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15.突然の敵襲

「今日は陣形について教える。俺たちが現在主力として使っているのは『三段撃ち』。歴史の授業でも習っただろうが、それに魔法の要素を加えたものだ」


 プロジェクターが切り替わり、三列に並んだ隊員たちが配置された写真が映し出される。


「前衛には魔法が不得手な者に武器と防刃仕様の隊服を着せて配置。中衛は無詠唱魔法を扱える者、後衛には詠唱型の術者を置く。この構成で、火力と防御を両立しながら敵を安全に殲滅できる」


 この陣形は、戦国時代の「八陣」をベースに魔法の概念を組み合わせたものだという。


「お前たちはまだ研修生だが、有事の際には即座に出動することになる。そのときに号令に従えないようでは話にならない。しっかり覚えておけ」


 その日から、歴史の授業では見たこともないような複雑な陣形とその意味を叩き込まれる日々が続いた。魔法という要素が加わることで覚えるのも一苦労だ。


 運動と座学に追われる日々が過ぎ、二か月が経った頃。成果を試すための行軍訓練が始まる。


 内容は、自分と同じ体重分の荷物を背負い、二百キロメートルを歩き切るというものだった。


 普通の人間には到底無理な話だが、魔力で身体を強化し続けることで達成可能だという。だが――


「途中で動けなくなったら、獣の餌になっちゃうかもしれませんね〜」と不破教官は笑っていたが、誰一人として笑えなかった。


 しかも荷物にはGPSが仕込まれており、数秒でも立ち止まると教官に信号が送られ、終了後にペナルティが科される。まさに鬼。


「はい、スタート! 頑張ってくださーい」


 無慈悲な掛け声とともに、地獄が始まった。


 開始直後から、全身に重力がのしかかるような負荷。魔力を意識して筋肉に沿って流し、体を動かす。魔力で体を操る操り人形になったようなイメージで進むことで、少しだけ楽になる。


 疲れを意識すると余計に辛くなる。だから、魔力の操作にだけ意識を集中して無心で歩き続けた。


 いつの間にか夜になり、辺りが見えづらくなる。水分とカロリー補給をし、ヘッドライトを点灯。再び歩き始める。


 どれだけ時間が経ったか、考えたくもない。往復地点を少し過ぎた頃、視界の端、ヘッドライトの光が乱れたのが気になって振り返ると、霧生君が地面に倒れていた。


「霧生君!」

「……もうダメだ、天ケ瀬君。僕はもともと体を使うタイプじゃないんだ…」

「いいから動いて!ペナルティ食らっちゃうよ!」


 荷物ごと彼を無理やり起こし、背中を押す。


「無理だって…足がもう…」

「なら俺が持つよ。その荷物」

「馬鹿か…?僕の荷物は45キロある。君のと合わせたら百キロ超えるんだぞ…身体強化したって…」

「ぬおぉぉぉぉぉ!」


 限界を超えた魔力を絞り出し、ボロボロの筋肉に代わる魔力の筋線維を全身に走らせる。


「はぁ…はぁ…」

「どうしてそこまで…」

「いいから歩け!友達を見捨てて進めるほど、俺は腐っちゃいない!」


 暗闇の中、ただ前だけを見て進む。魔力を練っては筋線維に変え、また練る。その繰り返し。


 気づけば夜が明けていた。


「ここからは自分で持って。教官にバレたらまずいから」


 霧生に荷物を渡すと、解放感に思わず気が緩みそうになる。


「ラストスパートだ」 「うん…」


 ゴールが近づき、防衛施設が見えたとき、全身の力が抜け、そのまま倒れ込んだ。


 意識を手放したのはその直後だった。






 目が覚めた時には、いつもと違う天井が広がっていた。どうやら医務室のベッドらしい。


「生きてるか?」


 横から聞こえたのは、不破教官の声だった。


「……なんとか」

「無理矢理二人分の荷物背負って完歩した奴は、これまでにいない。すごいことだけど、ペナルティですね。もちろん霧生も」

「ちなみにどんなペナルティですか…?」

「同じ重量背負って外周を三周ですねぇ。ま、頑張って」


 そう言って不破は笑った。ほんの少しだけ、優しく見えた気がした。


 それから数日後。ようやく身体が動くようになった頃、防衛隊訓練の最終工程――森林戦訓練が始まる。


 そして三日後の早朝から訓練が始まった。部隊配属後に支給される予定の隊服に身を包みむ。


 今着用しているのは前衛用のもので、戦闘中の接近戦に対応するため、機能性と防御力の両方を意識した作りになっているらしい。前衛用があるということは魔法隊のもあるようで、そっちは魔法の精度を重視したデザインで、長時間の戦闘でも安定した攻撃ができるように、魔法のエネルギーを効率的に使用できるような工夫が施されているらしい。


 それらを着用し、防衛隊基地から目的地まで、無線機やその他使用する道具を持って行軍。到着後陣形を作っていく。


 榊原教官の号令で、縦一列に並び索敵を行う。


 横隊陣、三角陣、扇形陣と次々に陣形を変えながら索敵を進める。散兵陣に変わり、各々が個人で状況を判断し索敵を行っていた際、後方から慌てたような声が微かに聞こえる。


 腰に下げたトランシーバーからザっと音が流れる。

 

「総員、戦闘配置に着け」

「戦闘配置だって…!?」


 突然の号令に隊員がざわつくが、お構いなしに号令を続ける。


「方円の陣を組む」


 散会していた隊員が集まり、死角をなくすように円形となる。


 空気が張り詰めるのがわかる。


 風が止んだ。さっきまでざわめいていた木々が、不自然なほど静まり返る。誰かが喉を鳴らした音すら、異様に大きく聞こえるほどだ。


 足元の小石を踏む音が耳につく。誰もが息をひそめ、神経を研ぎ澄ませていた。周囲を警戒する隊員たちの手が、無意識に剣の柄を握り締める。


「訓練なんじゃねえのかよ…」


 誰ともなく、ぽつりと漏れた声。


 敵はどこからくる…?前か、後ろか、上か、あるいは足元か。影が揺れるたび、草が揺れるたび、全身の毛が逆立つ。


 遠くで、カラスが一声、鋭く鳴いた。その瞬間、誰かの喉がごくりと鳴り、緊張が最高潮に達する。


 そして、沈黙を破る電子音が耳朶を打つ。


「情報が遅れてすまない。敵は俺たちの前方。数は三百」

「三百!?俺たちの倍以上じゃないかっ…!」

「黙って聞け。もともと俺たちはこいつらに対抗するために作られた組織だ。それにこの規模で前情報もなく現れたとなると、お前たちに出動が命ぜられる可能性も大いにある。現場で発見するか基地で知らされるかの違いくらいしかない」


 教官の言うことは間違っていない。だがあまりにも急な出来事に誰もが心の準備ができていないようだった。


「もちろん俺は指揮を執りながら戦闘に参加する。不安だろうが安心しろ」


 そういうと榊原教官の方向に魔力が収束していくのが感じられた。

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