、数秒後にドタドタという複数の足音が響き、重厚な門が開く。


 そこには数十人の兵士が綺麗な隊列で並び、その後ろには豪華な馬車が用意されていた。


「こ、こちらにお乗りください!」


 兵士は豪華な馬車を指差す。


「いきなり高待遇かよぉ!聞いたことあるぜ!かつて勇者は召喚された途端高待遇で色んな装備もらってチート能力も貰って旅に出たそうだ!もしかしてあたしらもそうしてもらえんのか!?」


 様子がおかしい兵士達が気になり、止めようとした時にはすでに走り出していた。勢いよく馬車に飛び乗る静奈に呆れながらも、いきなり単独行動するリスクを考えると一緒にいくほかなかった。


 馬車に揺られること数十分。ゆっくりと馬車が止まり、外の兵士が扉を開ける。


 外に出ると目の前には立派なお城が聳え立っていた。


「おぉぉすげぇぞ!やっぱあの展開なんじゃねぇの!?」

「お、落ち着いてよ。まだそうと決まったわけじゃないんだからさ」


 そうは言いつつも、この胸の高鳴りを抑えることはできなかった。この流れは物語や教科書で見る勇者の旅立ちのシーンとあまりにも酷似している。


 城の前には、さらに精鋭と思われる兵士たちが列をなしていた。彼らは先程の兵士たちよりも重厚な鎧を身にまとい、手には装飾の施された槍を構えている。俺たちを見るとすぐに敬礼をして、整然と道を開けた。


「……なんだこれ。やっぱり歓迎されてるのか?」


 静奈が目を丸くする。


「……いや、様子が変だ。警戒されてる。歓迎というより、何かを確かめようとしてる目だ」


 俺は兵士たちの目線の鋭さに背筋を伸ばしながら答える。警戒と探るような視線。まるで品定めをしているように感じた。


 案内役の兵士に促され、俺たちは城の正門をくぐった。石造りの広い回廊。高く天井を仰ぐと、荘厳なステンドグラスから光が差し込み、床の赤絨毯に色が溶けていた。


「こちらへどうぞ。王がお待ちです」


 通されたのは、玉座の間だった。高い天井の奥に、黄金と赤で装飾された玉座。その上に一人の男が腰を下ろしていた。髭をたくわえた壮年の男で、深紅のローブに金の刺繍が光る。その威厳ある佇まいから、この国の王であることがすぐにわかる。


 その両脇には、重装備の騎士たち。まるで一触即発のような空気の中、静奈が思わずごくりと唾を飲み込んだ音が響く。


「……名を名乗れ」


 王が低く、重みのある声で言った。


 俺は一歩進み、頭を下げた。


「天ヶ瀬当真あまがせとうま。俺は、日本から来た者です」


火野静奈(ひのしずな)です。あたしも日本から来ました!」


 二人して頭を下げると、王は静かに立ち上がり、玉座から降りてこちらに歩み寄ってくる。


「どうやってここまできた」


 王のその問いに、日本が置かれた状況や、その中でどういう選択をしてここまで辿り着いたのか、正直に答えた。


「……なぜだ」


 え?


「なぜ魔物を殺した!!!!」

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